リスクとリターン
シチュエーション


カリッ…カリカリ………ガガガガガガ……カリリッッ……カッ……

薄暗い部屋の中、無機質な機械の駆動音が響く
もう部屋の電気を付けなければならないような時間だが、電気を付けることはなく
パソコンと周辺機器に囲まれた部屋で、パソコンの薄暗い光を頼りに男は作業を続ける

「あれ・・・?おかしいな・・・、あ、出た出た」

調べているのは同じクラスの生徒の個人情報

五十嵐サツキ、中の中程度の高校に通う女学生、五十嵐財団の長女
成績優秀、教師からの信頼も厚く、生徒からの人望も上々

しかしもう一つの一面がある
両親に反抗して無理矢理この学校に入学してきたが、今の立場に満足しておらず
この学校の生徒を見下し、さらには他人をイジメ抜く事に快感を覚える

この一面を男、臣斗が知ったのはつい昨日の事だった
成績中の下、ルックス体格運動その他etc...
どれを取ってもパッとしない臣斗を、サツキは絶好の標的と見なしたのだ


昨日の出来事だった、サツキに体育館倉庫に呼び出された臣斗は、
物陰に隠れていた褐色肌の大女に・・・サツキのSPに
手と足を塞ぐのはほぼ一瞬、2〜3秒程度、裸締めで意識を落とすまで30秒、車に乗せるまで2分という早業で
要するに一瞬で拉致られ、サツキの自宅に無理矢理連れて行かれた

この豪邸はサツキの家と言ってもよく、サツキの他には海外で仕入れたSP達が別宅に待機しているのみ
実質一人暮らしのようなものであり、合図のスイッチ一つでSPが出動する、この家の中はサツキのテリトリーだった

その中で、SP達に殴られ、蹴られ、土下座させられ、裸に剥かれ、見世物にされ、etcetc...
散々辱められた挙句、軽く人生終わらされるくらいに逃げようのない写真を何枚も撮られ、
つい今しがたの災難に、半ば呆然自失になりながらサツキ邸から追い出された

「この平和な日本でホントにあるんだなー・・・ああいう事・・・」

自分だって未だに信じられない

「まぁしかし・・・何かするにはリスクとリターンが付きものなワケで・・・」
「もしかしたら昨日イジメた相手が実は大企業をゲリラ戦で潰せるようなヤツだったりする訳で・・・」
「更にはやられた事は必ず報復する人間だったりする訳で・・・ってそんな事想定してるワケねーか、あのバカ女」

「まぁいいや、どうせやる事やるだけだし・・・
さて・・・と、この会社のデータはパソコンにある分なら大体頂いたな・・・ついでに監視カメラの映像も貰っとくか
でもって・・・オレのクラックツールで・・・今の権限が及ぶ範囲のデータを全削除・・・と、
いやそれより・・・削除用ファイルだけ残しとくか・・・あとで色々使えそうだし」
「次は・・・もう適当に金融会社数十件から金借りまくるか、無論あの女と家族の名義で」
「そうだ、あの家にも監視カメラとかあるかな、」カリカリッ……カカッ…カリ……「BINGO!!」
「お、しかも4〜5年分までカメラにデータが残ってるじゃないか」
「要するに強盗とか何か起こらない限りはデータをただ貯蓄するだけの仕組みか・・・」
「あらら〜・・・他にも似たような事されてるヤツがいるのか・・・
確かコイツうちのクラスのヤツだったな〜・・・あ、女子も似たような事されてんのか」


この臣斗、実は趣味がサイトのハッキング、セキュリティの厳しいサイトを攻略するのに生き甲斐を感じる人種
政府のホームページ乗っ取りからペンタゴンの機密情報の入手etc...ネット世界では結構有名な悪質ハッカーだったり
独り言が多いのはこのテの人種にありがちなちょっとアレな…一言で言うと友達はパソコンのみってアレ

