怪盗アクアメロディ外伝『アクアル(中編)』
シチュエーション


「ここは…庭園?」

扉を開いた怪盗を待っていたのは一面に広がる緑だった。
木々が生い茂り、地面には草や花が青々と咲き誇っている。
夜中だというのに、天井の無数のライトがまるで昼のように明るさを保つその空間。
緊張に身構えていた美音は意外な光景に拍子抜けすると同時に木野への好感度を上方修正する。

「植物学の権威って聞いていたけど、凄い…」

庭園には身近なものから見たことがないものまで多種多様な植物が存在していた。
気候や土壌条件の都合で生息しているはずもない花もあったりするが、それらはおそらく品種改良されたものなのだろう。
つい先程まで狭苦しい暑苦しいの二重苦に苦しんでいた美音はその光景に癒され、すっかり警戒を解いてしまう。
だが、そんな認識も所詮は表向きのことだったのだと彼女はすぐに思い知ることになる。
一分後。
庭園内を散策していた美音はふと不思議な光景を見つけていた。

(え、女物の服……だよね?)

木の枝に女ものの服が無造作に引っ掛けられている。
見れば枝からは数十本の蔓が伸び、美音の頭くらいの高さの場所に縦横無尽に張り巡らされていた。
まるで物干し竿のような役目を果たしているそれには、数え切れないほどの服が洗濯物のように干されている。
いや、服だけではない。
よく見れば下着や靴下、それに帽子や手袋と人が身につける装飾品が蔓にはかけられている。
だが、一律して共通しているのはそれらが全て女性のものであるという点だ。
普通に考えて、屋敷の女性が洗濯物を干しているという可能性は低い。
こんなところに干す理由がないし、そもそも服の数だけの女性は屋敷にいないはずだ。
疑問とともに美音の心に不安が広がっていく。

「これは……ッ?」

ガサッ!
異様な光景に目を瞬かせた美音は奥から聞こえてきた葉ずれの音に身を竦ませる。
耳をすましてみると、やはり奥から物音が聞こえてくる。
誰かいるのだろうか?
美音は好奇心と情報収集の半々で音のほうへと向かう。

(……っ!? な、何これ!?)

愕然とした怪盗少女の驚愕の声が口の中で押し殺された。
服飾群を抜けて辿り着いた開けた場所。
そこでは、先程を上回る異様な光景が美音を待ち受けていた。

蔓が空中に複雑に絡み合うような形で四方に伸びていた。
あまりの数の多さに光が制限され、その場所だけがやや薄暗くなっている。
一見、先程の場所と同じような光景だが、あからさまに違う点がある。
蔓に引っ掛けられているのは服ではない、人間の女性たちだった。
いや、引っ掛けられているというのは正確ではない。
彼女らは蔓に拘束されるような形で宙に固定されているのだ。
それはさながら蜘蛛の巣にかかった蝶のような風体だった。

「ぁ…ぁ…」
「ぅぁ…」
「意識がある…? だ、大丈夫!?」

女性たちの口から漏れたうめきに反応した美音は彼女らと話をするべく近寄っていく。
だが、囚われの女性たちの口から漏れるのは意味を成さないうめき声ばかり。
よく見れば、彼女たちに意識はなかった。
拘束されたその姿は皆裸で、服を着ているものはいない。
恐らく先程の服はこの女性たちのものなのだろう。
美音は彼女たちを解放するべく動こうとするが、一歩踏み出したところで足を止めた。
ガサガサ、と更に奥から先程の物音が聞こえてきたのだ。

「この音…行ってみるしかない、か」

この人たちを放っていくのは心苦しいが、何かがいるとなってはまずはそちらを確認しなければならない。
怪盗としての思考に切り替えた美音はゆっくりと慎重に女体のカーテンを潜っていく。

「なっ…」

そこで美音が目にしたものは信じられない怪生物だった。
わさわさと動く根でできた足。
茎が密集して幹のようになっている胴体。
胴体から伸びる触手のような蔓や蔦。
そして、その頭頂部で咲き誇っている赤い不気味な花。
全長三メートルほどのソレは美音に背を向けた状態で何か作業をしている。

「あ…い、いやぁ…」

掠れた声が耳に届く。
少女が一人、謎の生物に囚われていた。
まだ意識があるらしく、怯えに顔を染めたその少女はガタガタと震えながら
なんとか拘束から逃れようと身体を揺らしている。
だが、蔓の強度は見た目よりも頑強らしく、少女の力ではビクともしない。
少女が暴れ疲れてぐったりしたところで怪生物は動き出した。

