アリオ
シチュエーション


眼下に拡がるのは、あまりにも広大な闇。
アリオはどこか覚めた目付きでその光景を眺めていた。
砂塵の混じった、乾いた風が彼女の頬を撫でる。
時折聞こえてくる叫び声に、彼女は眉根を顰めた。

(ここに、いる)

アリオはただの人間ではない。
その体は、手の加わっていない場所が無いほどに改造を施されていた。
改造されたアリオの耳は、聞こえてくる声の一つ一つを判別することが可能だ。
反響や雑音をものともせず、何キロも先から聞こえてくる声紋すらも聞きわける。
目を閉じて、改めて耳を澄ませる。また声が聞こえてきた。

「行かなきゃ……」

つと、脚を前へ進める。
隕石でも落ちたのかと思うほど、大きな穴。それが「連中」の住処である。
人類の仇敵でもあり、おそらく近い将来世界を制圧するであろう生命体。
甲殻類のような体を持った奴らは、日夜人を攫い、この穴へ連れてくるのだ。
奴らにはいわゆる「目」に当たる器官が無い。匂いや音だけで人を判別し、攫って行く。
ほとんどの者は食料となってしまうか、寄生虫の宿主とされてしまうが、
極々一部、奴らの手駒とさせられるべく、改造される者がいる。
その極々一部の者こそが、アリオなのである。

おそらく、その改造過程には脳も含まれるのだろう。
しかし、アリオはしっかりと自分の意識を保っていた。
何故自分が連中の支配を逃れられたのか―― それについては全く心当たりはない。
しかし、人間である事を取り戻せたのならば、同胞たるものを助けたいのは人の道理だ。

意を決して、アリオは体を空中へ躍らせた。
次の瞬間、彼女の背に透明な羽根が展開される。
まるでトンボのような羽根が4枚。力強く空気を叩き、アリオの体を持ち上げる。
改造された結果、彼女の体には幾つかの人外としての機能が追加された。
その一つがこの背中に生える羽根である。トンボとは違い、忙しなく動く事で空を飛ぶ事を可能とする。
超人的な感覚に加え、彼女がここまで戻ってこれた所以でもある。

穴を下れば下るほど、月明かりが薄れ、代わりに闇が濃くなる。
そして、鼓膜を震わせる人間の泣き声、叫び声。
いかに改造を受け、強靭な体を持つアリオであってもその悲痛な叫びには耳を覆いたくなる。
心の中で無力な自分を詫びながら、彼女は羽根を震わせ奥へ奥へと進んでいく。

十分も経っただろうか。
不安で胸が押しつぶされそうになる。まだ無事、きっと無事と言い聞かせさらに奥へ進んでいく。
いつしか、彼女は狭い穴の中を通るようになっていた。
まるで巨大な蟻の巣穴のような構造だ。アリオ一人通るのでやっとという所である。
反響する音へ耳を澄ますと、どうやら奥にたくさんの部屋があるようだ。

壁からこっそりと顔を出す。
暗闇でも、アリオの目は物を見ることが出来る。
そこでは全裸で放り出された男達が、まるで動物のように打ち捨てられていた。
見張りはいない。彼女はこっそりとその場へ近づき、男達の顔を覗きこんだ。
寝ているのだろうか、アリオが傍に寄っても、男達は反応を見せない。

(もっと奥へ行ってみよう)

彼女が次の部屋へ行こうとしたその時――
脚を何者かに掴まれ、彼女は地面へ体を打ちつけた。

「誰!?」

脚を掴んでいるのは、先ほど顔を覗き込んだ男達。
瞳を見ると、確かに彼らはアリオの顔を見ていた。

(見えてるの!?)