今現在の作業を大まかに説明すると、サツキの親会社、その本社のデータ収集&破壊
そして五十嵐家の資産の名義を変え、『無かった事』にする
更に金融会社数件から『金を借りた』という実績を捏造→サツキの家の監視カメラのデータを奪取

「アハッ、ハハッ、こりゃ楽しいや、どこまで落ちぶれてくかな、サツキちゃん」

薄暗い部屋の中、パソコンの画面には、『借り入れ額、126億9700万』という字が映し出されていた……


-三日後-

サツキは、突然起きた突発事故のように、あれやあれやと一文無しに成り下がっていた

「うそ・・・なんで・・・」
『この邸宅は一週間後に競売にかけられます、よって住人の立ち退きを勧告します』

現実から目をそむけようと・・・要するに現実逃避に今まで布団にこもっていたが、
サツキの居城には、今や大勢の役人が押しかけていた
サツキが立ち退けば、手当たり次第に家具などに査定額を付けていくのだろう
しかし役人が押しかけてきたからには、サツキも駄々を捏ねても無駄であり、大人しく出て行くしかない

-30分後-

「なんでこうなっちゃったんだろ・・・」

会社はパソコンがハッキングされたとかで仕事にならないらしいし
親も何でこんな借金が出来たか分からないみたい、社長なのにね

「はぁ〜・・・」

途方に暮れ、真夏の日照りの中、道端に座っている元セレブ
その目の前に、いつだか自分が臣斗を拉致る時に使ったような黒塗りの高級車が泊まる

「・・・・・・?」
「見ツケマシタ、サツキオ嬢サマ」

その中から出てきたのは、元サツキの使用人 兼SP 兼人攫い、つまり臣斗を拉致る時のSPだ
その大女の元SP、今度は自分の肩と手を握って離さない
この騒動でSP達は解雇したのだが、今更この女が何の用なのか

「コラッ、何やってるの、離しなさい・・・ッ」
「スイマセン、さつきオ嬢サマ、今ノ私ノボス、違ウ人デ、ツイテキテクダサイ」
「だから何で私を捕まえるのっ・・・早く離しなさい・・・」
「手荒ナ事シタクアリマセン、車ニ乗ッテクダサイ」

全然聞く耳を持たないサツキを、やれやれと言った風に車に引き寄せる
力付くで、車に無理矢理押し込められる

「助けてーっ、人攫いよーっ!!」
「イイ加減ニシテ下サイさつきオ嬢サマ、がむてーぷ使イマショウカ?」

流石に無理矢理黙らされるのはイヤだったらしく、その後は目的地に着くまでサツキが騒ぐ事は無かった


黒塗りの高級車が停まった所はあまりに似つかわしくないボロ家のアパートの駐車場

「コノ中デス、さつきオ嬢サマ」
「うるっさいわね、いちいち手を掴まなくても逃げないわよ!!」
「スミマセン、デハ行キマショウカ」
「ッッ・・・」

サツキの意向を無視し、アパートの中に引き立てる
一間が6畳程度の小さな部屋には、雑誌、機械類が散乱し
足の踏み場は辛うじてあるかないか
奥の部屋に至っては、暗くてよく見えないが更にモノが溢れている事が伺える
そのサツキの家の真逆を行ったような、小さな部屋のソファーに腰を下ろしているのは
つい最近サツキにひれ伏した目立たない凡人