「や、やめてぇ…」

蔓が少女の服を脱がせていく。
無論、少女とて抵抗をするが、拘束されてなおかつ疲れている状態では満足に身体を動かすことすらできない。
あっという間に少女は裸に剥かれ、謎の生物の目の前に引き寄せられてしまう。
そこが頭に当たる部分なのだろうか、赤い花弁が開き中身が露出する。

「ひぃっ…」

少女は恐怖に引きつった声を上げた。
花弁の中は普通の花のようにめしべやおしべがあるわけではなく、動物の目や口のような器官が存在していた。
かぱり、と口が開く。
すると霧のようなものが放出され、少女の首から上を包み込んでいく。
自然、口を開けていた少女は直にそれを吸い込むことになってしまう。

「…んんっ? えっ、何これ……あっ、はぅんっ…あふぅんっ」

数秒後、少女の身体が朱に染まり、くねくねと動き始めた。
顔は身体以上に赤く染まり、先程までの恐怖が嘘のように幸福そうな表情になる。
とろんと垂れ下がった目からは正気の光が消え去り、少女はもっとほしいとばかりに口を開けて呼吸。
足の付け根からは彼女自身が分泌した蜜がしとどにあふれ、足をつたい落ちていく。

「な、何…何なの、あれは…」

動揺のあまり、一連の状況をただ見つめることしかできない美音。
噴出された霧には強力な媚薬成分が含まれているのか、少女は既に意識を失っているようだった。
状況を推測するに、先程の女性たちもこの生物が手をくだしたのだろう。
身体はよく見ていなかったため気がつかなかったが、先程の女性たちも思い返せば恍惚の表情を浮かべていた。

「……あ、あの女の子!?」

こちらのほうを向いた顔に美音は覚えがあった。
彼女はつい先日行方不明が報じられたばかりの売れっ子アイドルの少女だったのである。
そういえば、ここ数ヶ月女性の失踪が相次いでいる。
恐らくは先程の女性たちも行方不明にされていた人たちだったのだろう。
よくよく思い返せば幾人かテレビで捜索願が出されている顔があった。
手がかりも見つからず、警察も途方にくれているという怪事件だったが、まさかこんなところに被害者がいようとは。

「木野剛三……裏で、こんなことを…!」

怒りに握り締められた美音の手が震える。
ここが剛三所有の屋敷の中である以上、主人である彼がこのことを知らないはずがない。
となれば、女性たちの失踪は全て彼が関わっているということになる。
彼が主犯なのかはわからないが、一枚噛んでいることは確かだ。

なまじ好感をもっていただけに、裏切られた気分になった美音は激しい怒りで身を焦がす。
だが、その怒気もすぐに沈静化される。
今は怒っている場合ではない。
なんとか、この女性たちを助けなければ。
正義感に突き動かされた怪盗少女は怪生物に囚われている少女を助けるべく近づいていく。
だがその瞬間。
本能なのか、それともセンサーのようなものを備えているのか。
怪生物がくるりと背後、すなわち美音の方向を向いた。

「……っ!」

謎の生物と向き合う形になった美音はごくりと唾を飲んだ。
正面から見るその生物は異様の一言に尽きる。
植物の集合体にしか過ぎないはずなのに、うねうねと蠢くその様は嫌悪感しか引き起こさない。

「シュルルル…」

怪生物は無粋な侵入者を威嚇するように蔓を振り上げ、唸り声を上げた。
だが次の瞬間、その巨体が揺れると同時に数本の緑触手が怪盗少女へと襲い掛かる。

「いきなりなんて、失礼ねっ…!」

美音は軽やかに襲い来る蔓をかわし、接近を窺う。
だが、そうしている間に怪生物は捕らえていた少女をいずこへと連れ去っていく。
瞬間、それに気をとられた怪盗少女の動きが止まる。
そしてそれを見逃さなかった触手が一斉に美音へと襲い掛かった。

「うっ、こ、このっ!」

身を絡めとらんと迫り来る緑の触手の群れを美音は辛うじてかわしていく。
だが、多勢に無勢の上、一時的に動きを止めたことで怪盗少女の周囲は既に包囲されていた。
背後から一本の蔓が伸びてくる。
振り向きざまのハイキックでなんとかそれを撃退する美音、
だが、その瞬間がら空きになってしまった左足がついに緑触手によって捕らえてしまう。

