恋するキャットシーフ 第13話
シチュエーション


「涼人!大丈夫か!?」

そう叫んで飛び込んで来た大山に、涼人は振り向いて、微笑む。

「平気です。それよりも、こいつらの確保を」

そう言って高橋達の方を顎でしゃくると、腕の中に抱えていた里緒を見下ろした。

「それと、里緒さんを警察病院に」

そう涼人が言うと、諦めたように俯いていた高橋が顔を上げる。
そして、校長室中に響き渡るように、叫んだ。

「警察病院じゃなくて警察の間違いだろう!その女は『レインボーキャット』なんだからな!」
「な……!」

その高橋の叫びに、大山を始めとする警察官全員の視線が里緒に集中する。
その隙を突いて、高橋は跳ね起きると走り出し……、

「往生際が……悪いっ!」

そう叫んで涼人が里緒を抱えたまま蹴り飛ばしたマシンガンが直撃し、ぶっ倒れた。

「ほら、確保!」

そう涼人が叫ぶと、警官達は倒れた高橋を慌てて押さえ付ける。
しかし、大山だけは、じっと里緒の事を見詰めていて。

「……おい、涼人。今の言葉……」

そう言った大山に、目を覚ましていた里緒は身体を固くする。
しかし、涼人が大山に返した答えに、里緒は目を丸くした。

「……ああ、今の高橋の戯言ですか?……見ての通りじゃないですか。
ただ単に自分が逃げ出す隙を作るためだけのでっち上げにすぎません。
この人は『レインボーキャット』でも何でも無い、ただの女子高生、夏目里緒。
それ以上でも、それ以下でもありませんよ」

「ふ、ふざけるな!確かにこいつは『レインボーキャット』だ!」

その涼人の言葉を聞いて、高橋は警官の下敷きになったままそう叫ぶ。
しかし、そこに返って来たのは涼人の冷たい笑みで。

「……今のあなたの言葉に、説得力があるとでも?」

そう言われ、高橋は言葉に詰まる。
叫んだ言葉は本当だったとは言え、逃げるための隙を作るための叫びだった事は間違い無かったから。

「……一応言っておきますが、たとえ里緒さんが『レインボーキャット』だったとしても、まず行くべきなのは警察病院です。
あなたがたにかけられた媚薬を落とす必要がありますのでね。
……ああ、20人分でしたっけ?それだけの量かけられたのなら、何か悪影響が出てないかの検査もいりますね」

そう言われて、高橋は更に押し黙る。
そんな高橋を見て、涼人は溜息を吐き、言った。

「……第一、あなた『レインボーキャット』見た事無いでしょう?
今までの建物の警備員は全て『組織』の一員かどうかのチェックを入れてますし、監視カメラの映像も全て回収してます。
中村に面会した男がいると言う事でしたから、そこから傷の事を聞いたのでしょうが……、
この国中に左肩負傷してる女性なんて五万といるはずですよ」

そこまで言い切られて、それでも高橋は口を開こうとする。
しかし、涼人は興味を失ったように視線を逸らせて。

「ほら、早く連れて行って。これ以上は被害者の精神衛生上良くないから」
「……そうだな。連れて行け」

涼人の言葉に賛同するように大山が言うと、押さえていた警官達は頷き合い、高橋を立たせる。

「ま、待て!私は本当の事を言っているんだ!」

そう、連れて行かれながらも高橋はわめくが、警官達はやかましそうに顔を顰めるだけで。
5人の部下と一緒に高橋が連れて行かれると、大山は涼人の方を向いた。

「小原が今救急車を呼んでいる。
涼人は救急車が来るまで里緒……だったな、その子を慰めておけ。
……俺は、涼人の判断が正しい。そう、確信している」

そう言って、大山も校長室から出て行った。

「……大山のおじさんには、バレてたのかな……?」

2人きりになって、そう苦笑しながら言う涼人。
と、それまで俯いたままだった里緒が、ぼそり、と呟いた。

「……どうして?」
「え?」
「どうして私をかばったの!?本当に私が『キ』……!?」

そのまま顔を上げて叫ぼうとした里緒。
しかし、その唇を涼人が塞ぐと、里緒は目を白黒させた。

「……な、な、な……!」

……唇が離れると、里緒は真っ赤になって口をぱくぱくさせる。
そんな里緒を、涼人はぎゅっと抱き締め、口を開いた。

「……これが理由、じゃ、駄目?」
「え、あ……」

そう囁かれ、里緒はさらに赤くなる。
それを見て、涼人は微笑むと、続けた。

「……いろいろ、もっともらしい理由は付けられるよ。
『同じ志を持っていたから』とか、『悪の方法を取っただけで、本当は悪人じゃないから』とか。
……でもね、ただ1つだよ、僕が本心から、理由だって言えるのは。
……『里緒さんが好きだから』……、これだけしか、ないんだ」

そう言われ、里緒はさらに真っ赤になり……、
……涼人の胸に顔を埋めた。

「ばか、ばか!涼人君の大ばか!」
「あはは、そうかもね」
「でも、そんな涼人君が好きな私はもっとばか!」
「え?」

そう言うと、里緒は顔を上げ、涼人に口付けて……、

「里緒!大丈夫です……の……?」
「涼人君、救急車……が……」

……その瞬間、一美と小原が校長室に飛び込んで来た。

「「―――っ!?」」

それに気付いて、涼人と里緒はぱっと離れるが、時既に遅し。

「あらあら、私はお邪魔虫のようですわねえ……♪」
「……外に救急車は待たせておくから、ちゃんと涼人君が連れて行くんだよ♪」

そう、にやにやとした笑みを浮かべて一美と小原は言うと、そのまま退散した。

「か、かかっ、一美ぃっ!?」
「ちょっ、小原さん!?」

真っ赤になって里緒と涼人が叫ぶが、もう既に一美と小原は逃げ出した後で。
残された2人は真っ赤になったまま頭を抱えた。

「一美の事だから、絶対クラス中に言いふらしちゃうよ……」
「小原さんも、こう言うのは話すタイプだしなぁ……」

そのまま2人はしばらくうんうんうなっていたが、急に涼人が顔を上げる。

「きゃっ!?」

……そのまま横抱きに抱き上げられ、里緒は真っ赤になった。

「り、りり、涼人君!?」

そう里緒は叫ぶが、涼人の目は完全に座っていて。

「……こうなったら、一美さんと小原さんが砂糖吐くぐらい、いちゃつきましょうよ!」
「ちょっ、涼人君?涼人くーん!?」

そう言って里緒を抱えたまま歩き出した涼人に、里緒は真っ赤になった。






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