「何で・・・アナタがここにいるのよ・・・!!」
「いや、ここオレの家だし?」
「どういう事なのッ、SP!!」

この女、犯罪の片棒を担がせていたSPの名前も覚えてはいない

「今、ワタシ臣斗サンニ雇ワレテマス」
「ハァッ!?」

何が何だか分からないサツキに一言

「今のサツキの身の回りの騒動、アレ、オレがやってみたんだけど」

「はぁ・・・?」

何を言い出すかと思えばそんな与太話を・・・

「バッカじゃないの?何言い出すかと思えば・・・」

「あーあーハイハイ、信じられない─ってのは分かってますよー、想像力が貧困ですもんねー」
「なッッ!!」
「でもアンタさー、タイミングが良すぎると思わない?」

「何でオレがイジメられたそのスグ後にこんな事が起きるの?」
「それはッッ・・・ぐ、偶然・・・」
「偶然にしちゃ普通こんな事起きないでしょ」

「大財閥がいきなり破産するようなおかしな事件」

「どっちかっつーと誰かの恨みでも買った報復って方が自然じゃない?ねぇ」
「・・・ッ」
「そーだなー・・・論より証拠だよねぇ、面白いモン見せてあげようじゃないか」

「えーと・・・しかしあっちの部屋連れてくにも・・・暴れられても困るしな・・・
えーっと・・・」

暫くソファーの下辺りからゴソゴソとセーターのような衣類を取り出す

「ジェーン真柴さん、ちょっとそこコ、この服に着替えさせてもらえますー?」
「分カリマシタ」
「キャッ・・・ちょ、何するのよ!?、コラッ、ダメ、やっ・・・」
「大人シクシテ下サイ」
「こらっ、やめ、やめなさい!!どこに触ってるのよ!!」
「暴レナイデ下サイ」
「あなた今まで私に雇われてたんでしょ!?あんなヤツの言う事聞かないでッッ・・・キャッ!!」

その一言を言うと、女の手の力が痛いと思えるレベルに達した

「ワタシ今マデアナタ達ニ雇ワレテマシタ、出稼ギニ出テモ働キ口ガ無クテ・・・イヤイヤデシタ
家族ニ、オ金送ル為ニ・・・イケナイ事イッパイヤラサレマシタ
日本ニ連レテコラレテカラ・・・段々貰エルオ金、減ッテキマシタ
何デカト聞イテモ、何モ教エテモラエマセンデシタ・・・嫌ナラ辞メテモイイト・・・
シカシぱすぽーとモ作ッテナイシ、不法入国ニナリマス、国ニ帰ルオ金モアリマセン
ココデ働クシカアリマセンデシタ・・・小サナ子ノ言ウ事聞クノ嫌々デシタ
デモ働カナキャ、家族ガ飢エ死ニシテシマイマス・・・ソシテコナイダ・・・
イキナリ仕事ヤメロ言ワレマシタ・・・自分必死ニ頼ミマシタ
家族ガ困ル、辞メサセナイデクレト・・・ケド聞イテクレマセンデシタ
自分デ何トカシロ言ワレテ、屋敷カラ放リ出サレマシタ」

話しながらも段々と肩に置かれた手の力は強まっていく

「痛い!!痛い痛い痛い!!やめてッ、肩が潰れるッッ!!」

臣斗から止めるように言われてやっと、手をぱっと離し、最後に・・・

「コレ以上騒イダラ・・・ワタシ、アナタヲドウスルカ分カリマセン・・・
・・・・・・大人シクシテ下サイ」

流石にもうサツキも騒ぎはしなかった

「うぅ・・・自分で着替えれるわよ・・・せめてアイツがいない所で・・・」
「ははっ、ストリップショーか、眼福眼福」

サツキが、恥ずかしがりながらも無理矢理に服を着替えさせられていく様は生唾モノだった

「これ・・・腕が通せないんだけど・・・」
「いやセーターの手を後ろで縫い合わせただけだよ?暴れられないように」
「失礼シマス」

奇っ怪なセーターをしげしげと観察してると、いきなり足を手錠で拘束される

「これでまさしく手も足も出ないってヤツだねぇ♪アハハ、良い格好だ」
「うぅ・・・」

軽口を叩きながら、歩きにくそうにするサツキを奥のもう一つの部屋に連れて行く

「さて、ここがオレ自慢のパソコンルームだ」

テレビのモニターや機械類、ありとあらゆる物が部屋の中に溢れ、時折動作して
辺りからは時たま機械のキュイーン、ピピピ、という駆動音が聞こえる
そのあらゆる配線は部屋の奥の、モニター6つを繋ぎ合わせた大型のパソコンに繋がっていた

