怪盗アクアメロディ外伝『アクアル(後編)』
シチュエーション


プシュンッ。

庭園へ続く自動ドアが開き、三人の男が地を踏みしめた。
男たちは少しの間耳をすまし、何も聞こえてこないのを確認して歩を進める。

「どうやら仕込は終わっているようだな」
「出直す羽目にならなくて良かったぜ、なんせ最中に踏み込めば俺たちまで襲われちまう」
「まあな……お、見てみろ!」

男の一人が怪生物の戦利品置き場の一ヶ所を指さす。
怪生物は見た目に沿わず几帳面な性格らしく、獲物の順番に奪った装飾品を並べる癖がある。
ということは一番手前においてある服が一番新しい獲物から奪った戦利品。
つまり、怪盗アクアメロディから奪った服ということになる。

「間違いないな、警備カメラに映っていたあの女の服だ」
「ってことは噂の女怪盗も今はすっぽんぽんってことか?」
「だろうな、しかも今頃は媚薬を吸ってあんあん喘いでいるだろうぜ」
「おいっ、見ろよ。このブラジャー、カップがDはあるぜ!」
「マジかよ、結構巨乳じゃねえか……でも水玉模様ってのはちょっとお子様くさいな」
「お、このパンツまだ温かい! 脱がしたてか」
「こらこら、遊ぶのは後だ。まずは確保が先だ」

脱がしたてホカホカの下着を手にしてはしゃぐ部下二人は隊長のもっともな言葉にしぶしぶと手に持っていたものを戻していく。
と、一人の部下が下着の横にかけられた仮面を見つけた。

「これって、もしかしてアクアメロディの仮面なんじゃ…?」
「何? む、確かに……今までの女はこんなものを持っていたはずがないしな」
「てことは今奴は素顔ってこと…?」
「だろうな。ふぅむ、これは…」

うむ、と三人の男は頷き合い、足早に歩き出した。
彼らもこのような仕事をしているのだから怪盗アクアメロディの名前くらいは聞き及んでいる。
警察を手玉に取り、未だ誰にも正体を知られていないという美少女怪盗。
だがこの先には、仮面を剥がされた素顔の怪盗がいる。
自分たちが最初にアクアメロディの正体を見ることができるかもしれないという興奮に男たちの足の速度が増す。

「アクアメロディか……一体どんな顔してるんだろうな」
「可愛い系か美人系か、どっちですかね?」
「おいおい、ブスの可能性だってあるんだぞ? おい、お前はどうおも……」

もう一人の部下に意見を聞こうとした隊長の声が止まる。
それを怪訝に思った部下が振り返ると、さっきまでいたはずの同僚の姿がないことに気がつく。

「あれ? アイツどこいったんだ。立ちションか?」
「いや、それなら俺たちに一声かけるはずだ。気をつけろ、何か嫌な予感がする」

突然の仲間の消失に二人は背中合わせになって警戒する。
だが次の瞬間、ゴンッ! という鈍い音が背後から聞こえてくる。
隊長は慌てて振り向くが、部下は既に額に大きなたんこぶをつけて気絶していた。
すぐ傍に小型の鉄球が転がっているところを見るに、これで撃たれたのだろう。

「…これは奴の仕業じゃあない。まさか、あの化け物から…っ!?」
「正解っ♪」

瞬間、背後に生まれた気配に隊長は身体を硬直させた。
振り向く間もなく腕を拘束され、口に布が押し当てられる。
クロロホルムを使っているのだろう、途端に眠気が襲ってきた。
せめて顔を見てやろうと首を後ろに捻る。
だが、既に目は閉じかけていて怪盗少女の素顔を見ることは叶わない。

(…噂以上の腕ってわけか、まさか奴を倒すとは。だが……乳、やっぱりでかいな)

隊長は霞む視界の中、地に伏せる怪植物の姿を見る。
そして彼は背中に押し当てられた胸の感触に鼻を伸ばしつつ、ゆっくりと眠りについていった。

「…ふう。よかった、来たのがたったの三人で」

男たちが全員沈黙したのを確認すると、それをやった犯人――美音はほっと息を吐いた。
そして数分前のことを思い出す。
そう、絶体絶命のピンチだったあの瞬間のことを。



(もう、ダメ…)

酸欠の苦しさにあがらえず、ついに口を開きかける美音。
だが、衣擦れ音と共にほどかれていくリボンの感覚に閃きを覚え、最後の力を振り絞ってぐっと唇を閉じる。
まだ一つだけこの状況を脱出する手段がある…!
リボンがほどけると同時に怪盗少女のポニーテールがとかれ、水無月美音の髪型へと戻っていく。
と同時にリボンが触手に絡み取られ、その下に隠されていた小さなケースが零れ落ちた。
美音は後ろ手でそれを掴むと、素早くケースを外して中身を取り出す。
次の瞬間、ブツッという音と共に両手首を拘束していた蔓が千切れた。

「ギュルッ!?」

思わぬ痛みに怪生物は悲鳴を上げる。
美音はそのまま前のめりに倒れるようにして足を拘束する蔓をも手にしたナイフで切り裂いた。

「…ハァッ!! ハァーッ、ハァーッ……」

拘束から逃れ、美音は思い切り息を吸い込む。
幸いにも霧は上空だけに散布されていたので地面に降りてしまえば吸ってしまうこともない。
新鮮な酸素を取り込んだことで、怪盗少女の身体に活力が戻ってくる。

「シャアアッ!」

が、身体の一部を切り裂かれた怪物は怒り心頭だった。
再び獲物を捕らえるべく複数の触手を襲い掛からせる。
脱出を果たしたとはいえ、美音の手にはナイフが一本だけであり、このままでは再度拘束されてしまうのは間違いない。
そしてそうなってしまえば今度こそ媚薬の虜にされてしまうだろう。
しかし触手が迫り来ようとしていたその瞬間。
美音は地面に落ちていた一つのボールを拾うと思い切りそれを怪生物へと投げつけた。

「シュギッ!? ギ……ギィィィィ!?」

頭頂部の口の中に命中したボールの中からモクモクと煙が立ち昇る。
美音が投げたのは目くらまし用の煙幕玉だった。
植物である怪物にはそれを身体の中に放り込まれるというのはたまらなかったらしい。
狂ったように身を捩じらせて暴れ狂う緑の巨体。
だが、それも数十秒後には終わり、怪生物はグッタリと地面に倒れ伏していく。



(本当、ギリギリ…危なかった…)

怪生物が沈黙したのを確認した美音は服を取り返すべく道を戻っている最中であり
ちょうどそこに現れたのがこの男たちだったのだ。
先に気がつくことができたため、待ち伏せという形で撃退できたが…
もしも相手が先に気がついていたら。
もっと大勢でこられていたら。
もっと早く踏み込まれ、拘束されている状態に居合わされたら。
そう思うと手放しに喜べる結果ではなかった。
一糸纏わぬという表現がピッタリな素っ裸の状態で三人の男を気絶させる女の子。
そのシュールな図も少女をへこませる一端ではあったのだが。

「あっ、いけないっ。早く着替えないと…」

自分の衣装を見つけた美音はすぐさま着替えを開始する。
追加の人員が送られてくるかもしれないし、まだあの生物のような存在がいるかもしれない。
そうなるとこの庭園に留まっているのは危険だ。
怪盗少女は最後に上着のボタンを閉めると、慌しく庭園のドアを潜っていった。

ギィィィ…

屋敷の主である男が身を置く部屋の扉がゆっくりと開かれる。
木野剛三は唐突な来客の存在に焦ることなくゆったりと椅子ごと振り向いた。

「ようこそ、怪盗のお嬢さん。その様子だとどうやら奴や警備の者はやられてしまったようだね」
「ええ、今頃は良い夢を見ていると思うわ。木野剛三、貴方もすぐにそうなるけれど」

怪盗少女は嫌悪の眼差しで初老の老人を見つめる。
風呂上りだったのか、剛三は腰にタオル一枚という格好でソファーに座っていた。
後ろには無数のコードが伸びている。
ソファーから伸びた機械の手が彼の身体をマッサージしたり水滴を拭き取ったりしているのを見るに、コードはそれらに繋がっているのだろう。

「こんな格好ですまないね。どうもワシはものぐさでな、こうして機械に頼らねば生活できんのだよ」
「……思ったより、だらしのない人だったのね」
「これは手厳しいことをいうお嬢さんだ。ふむ、そんなにあの子は気に入らなかったかね」
「あんな悪趣味な植物…! 大体一体何のつもりなの!? 女の人たちを攫って、あんな化け物に襲わせて…!」

女性たちの惨状と自分の受けた屈辱に身を振るわせる怪盗少女。
だが、暖簾に腕押しとばかりに剛三はその怒気を受け流す。

「ワシは選ばれた存在なのだよ。知っての通り、ワシは植物学の権威だ。今まで幾つもの新種を生み出し
 あるいは品種改良を行ってきた。だがね、ある日気がついたのだよ。ワシのやっていることはいわば生命を生み出すということだ。
 それはある意味で神の所業だ。つまり、ワシは神と同格ということだ」
「…悪いけれど、ただの妄想にしか聞こえないわ」
「ホッホッ。まあ理解してもらおうとは思っておらんよ。とにかくだ、ワシは思った。
 神と同格の優秀な遺伝子を世に残さねばと。だが既にワシもこんな歳でな、子種をやるといっても大概の女は承諾せん」
「だから、女の人を攫ったと? 自分の子供を生ませるために…!」
「その通りだ。とはいえ、ワシの遺伝子をくれてやるのだからそこらの凡婦ではいかん。
 やはり優秀な男には優秀な女が必要だからの。故にワシは選別するために女を集めた」
「なんて…ことを!」
「だが、世に評判の美人や才女といっても一皮剥けば浅ましい本性のメスばかりでの。
 少々ガッカリしておったのだよ。まあ、今では彼女たちはワシのコレクションだな」
「勝手なことを。あの女の人たちは貴方の玩具じゃあないっ!」
「手荒い真似はしておらぬ。いずれ時が来れば解放するつもりだ。勿論、その時に社会復帰が可能なのかは知らんがな…ククク」

たるんだ腹をゆさゆさと揺らしながら笑う剛三の表情は既に人のよさそうな老人のものではなかった。
欲を丸出しにした醜い、ただの人間だった。

「その点、君はここまでは合格だよ怪盗アクアメロディ。まさか私が手塩にかけて育てたあの子を倒すとは思わなかった」
「あいにくだけれど…貴方のような様な人は、タイプじゃないのっ!」

問答はここまでだとばかりに美音は懐から銃を引き抜き即座に発砲する。
美音の父親が作ったその改造銃は弾丸ではなく小型の鉄球が打ち出される仕組みだ。
本物の拳銃に比べ、殺傷性も速度も劣るがまともにヒットすれば当然ただではすまない。

「いきなりとは、乱暴だな」
「えっ…」

着弾を確認した美音は自分の目を疑った。
確かに鉄球は老人の身体にめり込むようにして命中している。
にもかかわらず剛三は痛みを覚えている様子はない。
めり込んでいたはずの鉄球が身体から押されるようにしてぶよんっと弾き出される。

「くっ!」
「無駄だよ」

鳩尾、すね、腕と次々に鉄球を打ち込んでいくが剛三はソファーに身を沈めたまま微動だにしない。
バリアか何かといぶかしむも、確かに肉にめり込んでいるのは確かなのだからそれはありえない。
残る可能性は肉体改造くらいだが、この男の性格上それをするとは思えない。
ならば残る可能性は…

(まさか、アクアルが…?)

水のエレメントジュエル、アクアル。
かの宝石ならばあるいはこの馬鹿げた防御力もありえるのかもしれない。
だが、それが事実ならば剛三は既に魔力を引き出しているということだ。
だとすればもはや一刻の猶予もない。
美音は一気にダッシュで加速をつけると軽く跳躍して剛三に肉薄。
渾身の力で爪先を顔面に蹴りこんだ。

(これなら……っ!?)

