シチュエーション
![]() 「……ん?」 警察署入り口で当直をしていた今井祐巡査は、こちらに向かって走ってくる少年がいる事に気付いた。 その少年の表情に何か気になる物を感じた今井は、その少年を呼び止めた。 「待ちなさい!君は」 「通してください同業者です!」 しかし、その少年は無茶苦茶な事を言って突破しようとする。 そんな少年を、今井は呆れたように見て、言った。 「……あのなあ……、顔つきにしても、着てる制服にしても、どうみても高校生だろう!」 「学校帰りに直接来たから仕方ないでしょう!」 「……待て待て待て!現役高校生が警官になれる訳がないだろう!」 そう、今井と少年が押し問答をしていると、 「何だ、騒々しい!」 そう怒鳴り声が聞こえ、警察署内から大山が顔を出した。 「お、大山警部!」 「大山のおじさん!」 「高原……何やってるんだ?」 大山を見て、慌てて敬礼をする今井。しかし、その少年は普通に大山と会話をして。 そして、その少年に向かって言った、大山の『高原』という言葉。 その言葉に、今井は硬直した。 「(……高原って、確かICPOから招聘した……っ!)」 その事に気付き、今井は我に返り、真っ青になる。 「も、申し訳……!?」 ……しかし、今井が謝ろうとしたときには、そこには誰もいなかった。 「……だから、僕は嫌だったんです。別に童顔って訳じゃないけど、年相応ぐらいの顔立ちらしいんだから」 そうぶつぶつと呟き続ける涼人に、大山は脂汗をだらだら流す。 そうこうしている内に会議室に着き、大山はこれ幸いとばかりに、さっさと会議室の中に駆け込んだ。 「お、来たか、涼人君」 「すいません、遅れました」 それを追いかけて涼人も会議室に入り、声をかけて来た小原に会釈を返す。 そして、先に入った大山を横目で睨み付け、口を開いた。 「小原さん。『レインボーキャット』の予告状が届いたと聞きましたが」 「……ああ、これだよ」 そう言って、小原が差し出した虹色のカードを涼人は覗き込む。 そこには、 「……『貴殿が所有しているペンダント『暁の羽』を4日後、午後10時に頂戴いたします』……。 ……また、日曜日なんですか?」 今日が水曜日なのを考えて、そう小原に聞いた涼人。 いままでレインボーキャットは日曜日にしか仕事をしておらず、今回もそうだった。 「日曜しか盗みに入らないって、何か原因があるんじゃないですか? ……それに、どうやらこれ、共犯者、もしくは便乗した馬鹿が書いたものっぽいですし……」 そう呟いた涼人に、大山と小原は目を剥いた。 「ど、どうしてだ!?」 「何故、そんな判断を!?」 そう噛み付くように聞いて来る大山と小原に、涼人は微笑んで、口を開いた。 「今まで届いた予告状は全部読んだんですけど、全部同じ文体……、この文体でした。 ……でも、本人と相対して声を聞いた限りだと、こんな文体で書ける性格をしているとは思えないんですよ。 つまり、予告状は別の人が書いているんじゃないかと考えたんです。 ……こんなあからさまな予告状を書いておいて、『レインボーキャット』と無関係な訳が無いですしね。 でも、予告状の内容は大体報道されているんで、真似して書けなくはないかな、と。 これまでの犯行周期から考えれば、日曜にしか『レインボーキャット』が動かない事は読めますしね」 そう自信たっぷりに言い切った涼人に、大山と小原は声を失った。 と、 「……ふふふ……、はははははっ!どうやら、大山のたっての頼みを聞いて、正解だったようだな! この推理力、さすがはICPOのホープだ!」 そう笑い声がして、話に50代半ばと思われる男性が参加してくる。 その男に大山はにやにや笑いながら敬礼して、言った。 「はっ!光栄であります、本部長!」 「……大山……ふざけてるだろ?」 そう青筋を立てる男こそ、レインボーキャット対策本部長、東川零次だった。 「……そうそう、高原君の疑問だがな、確かに予告状の内容は報道している。 しかし、『それがどんなカードに書かれているか』までは偽物との判別のために報道していないのだよ」 「それじゃあ……!」 思わずそう叫んだ涼人に、東川は頷く。 「ああ、この予告状は本物だ」 そう言われ、涼人は考え込むように人差し指を口の近くに当てる。 「……それじゃあ、やっぱりいるんだ。共犯者が……」 「どうかね?高原君。その共犯者のプロファイリングは可能かね?」 「……それなりの、目処は立ってます」 そう呟くように言った涼人に、東川は目を剥く。 