「うわぁ・・・・・・」

どこかをヘタに触ると何かを壊しそうで、サツキが縛られている理由が分かった気がした

「さて、このパソコンなんだけど・・・何から見せようかな、まーとりあえず座って座って」

パソコンの前にある大きなイスにサツキを座らせる

「とりあえず親の会社の状況でも見てみようか」

臣斗がカタカタやったと思うと、全部の画面がどこかの会社の様子が映し出された

「あれ・・・パパ!?」

社長室と思われる豪華なつくりの部屋では、男が一人頭をかかえていた
その他の部屋でも、活気は微塵も感じられず、どこか悲壮感が漂っていた

「え・・・ちょ・・・なんでこんな映像が・・・?」
「ちょっと監視カメラの画像を借りただけだよ」

またもやカタカタやりだしたと思うと、1分程して画面が切り替わる
大きな表に数字の羅列が映し出される

「これは・・・?」
「簡単に言うとこの会社の全てだねぇ、この数字をいじくるだけでこの会社はどうにでもなるんだよ?」
「???」
「要するにこの数字をいじって・・・えーっと・・・ホラ」

「これでサツキの家の借金は30億増えた♪」
「えっ!!?」
「まぁこれだけじゃダメなんだけどね、この会社に借りた、ってデータを作っただけだから
これと同じ額をどこかの金融会社が貸したって記録を作って・・・まぁ後は普通の借金と同じかな?
おっと、ホラ、興奮しない、落ち着いて落ち着いて」
「け、消して!!今すぐこれ消して!!!!」
「ハィハィ、面倒くさいなぁ」

カタッ・・・カタタッ・・・

「んじゃ、このプログラム・・・このアイコンをダブルクリックすれば消えるけど・・・ホントにいいの?」
「早くしてよっ、早くっ」
「全く・・・」

カタタッ、小さな音と共にビーブ音が鳴り、「全消去まであと21min」という画面に切り替わる

「ハハ、こりゃ面白いなぁ・・・さっきの画面に戻そうか」
「え・・・え・・・!?」

会社内は、先程と打って変わってパニック状態になっている様子
社長室でも、男が秘書らしき人を怒鳴りつけている

「この会社のメインサーバに保存されたデータを全部消去してるトコだよ、今」
「・・・違うッッ、やめて!!」
「いいじゃないか、消して欲しかったんだろう?」
「借金のデータだけ消してくれれば・・・」
「あぁ、借金は残るよ」
「えっっ!?」
「こないだの借金は今借りてる人の名義をサツキの会社名義に移したモンだからねぇ
サツキの会社が『お金借りてたってデータ紛失しましたー』じゃ通らないってワケよ
むしろ『自分も貸してた』『自分も貸してた』って貸してもいない業者がおこぼれを貰おうとするんじゃないかな?」
「そんな・・・ウソ・・・」
「ハハ、まさに人生を棒に振ったってヤツかな、オレの見立てだと多分2兆円くらいの借金が・・・おっと、暴れないで」
「止めて!!このプログラム止めて!!」