だが、そのトゥーキックすらも老人の身体に苦痛を与えるには足りなかった。
老人の身体からの反発作用が一気に襲い掛かり、怪盗少女は床へと跳ね飛ばされてしまう。

「やれやれ、だから無駄だといったのに……まあ、ワシには眼福だがね」
「え……あっ!」

剛三の指摘に視線を下に向けた美音は慌ててスカートの裾を引き下げる。
不安定な状態での着地のショックで少女は大股開きになっていたのだ。
当然、短いスカートの中身は全開で老人の目に晒されていた。

「水玉模様とは可愛らしいが、いささか子供っぽくはないかね?」
「あ、貴方には関係ないでしょう!?」
「ホホホ…まあいい。肝心なのは中身だしの」

服の中を見透かすが如く、舐めるような視線を向けてくる剛三に美音の身体が嫌悪に震える。

しかしその瞬間、美音の目にキラリと光る宝石が目に映る。
剛三の胸元から覗く青い石、それは紛れもなく捜し求めていたアクアルだった。

(この魔力…間違いない、本物!)
「うん、どうしたのかね? ああ、なるほど。お嬢さんはこれを盗みに来たんだったね」
「それを、渡してもらうわ…!」
「ホッホッホ、悪いがこれは誰にも譲る気はないよ。この宝石を手に入れてからのワシの人生は順風満帆だ。
 思いもかけず手に入れた代物だが…まさに幸運のアイテムだよ」

少女の視線に気がついた剛三は自慢するようにアクアルを撫でさする。
宝石の中心では鈍い光が灯っており、魔力が発動していることを示している。
だが、光の大きさと剛三の発言からして本人が意図して魔力を引き出しているわけではないようだ。
となれば、宝石の本当の力に気づかれる前にケリをつけなければならない。

(だけどどうやって…ううん、あの肉体がアクアルによるものなら…!)

確かに剛三の肉体は脅威だが、動きの速さそのものは美音の足元にも及ばない。
アクアルさえ奪えばただの人間に戻るはず。
怪盗少女はやることが決まったとばかりに後方へと一旦下がると、再び加速をつけて剛三へと迫っていく。

「やれやれ、懲りないお嬢さんだ…」

それを見て老人は呆れたような溜息をつく。
だがそれこそが美音の狙いだった。
完全に自分の肉体を過信して油断している老人からジュエルを奪うなど怪盗少女にとってはたやすい仕事だ。
一度フェイントを入れて顔面に意識を向けた美音は腕を折って老人の胸元へと手を突っ込む。
しかし――

「もらっ……え!?」
「ホホ…なるほどなるほど。狙いは宝石のほうだったか、だが残念…」

アクアルは剛三の肌に張り付くように固定され、ピクリとも動く様子を見せない。
そして、少女の手がずぶずぶと老人の身体の中へと埋まっていく。
慌てて引き抜こうと力を込めるが、まるで老人の肉体に食べられてしまったかのように右手は抜けてくれない。

「ほれ、捕まえたぞ」
「あぅっ…」

動揺している隙に怪盗少女の身体は剛三の手によって引き寄せられる。
刹那、ようやく右手が抜けるが既に時は遅し。
アクアルを奪うことすら叶わなかった美音は剛三の膝の上にまたがるような格好で捕らえられてしまう。

(くっ、離れないと……え、か、身体が…!?)

醜悪な老人と密着する嫌悪感に美音は脱出を図るべく身体に力を込める。
だが、少女の身体はまるで接着剤で貼り付けられたかのように老人の身体から離れない。

「驚いたかね? 最近ワシの身体には三つの特殊な力が備わってな。
 一つは先程見せた衝撃を寄せ付けないゴムのような身体だ。これによってあらゆる攻撃はワシには効かない。
 そして二つ目。それは触れたものを放さない吸着の肌なのだよ」
「……ッ!」

怪盗少女は自慢気に語る老人の目を睨み付けた。
足の間に老人の身体が位置しているため、足を閉じられない美音は開脚の継続を余儀なくされる。
客観的に見て、俗に言う駅弁の体位をとらされている状況だ。
性知識に聡くない美音は体位という単語すら知らない。
だが、自分が取らされているポーズが恥ずかしいものだということは性的な知識がなくても理解できる。
羞恥心に頬を赤らめ、怪盗少女は懸命にもがく。

「無駄無駄。諦めたほうが利口だよお嬢さん…だがまあ元気なほうが仕込み甲斐もあるというもの」
「仕込みって……何を、言ってっ」
「あの子ができなかったようだからね。こうなればワシが直々に仕込むしかないだろう?」