言った東川ですらさすがに無理だろうと思っていたのに、素でそう返されては無理も無かった。 「お、教えてくれ!」 思わずそう叫んだ東川に、涼人は微笑んで、答えた。 「多分、共犯者は何処かの企業グループの社長や会長、もしくはそれに近い人だと思います。 ……今まで『レインボーキャット』の被害を受けた人は、結局みんな逮捕されています。 しかも、その被害者は全員何らかの大企業の上層部に属しています。 そんな上層部の人間が逮捕されれば、当然その企業のイメージは急降下します。 ……そうなって1番喜ぶのは、ライバル企業だとは思いませんか?」 そこまで言い切って、涼人は何となく天井を見上げる。 「(『レインボーキャット』……、君の正体を暴くのも、君を逮捕するのも、僕だ!)」 その頃、そのレインボーキャット、夏目里緒は、 「り、里緒、悪いとは思っていますから、許してはいただけませんか……?」 一美の家で、ソファに座ったままふてくされていた。 そんな里緒に、一美は平謝りに謝るが、里緒はそっぽを向いたまま。 「り、里緒ぉ……」 そんな里緒に、一美は泣きそうになって……、 「……ぷっ!」 「……え?」 ……突然笑い出した里緒に、きょとん、とした。 そんな一美に、里緒は必死に笑いを堪えながら口を開く。 「ふふっ、もう怒ってないよ♪」 「り、里緒!騙していたんですのね!」 そのまま笑う里緒に、一美は真っ赤になって怒る。 そのまま2人はわいわいと楽しそうにふざけ合い……、 「……一美、仕事でしょ?」 急に里緒の纏う空気が変わり、口調も真剣な物に変わる。 そんな里緒を見て、一美は微笑みながら頷いた。 「ええ♪今週の日曜日、午後10時に『レインボーキャット』が動く、と予告状を送っておきましたわ♪」 「……ん、分かった。それで、今回の獲物の裏は取れてるの?」 にこにこと笑いながらそう言う一美に、里緒は真剣な表情で聞く。 ……そう、涼人が推理していた『共犯者』。それが、佐倉グループ総帥令嬢、佐倉一美であった。 「ええ、もちろんですわ。彼が例の『組織』のスポンサーである、それは間違いの無い事実ですわ」 そう言われ、里緒はこくりと1つ頷く。 ……そして、顔を上げ、一美と視線を合わせると、すまなそうな表情で口を開いた。 「……ごめんね?一美。私の復讐に、一美を巻き込んじゃって……。 ううん、一美だけじゃない。一美の家全体を巻き込んじゃって……」 「……里緒?」 そんな里緒の言葉にきょとん、とする一美だったが、すぐに笑い出す。 そして、里緒に近付いて、その身体を抱き締めて、言った。 「……一体、里緒は何をおっしゃっているのです?里緒は私の1番の親友じゃありませんか。 親友の願いのお手伝いが出来るのですから、私は結構幸せなんですのよ? ……それに、俊也様の事に関しては、私のお父様も怒っていらっしゃるのです。お父様と俊也様は、ご学友でしたから……」 そう言った一美に、里緒は一美の胸の中で1つ頷く。 自分と一美の友人関係は、自分の父俊也と、一美の父武巳、 そして自分の母あやめと、一美の母稜子の友人関係から始まったものだったから。 「……私がお父様にこの事をお話いたしました時、お父様は最初は反対なされましたわ。 『組織』は自分がグループの総力を上げて潰すから、子供が動くのは止めろと……。 でも、最後には全面協力を約束していただいて、情報部を貸していただいて……」 そう言って、一美は里緒を抱き締める腕の力を強くする。 「……だから、謝る必要なんてないんですのよ?私達は、全力で里緒をサポートする。 そう、お母様も含めた家族全員が約束しているのですから……」 そう言われ、里緒はもう1つ頷き、……苦しそうに、口を開いた。 「か、一美、痛い……」 「あ、ごめんなさい、強すぎましたか?」 「うん、肋が顔に……」 そう言われた佐倉一美、B70cm。 「ん、んまっ!人の親切を……!」 「……だって、痛い物は痛いよ〜……」 そう言って額を擦る夏目里緒、B88cm。 「……まあ、それは置いておくとして。……あの転校生の方……、怪しいですわね」 ……そう、里緒の胸との戦力差に凹みながら一美が言うと、里緒も頷く。 「……高原君、でしょ?……この前、獲物を取り返された警察官、高原君にそっくりだったんだ。 ……一美、悪いけど……」 「分かりました、調べておきますわ」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |