ジャスティアス4 BAD END
シチュエーション


B HAPPY END


そして、最後の瞬間、ジャスティアスは空白に埋め尽くされていく意識の片隅で、赤崎の笑顔と、優しい言葉を思い出していた。 

『うぉ〜いっ!!大丈夫かぁ、ジャスティアスぅ?』
『焦るなよ、嬢ちゃん。焦っちまったら掴めるチャンスも掴めなくなる』
『こんな糞オヤジと心中するつもりかっ!?』
『あんまり心配かけるんじゃねえよ。馬鹿娘が……』
『なんで、普通にここに来てるんだよっ!!』
『わかったよ。いつでも来てくれりゃあいい。それで、嬢ちゃんが元気になれるんなら……』

浮かんでは消えるいくつもの思い出。
辛い戦いの日々の中、赤崎はいつだって自分のそばにいてくれた。見守ってくれていた。
その事を、今更ながらにジャスティアスは思い出していた。
だが、それも全ては終わってしまった事だ。
赤崎は死んだ。
そして、ジャスティアスの心もまた、グノーの力の前に完全に屈服させられた。
共に戦ってきたDフォースのみんなも、学校の友人達も、家族も、おそらくは全てグノーの餌食とされてしまうだろう。

(…もっと、私が強ければ、こんな事にはならなかったのに……)

空っぽの心の中を尽きる事のない後悔の念だけが流れていく。
ジャスティーダーク、そしてグノー皇帝。
彼らの圧倒的な力に敗れ去り、ジャスティアスの精神は粉々に砕け散った。

(ごめんなさい……隊長さん……)

赤崎が託してくれた思いも、願いも、優しさも、全てが無に帰そうとしていた。
全ては自分の無力が招いてしまった事。
それが悔しくて、悲しくて、ジャスティアスの心は涙を流し続ける。
だが、それさえもいずれ、グノーの糧として取り込まれてしまう運命にあるのだ。
今も絶えず流れ込んでくる絶望のエネルギーは、ジャスティアスの魂の最後の断片すらかき消そうとしていた。
心が空っぽになっていく。
魂の抜け殻と成り果てたジャスティアスの肉体はグノーの道具として、永遠の牢獄に繋がれるだろう。

(あぁ…私…消えちゃうんだ……)

やがて、世界中の嘆きと悲しみの渦の中に彼女の心は埋もれていく。

………その筈だった。

最初に聞こえたのは喉が張り裂けんばかりに叫ぶその声だった。

「うぅらああぁあああああああああああああっっっっっ!!!!!!」

怪人達の跋扈する街中をバイクで走り抜け、ようやく辿り着いた学校。
そこで佐倉龍司が目にしたのは、堅牢なシェルターの入り口をこじ開けて侵入した怪人が
今まさに生徒達に襲い掛からんとしているその場面だった。
そして、怪人の標的とされた生徒達の一番前に、龍司はその少女の姿を見つけた。

「…鈴野ぉおおおおおおっ!!!!」

大声を張り上げたのは、怪人の注意を自分の方に引きつける為、そして今にも竦んで動けなくなりそうな自分を奮い立たせる為だった。
管理の甘い父親の部屋から持ち出した猟銃を構え、龍司は突撃した。
グノーの怪人達に通常の銃火器ごときで太刀打ちできない事など百も承知だった。
それでも、今の彼はこうする以外の選択肢を持たなかったのだ。

「グウォオオオオオオオッッッ!!!!」

龍司の存在に気付いた怪人はこちらを振り返り、鋭い爪の生えた巨大な腕を振り上げる。
だが、龍司は臆する事無く、むしろさらに勢いを早めて怪人の懐に飛び込む。

「喰らえっ!!このバケモノがぁああああっ!!!!!」

叫び声を上げる怪人の口に銃身をねじ込み、その引き金を引いた。

また別の場所には、傷つきながらも戦い続ける戦士達の姿があった。

「くらぇええええっ!!!」

迫り来る怪人達を相手に、Dブルー=青海は孤軍奮闘していた。
ブルーニードルの広範囲発射で動きを止めたところに、続けざまにミサイルを放って怪人達を一網打尽にする。

「くっ…これでミサイルは弾切れか……」

残弾のなくなったミサイルランチャーを捨て、腕部レーザーガンで敵を迎え撃つ。

しかし、怪人達は圧倒的な数に物を言わせて、次第に青海を追い詰めていく。

「…やっぱ、一人じゃ無理だったかなぁ……」

敵の攻撃によってDフォースが散り散りになってからも果敢に戦い続けてきた彼だったが、既に手持ちの武器も残り僅かとなっていた。
頭上を覆い隠すグノーの巨大な要塞。
倒しても倒してもキリのない怪人達の群れ。
それだけで精神を押しつぶすような絶望に抗い続けてきた彼の戦いも、そろそろ限界のようだった。

「…まあ、俺にしちゃあ頑張った方だよなぁ…」

周囲を囲む怪人達が一斉に青海に襲い掛かる。
それでも、彼は怯まない。
痛いのも苦しいのも大の苦手だが、せめて最後の瞬間まで戦い抜いてやろう。
Dフォース隊員の意地を見せてやる。

「なめんじゃねえぇええええっっ!!!」

レーザーとニードルの乱れ撃ちで青海は怪人達を迎え撃つ。
しかし、嵐のような青海の猛攻をくぐりぬけて、一体の怪人が彼に組み付いた。
巨大なアゴと牙を持つその怪人はパワードスーツの肩口に噛み付き、そのまま食い千切ろうとする。