顔に迫ってくる老人の唇に美音は首を反らして対抗する。
だが、老人の狙いは怪盗少女の顔ではなく、反らされたことで大きく開いた首筋だった。
ブチュゥゥ…
ヒルが獲物に吸い付くように、不快な音を立ててシミ一つない乙女の白い首肌に老人の唇が吸い付いていく。

「や、やめっ…うくっ!」

たまらぬ不快感に美音はぶんぶんとかぶりを振る。
吸い付いた唇は頑として離れず、皮膚の水分を全て吸収するかのように強い吸引を繰り返す。
ちゅぽんっ
数秒後、ようやく放された首筋は吸引によって真っ赤に腫れ上がっていた。
痛みに顔をしかめる美音。
だが、不思議なことに痛み以外の感覚が首筋で生まれていた。
吸われた部分が熱を持ち、じくじくと疼いていく。

「え…あ…?」
「ふう、素晴らしい肌のハリと滑らかさだ。おや、その感覚が不思議かね? では、もっとそれを味あわせてあげよう」
「あっ…ちょっと…っ」

自身に生まれた感覚に戸惑う怪盗少女。
その隙をつかれ、たわわに実ったバストを両手で掴まれてしまう。
力を込めている様子すらないのに老人の手はベッタリと胸に張り付いたまま剥がれようとはしない。
むぐっと汗ばんだ両手がコスチューム越しに豊満な双子山へと沈み込んでいく。
揉まれる――そう感じた美音はビクリと身体を硬直させる。
しかし老人の指が動く様子はなかった。
思わぬ展開にきょとんとする美音。
だが、剛三の第三の能力は既に進行を始めていた。

(え…汗? 違う、これは一体……?)

老人の手のひらからじんわりと液体が滲み出してくるのを美音は感じた。
それはコスチュームに染み込み、やがてブラジャーを通って直接肌へと触れる。
どくん。
液体が触れた肌が熱を持ち、その奥の心臓が鼓動を早め始める。
それは先程首筋に感じた感覚と同じだった。

「……はぁっ…んっ」

あまりの熱さに思わず美音は吐息を漏らす。
それはとても色っぽく、客観的には男を誘っているような仕草だった。
老人は怪盗少女の変化に目を細めると、ニヤリと口元を吊り上げる。

「どうしたのかね? 随分とおとなしくなったようだが」
「だ、誰がっ…はぁ、ふぅ…」

強気を保とうとするも、胸からこみ上げてくる切なさのような感覚に美音は翻弄される。
だが、胸の頂点までが疼き出すとそうも言っていられなくなる。
桜色の乳首がブラジャーを押し上げるようにムクムクと成長をはじめ、硬化をはじめたのだ。

(ぁ…な、なんで…っ?)

肌が熱くなるのはともかく、乳首まで勃起を始めてはさしもの怪盗少女も冷静ではいられなくなる。
刺激を与えられてもいないのに性感反応を見せるなどありえない話だ。
だが、現実に少女のつぼみはどんどん大きさを増し、やがて完全にピンッと硬化してしまう。

「う、嘘…」
「ほほう? どうやらその様子だと乳のほうは大変なことになってるようだね?」
「ち、違う! それよりも、私に一体何をしたの!?」
「ホッホッホ、これがワシの三つ目の能力だよ。ワシの身体から分泌された液には催淫作用があっての。
 あの子のそれとは違い、これは相手の肌に触れるだけで効果を発揮する」
「な…そ、そんなっ」
「効果は…まあ、身にしみてわかっただろう? さあ、話はここまでだ。
 たっぷりとお嬢さんの身体にワシの味を仕込んでやろう。
 何、心配することはない、すぐに気持ちよくなって何も考えられなくなる」
「そんなこと、あるはずがない…」
「ホホホ、今までの女も皆同じことを言っておったよ。だが例外なく彼女たちは最後にはワシに屈した。
 君はどこまで耐えられるかな、怪盗アクアメロディ?」

言葉を切ると同時に、剛三の身体全体からぬるぬると汗のような液があふれ出し、蒸気となって美音に襲い掛かる。
だが、逃れようと暴れても密着状態で肌と肌がくっついている状態ではどうしようもなかった。
二の腕や太股といった肌が露出している部分を中心に液が纏わりついていくのを防げない。

(あ、熱い…っ)

胸が、首筋が、露出した肌全てが火に炙られているかのようにかっかと熱を持つ。
だがそれは排気口の中にいたときのような苦痛の感覚ではない。
熱の裏にくすぶる不思議な感覚――快感が怪盗少女を苛んでいく。

「はぁ…はぁ……ひっ!?」

ビクンッ!

