甘い鎖・前編
シチュエーション


大地と実苗の話


「ミナぁ、まだ〜?」
「はいはい。もうすぐ出来るから待ってて」

こら、スプーンで皿を叩くんじゃない。
さっきから周りをチョロチョロされて危ないと叱っておいたら、今度はテーブルに顎を乗っけてぶつぶつと。

「なあ、もうそっち行っていい?」
「ん〜……もう大丈夫かな。おっけー」

暫く寝かせておくとしよう。お鍋の火を止めると僅か数歩の距離をもの凄いスピードでこっちへやって来る。

「捕獲!」

いや、逃げませんから。

「ちょっとー、苦しいよぉ大ちゃん」
「だってこの頃忙しかったからなかなかゆっくり会えなかったじゃん?」

むぎゅっと背中から抱え込まれて苦しいと口をパクパクさせアピールすると、少しだけ腕の力が緩んだ。それに合わせてお玉を
置いた手をそっと絡ませる。
胸のあたりにある日焼けした大ちゃんの腕は、見る度に逞しさを増していくような気がして、身を預ける事の安心度もそれに
比例して伸びていく。愛情もまた然り。

「……今日は、いい?」
「え?あ……うん……」

聞かなくてもわかってるくせに。だって、あたしの体のリズムはいつも把握してるじゃない。重く鈍いその日のお腹を、労るように
その大きな手のひらでくるくると撫でて温めてくれる。今とおんなじようにぽんぽんと軽く良い子良い子、って。

「んじゃ先に飯食うべ。メインは後でっつう事で」
「ばかっ……」

んっと突き出した唇に振り向きながらキスしたら首が痛くなった。
ちゅっちゅと小鳥のような挨拶をして離れると炊飯器の蓋を開ける。
炊きたてご飯の匂いににんまりとする腹ペコ小僧の笑顔に自分もつられて笑いながら、漂う湯気の中に幸せを感じた。

「美味い。俺ミナの飯好き」
「ほんと?良かった。いっぱい作っといたから明後日までは保つと思うよ」
「マジ?助かる。あ、おかわりしていい?」
「もちろん!いっぱい食べて貰おうと思って頑張ったんだから」

カレーのおかわりをよそうと嬉しそうに口に運ぶ。やんちゃ坊主みたいなその顔を眺めながら、あたしもお揃いのお皿で
ご飯をいただく。

先日、大ちゃんの2人目のお姉ちゃんである秋姉ちゃんが結婚した。お相手は同級生で幼なじみの志郎さん。あたしとは7つも
違うから面識は無いけど、結婚前に何度か会った。大ちゃんは2つ違いだから遊んだりした事もあるみたいだけど、印象としては
朴訥でクールなひとだった。

「秋姉ちゃん、元気かなぁ。綺麗だったね」
「式の後片付けは落ち着いたみたいだけどな。でもあれはマジ凄かった。伝説じゃね?」
「うーん……確かに」

後輩で新婦の弟、という事で同級生有志の二次会のパーティーに大ちゃんが呼ばれた。その嫁(予定)のあたしも一緒にお招き
頂いたその席で見た秋姉ちゃんは、背中に無数のキスマークを付けて現れ、周囲の度肝を抜いた。
誰もが首を捻った(らしい)水と油の組み合わせだった秋姉ちゃん夫婦は、この件で一気に超熱愛バカップルの名を『手にして
“しまった”(秋姉ちゃん:談)』らしい。
要するに、志郎さんなりのベタ惚れアピールだったみたいなんだけどね。素直じゃないなぁ、もう。

