朧月怪盗アンバームーン 『銀弾』
シチュエーション


「ふざけるなッ!!」

バンッ!!

会議室に怒号と机を叩く音が響く。
普段は温厚な棚橋が、いつになく逆上し肩を弾ませている。
隣にいた後輩が、肩を掴んで押し留めているものの、彼もまた
不服そうに視線を正面に座る人物に向けていた。

「……気持ちは分かるが、仕方ないのだよ棚橋。
全ては上が決めたことだ。影山氏の護衛はしない。
そして怪盗の相手もしない。これは命令だよ」
「圧力……ですか?」

棚橋は後輩の手を振り払い、上司であり隊長である片倉警視正を睨んだ。
直球すぎる言葉にも片倉は動じない様子で、眼鏡を指で直した。

「そんなところだろう。影山が裏で手を回したとしか考えられない。
彼の手はよほど長く、腹はよほど探られては痛いらしい」
「しかし、それでは何のための特別犯罪対策部隊なのですか?」
「所詮我々も駒の一つだということだ」

片倉の淡々とした語り口に、会議室は静まり返った。
その場にいる誰もがやるせなさに唇を噛みしめている。
片倉はすっかり冷めたコーヒーを一口啜ると、再び口を開いた。

「お前たち、博打は好きか?」
「は?」

あまりに意表を突く言葉に、誰もがまともな反応が出来ずにいた。

「棚橋、どうしても動きたいなら公然と動いてはまずい。
休暇を取って一般人として動け」
「しかし、怪盗に一人で立ち向かえ、と?」

片倉は少し考え込むと、強い視線で棚橋を見据えた。

「今回ばかりは怪盗は二の次で構わん。
政治家と警察上層部の悪事を白日の下に引きずり出せ。
分の悪い賭けだが……責任は私が取る」
「……分かりました、このままじゃ怪盗追えやしませんからね。
邪魔なお偉方たちにはここらでお引き取りいただくとしましょう」
「よし、他の者は通常業務をしながら棚橋を密かにサポート。
報告する際はくれぐれも動きを悟られないよう注意しろ」
「了解!」

ガタガタと立ち上がり、会議室を出て行く隊員達。
先ほどとは打って変わって、その表情には輝きに満ちていた。






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