驚きと同時に、彼女は自分の浅はかさを呪った。
ここはおそらく、改造を半ばまで施された人間を放置しておくための場所なのだ。


    □


男は、突如現れた女を思わず掴んでいた。
ここに捕えられて何日経ったかは最早わからない。
だが、確かにわかる事が一つ。男は非常に溜まっていた。

そこへ現れた女が一人。
暗闇でも物が見えるようになった視覚は、克明に彼女の肢体を理解させていた。

男好きしそうな大きな胸。であるにも関わらず、ぐっと括れた腰。
彼女の姿は羽根や尻尾のある異形の姿だったが、それでも男の一物は痛いほどまでに屹立していた。
力を込めた手を思い切り引く。意外なほどまでにあっさりと、彼女は尻もちを突いた。

「いたっ」
「へへ……」

男が行動を起こすと、自然と他の男も集まってきた。
この部屋には4人の男がいた。既に体を一部改造されており、なんとか生き残った者達である。
食欲、睡眠欲、性欲全てに彼らは餓えていた。
食物と言えば化け物が持ってきた得体のしれない虫や肉。寝床など当然無く硬い地面に体を横たえる毎日。
そんな毎日の中、ようやく巡ってきた僥倖。これを逃さぬ手はない。

「やめてっ! 貴方達人間でしょう?」
「うるせぇっ!!」

人間であるか否か。
そんな事、最早この世界では通用しない。
重要なのは支配する側か、される側か。被支配者層である彼らは、今この一瞬だけは強者だった。

最初の男が彼女を押し倒し、柔らかそうな頬を舐めた。
まるで昆虫のような羽根と、甲殻類のような尻尾がある以外はただの人間。
ズロリと長い舌を使って、舐めまわす頬の柔らかさと来たら!

ぶびゅう

「あ……」
「げぇっ、汚ぇ!」
「きゃあああっ!!!」

あまりの興奮に、男はいち早く粗相をしてしまった。
突然下腹に訪れた生温かさに、彼女も目を剥く。
なんと、男の股間についていたのは通常の男性器ではなく、まるで巨大な芋虫のような触手だったからだ。

「な、何それ」
「なんだよ。気持ち悪いってのかよ。てめぇも一緒だろうがオラッ!」
「あぐぅっ?!」

男はひどい事に、彼女の下腹部へ拳を振りおろしていた。

「おいおい、顔面はやめろよ」
「わぁってるよ。だから腹殴ってんだろ」

突然の暴力に彼女は激しくせき込む。だが、男は下卑た笑いを洩らすばかり。

「気持ち悪いってんならイヤってほど味合わせてやるよ。ほら」

彼女の頭を掴んで、無理やり膝立ちさせる。そして、男は触手を眼前に突き付けた。
アリオにも男の言わんとしている事は理解できる。

「ほら、どうした」
「やめ…… むぐっ」

彼女が否定の言葉を口にするよりも先に、男は触手を器用に操り彼女の口へ突きこんだ。
無理やり口腔へ悪臭を帯びた触手を突き込まれ、彼女は吐き気を覚えた。しかし……

「もっとしっかりしゃぶりやがれっ!」
「ぐもぉっ!!?」

男は両手でアリオの頭を掴むと、激しく腰を使う。
男のペニスなど初めて見る彼女にこの行為は辛すぎた。
涙を目いっぱいに湛えながら、彼女はただ耐えるばかりだった。

「そいじゃ俺もちょっとお願いしようかな」

先ほど暴力を制止した男が立ち上がり、アリオへ近づく。
男は細長い触手を彼女の手に握らせると、上下させる事を強いた。
まるでゴムのような触感が伝わってくる。しかも、しごけばしごくほど興奮したように身じろぎするのだ。

「じゃあ、僕はこっちの手で」
「お、俺はおっぱいで楽しませてもらおうかな」

そして、その男につられたように他の男二人も寄ってきた。
一人の男は彼女の空いている手に自分の触手を握らせる。
もう一人の男は、他の男達よりも長い触手を持っており、器用に胸の谷間へ差し込んできた。

「んぐっ! んぐっ! んごぉっ!?」

膝立ちの状態で、口、両手、胸へと乱暴に触手を突きこまれる。
悪臭と汚液にまみれる中、彼女は自分の中に眠る熱い感情に驚いていた。
これほどまでに乱暴な目にあわされながら、彼女の心は僅かに疼き始めているのである。