「このお皿、可愛いね」
「うん。ちょうど良かったな」

今使ってるカレー皿はその時の引き出物。あたしが貰ったのを大ちゃんちに持ってきたのだ。
というのは、大ちゃんが家を出て独り暮らしを始めたから。
秋姉ちゃんの式が終わってすぐ、この辺り一帯に最近建った数軒の借家の中から家を借りて住み始めた。
本来なら新婚さんや余所から来た人用にとの目的で建てられた物らしいのだが、独り者の大ちゃんが堂々と住めるのは、持ち主が
親戚なのも無関係ではないだろうけど、多分先を見越しての事も控えているからだと思う。
いずれあたしもここに住む事になるだろうから――そういう理由なんだろう――と告げられてはいないものの確信して通っている。
自然と物を持ち寄ったり購入してきたり、当たり前にあたし専用のものも増えてゆき、以前の離れの時と比べると、
『大ちゃんの部屋』というよりも『大ちゃんとあたしの』になりつつあると言っても過言ではないと思う。

「なんか新婚さんみたいだね」

浮かれてついそんなことを漏らしてしまった。途端に静かになった食器の音と大ちゃんの声にはっとする。
これっていわゆる圧力かもしれない。

「ごめん……」
「なんで?」
「だって」

25になる大ちゃんが、そういう事を考えてあたしと付き合ってるのはちゃんとわかってる。何せそうなったその日のうちに
両家の親にそれを約束してしまった人だから。
そのお陰で堂々と男の部屋に出入りなどできるのだ。ここいらじゃ噂が広まるのはあっという間で、嫁入り前の娘が……と
眉を顰める年寄りも少なくはない。けれどいずれ『嫁になる』と決まっているようなもんだから、皆そうして扱ってくれる。
いずれ、というだけできっちり正式に婚約を交わしたわけではないけれど、秋姉ちゃんの結婚式には親族である大ちゃんの
隣にあたしを座らせてくれた。だからそこには自信を持っていい所だとは考えてる。けど、せっつくような真似はしては
いけないと決めた。
なのについポロッとやってしまった浅はかな決意に自分を責める。

「どした?ミナ」

スプーンを置いて黙ったあたしに気づいた様子。

「……ごめんね」

図々しい。女房気取りであれこれ動いて、大きな顔して、当然のように家の中弄り倒して。
大ちゃんのパンツや靴下どころか、季節はずれの夏物のしまい場所や洗剤のストックの位置までわかる。ていうかあたしが
好きなの買ってきて置いてある。替えのシーツやカーテンも、一緒に買いに行ったのをいい事に選んだのもあたしだし。

「なんか、窮屈じゃない?」

既に縛りつけてるみたいで気が引ける。
だって大ちゃんは『あたしの“もの”』じゃない。サヨウナラと言われればそれで終いだ。まだそれだけの関係なのだ。

「変なの」

ちょっと怒ったような拗ねた声してあたしを睨む。

「んな事最初からわかってるじゃん。お前俺の嫁さんになるんだから同じことだろ?」
「そうだけど」

「俺、言っとくけど好きな事しかしてないぞ。家業継ぐのも長男だからってだけじゃないし、そのために嫁貰うのも、っていうか
お前をそうしたいと思ってんのもお前が好きだから!そんだけっ!!」
「そ……う?なの!?」
「んだ。けど好きだけじゃやってけない。何するんでも制約はある。多少の不自由あってこその自由だろ?」
「じゃあ……大ちゃんもあたしの事縛る?」
「縛られたい?」
「うーん……」

誰が見ても大ちゃん一色のあたしだから、例え縛ろうとしたところであんまり意味はないような。

「妬いたりするコトなんかある?」
「ない」

だろうなぁ。そもそもあたしはモテやしないし。ていうかこれだけ大っぴらに付き合ってたら誰も声なんか掛けてこないっての。

「ミナの事信じてるもん」

それは、あたしだって同じなんだけど。

「でも縛って欲しいってんなら考える」

がーっと2杯目をかき込んで皿を空にすると、やっと1杯目を食べ終えたあたしの分まで流しに持って行く。速っ。
洗い物を終えてコタツに座ろうとしたら、呼ばれて立たされた。

「なーに?……あっ」
「はい、脱いで脱いで」

チュニックを捲られ、促されるままにバンザイすると、それに続いてタートルまで脱がされる。

「これも取っちゃって」

ブラを外すと、今度は下まで全部脱ぐよう言われる。

「ちょ、恥ずかしいって、いきなりそんな……」
「なに、脱がせて欲しいの?」

だっていつもは頼まなくても脱がせてくるじゃん!

