朧月怪盗アンバームーン 『刷毛』
シチュエーション


『皆サン、教祖のアレッサンドロ・ブッキデス。
今晩も神ノ有り難い言葉をお届けシテいきたいと思いマス。
スベテハ神の御心のママニ』

夜のネブラスカシティに「光の世界」教祖ブッキの声が響く。
大聖堂の塔に取り付けられた大きなスピーカーから流れ出している
教祖の言葉に、信者は警察との揉み合いをやめて聞き入っている。
同時にラジオの電波でも宗教放送として届けられており、
家の中や食堂の中にいる信者も目を閉じて耳を傾けるのだった。
警察は警察で指揮官である棚橋との連絡が取れないため、
この状況をどう解釈していいのかわからない様子でただ待機していた。

『サテ、今日はある企画を用意してイマス。
なんと私デハナク、ある信心深い女性の信者に神のお言葉を
届けてモラオウと思ってイマス。それではCMをドウゾ』

花輪が機械のスイッチを押すとテープがキュルキュルと回り出し、
「光の世界」へのお布施を促す内容のコマーシャルが流れ出す。
ブッキは一息つくと、手に持っていたマイクを下ろして
好色な目を傍にいる怪盗アンバームーンに向けた。

そのアンバームーンはというと、刷毛のついた奇妙な
水車の上にまたがり、両手で教典を持っているという姿だ。
彼女の体はどこも拘束されておらず、ぱっと見ただけでは
自らの意思でその態勢を取っているようにしか見えないのだが、
実のところはブッキの『教皇』の能力により体を操られている結果だった。
どうやらブッキはわざと首から上は制御していないようで、
アンバームーンはブッキの差し出したマイクから顔を背けている。

「CM明けたらイヨイヨ貴女の出番デスヨ、シニョリーナ」
「ざ、残念だけど遠慮しておくわ」
「そうデスか……それは残念デス。
ソコの警部サンには永久の眠りについてもらわないトネ」
「ッ!?」

その仕打ちにアンバームーンの顔色がさっと変わる。
ブッキがその気になれば無理矢理にでも言葉を言わせることが
できるのだが、二人が顔見知りと見るや即座に人質として
利用することに決めたようだった。
一方、縛られている棚橋も自らが彼女の枷となることを
よしとしないようだった。

「ひ、卑怯よッ!彼は関係ないでしょう!」
「あ、アンバームーン、俺のことはいいから無視しろ!!」

二人の口から互いを庇い合う言葉が出るのを聞いても、
ブッキは黙ってニヤニヤと笑っているだけだった。
そんな教祖の姿を苦々しく見ている花輪が静かに指示を出す。

「CM、残り5秒だ。4、3、2、1」
『ソレデハ、教典の朗読を始めます。皆静かに聴くヨウニ。
今日は『ブッキ語録』ノ43章デス……』

そこまで言ったところで、ブッキはマイクを静かに
アンバームーンの口元に近づけ、スタンドで固定した。
花輪が静かなBGMを流し、女怪盗の声が電波に乗る。

『……神は上界から全てを見ておられる……』
「アンばッ!?」

観念したのか、ブッキの要求に従い教典を朗読し始める女怪盗。
その姿を見て、棚橋は叫ばずにはいられなかった。
だがブッキの手によって口を塞がれ、猿轡を噛まされてしまう。

「ダメでしょう?放送中ナンダカラ静かにシナイと」
「……むぐぅッ!!ぐむむ……」

そんな光景を目にしながら、アンバームーンはただ自らの手で
目の前に掲げられた教典を読むことしかできずにいる。
すべては棚橋のため、今は耐えるしかないのだ。

『そしてその神は一人の男に……一人の男は神に……』

大人しく自らが記した書物を朗読する女怪盗を見て
ブッキはしばらくニヤニヤとしていたが、おもむろに
パチンッと指を鳴らした。
その合図とともに、花輪が自らの能力により創り出した
水車を制御し始める。

(え?ちょっと嘘でしょ……?本気で生放送中に……!?)

女怪盗の驚きをよそに、水車はゆっくりと動き出し、
やがてその回転速度を少しずつ速めていく。
その回転のたびに、水車に取り付けられた刷毛が
女怪盗の股間を擦り上げていくのだ。

(くぅぅぅ……アソコに刷毛が当たって……んんんッ)

『……その神である……ふっ……一人の男の名は……んんッ
アレッサンドロ・ブッキその人である……ふぅッ』

なんとか平静を装ってはいるが、次第にその朗読にも
甘い吐息が混じってきてしまった。

(ダメ……信者の人も警察の人も……外で聞いてるんだからぁ)

泣きそうになりながら自らを律してこの危機を乗り切ろうとする
アンバームーンだったが、そんな彼女の努力を嘲笑うかのように
刷毛の刺激はますます耐えられないものになっていく。

『か、彼はこの世界に……んくっ……顕現した神の……
す、すがたであり……この世の全てを取りしきる男で……』

(な、何も考えてはダメ……無心で読み続けるの……)