「…ちっくしょ…もうちっと絵になる死に方もあるだろうに……」

怪人に押さえつけられた体は身動きすらままならず、青海はついに死を覚悟する。
しかし、鋭い牙がパワードスーツの装甲を突き抜けるより早く、怪人の頭が不可視の斬撃に斬り飛ばされた。

「…こ、これは……っ!?」

怪人達が血しぶきを上げ、次々と倒れていく。
光学迷彩を施された回転刃、それが宙を飛び交い敵を切り裂いているのだ。
その武器の使い手の事を、青海は誰よりもよく知っている。

「…緑井っ!!生きてたのかっ!!!」
「かろうじてだがな……」

レーザーガンを乱射しながら怪人達の群れに踊り込んで来たのは、グリーン、イエロー、ピンクの三体のパワードスーツだった。

「青海さん、無事っスか?」
「私たちもギリギリのところで緑井に助けられてね…」
「桃乃っ!!黄山っ!!!」

死線を潜り抜けて再び終結したDフォースの4人は、フォーメーションを組んで怪人と戦い始める。
的確な連携の下で繰り出される攻撃は、数で勝る怪人達を次第に圧倒し始める。
ヘルメットの下で不敵に笑って、青海は叫んだ。

「まだまだ、勝負はこれからだぜぇ!!グノーの怪人共っ!!!」

龍司が、青海が、緑井が、黄山が、桃乃が、グノーのもたらす絶望に抗い、戦っていた。
いや、彼らだけではない。
この世界を覆っているのは嘆きと悲しみの声ばかりではない。
今この瞬間も、諦めに屈する事無く戦い続ける人々の生命の叫びが世界中に響き渡っていた。
どこまでも熱く燃え滾るそのエネルギーが、凍りついた筈のジャスティアスの心を揺り動かす。

(…みんな……戦ってるんだ……でも、もう私は……)

しかし、彼女の心に刻み付けられた傷はあまりにも深く、無力感が彼女の再び立ち上がるための気力を奪い去っていた。
ジャスティーダークに完膚なきまでに敗北し、グノー皇帝の絶大な力の前にジャスティアスは膝を屈した。
そして、脳裏に生々しく焼き付けられた赤崎の死の光景が、彼を救う事が出来なかった後悔が、
ジャスティアスの心を強く縛り付ける鎖となっていた。

(…ごめんね……私はもう…戦えないよ……)

絶望の淵から這い上がろうとした彼女の心が、再び深い闇の中に沈んでいく。
だが、その時ジャスティアスは気付く。
凍りついたはずの心の奥底で消える事なく燃え続ける熱い感情の存在に。

(…何?…これ…何なの?)

訳もなく零れ落ちた涙の、その雫の熱さにジャスティアスは呆然とする。
徹底的に打ちのめされ、敗北を刻み付けられた自分の心に、まだそんな物が残っていた事が信じられなかった。
しかし、次の瞬間、聞こえてきたその言葉で彼女は全てを悟る。

『なら、それをやれ、正義の味方。……大丈夫だ、お前は間違ってなんぞいないさ……』

かつて、迷った彼女の背中を強く押してくれた言葉。

(………隊長さんっ!!!!!)

確かに彼女の心はグノーによって徹底的に打ち砕かれ、赤崎はグノーの怪人の前に斃れた。
だが、それでも打ち消せないものが、彼女の心の中には息づいていたのだ。
ジャスティアスと赤崎、二人が戦いの日々の中で培った信頼と絆。
それは圧倒的な力の壁も、死という名の絶望をも乗り越えて、ジャスティアスを立ち上がらせる力へと変わる。

「うわぁあああああああああああああああああああぁ―――――――――――っっっっっ!!!!!」

迸る思いを込めて、ジャスティアスが叫ぶ。
それはグノーの巨大空中要塞を揺るがし、凄まじいエネルギーの奔流となって爆発した。

「…なんだっ!?…一体、何が起こっているというのだっっっ!!!!」

グノー皇帝はこの戦いが始まって以来、初めて動揺を見せていた。
彼の巨大な肉体の中、ジャスティアスを捕らえていたはずの空間で、正体不明の凄まじいエネルギーが発生したのだ。
それはジャスティアスを内部に閉じ込めた巨大触手を蒸発させ、尚も衰える事無く荒れ狂っていた。
彼はすぐさまその現場に触手でくみ上げた仮初めの肉体を出現させ、状況を把握しようとする。
そこで彼が目撃したものは、およそ信じがたい光景だった。

「…ば、馬鹿な……ジャスティアス、貴様にはもう戦う力は残されていなかったのではないか……!?」

莫大なエネルギーを身にまとい、完全復活を果たしたジャスティアスの姿に、グノー皇帝は愕然とする。

「貴様の心と体は絶望に呑まれ、完全に我に取り込まれた筈だ……っっっ!!!」
「そうね、その通り。私の心はあなたによって完全に殺された…………だけど…っ!!」

グノー皇帝の姿を見据えるジャスティアスの瞳には、もはや欠片ほどの恐怖も見当たらなかった。
胸の奥で燃え盛るその炎がある限り、彼女には恐れるものなど何もない。

「あなたには、私の心の中で燃えている隊長さんの魂までは殺せなかった!!!!!!」

言い放たれたその言葉は、ジャスティアスと赤崎の絆の勝利宣言だった。

「くっ…何を愚かな……っ!!!」

グノー皇帝は目の前の少女の姿に、かつてないほどの戦慄を感じていた。
焦り、動揺する彼は、眼前の恐怖を叩き潰すべく、ジャスティアスを取り込んだものと同じタイプの巨大触手を出現させる。

「喰らえ、ジャスティアスッッ!!!!」

グノー皇帝の声と共に怒涛の如く迫る巨大触手。
しかし、その圧倒的質量を前にしても、ジャスティアスは微塵もうろたえる事はない。
彼女は前方に向かって構えた両腕のアーマーを巨大な砲身に変形させ、叫んだ。

「フォトン・ダブル・バズーカァァアアアアアアアッッッ!!!!!」

巨大な光のエネルギーの奔流が、巨大触手をグノー皇帝の分身もろとも一瞬で蒸発させた。
ジャスティアスはさらに数発のフォトンバズーカを放って要塞内部を破壊し、最後に天井部分に開けた風穴から脱出する。
グノーの空中要塞から脱出したジャスティアスは、上空から改めてその威容を見下ろした。

「あれだけ破壊して、たったあの程度なの……っ!?」

全長10キロに及ぶ超巨体はジャスティアスによる内部からの攻撃を受けたにもかかわらず、
彼女が脱出した穴の部分から黒煙が上がっているだけで、ほとんどダメージを受けているようには見えなかった。
と、その時、ジャスティアスは自分を追いかけて空中要塞から急速に接近してくる黒い影を見つける。

「ジャスティーダークッッッ!!!」
「ジャスティアスッッ!!!!」

黒翼を広げ舞い上がるジャスティーダーク。
彼女もまた復活を果たしたジャスティアスの姿を前にして動揺していた。

「まさか、あの状況から復活するとはね。それにその凄まじいエネルギー……どうやらマトモに戦ってもボクに勝ち目はないようだ」
凄まじいエネルギーを身にまとうジャスティアスに対して、ジャスティーダークの取り得る策は一つだけだった。

「もう一度、君の力を奪わせてもらうよ……っ!!!」

胸の擬似クリスタルから、ジャスティアスの力を止めるべくシグナルを発する。
しかし………。

「くっ…うあああああああっ!!!…これぐらいの事でぇえええっ!!!」
「まさか…抑えきれない……っ!!?」

既にジャスティアスの力は外部からのコントロールで止められるレベルを遥かに越えていた。
強化服へのエネルギーの流れを堰き止めようとしても、莫大なパワーはそれを簡単に突破してしまう。

「ハイパー・ジャスティーソードッ!!!!!!」
「くぅ……ダークネス・サイズッ!!!!」

ジャスティアスは自らの最強武器を発動させ、ジャスティーダークに突撃する。

ジャスティーダークも自らの獲物である巨大鎌を出現させ、ジャスティアスを向かえ撃とうとするが……

「駄目だっ!…今のボクの力ではやはり……っ!!?」

ダークネス・サイズはジャスティアスの放った渾身の一撃に、粉々に破壊されてしまう。

「ジャスティーダーク、これで全て終わらせるっっっ!!!」

完全に無防備になったジャスティーダークに向かって、巨大剣を構えなおしたジャスティアスが再び突撃を仕掛けてくる。
もはやジャスティーダークには、いかなる防御も回避も不可能だった。

(…これが…ボクの行いに対する報いなのか……)

迫り来る切っ先を前にして、ジャスティーダークはそっとまぶたを閉じた。
かつてはグノーと熾烈な戦いを繰り広げた戦士がそのグノーの走狗と成り果て、あまつさえ自分の力と使命を受け継いだ少女を陵辱した。
たとえグノーによる激しい洗脳調教の結果だとしても、それをジャスティーダークが行った事に変わりはない。

(ならば、ボクはそれをただ受け入れるだけだ……)

もしかすると、その報いを受け入れた果てに、失われたかつての自分を取り戻す事ができるかもしれない。
そう考えると、少しだけ安らいだ気分になれた。
だが、次の瞬間、彼女の体を貫いたのはジャスティアスの必殺剣ではなく、莫大な生命エネルギーの奔流だった。

「…なんだ!?…一体、なにが……!!?」

恐る恐るまぶたを開けたジャスティーダーク。
その目の前、ジャスティアスの手に握られていたのは、ハイパー・ジャスティーソードではなくその本来の姿であるクリスタルだった。
クリスタルから流れ込むエネルギーが、ジャスティーダークの体を黒く染め上げている絶望の力を駆逐していく。
ジャスティアスは、ジャスティーダークの心と体を、グノーの呪縛から解放しようとしていた。

「辛かったんだよね……」

ジャスティアスが精一杯の優しい笑顔でジャスティーダークに語りかける。

「…どうして!?…ボクは君にあんなにも酷い事をしたじゃないか……!!?」
「…あなたにこの力を託された時の事、今も覚えてるよ。

あの時あなたに命を救われたから今の私はここにいられる。だから、これはおあいこだよ……」
ジャスティアスの腕がジャスティーダークをそっと抱き寄せる。
ボディスーツは黒から白へ、濃紺のアーマーは明るい青色へと変化する。
暖かな抱擁の中で、ジャスティーダークが本来の姿を取り戻していく。