「しょうがないなぁ」

口振りとは裏腹に嬉しげな声でデニムのスカートを下ろしにかかる。腰をかがめながら足下にそれを下ろしていき、途中で
わざと乳首にキスしてふざけたりする。

「エロ男!」
「いやいや、これからですよ」

ショーツを足首から引き抜きながら

「いい眺めだ」

と見上げてくる。やめれ!

裸のあたしの背中から腰へと撫で回す手が下りていき、そこから太ももをじらすようにさする。

「あぁっ……や、んっ……」

唇を噛むように軽くくわえ、舌を突き出してねっとりと押してくる。
あたしの方からそれを迎えにいくと、互いの口内を往き来しながら絡み合う。
すっと繁みを擦っていた指が開くように秘裂を押し上げ、真ん中を探るように入り込んでくる。
ぬるっとした感触と共にじんわりと熱が広がり力が抜けそうになった躰を、片方の腕がしっかりと抱きかかえた腰によって
支えていた。

「もう?まだほとんどしてないのに〜」
「や……やっ」

ぬるみを帯びた指先が、くちゅくちゅと小さな芽の先を擦る。びくびくと膝が震えて、崩れないように必死に彼にしがみついた。

「大ちゃ……大……ああぁっ」

じゅっ、と奥から雫の溢れる感覚がした。

「辛い?」

うんうんと何度も頭を縦に振る。
そこで指が離され、支えられながら畳の上に横たえられた。
煌々とした灯りの下、裸のままじゃ寒いわ恥ずかしいわで、大ちゃんが服を脱いでいる間にコタツにもそもそと逃げ込む。
丸まって顔だけ出して見ていると、寝室にしている隣の部屋へと入っていく。多分、コンドームを取りに行ったんだろう。
一軒家で新築、借家といえども二階もある。今はまだ独り暮らしじゃ必要なくてほとんど使っていないと言うけれど、何かと
面倒臭いってのもあるんじゃないかってのが本音だと思う。
……ていうか、あたしがあっち行った方が早くね?とか何とか思ってるうちに戻ってきた。

「そっち行こうとしてたのに」
「布団まだ敷いてない。いいじゃんここでも」
「まあ、そうなんだけどぉ……」

引っ越すとき、ベッド処分しちゃったんだよね。シングルのパイプベッドじゃ狭いし頼りないし、って。――まあ、そのうち
ダブルベッド買うか、二組の布団を新調する事になるんだし。
暖房の側に誘導されてコタツから出ても、灯りを落とす気配は無い。

「消してよぉ」
「今のうちだけだって。そのうちそんなの関係なくなるんだから、どうせ」

そっちはいいよ、パンツ穿いてるじゃん!あたしは全裸だ!!仕方無く膝を立てて出来るだけ身体を丸くする。
素面で真っ裸は辛いですよやっぱり。
そんなあたしの僅かな?恥じらいなどお構いなしで、目の前に両手を差し出して何やら選択を迫ってくる。

「左右どっち?」
「は?」
「ま、同じかどっちでも」

体育座りでしっかと身体を抱え込むあたしの真正面にて差し出すのは、2本のネクタイ。
同じ目線まで身を落としてしゃがみ込むと、あたしの右手を右足に付け、手首足首をぐるりと巻き付ける。

「ええええぇ!?ちょ、ちょっ」
「きつい?痛くない?」
「いやそれは」
「ミナは柔らかいほうだもんな」
「まあ体操は得……じゃなく!なにこれ……」
「縛るの嫌とは言わなかっただろ?」

意味がちがーう!!
反対側も同じように手足首を縛られて、ぱたんと後ろに倒される。
やばい、何これ。寝転がると背中とか腰にくる。ていうか、お、お尻があぁぁ!!
でもそっちを気遣って脚を下ろそうとすると、縛られてるせいか体勢がうまく整わない。楽しようとすると、脚が自然と開き
気味になる。
どっちにしろ向こうには――

「やだこんなカッコ……見ちゃやだっ!!」
「もう遅いよ。みんな丸見え」

いとも簡単に膝を割られて覗き込まれる。
するりとそこを撫でる指の滑らかな動きに、溢れるものの多さが想像できてしまう。
裂け目にそって二、三ゆっくりとさすると、その上にあるポイントを確実に捉えて、微妙な強さで擦りあげる。
じゅわっとまた溢れた。
灯りが眩しくて目を閉じると、目元に唇の感触がした。軽く触れると息を吐きながら耳たぶを啄み、首筋を滑り、胸の膨らみに
と下りていく。
舌の先がちょろちょろとつつき転がすそれは、硬くしっかりと勃ちあがってしまっているのは言われなくても見なくても解る。
寒いから、なんて言い訳は多分通じない。

思う存分頬張るように口に含んだ胸の先を舌や唇で味わい吸い尽くす。
おっぱい好きだもんねえ。こういう時の大ちゃんは、何だかあたしより子供に見えて可愛い。
そっと薄目を開けてみる。目を閉じて顔を埋めるのが見えて、いつもならよしよしと撫でてやる頭に触れられないのを思い出す。
やだ、なんかちょっと淋しい。ぎゅうっとしがみつきたい。
だけどそれは叶わない。

「どうした?」

躰を起こして見下ろす彼に、何でもないと首を振る。

「こんな格好だと好きにし放題だよな、俺」

確かに。今のあたしじゃ何されても抵抗できない。逃げるどころかその躰にしがみつく事すらも。

「怖い?」
「ううん……」

大ちゃんなら何されても嫌じゃない。あたしを傷付けるような真似はしないし、たまに暴走しちゃう時もあるけど大丈夫。
大事にされてると思う。
ちぇっ、と頭を掻きかきパンツを脱ぐ。

「そんなふうに言われると悪いコトできないじゃん」
「悪いコト?」

胸を左右から掬いあげるようにして揉みながら覆い被さってってくる。
大ちゃんはおっぱいが好きだ。ていうかおっぱい星人だ。いわゆる無理な日でも、ダメだからって諦めるような事はしない。
そういう時は胸だけでもと散々触って味わって、あたしにも可愛がらせて満足する(おかげでこっちは不完全燃焼ぎみに
なるんだけど)。
肉を寄せてできた谷間に鼻を埋めて息を吸い込む。すりすりと頬を擦り付けて感触を楽しんでおいて、時折肌に口付ける。

「これこれ。これがないとね」
「そういう言い方やめてよ……やっ、あんっ」
「ん……だって……んむっ……三度の飯より好物なの、これが。ミナの乳はおれの乳」
「ちょ……なにそれ……ふぁ、あ、ぁあん」

ぐっと押し上げ高々と膨らんだ胸の頂のものをしっかりと舌を絡み付かせてくわえながら、のし掛かられてしっかりと開脚
させられた躰の中心をたっぷりと潤った指であたしに解らせるよう音を立てながら動く。

コロコロと舌に絡まれ転がされる乳首の疼きに悶えて、背中がむずむずする。
動きたい。いつもならしがみついて爪を立て、たまに『痛い』と顔をしかめられる背中や肩はおろか、声を抑えるために
口元に導くための自分の手すらも自由にならないのは辛い。
仕方無く唇を噛むも、喉の奥から絞り出される声は、鼻を伝って呼吸と共に押し出される。

「我慢すんなよ〜。たまには出しちゃえって。大丈夫、聞こえないから」

はむはむと乳首を甘噛みしながら、高々と掲げるように転がされた両脚の間に差し込んだ指を忙しなく動かす。
お尻のほうにつうっと何かが流れ落ちた気がした。冷たくて心細くて恥ずかしい。

「んふぁっ……んむっ……ん……はぁっ」

とうとう堪えきれずに仰け反って声を出した。我慢してたぶんのものを纏めて吐き出したような深くて大きく緩やかな呼吸と共に。
満足そうに大ちゃんが頭をぽんぽんと撫で笑う。ずるい。これじゃ怒りたくても怒れない。
それから更に弄り倒されて、次々襲ってくる背中を突き抜けるような痺れの連続に我を忘れて悶えまくった。