ふざけた内容の教典を読まされる屈辱すら、頭から消し去って
ただただそこに書いてある文字を発音することに集中する。
その努力の甲斐あって、途切れ途切れになってきてはいるが
朗読の体裁は保つことができているようだった。

一方、外では信者達がひざまずき、大聖堂に向かって礼拝していた。
警察官たちも棚橋に連絡を試みつつも気の抜けた様子で佇んでいた。
なにしろ、教祖による宗教放送の生放送中なのだ。
何か異変があれば教祖自らがマイクで助けを求めることができる。
無理に突入して混乱を引き起こし、怪盗にその機に乗じられるよりは
この場に留まって異変があればすぐに動けるようにしておくほうがいい。
そう考えての判断、少なくとも自分達にはそう言い聞かせていた。
もっとも、実際は信者との揉み合いで疲弊していたという方が正しい。

「おい、女性信者って誰だろうな?」
「シッ、神聖なお言葉の最中だぞ。黙って聞け」
「だ、だってよぉ、今までは教祖様が読んでいただろ?
その代役を仰せつかる光栄なんて、与えられるものなのか?」
「きっと、教祖様に信仰心が認められたのだろう。
俺達も頑張れば、ひょっとしたらお呼びがかかるかもしれないぜ」
「でも、朗読は下手だな。途切れ途切れだ。漢字が読めないのかな」
「あーあ、俺の方がもっと上手く読んでみせるのになぁ」

これまでになかった朗読の委任という事態に、大階段上の
信者達は騒然となり、様々な反応を見せていた。
教祖自らのお言葉が聞けないと落胆する者。
朗読の代役を任された女信者に嫉妬する者。
女信者の朗読の下手さに眉をひそめる者。
しばらくざわついていた信者達だっだが、厚い信仰心ゆえか
しばらくすると皆静かに礼拝を続けるようになった。

その近くで警戒しながらも座り込み、荒い息を弾ませている
警官達の耳にも、その放送は聞こえていた。

「はぁッ、はぁッ、なんだアイツら。
変な放送が始まった途端土下座し始めちまったぞ?」
「あれは土下座じゃない、教祖に向かって礼拝してんだよ」
「しかし、今朗読している女、結構いい声してんな。
癒し系ボイスってのか?きっと美人だぜ」
「バカ、ああいう声の女ってのはブスってのが相場だろ」

しかし、その声は信者が考えているほど有り難いものではなく、
警官たちが考えているほど癒されるものでもなかった。
むしろ必死で耐え戦っている声、といっていいだろう。

「フウン、なかなか頑張るジャナイカ。
コレデハ面白くないデス。ひと工夫をしなければネ」

大聖堂内部では、ブッキが腕を組んで唸っていた。
近くには関心なさそうにミキサーをいじっている花輪。
縛られて這いつくばり、猿轡を噛み千切らんという形相の棚橋。
そして水車の刺激に負けまいとして必死に朗読するアンバームーン。

その女怪盗に、ブッキはそっと近づいた。
怪しい気配を感じ、アンバームーンはビクッと反応する。

(な、何をするつもりかわからないけど……耐えてみせるわ……)

改めて意を固くする彼女の下に、ブッキは屈みこみ、
開いた両足の付け根部分のタイツを両手でガシッと掴んだ。

『ヒッ!……それゆえに、我が信徒は強くあらねば……』

思わず声をあげてしまったのを何とか建て直し、朗読を
続けようとするアンバームーンの股間部分のタイツが、
その直後ビビッビリッ!という音とともに破り裂かれた。

(い、いやぁッ!!そ、そんなぁ……くぅぅ……)

露わになったパンティも同様にブッキの手にかかり、
耳障りな音とともに破られ床に切れ端が落ちた。
防御していたものを全て取り払われ、水車の刺激は
股間部分に直接当たることになってしまった。

(じ、直になんて……だ、だめ……そんなのだめぇ……)

焦る女怪盗の秘裂を刷毛が擦り撫でて高みへと運んでいく。
体はビクッビクッと震え、脚は力を失って沈み込み、
その結果より強く刷毛が秘部に当たってしまうことになり
慌てて元の高さに戻す、ということを繰り返している。
怪盗が悦びを感じていることはもはや明らかだった。

『んんんッ!あはぁッ……神のご加護は……いつも……
我らの手に……あッあぁッ……ひうッ……あるのであって……』

(だめぇ……みんな聞いてるのに……変な声出ちゃうぅ……
ちゃんと読まなきゃ、読まなきゃいけないのにぃ……)

女怪盗の頭にはもはや「読まなければいけない」ということしかない。
最初は棚橋を救う機を探るために耐えていたはずだったのだが、
いつの間にか刺激に耐え続けて最後まで読むことに目的が
すり替わってしまっている。
それすなわち、もはや余裕がないということに他ならない。
水車が回転するたびに刷毛は無情にも彼女を刺激し続け、
自分の声が聞かれているという羞恥心も官能の炎に薪をくべる。