「……うっ…うああぁあっ…ジャスティアス…うぅ…ジャスティアスぅううううっ!!!」

まるで子供に戻ったかのように泣きじゃくるジャスティーダーク、その頭をジャスティアスが優しく撫でる。

「ずっと言えなかったけれど………助けてくれて、ありがとう……」

そして、ジャスティアスはグノー空中要塞の威容を睨みつける。
復活を果たした今となっても力の差は歴然。
だが、もうこれ以上、この破壊の化身の思い通りにさせるわけにはいかない。

「さあ、グノー、反撃開始よ……っ!!」

そして、ジャスティアスのその言葉に呼応するかのように、グノーに圧倒されるばかりだった人類がその勢いを盛り返し始める。

ギリシャ
怪人達の骸を踏み砕いて進む戦士達。
各々が意匠の違う鎧を身にまとった彼らの先頭に立つのは、黄金の鎧を身に着けた12人の男達だ。
原子すら砕く彼らの力に、怪人達は次々と倒されていく。

中国
古代エジプトのファラオを模したかのような頭部を持つ巨大ロボットを先頭に、
超人的な戦闘能力を持つ武人達が、天地を埋め尽くす怪人軍団と熾烈な戦いを繰り広げていた。

ブラジル
街並みは見るも無残に破壊され、街路のそこかしこに兵士達の死体が倒れている。
パワードスーツ部隊も総崩れとなり、誰もが眼前に迫った破滅に怯えていた。
だが………。

「なんだ、あれは……?」

突如として出現した巨大な飛行船の大軍団による攻撃と、飛行船から舞い降りた兵士達が凶悪なほどの力が怪人達を圧倒し始める。

アメリカ
ネバダ州の荒野の地下深くに隠された米空軍の巨大な基地施設。
その存在を察知したグノーによって、その場所は凄まじい数の怪人の攻撃を受けていた。
基地の一角に、出撃の時を待つ機体があった。
グノーの攻撃に備え、未だ試作段階にあったその機体は、合衆国の持つ最後の切り札だった。
パイロットは既に操縦席に着いて、出撃前の最後のチェックを行っている。
そのパイロットの下へ、とある人物からの通信が入る。

『どうかねミスター、我々の作り上げた機体は?』
「素晴らしい。考え得る最高の仕上がりだ、プレジデント」

モニターに浮かんだ合衆国大統領の顔を、アーモンド型の大きな瞳に映して、パイロットは肯いた。

『世辞はいらないよ。今の我々の技術力では再現できなかった部分があまりに多すぎた』
「いや、全てのスタッフが最高の仕事をしてくれたんだ。それ以上、望む事などありはしない。後は、私の腕次第だ……」
『本来、合衆国の人間ではない君に我々の命運を託さねばならないとは、情けない話だよ』
「おいおい、私が何年この国にいると思ってるんだ?不時着した私を君達が救い出してくれたのが1947年。
あれから半世紀以上も経つというのに、いまさら仲間外れにされるのは心外だな……」
大統領の沈痛な言葉に、パイロットは肩をすくめて答えてみせる。
「守りたいんだ、君たちを、この星の未来を……」
『ありがとう、ミスター。ならば、我々の命、君に託させてもらおう…』
「了解した、プレジデント……」

やがて、出撃の時がやって来る。
地上へと通じる長大なシャフトに運ばれた機体の中、パイロットが呟く。

「グノー…お前たちの好きにはさせない……」

全システムが唸りを上げて起動する。
そして、その機体は上空を覆い尽くすグノー怪人軍団に向け出撃した。
それはまさに光の矢の如く、一瞬にして地下深くから怪人の群れを突き抜けて、その遥か上空に飛び出す。
怪人達は一斉に、飛行体に向かって攻撃を仕掛ける。
だが、ソレは慣性の法則を無視した凄まじい機動で飛び回り、次々と怪人達を撃ち落していく。
飛行体の描くジグザグの軌跡が、黒雲の如き怪人軍団を切り裂いていく。
光り輝くその飛行体の中、パイロットが叫んだ。

「さあ、とくと見るがいいっ!!これが宇宙の騎士の戦闘術だっ!!!!」

世界各地で上がる反撃の狼煙。
各国軍も態勢を整え、最後の大攻勢を仕掛けていた。

そして、再び日本
学校のシェルター内でも戦いは続いていた。
銃声と共に口の中で弾けた散弾の威力に、怪人の上体が揺らぐ。
龍司はその隙を見逃さず、ステップバックして上段回し蹴りを放つ。
いかに屈強な怪人といえど、その体重は他の生物と大差あるものではない。
龍司の鋭い蹴りは、怪人の体を勢いよく吹き飛ばした。

「グゥウ…ウグァアアアアアッッッ!!!!」

しかし、怪人はすぐさま体制を立て直し、龍司に向かって飛び掛ってくる。
思った以上に早い反撃に、龍司は何一つ身動きがとれなかった。
鋭い爪の一撃が龍司に届こうとした瞬間……

「……佐倉、危ないっっ!!!」

龍司の体は強引に横に引き倒される。

「てめえ、柳原……なんでっ!?」

彼を間一髪で救ったのは、かつて彼が退屈紛れに踏みにじった少年だった。

「なんでも何も、あんなへっぴり腰を見せられちゃ、僕も放っておけないよ」
「けっ……」

柳原に支えられて、龍司は立ち上がる。
しかし、怪人は二人に息をつかせる間も与えず、その爪を振るい飛び掛ってくる。
龍司は間一髪でその攻撃を猟銃で受け止めるが、その衝撃で二人は壁に吹き飛ばされてしまう。