「んぁ……やぁ、……く、だめ、だめ、いや、ん、や、……ぁあ、あ……ああああ……!!」

全身の血が逆流するような息苦しい感覚。本当に息が詰まってどうにかなりそうだった。

「大ちゃ……大ちゃん!大ちゃん!!」

逞しいその躰を掴んでしがみついて噛みつきたい。出来ることなら捕らえて抱え込んでしまいたい。何があっても離れないように。
それが出来ない今の状況がもどかしくて苛立たしい。

「ミナ?大丈夫?」
「ふっ……」

開きっ放しでからからの筈の唇の端から首筋にかけてひんやりと何かが流れる。それを恥じる余裕も拭う術も持たないあたしは
ただ大ちゃんのされるがままに安いティッシュのごわついた感触を味わい、労いのような愛情表現である長く優しげな深い
キスを受ける。
下半身にぬるぬるとまともに擦り付けられるモノの動きにも、ただぼうっとその温もりを感じる事だけしか出来ずに
身を投げ出していた。

「なぁ……このまま挿れたらどうする?」
「え!?……あ、だめ!」

蜜を溢れさせた秘裂の深みに沿って堅い棒の側面を滑らせてる。

「責任取るつもりだけど?つうかちょっと早まるだけだべ」
「そりゃ……そ……だけど……」

いずれはと頭に思い描いてはいた。けどそれがいきなり現実になるとどう受け入れれば良いのか悩む。勿論、嫌ではない。
嫌ではないんだけど。

「ちょっと急で……」
「わかってるよ。やるわけないじゃん」

――言ってみただけ。
冗談にしちゃ重いよ、大ちゃん。
もそもそとあたしの脚の間でそれを『防止する帽子(大ちゃん:談)』を被せる。
残念ながらそれを突破する勇気はまだない。元々全て事が済んでからと決めたのも暗黙の了解の筈。今時珍しい事ではない
とはいえ、正式に形を整えたわけではないし、あくまでもまだあたし達は反対こそされはしないが、当人同士の口約束に
過ぎないのだから。
するりとネクタイが解かれる。
ほっとしてゆっくり伸ばしてみるも、暫く固まっていた脚は強張っていきなり楽になったとは言い難かった。

「おお……いい眺めだ」

またかい。

「何を見……いやっ」

膝の後ろに腕を回して、ぐいと押し上げ繋がったところに目をやる。ついさっきまでとっていた姿勢に比べるとまだマシ
なのか大して辛くはない。

「大ちゃん?」

ゆるゆると腰を動かしながら何かを思い出すような瞳をする。

「ん……大きくなったな、って」
「なにそれ………んあっ」
「昔はあんなにちびっこかったのに。もうお前なしじゃ生きていけない」
「えっ?」

ちょっとどきっとした。腰の動きはそのままに、片手が胸の上に置かれる。

「いや、ほんっと大きくなったよなぁ。ああ〜いやほんと、でかくなった。ああああ、柔らけえぇ〜」

右手で掴めるだけ掴むといった感じでゆさゆさ揉みもみ、涎の出そうな幸せな顔しちゃって。大きくなったなって……そっちかよ!!

「あああ、もう出そう。こっちもすぐでっかくなっちゃうからもう……けしからん乳だな……まったく……」

知らんがな。ていうか年中発情期のくせして何言うか。
両手を脇について腰をゆっくりと引きまた戻す。単調な動きはやがて小刻みに速くなり、じわじわと躰の芯に眠る熱を呼び覚ます。