「いやこのプログラムは止められないんだよね〜♪」
「なっ・・・」
「ここにあるのはサツキの会社のサーバに仕込んでおいたウィルスに起動命令送るだけのプログラムだし〜
第一サツキの会社の専属プログラマとかに止められないように、ってオレにも止められないプログラムにしちゃった♪」
「・・・・・・!!」
「普通こういう時は電源抜けばいいんだけどね〜・・・会社で使ってるようなサーバ用コンピュータじゃ・・・
多分電源引っこ抜く許可が下りるのに小一時間はかかるだろうな♪」
「なんで・・・なんでここまでされなきゃ・・・」
「えー、最初に手を出して来たのってそっちじゃない?」
「うぅっ・・・でも、ここまでは・・・」
「え、何で?報復にはやられた以上の事を仕返しちゃいけないって法律とかあるの?」
「・・・・・・」
「でもサツキちゃん、これからどうなるんだろうねぇ〜?
これ、ヒトゴトじゃないよ?サツキちゃん家の借金だよ?」
「全部・・・ホントなの・・・?ウソじゃないのよね・・・?」
「ま〜っさか、冗談で大企業の社長室のカメラなんか盗み見れると思うの?
タチの悪いジョークでこんな事するヤツいないでしょ」
「・・・・・・」
「とりあえず明日になれば分かるよ、行き先はフィリピン辺りかな?
腎臓角膜肺に他色々・・・全身切り刻んでも借金には全然足りないだろうなぁ」


今や臣斗の顔には、満面の笑みが浮かび、さも愉快そうに軽快に話しているが
そのすぐ下で、イスに座っているサツキの顔は、涙でクシャクシャになっていた

そうして暫くし、
「DeleteFile:消去完了しました」という、
サツキの会社のサーバに送り込んだウィルスが役目を終えたという知らせが画面に現れ、サツキはわっと泣き崩れたのだった

「でさ・・・これからどうする?サツキ
あーホラホラ、泣いてもどうにもならないよ?」

あまりにショックが大きかったのだろう、サツキはただ泣いているだけだった

グズッ・・・ひっく・・・

それから10分も経った頃、ようやくサツキが泣き疲れてきたらしく
段々すすり泣きも収まってきた

「でさ、サツキは今からどうするの?」
「え・・・」
「だってさ、今からどこに帰るの?」
「・・・・・・」

今まで住んでいた家は立ち退きに遭った
親も今は新しい家を用意するどころか借金の対応に奔走している頃だろう
第一ヘタにその辺りをうろついて取り立て業者に見つかれば・・・・・・

今更帰れる所などある筈もない、改めて裸一貫で放り出されたというのが身に染みた思いだった


「だけど・・・アンタの世話にはならない・・・」
「はぇ?いいの?もう帰るトコもないんじゃないの?」
「煩い!!そうさせたのは誰よ!!」
「ハィハィ、そのカッコで凄んでも迫力無いですよー
結局のところ自業自得、因果応報、一番悪いのは自分じゃない?」
「・・・・・・ッ!!


              か、帰る!!」
「ジェーン真柴さーん、とりあえずこの子の服の着替え手伝った後に拾ったトコまで送って差し上げてー」
「分カリマシタ、ボス」
「あのさ・・・ボスとかやめてくんない・・・?」
「スイマセン、ボス、コレカラ気ヲツケマス」
「・・・・・・わざと?」

『その堅っくるしいカンジもどうにかならないかなー・・・
まぁいいや、とりあえずもうちょっとこの女に追い討ちかけてみるか』

「ところでさー・・・サツキ?」

名前を呼ばれた瞬間、もう一つの部屋へ引っ込もうとしていたサツキの体が一瞬硬直する

「何・・・?」
「オレがその気になればさー・・・いくらでも借金も増やせるしサツキの家族も苦しめれる訳なんだけど
その辺りはどう考えてる?」
「・・・・・・」

そのまま、20秒ほど気まずい沈黙が流れ、先に口を開いたのは彼女だった

「まだ・・・これで十分じゃないと・・・?」
「十分?冗談だろ?こんなの挨拶みたいなもんだぜ?」
「・・・・・・ッ!!」
「殴られ、蹴られ、あの時は痛かったなー・・・

あ、ジェーンさん、気にしなくていいから、ジェーンさんはあの人の言う事に従っただけだから
ホラ、切腹の真似なんておっかない事しないで・・・ってちょ、マジで突き立てないで、やめてーーー!!」
腹に包丁を当てたジェーン真柴、元SPを必死に止める臣斗