『我がッ、我が信徒は……んんぁあああ……こ、この世界を……
あふぅんッ、す、救うぅ、ために何をすべきかとぉぉ……
はぁッ、はぁッ、いうと……神であるぅぅ、ブッキに……』

刺激を受けながらも字面を見失うことなく読み続けている
精神力は大したものなのだが、嬌声を消すことまではできていない。
呂律も怪しくなり、甘く媚びるような声に変わってしまっている。
当然、それを聞いていた信者や警官達にも再び動揺が走る。

「ね、ねえ、何かおかしくないかしら……?」
「ああ、なんていうか、エロい……というか、その」
「バカ、なんて言葉を使うんだ、この不信心者!」
「だってよぉ、どう考えたってエロいだろ?」
「お前がエロいからエロく聞えるんだ。
しかし変なのは確かだし体調でも悪いんじゃないか?」
「それならなんで教祖は放送を止めないのかしら」

生唾を飲み込みながら礼拝を続けようとする男性信者。
嬌声にうすうす気づきながらも礼拝を続ける女性信者。
それを見ていた警官達はわけが分からないといった様子で佇んでいる。

「なあ、これが『光の世界』の教えなのか?」
「やっぱりエロにしか聞えないよなぁ。でも信者が礼拝を
続けているところを見ると、これが普通なんじゃないか?」
「そんな宗教だったのか……俺も入ろうかな……」

棚橋は縛られ床を舐めながら部下が異変に気づいて
突入してくることを信じていたのだが、彼らは一向に来る気配がない。
なお、この事件の後、彼らは一律に減俸処分を下されることになる。

(くそッ、あいつら何をもたもたしてるんだ……)

来ることのない助けを待ちながら、棚橋は目を閉じていた。
自分の手で助けられないのなら、せめてそちらを見ないことで
女怪盗の羞恥心をいくらかでも和らげようとしていたのだ。
本当は両耳も塞ぎたかったのだが縛られていてはそれは不可能だった。

警官も来ず、棚橋も縛られているという絶望的な状況で
アンバームーンは独り快感との戦いを強いられていた。
もはや彼女も限界といってよいのだが、それでも生放送という
特殊な状況が彼女をぎりぎりで耐え忍ばせていた。
しかし。

「サテ、そろそろクライマックスデスネー。花輪ッ」

ぱちんっ。

『んんんあぁぁぁ……だめぇッ!そ、それだめへぇッ!
いや、いやッいやぁぁッ、あっはぁぁぁッ』

ブッキが指を鳴らすと同時に、花輪が水車を逆回転させ始めたのだ。
刷毛が秘唇を、肉豆を、肉襞を逆撫で、今までとはまた違った
強烈な刺激に女怪盗はついに教典を読み続けることを放棄した。
首をよじり、体をビクビクと震わせながら絶頂への階段を駆け上る。

『あぅッ、あひぃッ……だ、ダメなのぉッ!なんかキちゃうのぉッ!
あっはぁぁぁぅ、ああぁぁぁぁ……はあぁぁぁっんッ!』

最後はもはや絶叫といってよかった。
髪を振り乱し、マイクに向かってイキ声を発したその後、
スピーカーからは再びCMが流れ出した。
それを遠くで聞きながら、女怪盗は呆然としていた。

(わ、私……生放送で……聞かれちゃった……全部聞かれちゃった……)

もはや大聖堂の外が大混乱となったCM明け、
アンバームーンからマイクを奪うとブッキは放送を続けた。

『いや、失礼シマシタ。彼女はアマリニ信仰心が強スギテ、
教典を読みながらトランス状態になってしまったヨウデス。
立派な信者ナノデ朗読を任せたのデスガ……失敗デシタ。
やはり明日カラハ私が読むことにシマショウ』

スピーカーから流れてくるその教祖の落ち着いた言葉に
信者は安堵し、また、見知らぬ女信者に感心していた。

「そうか、変だと思ったがあれはトランスしていたのか。
そこまで強い信仰心を持たないと教祖様には認められないんだな」
「お、おい、トランスって何だ?エロくはないのか?」
「要するに教祖様への信仰心が強すぎて、教典を読んでいるうちに
感極まっちまったってことじゃねえか?」
「なんてことだ……俺はバカだ!大バカだ!
そんな人に対してエロいことを想像しちまったなんて……」
「俺もだ。修行が足りないってことだな」

大聖堂の窓から「ブッキ様万歳」コールが起きるのを見て
ニヤリとほくそ笑むと、ブッキはアンバームーンに近づいた。

「よかったデスネ、アンバームーン。
皆さん私の言葉を信じてくれたみたいデスヨ」
「く、くぅ……」
「でも、ちゃんと読めなかったのは貴女が悪いデス。
生放送中にアンアンと感じちゃってエッチな声を聞かせちゃって。
ナイスフォローをした私に感謝してホシイデス」
「…………」






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