「くそっ…たれ!!」
「ぐ…うぅ…」

暴発こそしなかったものの猟銃の銃身は折れ曲がり、日本刀も弾き飛ばされてしまった。
無防備になった龍司と祐樹に、怪人は追撃を仕掛ける。

だが、怪人の爪が二人に届こうとしたその時である。

「てぇええええええええいっっっ!!!!!」

響き渡る少女の叫び声。
強靭なはずの怪人の外皮が切り裂かれ、血しぶきが飛び散る。
驚愕し振り返った怪人の前に、立ちはだかっていた人物は……

「鈴野っ!!馬鹿、てめえっ!!?」

そこに立っていたのは鈴野小春。
小柄な彼女が、鞘から抜いた日本刀を両手で構え、怪人と対峙していた。
あまりに無謀な彼女の行動を見て、龍司が思わず叫ぶ。

「何やってんだよっ!?この馬鹿っ!殺されるぞっ!!!」
「大丈夫……。守って見せるから、佐倉君もみんなも、全部…っ!!!」

だが、龍司は気付いた。
小春の言葉に満ち溢れる自信と、切っ先を正眼に構えた彼女の一切の隙のないその姿に。

「ガァアアアアアアッッ!!!!」

両手の爪を振りかぶり、怪人が飛び出す。
小春も弾かれたように前へ……っ!!!

「こぉのぉおおおおおおおっっっ!!!!」

そして、淀みなく放たれた斬撃は、怪人の爪が振り下ろされるより早くその体を切り裂いた。
その強烈な一撃の前に、ついに怪人は息絶える。
どう、と倒れ伏した怪人の屍の前で、緊張の糸が一気に切れた小春もその場に膝をつく。
龍司はすぐさまに彼女のそばに駆け寄り、その体を助け起こす。

「鈴野…お前……」
「ありがとう、佐倉君………助けに来てくれたんだよね、私の事?」

ぐったりと力の抜けた体を龍司の腕に預けて、小春は心の底から安心したような顔で微笑んだのだった。

Dフォースも戦っていた。
圧倒的な劣勢に屈する事無く、死力を尽くして彼らは怪人達に立ち向かった。
傷つき疲れ果て今にも倒れそうな彼らだったが、その闘志が尽きる事はない。
なぜならば………。

「戻ってきたんだな、ジャスティアスちゃん……っ!!!」
「ああ、俺達も後れを取るわけにはいかないぞっ!!!」

グノーの力の前に敗れ去り、身も心も朽ち果てた筈のジャスティアスが復活した。
彼女の戦うその雄姿、それが今の彼らを支えていた。
押し寄せる怪人の群れも、もはや彼らには恐怖たり得ない。
一体、また一体と怪人が葬られていく。
未だ倒れる事のない彼らの存在に、グノー皇帝すら焦りを感じ始めていた。

そして、ガレキの街の片隅でも……。

(……ちっくしょ……何だよ、うるせえな……)

朦朧とする意識の中、男は少女の声を聞いた気がした。
懐かしくも温かいその少女の声に、男は冷え切っていた自分の体を起こす。

(…ぐっ……くそっ…体が動かねぇ……)

なんとか上半身だけを起こして、彼は今まで自分が横たわっていた場所を見る。
そこにあったのは、不快に粘つく赤黒い水溜り。
それは全て、彼の体から流れ出た血液だった。

(そうか……俺は…怪人に腹を貫かれて……)

不思議と痛みはない。
おそらくは、パワードスーツに仕込まれた生命維持装置によって彼の体に打ち込まれた、大量の痛み止めの効果だろう。
意識は朦朧として、視界が霞む。
パワードスーツには緊急時のための止血機能が備わっていたが、それでも彼が失った血液はあまりに多すぎた。
今こうして目を覚ました事もほんの偶然、もはや立ち上がる事の出来ない彼には何の意味もない事のはずだった。

(…だけどよ……声が、聞こえたんだ……)

それは、幻聴だったのかもしれない。
なぜならばその少女はグノーの力の前に敗れ、その心と体は虜となってしまった筈なのだ。
彼は少女が無残に陵辱される様を見せ付けられながら、圧倒的な無力感の中で怪人に倒された。
だから、これは彼の願望が見せている、今際の夢幻なのかもしれない。
だが、しかし………。

(…たとえ、幻だって構いやしねえ……アイツがまだ戦っているかもしれないってのなら…)

立ち上がる力も、痛覚さえも失った体。
それでも彼は、懸命に立ち上がろうとする。
パワードスーツの駆動系を調べ、それがまだ機能している事を確認する。

(…俺の体はもう死に体だ。だが、コイツはまだ生きている…コイツの力を借りれば、今の俺でも……)

元来、体の動きに追従して力を与えてくれる筈のパワードスーツを、逆に立ち上がるための杖に変える。
マニュアル操作のぎこちない動きで、それは立ち上がった。

(これならいける…これなら……)

今にも闇に溶けて消えそうな彼の意識。
それを繋ぎとめているのは、ほんのささやかな、だけれど何よりも確かな一つの想い。
死にゆく彼の胸の内で、その想いだけが熱く燃えていた。
その想いだけが彼を支えていた。

(…待ってろよ、嬢ちゃん……今、行くぞっっっ!!!!)