そのミニコントが一段落した所で、サツキが口を開いた

「要するにそれは・・・私を脅してるの?」
「脅して?何言ってるの、脅してなんかいないよ
たださ・・・ちょっと考えて欲しいだけなんだよね」
「・・・・・・」
「オレの気分次第なんだよ?アンタらの借金も会社も人生も
別に気分が乗るなら会社を復活・・・今まで以上に利益を上げさせてもいい
でも普通にこのまま借金生活を送らせるのもアリだし」
「・・・・・・ッ!!」
「それを踏まえた上でさ・・・どういう態度に出たらいいか、考えて欲しいなー・・・って
ついこの間・・・自分が何したかを考えて・・・何をすればいいのか考えてさ・・・」
「うぅっ・・・」

臣斗の顔には、いつの間にか笑みが広がっていた
これほど人間の顔は歪むのか、という程の笑い顔で、更に続けた

「借金取りだってさ、何億も取りはぐれるかもしれないんだ
そりゃー必死だろうしなりふり構ってられないだろうなー・・・」
「・・・・・・」
「とりあえず見つけ次第拉致ってこいって指示を受けた人が家の周りうろついてるんじゃないかな」
「・・・・・・」
「行き先はとりあえずフィリピン辺りかなー?
まぁ体切り刻む前にどこから・・・とか希望は聞くらしいけどね
実際はもちょっと多めに臓器取ってくとかよくやってるってさ」

軽快な口調で続ける臣斗に、ついにキレた

「ホラ、麻酔で寝てるとどこ切っても分からないし、臓器の一つや二つ無くなっても気付く訳が『いい加減にしてっっ』


臣斗から笑いが消え、驚いたような、サツキに気がついたような顔のまま固まっていた

「何でここまでするの!?私に何をしろっての!?もう許してよぉッ!!」
「ハハハ・・・サツキはここに来てから一度も謝ってないよね、
自分が謝る必要も無いと思ってた?そんなんで『許して』ってのは虫が良すぎない?」
「あ・・・」

「まぁいいんだよ、別に、サツキの家の借金くらいオレがもみ消すなり無かった事にするなり
ホントに、どーとでも出来るんだけどねぇ」

「じゃ、じゃあ・・・」

「でもわざわざ無かった事にしてオレに何かメリットがあるの?」
「うぅ・・・」
「何の得も無いのにわざわざ借金消すようなメンド臭い作業はしないよ」
「作業って・・・!!」
自分の人生を滅茶苦茶にするかどうかの分岐が『面倒』の一言で決まるとは
「さて、さっきも言ったよね、サツキちゃん
自分が何をしたのか・・・何をすればいいのか・・・考えてみよう」
「ど、土下座でも何でもするわよ!!
写真だって返すし・・・殴っても・・・いい・・・わよ・・・」


「・・・・・・よし、やっぱ帰れ」
「え!?」
「何したらいいか考えても分からないなら、もう帰れ
ジェーン真柴さん、彼女着替えさせてあげてください」

後ろに待機していた元SPが、身動きの取れないサツキの腕を掴み、隣の部屋へ引っ張っていく

「ちょ、ちょっと待って、借金をもみ消すって話は!?」
「も、いーから帰れよ、お前立場分かってねーじゃん
フィリピン辺りで何がマズかったのかよく考えてこいよ」

「────ッッ!!」

彼女はこの時気付いた
自分の立場が圧倒的に不利な事にようやく気付いた
そして、今見放されれば、という危機感が急速に警報を鳴らしていた


「ちょっ、やめっ、やめて!!
むごっ・・・ごめ、ごめんなさい!!すいません、お願いします!!」

服を脱がされながら、必死に謝った
彼女の、圧倒的に勝ち続けてきた人生では、これ以上無いほど心の底から謝った

「ふーん・・・ジェーン真柴さん、ちょっと着替えさせるの止めてください」
「イエス、ボス」
「で・・・サツキ、もう一度さ・・・何をして欲しくて
その代わりに自分が何をするのか、言ってもらえるかな?」