「うぉおっ! まず一発目イクぞ」
「てめぇは二発目だろ」
「うるせぇ黙ってろ!」

そして、男はまたもアリオの頭を掴むと、喉奥どころかさらに奥まで触手を突きこんだ。
最早人間には無理な奥の奥、胃袋の入り口へ強制的に精液を射出する。

びゅくっ びゅくっ どぴゅうっ

「!!?」

声にならない呻き声をアリオは上げた。
嘔吐感は勿論だが、それ以上に体中を征服する悪臭が彼女を襲う。
ずるんっ、と触手が引き抜かれそれに伴い立ち上る精液の香り。
しかし、そんな中でも彼女はわずかに高潮する気持ちを抱えていた。

「こっちも行くぜ!」

両手に持っていた触手、さらに胸の谷間をはいずる触手も、一層動きが激しくなる。
本来ならば振りほどこうと思えばほどける。だが、彼女は何故だか動く気が起きなかった。
何故だか体が気だるくなり、アリオはそのまま体を地面に預けた。
動きたくない。いや、動いちゃいけない。そんな気さえする。

抵抗する気力を無くしたアリオを男達四人は見下ろす。
改造された彼らの、抑圧された性欲はこの程度で収まらなかった。
ゆらゆらと、太さも長さも違う触手が暗闇の中揺れていた。

男達の性欲はまだとどまる事を知らない。
一度射精をし、少しは改称されたはずなのに、股間の触手は既に頭をもたげていた。
アリオの四方を囲むように、男達は改めて情欲を滾らせる。

そんな獣のただなかにあるというのに、アリオの四肢は動こうとしない。
急に襲われ、体力を消耗したためか。いや、違う。それ以外の何らかの要因があった。
しかし、その要因はまだ彼女の中で整理が付かず、ただ露わになった巨乳が呼吸で上下するだけだった。

「へへへ、次は目インディッシュと行きますか」
「――いたっ」

男の一人が、アリオの羽根の付け根を持ち、無理やり体を起き上がらせた。
そして、正面側に立つ男は舌なめずりをしながら彼女の両足を開かせる。
アリオの秘所は濡れそぼり、男根を受け入れる準備が出来ていた。

「ほら、一発目だ!」
「ダメッ! 入れちゃ……」
「黙ってろ!」
「ひぁぐっ!?」

暴れようとするアリオを、またも殴打する事で黙らせようとする。
四肢を抑えつけられ、抗う術を持たない彼女はただ拳を受け入れるしかない。

「へへぇ、こいつ殴ると結構いい顔するぜ」
「やめろよ。使い物にならなくなったらどうすんだ」
「へいへい。それじゃいただきますよっと」

ずぬ ぐぷぷ……

筋肉が弛緩しきっていたアリオも、突如侵入してきた触手に目を剥く。

「いやぁっ! おち×ちんが入ってきてる……!」
「おおー、そんなに感動的かよ。じゃあ一気に根元まで食べさせてやるか」
「ひぎィッ!? やめて、抜いてっ!」

初めて感じる、不愉快な挿入感にアリオは声を荒げた。
しかし、叫声はただ男の嗜虐的な快楽を呼び起こすだけだった。
舌なめずりをしながら、男は一息に腰をねじ込んだ。

ずぬんっ!

「あひィッ!?」
「うおおっ、こいつ随分と締め付け……」

どぶっ どぷっ どぷぅ

「やっ、そんなっ。中で、中で出てるぅっ?!」

反射的に、アリオは男根を締め上げた。
急に訪れた鋭い快感に、男は思わず射精をしてしまった。

「んだてめぇ一発目から中で出してんじゃねぇよ!」
「わざとじゃねぇよ! こいつが悪いんだ…… にしても、随分といいもん持ってるじゃねぇか」
「あ?」
「いやよ。ち×ぽ入れた途端まるで吸いつくようでよ。思わず漏らしちまった」

口角を持ち上げ、下品な笑いを洩らす。
挿入した途端射精。それは早漏とも取られない行為だが
裏を返せば、アリオのそれが名器である、という証左ともなる。

中出しに対して、眉根を寄せていた男も
あまりにも気持ちよさそうに笑む男を見て、思わず喉を鳴らした。

「ちょ、どいてくれよ。次は俺だ」
「いてっ。なんだよ、押すなって」
「まぁまぁ。時間はいくらでもあるんだ。楽しもうじゃないか」
「お願い! もう許して……」
「うるせぇな。てめぇはこいつでも咥えておけよ」