死と絶望の淵から立ち上がった男、赤崎が戦場へと、ジャスティアスの元へと舞い戻る。

絶望の空を赤と青の光が舞う。
ジャスティアスとジャスティーダーク、二人の戦士がグノーのもたらす暗黒に懸命に抗っていた。

「ハイパー・ジャスティーソードッッッ!!!!!」
「ジャスティーアーチェリーッッッ!!!!!」

金色に輝く大剣と、同じく黄金の弓矢。
二人の戦士はそれぞれの最強武器で、グノー空中要塞に攻撃を仕掛けていた。
一方、グノー空中要塞は無数の巨大触手を生やして、ジャスティアスとジャスティーダークを撃ち落そうと攻撃を仕掛けてくる。
超巨大質量による連続攻撃。
無数の触手の津波を前に、二人の正義のヒロインはそれを凌ぐ事だけで精一杯になっていた。

「くらえぇえええええええっっっ!!!!!」

ジャスティーダークの放った無数の光の矢が、迫り来る触手の群れを貫き破壊する。
だが、その爆発の向こうから、次なる触手が怒涛の如く押し寄せる。

「ジャスティーダーク、危ないっ!!!!」

ジャスティアスが放った斬撃のエネルギーがその触手達を切り裂き、さらには空中要塞の本体にまでダメージを与える。

「今よっ!!タイミングを合わせてっ!!!!」
「わかった、ジャスティアスっ!!!!」

ようやく刻み付けたその傷口めがけて、ジャスティアスとジャスティーダークは全力の攻撃を見舞う。
内部にまで叩き込まれたその攻撃によって、空中要塞が大きく揺らぐ。

「このまま一気に決めるっ!!!」

さらに追い討ちをかけるべく、ジャスティーダークはアーチェリーに巨大な光の矢をつがえて、狙いを定める。
しかし、そのために今まで高速移動しながら戦っていた彼女は、空中で足を止める事になってしまう。
その隙を、グノーが見逃す筈がなかった。
新たな触手攻撃にジャスティーダークが気付いたのは、それが回避不能なほどの間近に接近した時だった。

「いけないっ!!!」

ジャスティアスは、ジャスティーダークを庇うように、巨大剣を構えて触手を受け止める。
しかし、凄まじい勢いで振り下ろされた触手による打撃を、ジャスティアスの小さな体は受け止め切れなかった。

「きゃああぁああああああっっっ!!!!!」
「うわぁああああああっっっ!!!!」

ジャスティアスは、ジャスティーダークもろとも、遥か眼下の地上に叩きつけられる。
落下した二人めがけてグノー空中要塞は更なる触手を繰り出す。
ジャスティアスはそれをギリギリのところで弾き返すが……

「…そんな!!?」

跳ね返された触手の先端がまるで花びらを開くように展開する。
その内部には、一本一本が3メートルほどの長さがある巨大なモリが、ジャスティアスたちに向けて狙いを定めていた。
巨大剣を振り切ったばかりのジャスティアスには、その攻撃から身を守る術がない。

(そんな…ここまで来たのにっ!!!)

一斉に放たれた巨大モリの嵐が、ジャスティアス達を飲み込む。
それは二人の戦士の体を串刺しにして、その息の根を確実に止める筈だった。
だが、しかし……

「あ…れ……?」

ジャスティアスが目を開けたとき、眼前にあったのは自分の体を貫く無数のモリではなく……

「赤い…パワードスーツ……!!?」

自分を守るようにそこに仁王立ちになった、真紅の鎧に身を包んだ男の背中だった。
男は両手に携えた3連チェーンソーで、ジャスティアスとジャスティーダークの周囲のモリだけを切り払い二人を守ったのだ。
だけど、ジャスティアスは自分が助かった事以上に、二度と見る事がないと思っていた彼がそこにいる事が信じられなくて……。

「…たいちょう…さん……?」
「…危ないところだったな、嬢ちゃん……」

それでも、彼女の呼びかけに応えた声の優しい響きが、それが現実である事を何よりも確かに教えてくれた。

「…隊長さんっ!!…隊長さんっっ!!!…隊長さぁあああああんっっっ!!!!」
「おう、待たせたな……」

泣きじゃくりながら、背中に抱きついてきたジャスティアスに、赤崎が優しく声をかける。

「…生きてた……隊長さ…生きて……生きてたんですね…っ!!!」
「んん〜、喜んでもらってるとこ悪いが……今もほとんど死んでるような状態なんだがな……」
「…えっ!?…それってどういう……」
「死に損ないが…気合だけで動いてるって事だ……正直、あまり長くはもたん…だからな……」

赤崎はそこで不敵に笑って……

「さっさとあのバケモノを片付けて、病院に連れて行ってくれ……二度も死ぬのはまっぴらだからな…」
「はい……っっっ!!!!!」

冗談めかして言った赤崎の言葉に、ジャスティアスは強く肯く。
空を覆い尽くすグノーの悪夢も、もうどれほどの脅威にも感じられなかった。
ハイパー・ジャスティーソードを両手で構え、その超巨体を見据える彼女の瞳には、もはや勝利しか映っていない。
全身からは、グノー皇帝の体内から脱出した時以上のエネルギーが湧き上がる。
一人の人間から発生する量を遥かに上回るそのエネルギーに、強化服が悲鳴を上げる。

(そうだっ!!…これは、一人の力なんかじゃないっっっ!!!)