上半身の服だけ脱がされて、かなりマヌケな格好だったが、サツキは恥部を隠しもしなかった

「・・・・・・スイマセン・・・借金を無かった事にして・・・ください
その代わりに・・・何でもします、私に出来る事なら・・・どんな事でもします・・・」

「オーケーオーケー、じゃとりあえず借金だけは無かった事にしようじゃないか
会社のデータとかは戻らないけど、それでいい?」
「う・・・出来たら・・・会社のデータも・・・」
「あ、ソレ無理、バックアップ取ってないから
ていうかたかだか女が一人言う事聞くだけで数百億の金動かすってかなり破格なんだけど
それ以上を要求するのがどういう事か分かってる?自分一人の価値がどんなモンなのか」
「ッッ・・・ゴメンなさい・・・借金だけでいいです・・・」
自分一人の価値じゃこれはできない、かなり嫌な言い方だったが、ここは妥協するしかないだろう
「さ〜て、と、じゃとりあえず取引成立だ
でもさ、分かってるよね、オレはいつでも今回と同じ事が出来る
つまりこの約束を破ったらいつでも同じ目に合わせられるって事を」
「・・・そんなっ」

つまりそれは、サツキが一生臣斗に逆らえないという事を意味していた



青い顔をしているサツキに臣斗が軽快な声で一言

「あ、そだ、サツキの家、さっき買い取ったから」
「え・・・」
「とりあえず20億程度出せば余裕で買えちゃった、サツキの家の預金からだけど
とりあえずサツキは今までの家に住んでていーよ、現オーナーはサツキじゃなくてオレだから借家って形になるけど」
「ッッ・・・」

喜んでいいのか悪いのか・・・とりあえず反抗的な態度にはなれないが

「じゃ、明日からオレもサツキの家に住むから〜♪」
「何でッッ!?」
「いやだってココ狭いじゃん・・・この機会に広い家にでも住んでみようかなー・・・って」
「男と一緒に住むなんて・・・パパが何て言うか・・・」
「あ、別にサツキはその辺りで野宿って方向でもいいよ?」
「・・・わ、分かったわよ!!」
「うんうん、いつもの調子が戻ってきた所で、そろそろ胸隠したら?」

先程から、発育の良い胸が完全に露になっている

「え、キャァァァァアアアッッ!!!」
「あ、やっぱ気付いてなか・・・おぶっっ」

不快なニヤけ顔を浮かべていた臣斗に、平手一閃、心地良い音がして臣斗が吹っ飛ぶ

「シ、臣斗サン!!大丈夫デスカ!?」
「あ、ごめんなさ・・・なんていうか・・・つい・・・」
「アッハッハッハッハ、まぁいいけどさ・・・
何コレ、ドスケベホイホイ・・・ってあの企画?見るなって方が無理でしょ・・・」

臣斗はアハハと力なく笑っているだけだった

『またさっきみたいにキレなくてよかった・・・』


その後、サツキは、元我が家、現借家に帰る中で、必死に考えていた
これから何をされるのか、臣斗は何を要求してくるのか
黒塗りの高級車が、サツキの家に着くまで考えても
財閥を一つ潰せるような男が自分に何を求めるかなど全く見当も付かなかった

「うわ・・・」

そして、臣斗の言っていたように、家の周りには いかにも といった感じの男がたむろしていた

「ドイテクダサイ、オ嬢サマ・・・」

黒服、コート、その他の男を、車を運転してきたジェーン真柴が容赦無く返り討ちにし
その後は借金取り(?)は遠巻きに見てるだけだった

「大丈夫デスカ、オ嬢サマ」
「あ、ありがとう・・・」
「・・・!」

サツキに初めて言われたお礼の言葉にショックを受け、ジェーンは暫く立ち尽くして動けなかったとか






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