荒く息を吐きながら顔を俯かせた美音の口から悲鳴がこぼれた。
未だ液の影響を受けずにいた一番大切な部分に接触する何かを知覚してしまったのだ。
それはアクアメロディのミニスカートの前面をこんもりと押し上げ、乙女の秘所に密着している。
ビクビクと時折震え、その温度は火箸のように熱い。
美音の頬が一気に赤く染まっていく。
いかにウブな少女とて、自分に押し付けられているこれがなんなのかは知っている。
男の、勃起した性器だ。

「や、やだぁっ!!」

下着越しとはいえ、男根が接触しているという事実は少女を恐慌に陥らせるには十分なショックだった。
淫液によってグッタリし始めていた身体が再び活力を取り戻す。
嫌悪感と貞操心に突き動かされ、美音は自由な両手を振り回し下半身を離そうともがき動く。
だが、男根とて剛三の一部には違いがなく、怒張はピッタリと張り付いたまま怪盗少女の股間から離れようとはしない。
むしろ、激しく動くことによって股間と太股でマッサージをするような、いわゆる素股の状態にすらなってしまう。

「ホッホッホ、こりゃあいかん。思わず射精してしまいそうだ」
「うぅっ…こんなの、嫌ぁ…っ」
「おや、もう終わりかね? ならばこちらから行くぞ?」
「…はぅんっ……ああっ!?」

くちゅっ
パンティに触れる水分の感触に美音は目を見開く。
精液ではない液体が男根から滲み出るようにして少女の下着へと移動する。
そして、乙女の秘所を守る小さな布に染み込んだ液はその奥に隠されている部分へと侵攻を始めた。

「あぁっ…」

美音の口から悲壮な声がこぼれる。
今股間を浸しつつあるのは間違いなく先程から自分を苦しめている淫液だ。
だが、既に全体に淫液が染み込んでパンティは防壁の意味を成していない。
このままでは他の部分と同じように、いや、この部分だからこそ恥ずかしい反応をしてしまうようになるだろう。
そうなってしまえば自分の身体が淫液に屈服するのも時間の問題だ。

しかし攻撃の効かない剛三に捕まえられている状態で一体何ができるというのか。
先程から自由になっている両手はひたすら老人の身体を打っている。
だが、平手で叩こうが拳を握って殴ろうがゴムのような身体にダメージを与えることはできない。
その気になれば両手も封じることは可能だろうに、わざとそれをしないあたりが老人のいやらしさを感じさせる。
気のせいか、徐々におなかの奥にうずうずと熱を帯びるような感覚が生まれてくる。

「ほれ、ほれ」
「あっく、うぁ…っ」

更に淫液を含ませようというのか、男根が少女の股間に激しくこすり付けられる。
下着を突き破らんばかりの勢いに美音はたまらず背をのけぞらせ、おとがいを跳ね上げてしまう。
ぐちゅ…ぐちゅっ…
やがて液にまみれた男根とパンティの間で淫らな音が発せられ始めた。

「ほれ、聞こえるかねこの音が?」
「い、いやっ…放しなさいっ! 放してっ」
「ほう、まだそんな口がきけるのか。だが身体は正直なようだの。この音…お嬢さんの蜜も混じっておるのではないか?」
「…っ、そ、そんなことないっ! く、ぅぁっ…」

老人の揶揄に気丈に反論する美音。
だが、淫液に浸された股間はもはや言い訳のしようがないほどに熱を帯びてしまっている。
それ故に、怪盗少女は本当に自分がえっちな蜜を漏らしていないか不安になってしまう。
パンティの水玉模様は液にぬれて濃い水玉になってしまい、今では淫らな演出の一部にまで成り下がっている。
淫液に犯されているのだから仕方がない、そう思えれば楽になるだろう。
しかし美音は怪盗アクアメロディとして最後まであきらめるわけには行かなかった。
萎えかける身体と意思を奮い起こし、周囲を見回す。

(何か、何か使えるものは…っ)
「ククッ、若い娘の肌はたまらんのぉ。それにその快楽を健気に耐える表情…いいぞ、実に君はいいぞ!」

老人は今夜の獲物に大変満足していた。
ハリのある肌も、整った容姿も、喘ぎ出る声も、鼻腔をくすぐる甘い匂いも、どれをとっても極上品だ。
この女ならば子供を生ませるのも悪くない。
そう思いながら剛三は腰の動きを早め、更に淫液を分泌していく。
未だに耐える精神力は見事だが、眉間によった皺は徐々に緩み始め、目元もとろんと垂れ下がりかけている。
無意識の行動だろうが、胸はもっと触ってくれとばかりに突き出され、快楽の喜びにふるふると揺れ老人の目を楽しませる。
怪盗少女の陥落は目前だった。
しかしその刹那、剛三の後頭部に焼けるような灼熱の痛みが襲い掛かる。

「グ、グァァッ!?」

あまりの痛みに剛三はたまらずソファーから転げ落ちてしまう。
同時に、能力の効果が止まり美音の身体は自由になって老人の身体から離れていく。

(効いた…!)

心中でガッツポーズを取りながら美音は床から立ち上がる。
怪盗少女の手には一本のコードがあった。
ソファーのマッサージ機に繋がっていたそれはナイフによって切られ、切断口を放電させながらバチバチと唸っている。
確かにジュエルの魔力によるゴムのような肉体への強化は驚異的だ。
だが、所詮ベースが人間の身体である以上ゴムとは違い感電までは防げない。
賭けの要素も含んだ攻撃だったが、結果は美音へと微笑んだのである。

「き、貴様ァァァ!」

顔を歪ませた老人が丁寧語を捨てて憤怒の表情を作り、突進してくる。
服に染み込んだ淫液が粘ついて気持ち悪いが贅沢を言っている場合ではない。
美音は素早くそれをかわすと、ソファー裏のコードを全て切り裂いて一つに束ねていく。

「ウォォォーッ!」
「これでも…くらいなさいっ!」

咆哮して再度突進してくる剛三の身体に美音は束ねたコードの切断面を接触させる。
即席のスタンガンだが、威力は十分。
老人は声を上げる間もなく身体を焦げ付かせながらのけぞり、そして仰向けにバタンと倒れた。
美音は浅い呼吸を繰り返しながら老人の胸元へと慎重に手を伸ばす。
所有者が気を失ったためか、アクアルは先程とは違いあっさりと怪盗の手に渡った。

「アクアル、ゲット…これで、エレメントジュエル…三つ目っ!」

苦難の末、ようやく手に入れた宝石は怪盗少女の手の上で青く光り輝く。
と、その瞬間美音の股間から太股にかけて一筋の液体がトロリと滑り落ちた。

「あ……」

ポッ、と美音の頬が染まる。
嬉しさに忘れていたが、今のアクアメロディの見た目はかなり凄いことになっているのだ。
水分を多分に含んでベッタリと肌に張り付いたコスチューム。
そして白い肌に満遍なく張り付いた透明な粘着質な液体。
身体の火照りは徐々におさまってはきているものの
汚水の海から出てきたようなその格好はとても巷でアイドル扱いされている美少女怪盗のものではない。
早くお風呂に入りたいとばかりに美音は足早にその場を去っていく。
残るジュエルは三つ。
怪盗少女は未だ続く苦難の道を思いながら、それでも力強く地面を踏むのだった。


エピローグ

なお、気絶した木野剛三はこの後強行突入してきた警察によってその悪行が判明し、逮捕されることとなる。
勿論囚われていた女性たちは解放され、医療施設に送られた。
しかし庭園にいたあの怪生物だけは懸命な捜索にも見つからず、行方不明となる。

その数日後から、一人歩きの女性が夜の道で裸に剥かれる事件が多発するのだが…それは余談である。






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