「あっ……んあん……ぁあ……ひゃ、そこ、やぁっ」

ぐりぐりと押し付けた腰を回す。あそこが擦れて、互いの肌のぶつかるのがたまらなく気持ちいい。
大ちゃんのお尻のあたりを両手のひらで覆うよう掴んで、曲げた膝を思い切り使って繋がった下半身を締め付ける。
まるでぶら下がるようにしがみついたあたしに背を丸めてキスをし、深く舌を差し込んで揺さぶりをかける。
ふあっと声を交えた呼吸とともに唇が離れると、全身をフルに使ったような揺れ方で最後の仕上げをする。
吹っ飛ばされそうな勢いで突き上げる彼の躰を逃がさないよう捕まえたつもりが、ふっと遠くから戻ってきたような気持ちが
後から湧いてきたのは、先に達してしまったのがあたしだったからなのだと鼻息荒くのしかかる彼の重さに抱かれて気づいて
からだった。


***

大ちゃんの友達が結婚した。地元を離れて知り合った人だそうで、以前連れて帰ってきた時に報告がてら紹介して貰った
みたいだけど、ほとんどの人は今日初めて御披露目になるらしい。
家にもよるみたいだけど、わざわざこちらで式を挙げるのも珍しくはないみたい。大ちゃんとこも、一番上の春果姉ちゃん
の時そうだったし、更に相手の都合であちらの地元でも披露宴をしなきゃならなかったと聞いている。親戚が絡むと大変だ。
その点うちはそのようなしがらみは抱えてはいないし、気楽だ。地元同士の秋姉ちゃんとこでさえ、相手が所謂“いいとこの子”
だったために結構面倒だったらしいし、堅苦しいのが苦手!な秋姉ちゃんは後で『まさに疲労宴』とぼやいていたっけか。
秋姉ちゃんの時程ではないにしろ、久しぶりに同級生が集まるのを楽しみにしていた。あたしの周りはまだそういう話は
ほとんどないけど、そういう話が次々舞い込んでくるようになるのもそう遠い話ではないのだろう。

いつもは職場まで迎えにきて貰うあたしが、今日は大ちゃんを迎えにいくために車を走らせる。
最近やっと免許を取った。なにせほら、田舎は交通手段が少ないし、人によっては18歳の誕生日が来ると早々と取りにいく。
車は必需品だから、最早足代わりで庭に空きさえあれば人数分の車がある、なんて家もある。
あたしもいずれ買い出しや子供の送迎なんかをするようになるので、皆に勧められるのもあって頑張って取得した。勿論
大ちゃんというエロ教官に散々色んな意味で指導を受けながら、ですが。
その甲斐あって今こうして酔っ払い亭主を迎えに買ったばかりの愛車を走らせている。
とりあえず乗れればいいわけで、初めてという事もあり、中古の軽を貯金をはたいて買った。大ちゃんの友達が勤めている
店だったから、質のいいわりと新しいのを紹介して貰えて良かったと気に入っている。

「ミナ、こっちこっち」

式場の駐車場で辺りを見回していると、手を振りながらてくてくと歩いてくる影がある。
酔っているにしてはしっかりとした足取りで、いつもみたいな騒々しさが見られない。
おやぁ?と思って見ていたら、後ろから誰かついてきてる。

「ミナ、悪いけどこいつらも乗っけてやってくんない?後の奴らみんなでこれから飲みに行くんだって」
「えっ?いいけど……」

大ちゃんから少し遅れて女性が2人歩いて来て頭を下げる。

「こんばんは。ごめんなさいね。私達明日早いから帰らなくちゃいけなくって……」
「はじめまして。……お嫁さん?あ、まだか。頑張んなきゃあんた」

大ちゃんどつかれる。

「るせっ!」

大ちゃんの同級生か。てことは25歳。なる程、大人のお姉さん達って感じ。しかも晴れの日だからか相当気合い入ってます。

「あたしはいいけど……大ちゃん行かなくていいの?」

あんたが行かなきゃ盛り上がらんのじゃないかい?

