怪盗アクアメロディ 幕間
シチュエーション


「地水光火…これで四つのエレメントジュエルが奪われたか」
「おいおい兄貴、そんなに悠長に構えていて大丈夫なのか? 残るは俺たちが持ってる二つだけだぜ?」
「くくっ…お前はともかく、俺のダークは問題ないさ。なんせ所在が判明していないんだからな」
「けっ、そうだったな。となるとアクアメロディの次の獲物は…」
「間違いなくお前の持つウインドルだろうな」

サクリファイスシティでも有数の富豪と呼ばれる塔亜家
その一室では当主の塔亜風見が兄の夜暗を招き、雑談を交わしていた
話の内容は昨夜盗まれたフレイア
ひいてはそれを盗んだ怪盗アクアメロディについてだった

「ふん、たかが一人の小娘。返り討ちにしてやるぜ」

傲慢不遜という言葉がピッタリの態度で笑う風見
二十台という若さで塔亜家を継いだ風見は今人生の絶頂にあった
金、名誉、容姿、女、そして魔力という力…望むもの全てを手に入れてきた彼に怖いものなどなかった

「ふむ、ならば俺の助力はいらんようだな」
「ああ、兄貴には悪いが、残りの四つは全て俺がもらうぜ?」
「構わんよ。どうせ俺は梶家を放逐された放蕩息子に過ぎん…過分な望みは持っていないのでな」
「なら兄貴のダークも譲ってくれよ」
「悪いが、それだけはできんな。過分な望みはないが、同時に力はあって困るということはない」

眼鏡の下で輝く鋭い眼光に風見は我知らず一歩後ずさった
怖いものはない、とされている彼が唯一恐れている人物、それが兄の夜暗だった
十年前、富豪である塔亜家を身一つで追い出された兄
だが、その数年後―――先代当主である兄弟の両親が変死したことを期に彼は帰ってきた

『安心しろ、別に当主にさせろというつもりはない…俺はただ単に恐怖に引きつったあの愚物どもの死骸を見に来ただけだからな』

それが風見と再会した夜暗の第一声だった
風見は戦慄した
確かに両親は恐怖に引きつった顔で死亡していた
だが、何故それを兄が知っているのか?
答えは一つしかない…兄が両親を殺したのだ

『お前にこれをやろう』

驚愕に身をすくませた風見に夜暗は風のエレメントジュエル・ウインドルを差し出した
風見は震える手でそれを受け取った
その時のことを風見は生涯忘れない
禍々しく笑う兄の表情、それに自分は魅入られてしまったのだから

(兄貴が何を考えているのかは知らない。だが…折角手に入れた力だ、存分に使わせてもらうぜ)

手の中で妖しく輝くウインドルを見つめながら風見は笑う
得体の知れない兄は怖い
だが、力をくれた事に関しては感謝しているのだ
金ではどうしても手に入らない己自身の力
それを手に入れることができたのだから

「しかしアクアメロディか…噂によるとすげえ美人らしいが、楽しみだな」
「お前なら女には不自由していないだろうに」
「けっ、金さえ出せば股を開くような売女には飽きちまったのさ。
 その点、この女はいい…俺のセンサーがビンビン反応してるぜ!」
「くくっ、まあ好きにするがいいさ」
「ああ、好きにさせてもらう。へへへ…どんな顔と身体をしてやがるのか今から楽しみだぜ」

ぺろり、と舌なめずりする風見の表情は美形にも関わらず醜悪極まりない
だが、夜暗はそれを気にすることなく微笑む
それは弟を愛する兄の表情だったのか
それとも、愚かな男を嘲笑する一人の悪としての表情だったのか
それを知るのは彼の胸元で暗く光るダークだけだった






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