恋するキャットシーフ 第5話
シチュエーション


「……」

黙りこくったまま、うろうろとせわしなく歩き回る里緒を見て、一美は溜息を吐く。
危険は確かに大きいが、里緒の、親友の恋を応援しようと心にきめたのだが。

「(ドタキャンして、2人きりのデートにするつもりでしたのに……。
それに、里緒、早く来過ぎですわよ……)」

適当な理由をつけて家にこもって、明日の作戦でも練っておこうと思っていた一美。
しかし、里緒に家に強襲され、引きずり出されてはどうしようもなくて。
しかも、待ち合わせが10時なのに、待ち合わせ場所に着いたのが8時55分。

「(少しくらい女性が遅れるのがベストですのに……)」

……さすがに1時間以上前に来た人間より早く来いとか言う無茶な事は言えず。
これだけ待ちぼうけ状態だと、多分来るんですわよねえ……、と一美が考えていると。

「ねぇ、彼女達!」
「(……ほら来た)」

そう里緒と一美に声がかかり、一美はげんなりとしてそちらを向く。
すると、そこには全身から軽そうなオーラを撒き散らせた、何処からどう見てもナンパ男が2人立っていた。

「そんな風に待ちぼうけしてるくらいならさ、俺達と遊ばねえ?」
「……まだ、待ち合わせ時間にもなっておりませんの。それではごきげんよう」

そう声をかけてきた男に、一美はわざと言葉を噛み合わせずに返す。
一美も里緒もかなりの美人に入る部類なので、こう言う手合いの相手は慣れていた。

「そう言う事なんで、ごめんなさい」
「えー……、いいじゃん、俺達と遊ぼうぜー」

そう言って断る里緒だったが、その男は全く人の話を聞かずに、里緒に手を伸ばす。
一瞬里緒は蹴り飛ばそうかと思うが、ここが往来である事を思い出して慌てて自制する。
そんな里緒の方に、男の右手が触れようとして……、

「……いいってぇぇえぇ!」
「……へ?」

……その瞬間、横合いから伸びて来た手に右手首を極められ、男は悲鳴を上げた。






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