「くっ、は、放してっ!」

引きちぎろうと足を降るが、ギシギシと軋むだけで足を拘束する蔓は千切れる様子を見せない。
そうこうしている間に別の触手たちが美音へ襲い掛かる。
片足を封じられた美音になすすべはなかった。
あっという間に四肢が緑の触手に絡み取られ、怪盗少女の身体は先程の少女と同じく空中に吊り上げられてしまう。

「うっ、く…」

両手は背中の後ろに、足は人の字に開かれた状態で宙に固定される。
四肢が引っ張られる感触に苦痛の色を見せるも、蔓が力を緩める様子はない。
美音はなんとか蔓を引きちぎろうともがくが、先程の少女と同じくそれが千切れる様子はなかった。
しゅるしゅる、と怪生物の胴体から数本の新たな触手が伸びる。
やがて、怪盗少女の身体に到着したそれらは襟元や肩口、そしてスカートの下から服の中へと侵入を開始。
何かを確かめるかのようにもそもそと美音の身体をまさぐっていく。

「あっ…何を……ひゃんっ」

スカートの中に潜り込んでいた一本が下着越しに少女の股間をさする。
その動きに危機感を覚えた美音だったが、触手はすぐにそこから離れた。
同時に、胸のふくらみを確かめるように動いていた上半身の触手もその手を引いていく。
獲物がオスかメスかということを確認したかったのだろう。
その動きに性的な意図は感じられず、美音はほっと息を吐いた。
しかし安心したのも束の間。
蔓たちは獲物の武器を奪うべく動き出す。
煙幕玉、ピッキングツール、暗視ゴーグル、改造銃…
装備していた怪盗の秘密道具が次々に奪われていく。

(…この植物、知能がある? だとしたら、まずい…っ!)

思ったよりも慎重な怪物に美音は焦りを隠せない。
そうこうしているうちに装備していた道具はすっかり奪われ、地面へと捨てられてしまう。
だが、緑の触手たちの動きはそこで終わらなかった。
服から這い出た蔓たちは器用にアクアメロディのコスチュームに絡みつき、脱がし始める。

「いやっ、ちょっと…脱がさないで……あ…っ」

少女の抗議を完全に無視して緑の手が不気味に蠢く。
まず脱がされたのは上着だった。
次いで、スカートが剥ぎ取られ、怪盗少女はあっという間に下着姿にされてしまう。
相手の意思を省みない乱暴な所業だが、その動作は意外にも繊細だった。
まるで果物や野菜の皮を剥くかのように一枚一枚丁寧に服にも美音の身体にも傷をつけないように触手は動く。
しかし動きそのものは上着を脱がすだけでは終わらない。
残る二枚の下着にも蔓が絡みつき、少女の身体からそれらを引き離そうと力を込めてくる。

「や、やめてってばっ。それは取っちゃ駄目!」

動物に言い聞かせるように命令する美音だが、当然相手は言うことを聞かなかった。
ブラジャーのホックが外され、肩から引き抜かれる。
残った最後の一枚も既に太股の辺りまで脱がされ、足の付け根が見え隠れしている有様だ。

せめてパンティだけはと美音は足をバタつかせる。
だが、怪生物は何の意も解さずに少女の両足を折りたたむようにして閉じ合わさせ
脱がしやすい体勢にするとするすると水玉パンティを抜き取っていく。
やがて、足首から美音の最後の砦が抜かれ、少女の裸体を守る物は何もなくなってしまう。

「あっ、待って…持って行っちゃダメッ!」

しゅるしゅるとコスチュームと下着を奪った触手が美音がやってきた方へと伸びていく。
最初に見た場所に戦利品を飾るつもりなのだろう、どことなく怪生物は嬉しそうに身を振るわせる。
だが、美音からすれば身を包んでいた衣装が奪われた挙句に遠くに持ち去られるなど冗談ではなかった。
裸になったことを恥ずかしがる暇もなくなんとか服を取り替えそうと怪盗少女は身をよじる。
暴れる身体に連動して、ぷるぷると元気よく上向きに突き出されたDカップのバストが弾んで揺れる。
しかし拘束が緩むことはなく、美音は大事な部分を全て晒した状態で荒い息を吐くことしかできない。

「シュルル…」

獲物の活きのよさに目を細めた怪生物は完全に相手を丸裸にするべく更なる蔓を伸ばしていく。
裸に剥かれた怪盗少女だが、まだ装飾品は残っているのだ。
行き場のない怒りを代弁するかのように宙を蹴っていた足からブーツとニーソックスが脱がされる。
ぎゅっと握られたままだった手は強引に開かされ、グローブが抜かれていく。

(この生物…全部脱がすつもりなの…!? だとしたら、次は…ッ!)

