恋するキャットシーフ 第14話
シチュエーション


「……『組織』の公表、『レインボーキャット』の被害にあった盗難品が全て博物館に寄付……」
「そして、捜査本部から『レインボーキャット』の目的公表、か……。
この1週間は、『レインボーキャット』で報道が埋め尽くされましたね……」

そう呟き合う大山と小原。
すると、それを見ていた東川が2人に声を掛けた。

「……そう言えば……、高原君は何処に行った?」
「ああ、涼人なら、高校の文化祭ですよ」
「コスプレ喫茶、でしたっけ?それやるって言ってましたよ」

そう大山と小原に返され、東川は考え込む。
そして、にやりと笑って、口を開いた。

「……そうか。それじゃあ……行ってみるか!その文化祭に」

そう言われ、大山と小原は顔を見合わせ……、
にやり、と互いに笑みを浮かべた。

「……行くか」
「……行きますか」

そう言って、3人は席を立った。


……今日は、高校の文化祭の日。
……そして、対レインボーキャット対策本部の解散の日。
そして、それが意味する事は、涼人が日本にいる目的が消えたと言う事で。

「東川本部長。フランスから電報が……?」

やって来た事務員が、東川がいない事に首を傾げながら机の上に置いた電報。
そこには、フランス語でこう書かれていた。


高原涼人を、ICPOに返してくれと……。

「い、いらっしゃいませ、ご主人様……。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください……」

そう真っ赤になって言うと、そそくさと逃げ出した里緒。
それを見て、一美ははあ、と溜息を吐くと、里緒に対して口を開いた。

「……里緒……、もう少し何とかなりませんこと?あれと比べると露出は無いに等しいでしょう?」
「そ、それでも恥ずかしいよ……」

そう言う里緒が来ているのは、レインボーキャットと同じ全身タイツ。
本物より大分薄い生地のそのタイツの上に、メイド服のようにフリルが大量に付いていて。

「……さすがにアレ並に上手くやれとは言いませんけれど、もう少し何とか……」

そう言った一美が見詰める先には、

「いらっしゃいませ、My mistress.ご注文がお決まりになりましたら、何なりとお申し付けください」

そう言って頭を下げる執事姿の涼人がいた。
あのあと自分が警官だと言う事をクラス全員にばらし、警官姿じゃ仮装にならないと言い。
ならばと一美が作って来た執事の衣装が、神クラスに良く似合っていて。

「あーあ。あのお客さん、目からハートマークが飛んでますわよ……」

そう一美は呟いて、里緒の方を見やる。
すると、里緒は膨れっ面をしていて。

「……嫉妬ですの?」
「!?」

そう一美が耳元で囁いてやると、里緒は飛び上がる。
そのまま真っ赤になって、里緒はわたわた慌て出した。

「え、あの、ち、違、これは、その……」
「あらあら、もう恋人同士なんですし、恥ずかしがらなくてもいいんですのよ?」

そう、慌てふためく里緒を一美が思い切りからかっていると、

「……げっ!」

そう涼人の声がして、一美と里緒はそちらを振り向いた。

するとそこには、

「お、おいおい涼人。何て格好してるんだ」
「まあ……似合ってはいるけどね」
「そう……だな」
「お、大山のおじさん、小原さん、東川本部長まで……」

戸惑った風情の大山、小原、東川が立っていた。

「少しいいかね?高原君」
「え……っと、いいですか!?一美さん!」

そう東川に言われ、涼人は一美のいる方を振り向く。
一美が手で丸のサインを作ると、涼人は東川の方を振り向いた。

「……それで……、何ですか?」

そう涼人が聞くと、東川は口を開く。

「……今日、『レ』……いや、あの猫の対策本部が正式に解散になる」
「っ!そうですか……」

一般人がわんさかいる中で固有名詞を使うのを躊躇ったのか、一応伏せて言った東川。
それでも涼人は東川が何を言ったかに気付いて頷き……、

「……じゃあ、僕はそろそろパリに戻らなきゃいけませんね」

……そう、呟き、その瞬間、クラスの生徒達は全員凍り付いた。

「……そう、だな。元々あの猫対策にICPOから借りたんだからな」
「淋しくなるね……」

そう大山と小原も続け、小原は苦笑する。

「でもまあ、短い間とは言え、結構楽しめたでしょ?青春」
「それはもう。……今も、楽しんでる最中ですよ!」

そう言って、涼人はにっこりと笑った。

その夜。
夜道を1人歩きながら、里緒は泣きそうになって呟く。

「……涼人君……」

文化祭の打ち上げで、話題となったのはやはり涼人の事で。
生徒の1人が放った「いつ帰るのか?」と言う質問の、涼人の答えが耳にこびりついていて。

「……あさっての、朝一……」

『もう、『帰って来い』って連絡が来てるらしいし』

とあっけらかん、と答えた涼人。
それは、物理的距離での里緒との別れを意味していて。

「パリなんて……遠すぎるよぉ……」

ぐすぐすと泣き続ける里緒。
しかも、

「見送りにも、行けないなんて……」

あさって、となると火曜日。
文化祭の翌日は代休があるが、火曜日となると代休明けで。

『見送りには、来ないでください。学校もありますし……、
何よりも、見送りに来てもらって、それで決心を鈍らせたくは無いので……』

そう言って苦笑していた涼人の姿が、頭から離れなくて。

「涼人……君……」

そのまま里緒が泣き続けていると。

「!?」

急に後ろから羽交い締めにされて、口にハンカチを押し付けられる。
しばらくの間里緒は手足をばたつかせていたが、やがて、ぐったりと動かなくなった……。






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