一度は堕ち果てたジャスティアスを再び立ち上がらせたのは、諦めずに戦う人々の声と彼女の胸の内に燃えていた赤崎の言葉だった。
今、彼女の中で爆発するエネルギーは、生命と生命を、心と心を繋ぐ絆の力だ。
人は誰も一人で生きていく事はできない。
誰かに支えられて、誰かを支えて、無限に繋がっていく絆の中でこそ、人は生きていられる。
生命は親から子へと連なり、心と心は繋がりあって、大きなエネルギーへと変わっていくのだ。
それこそが、絶望のエネルギーのみを求めるグノーには得られない、生命の真の力だ。

「うわぁあああああああああああああああっっっっ!!!!!!」

ジャスティアスの全身がまばゆい光に包まれ、その叫びに空中要塞が震える。

「ジャスティアスっ!!!ボクの力を使うんだっ!!!!」

ジャスティーダークが叫ぶと、彼女のアーマーが分解し、次々とジャスティアスの体に装着されていく。
ジャスティーダークのアーマーによって不完全だったジャスティアスの力が補完され、溢れ出るエネルギーを完全に制御下に置く。
それこそが、ジャスティアスの真の姿……

「ハイパーッッ!!ジャスティアスッッッ!!!!!」

金色のエネルギーを背中から立ち上らせ、ジャスティアスはグノー空中要塞に向かってまっすぐに飛び立つ。
そして、その両手に握ったハイパー・ジャスティーソードに全てのエネルギーを込めて、最強の技を放った。

「ジャスティー・ファイナル・ブレェエエエエエイクッッッ!!!!!」

無数の触手も堅固な装甲も、今のジャスティアスを止める事はできない。
ジャスティアスの必殺技は空中要塞をど真ん中からブチ抜いていく。
幾重にも重ねられた装甲を、空中要塞内部を、ジャスティアスは突き抜けていく。
そして………

「ここは…!?」

ジャスティアスがたどり着いたのは要塞内部の他のどの部屋からも独立した球形の空間だった。
その中央に、まるで巨大な胎児のような異形が浮かんでいた。

「馬鹿なっ!!馬鹿な馬鹿な馬鹿なっっ!!!!ジャスティアスぅううううっっっ!!!!!」
「その声は…グノー皇帝っ!!!!」

それは、絶望のエネルギーを喰らうだけの存在と化した皇帝の成れの果ての姿だった。

「これで終わりよ、グノー皇帝っっっ!!!!!」
「まさか、こんな所で我が…この我がぁああああああっっっ!!!!?」

必殺の剣は皇帝の本体を貫き、ジャスティアスはそのまま空中要塞を突き抜けて、その上空に舞い上がる。
次の瞬間、強烈な爆発と共にグノー空中要塞は跡形もなく消え去った。
同時に街に跋扈していた怪人軍団も、ボロボロと崩れ去っていく。

「これで…終わったんだ……」

悪夢は終わった。
一度は絶望に膝を屈しながらも、ジャスティアスは、人類は、ついに勝利を掴み取ったのだ。

長く辛かった戦いを乗り越えた喜びを胸に、ジャスティアスは眼下の街へ、自分を支え続けてくれた男の下へ舞い降りる。
だが、そこで彼女を待っていたものは……

「隊長さん……!?」

力なく倒れ伏した赤いパワードスーツ。
ジャスティアスはパニックに陥りそうな心を必死に押さえつけ、赤崎のヘルメットをゆっくりと外す。
その下から現れた赤崎の顔は蒼白で、固まった血で黒く汚れて、呼吸は今にも消え入りそうに弱々しかった。
限界まで戦い抜いた赤崎の命は、今、燃え尽きようとしていた。

「…隊長さん……そんな……」

もはや、自分にはどうにも出来ない事を悟り、赤崎の体を抱きしめたまま、ジャスティアスは泣き崩れる。
その時、誰かが彼女の肩にそっと手を置いた。

「…ジャスティーダーク…?」

振り返った先にいた銀髪の少女は、優しく微笑んでジャスティアスにこう言った。

「大丈夫……今の君なら、きっとその人を助けられる……だから信じて……」

「まさか、お前があんなに強かったなんてな……」
「もう…あんまりその事ばかり言わないでよ、佐倉君……」

危機が過ぎ去り、静寂を取り戻した学校の一角で、龍司は小春と話していた。

「家が剣の道場やってて、昔から教えてもらってたから……それだけだよ」
「いや、それだけって……普通、あの剣さばきはあり得ない……というか、あの怪人を斬るなんて出来ないだろ!?」
「あ…うぅ……それは…お父さんなんかには色々言われてからかわれたけど……」
「なんて言われたんだよ?」
「ううんと……確か虎がどうとか言ってたような……」

と、そこで小春は優しい笑顔を浮かべ、少し真面目な口調でこう続けた。

「でもね……やっぱり、剣がなかったら、私、ただの女の子だし……きっと、あの怪人の爪でやられてたと思う……」

あの時、生死の境目を分けたのは、勇気を振り絞って小春を助けに来た龍司の存在だった。

「それになにより…怪人に追い詰められてもう駄目だって思ったとき……佐倉君の声が聞こえて…それがほんとに心強くて……」
「まあ、あっという間に吹っ飛ばされたけどな……」
「それでも、あの時私が勇気を出せたのは、佐倉君のおかげ……みんなを助けたのはやっぱり佐倉君だよ……」