その可能性に思い当たった刹那、美音の頬を緑の管が掠めた。
それはそのまま上へと伸びると、怪盗アクアメロディの象徴とも言える仮面へと触れる。
いけない、その行動だけは断じて許してはならない。
顔をそらし、首をひねってなんとか触手から逃げようと抵抗する怪盗少女。
しかしその行動は所詮一時しのぎの悪あがきにしか過ぎなかった。
健闘もむなしく、別方向から伸びてきた蔓がサッと仮面を剥ぎ取ってしまう。

「い、いやっ…」

別に見ている人間がいるわけではないが、美音は顔を伏せることで少しでも素顔を隠そうとする。
怪生物は素顔には興味がないのか美音には目もくれずに戦利品の仮面を持ち去っていく。

(いけない…この状態で警備が来たら手も足も出ない。それに、こ、こんなところを見られたら…!)

視界から離れていく仮面を見て、美音はいよいよ追い詰められてしまう。
既にアクアメロディの侵入は伝わっていると見て間違いない。
つまり、今この瞬間にも警備の人員がここになだれ込んでくるかもしれないのだ。
そうなってしまえば、自分は終わりだ。
すっぽんぽんの状態で素顔を晒し、その上拘束されていてはどうしようもない。
後は取り押さえられて警察に突き出される、あるいは男たちの慰みものにされるかの二択しかない。
しかしそんな事態になってしまうことを受け入れられるはずもない美音は
なんとかこの状況からの脱出を図るべく思考を巡らせる。

だが、そんな獲物の努力をあざ笑うかのように怪生物は最後の仕上げへと取り掛かろうとしていた。
ゆっくりと頭頂部の花が首を伸ばして囚われの怪盗少女へと近づいていく。
その動きに美音が気がついたときには既に赤い花びらは目と鼻の先に迫っていた。
花弁が開き、中の口が少女の目に映る。

(いけないっ!)

怪生物の口が開いたのと、美音が口を閉じて息を止めたのは同時だった。
開かれた口から霧ふきのように微粒に細分化された液体が吹き出て、怪盗少女の首から上を覆う。
幸いにもその前に息を止めることに成功していた美音はそれを吸うことはなかった。
やがて数秒が経過するが、少女の身体に変化は起きない。
どうやら、呼吸による体内への摂取でしかその液体は効果を発揮しないらしい。
ひとまず安心と顔をほころばせる怪盗少女。
されど、安心してばかりもいられない。
息を止めていられるのは精々一分が限界だ。
それをすぎれば酸素を吸うために口を開かざるを得ず、当然呼吸の際に霧も一緒に吸い込むことになる。
そうなれば、待っているのはあの少女や女性たちと同じ末路だ。

(どうすれば…このままじゃ、私まで…)

先程の少女のことを思い出す。
顔を身体ごと赤く染め上げ、快感に身を捩じらせて怪生物に哀願するように媚びる姿。
自分も一分後にはああなってしまうというのか。
いい考えが浮かぶ暇もなく時間は刻々とすぎていく。
しかし、一分後を待つつもりはないのか、業を煮やした怪生物が触手たちを怪盗少女の身体へと向かわせる。
腋の下、脇腹、足の裏、それに首筋とくすぐったくなるようなポイントを蔓たちが這い始めた。

(そ、そんなっ…そんなことされたら…くすぐったくて、息が…っ)

先端の繊毛で敏感な部分をくすぐられる感触に少女の身体が激しく震える。
辛うじて息こそ吐き出さないものの、くすぐったさをこらえられずビクビクと裸の身体がのたうってしまう。
突き出されたバストやヒップが狂ったように揺れ踊り、それが美音の限界が近いことを指し示す。
だが、怪生物は容赦なく悶える獲物を追い詰めようとしていた。
くすぐりの速度をあげ、早く陥落しろとばかりに霧を更に吹きかける。

(が、我慢しないと…でも、ああ…ダメ…!)

少女の顔が酸欠によって首筋から真っ赤に染まりはじめる。
もはや限界は目前だった。
くすぐり班から外れ、手持ち無沙汰だった触手の一本が少女の頭へと向かい始める。
美音に残された最後の装飾品である髪留めのリボンを外すつもりのようだ。

(もう、ダメ…)

美音は霞む視界の中、ゆっくりと唇を動かした。






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