シチュエーション
![]() 祖母が他界した。 それは唐突な最期だった。 午後、アヤが浜から帰ると、祖母は布団の上で眠るように旅立っていた。 「おばあちゃん! ひどいよ! わたしひとりぼっちじゃないの!」 アヤは祖母の亡骸にすがった。 「アヤちゃん。堪えるんじゃ。ばあちゃんを安心させてあげろや」 隣のあばら屋で異変を聞きつけた松吉が駆けつけ、アヤの肩をたどたどしく抱いた。 「ワシに任せればええ。きちんと葬式を出してやるで」 その約束どおり松吉は葬儀の一切を取り仕切り、傷心のアヤを助けた。 「アヤちゃん。ワシらは同じ独りぼっちじゃ。何でもするでな」 松吉はすき間だらけの歯を見せて照れくさそうに笑った。 夏の終わりの午後。 その日はことさら蒸し暑い一日だった。 家に帰ったアヤは、矢も楯もたまらず家中の窓を開け放った。 部屋にこもった熱気を逃すためだ。 (そう!換気をするだけよ) アヤは自分に言い聞かせた。 (そう!それ以外に理由はないの!) まるで自分自身へ言い訳でもするように。 部屋の外へ熱気は去ったものの、替わりに日に焼けた空気が狭い一室に入り込む。 (あっ つ い) アヤの肌には玉のような汗が浮かんでいる。 しかし、アヤにとっての関心事は、部屋の暑さなどではなく、視線の先の物干し竿だった。 物干し竿は、朝、外出するときと変わらず何もない。 (きょうも こな い の ?) アヤは落胆を隠しきれず、ひとり呟いた。 (どうしたの あさと かわってない・・ なぜ きて くれないの) 祖母の葬儀以降、アヤの褌への異変は起こっていない。 同時に痴態をのぞき見られる、刺すような、あの視線も感じない。 アヤの心には表面上は安堵があったものの、その奥には言いしれぬ乾きと孤独があった。 祖母が他界してから、誰かとつながりたいという願いがあった。 (おねがい きょうこそは きて) アヤは子宮の奥から湧き出る、自分の黒い欲望を抑えることができない。 1年の間、アヤは源三の手で性の奴隷として育てられた。 アヤ本人も知らぬうちに、その美しい肉体には、清楚さの仮面に隠れた異常な性欲が植え付けられている。 アヤは窓辺に立つと、唯一身を隠している褌の紐を、細い指先でつまんだ。 普段着替えをするときは、もちろんカーテンで外部から閉ざす。 しかし今日は、あえてカーテンを全開のまま、窓のすぐ脇でゆっくりと褌の紐をほどいた。 そして十分時間をかけて窓の外へ体を伸ばし、脱いだばかりの褌を、物干し竿へ掛けた。 それから窓外へ背を向け、けだるそうに窓の枠へ腰掛けた。 アヤは無防備な背中を晒し、長い黒髪を両手でかき上げ、うなじを晒した。 窓の下枠から、柔らかな尻がはみ出している。 窓の外には小さな庭があり、周囲を低い生け垣で囲ってある。 生け垣には緑の葉が生い茂り、家の外からは容易に中をを見ることは出来ない。 ある1カ所を除いては。 それは隣の松吉の家との通路だ。 数年前、アヤの祖母と松吉が話し合い、自由にお互いが行き来できるよう、そこだけ生け垣を取り払ったのだ。 アヤはまさに、その通路に裸の背を向けていた。 アヤはそうやって数分ほど時を過ごした。 ( わたしったら なんてはずかしいこと してるんだろ) その時、背後でカサッと物音がする。 刺すような視線を感じる。 ( ・・き ・・た ) しかし、アヤはそれに気づかないふりをしてゆっくりと立ちあがる。 アヤは静かに窓から離れると、跪き両手を畳に着けてよつんばいになった。 そして窓の外に向けて、尻を高く上げる。 両足を大きく開く。 左手の指を欲望の亀裂にあてがう。 ピンクの裂け目を痛いほど拡げる。 すでにそこはねっとりとした牝の愛液で溢れている。 食い入るような視線を感じる。 (みられて る お しり あそ こ も ぜ んぶ) 「ああっ あっ あ あっ!」 アヤは夢中で指を走らせた。 ピチュピチュ・・愛液で濡れた音が静まりかえった部屋に響く。 生温い体液は、内股をを伝って流れ落ち、畳を濡らす。 体中から汗が噴き出てくる。 (み てっ !!) 「あっっ! あ! あ・・・」 アヤは一瞬のけぞると、ガクンと崩れ落ちた。 ぴくぴくと小刻みに全身が痙攣する。 数分後、アヤは欲情の余韻の中で目を覚ます。 もうすでにあの視線は感じない。 (何かの気の迷いだったのかな・・) アヤは立ち上がり、けだるそうに窓際に立った。 地面を見ると、さっき干したはずの褌が落ちている。 風で落ちたようではない。 くしゃくしゃに丸められていることが、それを物語っている。 アヤは窓から裸身を乗り出し、その丸められた褌に手を伸ばす。 大切な贈り物を開けるように、その布を広げる。 とたんにアヤの嗅覚は懐かしい匂いを感じる。 (これは・・!) 広げた褌の中央部には、べっとりと白濁した液体が付着している。 (せいえき おとこの ひとの) 1年間、男の精を受け入れた身には懐かしい匂いだ。 アヤは布に顔を近づけると、その付着した白濁を愛おしそうに見つめる。 さらに顔を寄せる。 ためらうことなく唇をつける。 舌を出して味わう。 (お いしい わ たしへの ぷ れ ぜんと) そして生地に染みこんだ一滴さえも残すまいと、無心に舐め尽くした。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |