恋するキャットシーフ 第7話
シチュエーション


「えいっ!……やあっ!」
「がはぁっ!?」

襲いかかってくる警備員をスタンガンで気絶させながら、里緒は廊下を駆け抜ける。
その早さは、高校生の女子の物とは到底思えなくて。

「一美に、感謝だ、ねっ!」

そう叫んで、また警備員を気絶させた里緒が身につけているのは、ぴったりとした全身タイツ。
その全身タイツに、里緒のこの早さの秘密があって。
タイツ自体は競泳用水着と同じく、抵抗を減らす役割を持っている。
真の秘密は、脚部を覆うタイツの内側にあって。
電気刺激を送る事によって、筋肉を通常では考えられない程の、かと言って負担が過剰になりすぎて壊れない程度の力で動かす。
中学校時代に陸上で全中に出場経験のある里緒の脚力と合わされば、かなりの高速移動が可能で。

「はっ!」

そう叫んで、里緒はまた1人警備員をスタンガンで沈める。
その隙を突くように、もう1人警備員が回り込んできて……、

「っ!」
「ぐはっ!」

……その瞬間、里緒が突き出した右手から飛び出した何かが直撃し、警備員はもんどり打って倒れた。

「これ使うのも久し振りだけど……っ!」

そう言って、里緒は警備員にぶつかった太目のチョークのような物を拾い上げ、一振りする。
すると、そのチョークは一気に伸び、1m前後の長さのロッドに変わった。

「このアマ……!」
「ていっ!」

身体を起こしかけた警備員にそのロッドを叩きつけて沈黙させると、里緒はまた走り出した。
その進路を塞ぐように、また新たな警備員が襲いかかるが、

「はぁっ!」

スピードと体重が存分に乗ったロッドの一撃を食らい、気絶した。

「このっ!」

また警備員をロッドで仕留めるが、そう離れていない所から、また何人かが走って来る気配がして。

「キリがないよー……」

もうすでに20人以上の警備員を沈めているのだが、倒しても倒しても警備員は現れて。
一度に来るのが2人か3人だからまだ助かっているが、体力的にそろそろキツくなってきていて。

「ふっ!……はあっ!」

襲いかかって来た警備員を1人はロッドで、もう1人はスタンガンで葬って、里緒は角を曲がり、

「っ!誰……!」

一気にドアの前に立っていた警備員の懐に飛び込み、スタンガンで沈めた。
しかし、

「電池切れ、だね……」

スタンガンの電池が切れていた。
スタンガン本体が鳩尾に入ったお陰でその警備員は気絶してくれたが、もう使えなくて。

「しょうがないな……」

里緒はスタンガンをバックパックに入れ、ロッドを右手に構えると、部屋の中に入った。
さっき警備員が立っていたドアから、『暁の羽』が安置されている部屋に……。

「やあ、よく来たね」

ドアを開けて中に入ると、部屋の中央にある椅子に座っていた男が顔を上げる。
その男―中村―の首に掛けられているネックレスは、

「『暁の羽』……!?」
「ああ。肌身離さず身に付けて、ずっと手で握っておく。これ以上安全な保管方法は無いからね」

そう言うと、中村は何を思ったのか、里緒をじろじろ見詰める。
そして、悔しそうに口を開いた。

「やれやれ……、あの少年に引き渡すと約束するんじゃなかったな。
顔は分からないが、その身体……、調教しがいがありそうなんだが……」

真顔でそう言う中村に、里緒はぞわぞわと鳥肌を立て、叫んだ。

「冗談!そんなの受ける趣味なんかないわよ!」
「そうか、残念だね……」

と、本気で残念そうに言う中村に、里緒はもう一度鳥肌を立て……、叫んだ。

「とにかく!あなたの首にかかってる『暁の羽』私がいただくわ!」

そう叫んだ里緒に肩をすくめて、中村は立ち上がる。
そして椅子に立てかけてあった細身の剣を掴んだ。

「これは中世の騎士剣でね……、古い物だが、切れ味は本物だ」
「……で、それがどうしたの?」

いきなり剣の説明を始めた中村に、油断なくロッドを構えた里緒が聞く。
と、中村はそれに対して笑って、答えた。

「何、簡単な事さ。『取りたければ勝って取れ』……。そう言う事だ」

そう言って、中村は鞘から剣を抜き、構える。
そんな中村を見て、里緒はにっこりと笑い……、

「それじゃあ……、遠慮無く♪」

そう言うが早いか、神速で中村に切りかかった。

……そして、響いたのは甲高い金属音。
仮面越しにでも分かる程里緒は表情を驚愕に染め上げる。
そんな里緒を見て、中村はそのまま力で押し切ろうとして……、
里緒は慌てて後ろに飛んで距離を取った。

「どうかしたのかい?私が君の動きに付いて来ている事が、そんなに不思議かい?」

そう言って来る中村に、ロッドを構えたまま里緒は思わず頷く。
それを見て、中村は楽しそうに笑って、口を開いた。

「確かに君は速いよ。多分踏み込みの速さだけならば、剣道の有段者を越えているだろうね。
……だが、こう見えても私はフェンシングの腕には少しばかり自信があってね。
守りに徹すれば、充分に受け止められる速さなんだよ、君の速さは。
後は、力はこっちが上なんだから押し切ればいいだけの話さ」

そう笑みを浮かべて言う中村に、里緒は思わず歯を食い縛る。
と、

「「!?」」

突然警報とおぼしきブザーが鳴り響き、2人とも顔色を変えた。

「こ、この音……!あの小屋に誰か侵入したのか!?」

そう、今までの余裕が嘘のように慌てふためく中村。
それを見て、里緒はくすくすと笑うと、口を開いた。

「よくは分からないけれど、あなたは年貢の納め時のようね♪」
「……貴様……!」

里緒の言葉に、中村は里緒を壮絶な目付きで睨み付ける。
その視線を簡単に受け流して、里緒はさらに中村をおちょくるように続けた。

「私は、『暁の羽』を持って逃げる。あなたは、無一文で捕まる。
……何だ。ベストの展開じゃない♪」
「貴様、キサマキサマキサマキサマーッ!!」

そう里緒が言うと、中村は完全に冷静さを失い、突撃して来る。
それを見て、里緒は勝利の微笑みを浮かべた。

「(守りに徹すれば止められるって事は、攻撃しながらじゃ止められないって事!)」

そう考えて、里緒も突っ込んで来る中村に突貫した。






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