「いいの。ほれ早く乗った乗った!」

急かされるようドアを開けられて、仕方無く乗り込んだ。

大ちゃんはいつも助手席に乗ると、運転するあたしに気を遣ってあまりあれこれ喋ったりはしない。
それは今夜も同じで、特に夜道だからかもしれないけどえらく静かだ。せっかく同級生と一緒なのに勿体なくない?積もる
話もあるだろうにと何気にバックミラーを覗いてみて、1人と目が合ってしまった。

「ええと……明日早いって仰ってましたけど、遠くに行かれてるんですか?」
「ええ、まあ。朝一番で戻らないと、明後日からの仕事に差し支えるから」
「休みがもう少しとれるか、いっそ自分で運転できればいいんだけど、やっぱり長距離はね……」

そんなに遠いのかと今居る場所を訊いて驚いた。選んだ大学によっては近場では無理という場合もあるし、そのまま卒業後
残る場合も多いというから、当然といえば当然だけど。

「大地は元々戻るつもりだったからなぁ。いいなぁ。やっぱり落ち着くよね」
「だったらお前もUターンすれば?」

当たり前のように呼び捨てにして、それで普通に返す大ちゃんの姿に頬が引きつった。
そりゃうちの地元の小さな学校じゃ、皆幼なじみどころか下手すりゃ兄妹みたいなもんで、恋愛対象になるなんざ稀の稀
(だから秋姉ちゃんの同級生夫婦は例外に等しい)な男女関係で、ましてや5歳違うあたしには全くの世代別で、仕方ない
もんだってわかってるんだけど。
そこにはあたしの立ち入れない世界があるんだって思ったら、何だかぽつんと取り残されて、ずうっと向こうの方にいる
大ちゃんを爪先立ちで眺めているような気分になった。

「彼女?は、ハタチだっけ。じゃあリタイア組ではないんだね」

あたしは短大も大学も行かずに(ん?誰か行けないって言いました?)残って働いてるから、Uターン組ではない。リタイア組
と言われたのは、高校卒業後他県に進学やら就職で出ていってもすぐ馴染めず挫折したなどで戻ってくる人間も少なくはないからだ。

「ここに残ろうって思ったのって、やっぱり大地のせい?」
「えっ?あ、まあ、そう……ですかね」
「せいって。お前は人聞きの悪い」

間に割って入った大ちゃんが後ろを見ながら『めっ』をする。姪っ子達にする時のような軽い叱り方は妙に可愛くて、何だか
それを向けられたどちらかの乗客に軽い苛立ちが募る。

「いいなぁ。そういう引き留める“何か”があるって。私もそういうのがあれば、わざわざ親元を離れるなんて事しなかったかも」
「ん〜、そうねぇ。何となく出てって何となく今の生活があるって感じ」
「そうかぁ?だったらお前らもそろそろ戻れば?」
「うーん……でもそう言いながら今の生活を捨てるのも、って気持ちがあるんだよね」
「ならそれはそれでいいんじゃね?嫌ならいつでも戻って来れるんだし、惜しいって気持ちがあるんならそこの暮らしも悪くは
ないって事なんだろうさ」

ネクタイを緩めながらオーディオのスイッチをオンにする。

「……当たり前に思ってたものが実はすごーく貴重なもんだったって、手元を離れてからわかるもんなんだよね。出てったから
わかるのかもしれない、ここの良さって」
「ま、たまには帰って来りゃいいじゃん。こうやってその都度垢抜けたお前ら見るのも結構楽しみよ、俺ら地元組は」

あはは、と短い笑いが起こったのを最後に、皆流れてくる曲に耳を傾ける。お喋り好きの大ちゃんが大人しくなったのを
みると、『話はここで終わり』のサインだったのだろう。

それぞれの家の近所で車から降ろし、どちらもにこやかに挨拶をして別れたから印象自体は悪くはなかった筈だったのに、
大ちゃんと二人きりになれてもあたしの心にかかった雲谷は晴れることはなかった。
くすくすと彼に耳打ちしながら親しげに腕や肩に触れる。
決して下心など見受けられない些細なやり取りにさえ、取り残された気がして面白くないと考えてしまう自分がまた面白く
なくて嫌んなる。

「ちょ、寄ってかないの!?」

大ちゃん家の前に車を停めて降ろし、そのままカースペースに入れずに発進しようとしたら慌てて引き留められる。

「うん。もう遅いから」
「え、コーヒーくらい淹れるし、何なら後で送ってくし」
「酔っ払いが何言ってんの。ていうかそれじゃあたしが車出した意味無いじゃん。早くお風呂入って寝てね」