先ほどまでアリオの谷間を味わっていた男が、今度は無理やり触手を口へねじ込んだ。
野太い男根がアリオの口の中を征服する。

「んぐっ!? んじゅっ、んぷぅっ」
「うおお。パイズリもいいと思ってたけど、口ん中も最高じゃねぇか」
「うぐっ、んくっ、もっ、んまめっ…… ふぐゥッ?!」

口の中へ触手を突きこまれ、息もまともへ吸えないアリオへ
先ほどの男が秘所を犯し始めた。当然、宣言も遠慮も無い唐突な挿入。
心の準備すら出来ていなかったアリオは、苦痛の声を上げる。
しかし、その声すらも口内を犯す触手のせいで満足に上げられない。

「うおおっ、すげぇ! 気持ちよすぎるッ!」
「うむっ、ふぐっ、んじゅっ」
「へへ。舌も随分と絡ませてくるじゃねぇか。いい拾いもんしたぜ」
「うううっ、むぅっ!」

野太い触手が、上から下から突きこまれてくる。
アリオはなんとか抗うために、自らのしっぽを暴れさせた。
すると、尾の先端がまるで男性器のようにめくりあがり、中から赤黒い管が表われる。
まさしく亀頭に似たそれは、物欲しそうに左右に揺らめく。

「なんだこりゃっ」
「うえぇ。やっぱ化け物に改造されてるだけはあるな」
「人の事言えたち×こしてねぇだろ、おめぇ。俺もだけどな」

まるで男根のように暴れまわるそれを、男の一人が無理やり掴む。

「んぐぅっ! むあっ、握っちゃだめっ……!」
「うひっ、なんだこいつ。尻尾掴まれた瞬間中が締まりやがったぜ」
「まじかよ。ほれほれ」
「あっ、あっ、んあっ」

アリオへ突きこんでいる男の言葉を聞き、尻尾の先端をそのまま扱き始める。
アリオに、背筋を貫くような強い快感が走った。
女性であるアリオにとっては、初めての快感。
こみ上げ、噴き上げてしまいたい衝動。しかし、あくまでもムズかゆく放出できないもどかしさ。
もっと強く。もっと激しく。快楽を求める気持ちが、アリオの中で膨れ上がる。

一度はダメ、と否定したもののむしろ、ソレを求める気持ちが溢れ出すのだ。
男にまるで男性器のようにしごかれる度に、尻尾の先端からカウパーが漏れてしまう。

「うほほっ。まじで尻尾シゴく度に良くなるぜこいつ」
「んぶぅっ、んふぅっ!!」
「確かに口ん中もねっとりして具合がいいや。おい。もっとやってやれよ」
「おいおい。こっちゃ女のもんとはいえバケもんのチ×ポしごいてるようなもんなんだぞ」

確かに、ペニスとは別物とはいえ、男がそれを握っているのはどうも座りが悪い。

「おい、んじゃあ俺にいい考えがあるぜ」

アリオに触手を突きこんでいる男が、下卑た笑いを浮かべながら触手を受け取る。
そして、四つん這いになっているアリオの尻を割り、排泄以外に使用した事の無い器官に狙いを定めた。

「!? んむっ、そこはっ」
「おらよっ!」
「んぎぃっ!? は、入らないっ! そんなとこに入らないよぉっ!!」

だが、言葉とは裏腹に男達の触手よりも幾分細目の尻尾は、アリオの蕾へ飲みこまれていった。
固く閉じていた彼女の肛門も、何度もいじり、まさぐられたため緩くなっていったのだった。
気付けば、彼女は自分自身の体で、尻尾の半分近くを飲みこんでいた。

「うひょおっ! 自分で自分に突っ込めるたぁ便利な体だな、おい!」
「やべえ! 引きちぎられるみてえだ。おら、そろそろイってやるからな」
「こっちも咥えろよ。自分だけ気持ちよくなってんじゃねぇぞ!」

アリオの子宮口を叩く触手の勢いが、より一層強くなった。
一度は口から吐きだした触手がもう一度口の中へ突きこまれる。
さらに、自らの意思に反して、尻尾が尻穴を貫く。
最早、そこにアリオの意識は介在しておらず、ただ乱暴に体を弄ばれる。

(でも、なんで……?)