そう言って、まっすぐ見つめてきた小春の眼差しが熱くて、龍司は思わずそっぽを向いてしまう。
龍司が学校のみんなを救ったのだと、小春は言った。
だけど、それを言うなら、小春への想いがなければ、震えるだけの龍司はきっと成す術もなく怪人の餌食となっていた筈だ。
思えば、人の心の中にズケズケと踏み込んでくるこの少女に、龍司の心はどれだけ救われてきただろうか。

「礼を言うのはこっちなんだと思うけどな……でも、どうしても礼が言いたいってのなら、言葉なんかより、一つ頼み事を聞いてほしい」
「頼み事……?」

いつしか、小春は龍司の心の大事な場所を占めるようになっていた。
だから、龍司はその想いを言葉に変えて、小春に告げる。

「俺と……付き合ってくれないか?」

臆病な龍司はそれだけ言ってしまうと、もう小春の目をみていられなかった。
そんな龍司の手の平に、小春はそっと自分の手を重ねてきゅっと握り締める。
それは、何よりも明白な小春からの返答だった。

「これからもよろしくね、佐倉君………」

「何というか……僕はお邪魔みたいだな……」

小春と龍司を探して校内を歩いていた祐樹だったが、見つめあう二人の姿を物陰から目撃してしまい、すごすごと退散する羽目になった。

「しかし、あの佐倉があんな表情をするとはねぇ……」

祐樹へのイジメが終息してからも、龍司だけはつねにとげとげしい雰囲気を身にまとっていた。
だけど、それすらも移り変わっていく世界の一部に過ぎなかったようだ。
祐樹が変わったように。龍司が変わったように。
そして、グノーのもたらした悪夢の日々が終わりを告げたように。
無限の可能性を秘めて、全てが常に変化し続ける。
それこそが、見えない明日を越えていくために、生命に与えられた力なのだ。
グノーによって甚大なダメージを負った世界も、きっとそれを乗り越えて変わっていくのだろう。

「そうだ…みんな、変わっていくんだ……」

そう呟いた祐樹の瞳に映る未来は希望に満ち溢れていた。


ガレキの街の真ん中で、赤崎は目を覚ました。
最初に感じたのは、唇に触れる甘く優しい感触。
うっすらと瞳を明けると、目の前には赤崎のよく知る少女の顔があった。
赤崎が目を覚ました事に気付くと、少女はゆっくりと唇を離して、少し頬を染めて彼を見つめる。

「ずいぶん、大胆な起こし方だな、嬢ちゃん……」
「眠れるお姫様の目を覚ますための、古式ゆかしい伝統的方法ですよ……」

赤崎はゆっくりと上体を起こし、それから死にかけだったはずの自分の体がずいぶんと楽になっている事に気が付く。

「そうか、嬢ちゃんのお陰なんだな……」
「はい。ジャスティーダークが教えてくれました…」

彼女は二人のそばでガレキの上に腰掛けて休んでいる少女を指し示した。
ジャスティアスの持つ生命エネルギーを流し込むことで、赤崎自身の生命を再び活性化させる。
それがジャスティーダークの教えてくれた方法だった。
ゆっくり、ゆっくりと、しかし絶える事無く、生命エネルギーを流し込み、死にかけの細胞が再び目を覚ますのを待つ。
それはジャスティアス自身にも多大な負荷をかける方法だった。
だが、彼女は見事それをやり遂げた。
赤崎の命をギリギリのところで、何とか繋ぎとめる事に成功したのだ。

「なあ、それってどうしてもキスじゃなきゃ駄目だったのか?」
「えへへ、その辺はほら、役得って奴ですよ」

くすくすと笑うジャスティアス。
だが、その瞳からは堪え切れずに涙が溢れ出し、柔らかな頬にいくつもの跡を残していた。

「…みんな一緒に温泉行こうって言ったじゃないですか……約束やぶっちゃ嫌ですよ……」
「ああ、すまねえ……悪かったよ…」

そのまま泣き崩れて、自分の胸に飛び込んできたジャスティアスを、赤崎は優しく抱きしめる。
幾多の絶望を打ち破り、グノーの悪夢から人類を救った正義の戦士。
だけど、赤崎の腕の中で震える彼女の小さな肩は、どこにでもいるごく普通の女の子のものだった。

「よく頑張ったな、あすか………」

頭を撫でてやりながら、赤崎は少女の名前を優しく呼んだ。
ジャスティアスの腕がそれに応えるように、赤崎の体をぎゅっと抱きしめた。
空には既に絶望の影はなく、ただどこまでも満天の星空が広がっていた。
と、その時、遥か道の向こうから、こちらに歩いてくる四人の人影を見つけた。

「お〜い、隊長っ!!無事だったんですねぇ………って、ジャスティアスちゃんと何してるんですかっ!!?」
「ちっ…うるさい連中がやって来やがったぜ」

抱きしめ合うジャスティアスと赤崎の姿を見て、Dフォースの4人は何やら騒いでいるようだった。
赤崎は、一瞬、ジャスティアスを抱きしめる腕を離そうかと考えるが……。

「いいや、せいぜい見せつけてやればいいか……」

そう言って、逆にジャスティアスをさらに強く抱きしめた。
そうだ。
もうコイツを離したりはしない。
きらめく夜空のその下で、ジャスティアスと赤崎はいつまでも抱きしめ合っていた。

完。






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