本当ならこんなふうに言われて嬉しくないわけがない。いつも時間が迫ってくると『まだ帰りたくない』って思うもの。
だけどそれは大ちゃんを困らせるし、ひいては彼に対するうちの親たちの信頼度を下げてしまう事にもなりかねない。
ある程度の節度を守っているからこそ、あたしは“大事にされている”と思われているのだから。
それがわかっているから、どちらかと言えば普段は帰そうとする大ちゃんが今日はやけに駄々っ子に見える。

「親父さんには電話するし、ちょっとくらいだめ?イチャイチャしてえ〜」

お酒に酔ってるからなのか?それとも結婚式のふいん(ryにあてられたか。

「はあぁ、捕まえちゃおかな」

解いたネクタイを弄びながらしょんぼりとうなだれる。つうかそれ、この間の……。

「大丈夫。恥ずかしい染みとか付いてないから」

ぎゃあああ!?そんなの聞いてない!って他に無かったのか!?んなもの絞めて行ったのか!?
クローゼットにあった筈のほぼ出番なしの2本は全く違う用途をこなしてしまったのかと、ネクタイに申し訳なくなった。
今度プレゼントしよう。いや、させて下さい是非に!!

「なんか今日の大ちゃん、変」
「え?そうか?俺はいつでも変だけど」

つまりいつもと同じだと言いたいわけね。つかそういう自覚があったのか。そっちに驚きだわ。てかそんなんいらんし。

「今日は楽しかった?」
「ん、まあ。しばらく会ってなかったのもいっぱいいたから盛り上がってんじゃない?今頃」

秋姉ちゃんの時の様子からも、それは容易に想像がつく。

「あたしなら呼び出してくれれば何時だって構わなかったのに」
「ばか。そんな真似させられっか。大体おじさん達がそんなの許すかよ。それに」

運転席側の窓から手を突っ込み、あたしの首に回しかけたネクタイを掴んで身体を屈めて顔を寄せて車内を覗き込む。

「……もうじきまた会えるんだからいいの。つうかそう言われてるし」
「だ……」

お酒の匂いがする。
ネクタイの手綱で引き寄せられたあたしの唇にそれを移される。
どういう意味なんだろう。
結婚式で何かあった?

「……結構昔と変わってたりする?」

綺麗に着飾った、あなたと同い年のお姉さん達。

「ああ、まあな。見た目はもうオヤジ入ってるのもいるからな。俺は変わってないって言われたけど、喜んでいいのかねぇ?」
「うーん」

変わってないと思うよ。少なくとも『あたしの目から見ただけの大ちゃん』なら。

「女子はそれなりに垢抜けてるのが多くて、目の色変えてたのも居たけどな。出てった奴は違うんかな、やっぱ」

そうかもしれないね。ここから出てった友達も沢山いるけど、たまに帰省して会うと、やっぱりどこか洗練されてて違うなぁ
と感じる事がある。それは少し淋しかったり、羨ましいとも思ったり。

「俺はミナがいるからな。そんなんこれっぽっちも起こさないからな、な」
「わかってるよ」

信じてますとも。大体、二股かけたり、例え一度きりの悪さでもしようもんなら絶対すぐバレると思うよ。なにしろ、義兄に
なったばかりの志郎さんお墨付きのバカ正直だから。
ほとんど部屋着に近い格好のままコートだけ羽織ってきた自分の格好が、余計に劣等感のようなものを生むのかもしれない。
せめてもう少しましな服着てくれば良かった。

「都会に出ると違うのかな……」
「行きたいの?」

はっと何気に口に出してしまった心中の戯言で、大ちゃんの伏し目がちな寂しげな顔を目にしてしまった。

「えっ……んなんじゃ」

しゅるりと滑り抜かれたネクタイの音が耳を掠め、それを巻き取る手元を見つめる。

「さて、帰るわ。たまには夜這いに来い」

いつもの軽口の後だけに、その後に続いた言葉は重たかった。

「俺、縛らないから」

END







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