体の奥から湧きあがるような劣情。身を焦がすような欲情。
ただひたすらにアリオの体は求め、欲していた。今この瞬間が永遠に続けばいいとすら。
それはアリオの中にある人間的な感情ではなく、獣のような本能。
快楽を求め、欲望の充足を願う、動物ような情動だった。

(すごく…… すごく)

認めたくない。認めるわけにはいかない。
それを認めてしまえば、アリオの心を繋ぎとめている鎖が解き放たれてしまう。
だが、時間の問題だった。現状をただ受け入れているだけで
心のタガは徐々に、外されていっているも同然なのだから。

「うっ、ほら、俺の子種をくれてやるぞっ!」
「んっ、んっ、んぶっ、んぶうっ!」
「口の中にぶちまけてやるからな!」
「あぶっ、あむっ、んむうっ!」

膣内を、口内を犯され、両手にすら無理やり触手を握らされる。
その上、自らの敏感な尻尾を肛門の中へ突きこみ彼女の性感は昇り詰めていく。
そして、ついに彼女の中の何かが壊れ―― いや、目覚める瞬間が訪れた。

(気持ちいいッ!)

アリオの心が弾ける。

「こいつ、自分から腰使い始めやがった!」
「うむっ、んっ、もっと、もっとぉ……」
「おいおい! それどころかもっとだとよ」

彼女の嬌声を耳にし、ますます男達は調子に乗り始めた。
今まで以上に触手を彼女へねじ込み、凌辱の限りを尽くす。
本来ならばあり得ぬ恥辱。それでも、いやそれだからこそ彼女の性感は張り詰めていた。
激しい衝突音を伴う抽送。人間とは思えぬ量の精液・愛液。

「らめぇっ! もっと、もっとしてくれなきゃ」
「おらよっ、好きなだけくれてやらあ!」
「俺もそろそろ限界だ。ぶっぱなすぜ」

膣口が、肛門が、そして唇が。
アリオの体全てが男のザーメンを求めていた。
触手の律動が徐々に細かく変化する。それは射精の前兆。
体全体に牝の快楽を感じながら、彼女は悦楽に頬を染めた。
そして、その時が訪れる。


ぶぴゅ! ぶぴゅっ! ぶびゅうっ!

「イクッ! イックゥゥゥ!!!」


    □


饗宴は終わった。
男達の触手は精液を出しつくし、硬さを失った。
性交後の柔らかな快楽を体に宿したまま、男達は体を襲う眠気に身を任せた。
そんな男達とは逆に、アリオは自分の中で目覚めつつある感情に突き動かされた。

全くの暗闇だが、目が冴える。
これ以上セックスを行いたいという欲望は起きない。
必要とすべき行為は既に終わった。今、アリオの中にあるのは次への渇望。
即ち、繁殖欲。男達が彼女に付きこんだ精液は、すでに彼女の中の卵子と結合しつつあった。
人間ではないアリオの体は、胎内に命を宿す事は無い。

「んっ…」

受精卵はうっすらとした殻に覆われ、彼女の尻尾―― 輸卵管へと運ばれる。
彼女に今人としての意思は存在しない。そこにあるのは子孫を増やす欲求。
目の前にはちょうど、愛する子らの餌となる食料がすやすやと転がっているではないか。

アリオはようやく、自分がここへ来た目的を理解した。
別にアリオはここに囚われの人間を助けに来たわけじゃなかったのだ。

何故、すんなりと侵入出来て、騒ぎ立てても問題が無かったか、理解した。
アリオが男に襲われたりしても、それは「連中」にとっては予定通りの事だったのだ。

口角を持ち上げ、彼女は嗤う。
その顔は「連中」にそっくりだった。

―終わり―






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