シチュエーション
「涼人」 「大山のおじさん……。状況は?」 「もう全員配置には付けてある。……だが……、本当にこんな子供騙しで全員捕まえられるのか?」 そう、物凄く怪訝そうな、それでいて笑いを堪えているような表情で聞く大山。 それを見て、涼人は淡々とした表情で口を開いた。 「り……いえ、本物の『レインボーキャット』ならこんな罠仕掛けません。仕掛けるだけ無駄ですから。 でも、偽者相手には、いえ、偽者相手だからこそ、こんな罠が通用する。そう踏んでます。 引っ掛かった後、首領については打ち合わせ通りにお願いしますね」 「ああ、分かっている」 何を考えているのか窺い知れない表情で言う涼人に、大山は頷きつつも首を傾げる。 そんな大山には気付かず、涼人は考えていた。 「(里緒……来るかな?ううん、来るだろうね。一応釘は刺したけど、こんな状況になって日和るタイプじゃないし。 偽者用に仕掛けた罠に引っ掛かる何て馬鹿な事をしないでくれれば、今の時点ではいいんだけど……)」 そこまで考えて、涼人は何故か手を口元に当てる。 「(今の内にしっかり考えておかないとね?里緒へのお仕置きを。 『レインボーキャットになったらお仕置き』って、ちゃんと宣言しておいたんだから……。)」 そう考えて、涼人はくすくすと笑い始める。 もう偽者は捕まえられる、そんな確信を持っている涼人にとって、今1番大事な事を考えながら。 「(偽者を捕まえるまで、里緒と偽者が出会わなければ問題は無い。 その後で、ゆっくりと里緒は捕まえる事にしようかな? もう必要な道具は取り寄せてあるし……、明後日ぐらいには戻るつもりだったけど、1日出発遅らせるかな……?)」 そう考えて、涼人はくすくす、くすくすと黒い笑みを浮かべる。 そんな涼人を見て、大山は少し引いていた。 すると、 「!!?」 突然入口の方で爆発音が鳴り響いた。 「涼人!」 「分かってます。……正面突破とは恐れ入る。本当に自信があるみたいですね。 その自信、欠片も残さず叩き潰してあげますよ」 そう大山に答えて、、涼人は正面にあるモニターを見る。 すると、福岡記念美術館の正門にバンが突っ込んでいて、そこから何人かの人影が飛び出す所だった。 「一応露出させてあったモニターは潰してはいる、か。でも、それは囮ですよ、偽者さん。 本物は隠してあって、その囮は、鳴子なんです」 そう呟くと、涼人は大山の方を振り向く。 「状況はXV48です。マニュアル通りに行動するように伝えてください」 「ああ、分かった」 その言葉を聞いて、腰に下げてあった通信機に向かって怒鳴り付ける大山。 そんな大山から、涼人はモニターの方に視線を送り、呟いた。 「……そこには、落とし穴」 その言葉と同時に、先頭を走っていた人影の一部が忽然と消え失せる。 そして、慌てて方向を変えた人影達の行く方向を見て、涼人はにやり、と笑い、通信機を取り出した。 「67班、放水開始!」 そう涼人が通信機に向かって叫ぶと、人影達に向かって高圧水流が走る。 まともにその水流を食らって思わずその人影達が銃を取り落とした瞬間、大山が叫んだ。 「総員確保に入れ!ただし、首領だけは押さえるな!」 その大山の叫びを聞いて、涼人は座っていた椅子から立ち上がる。 そして、大山の方を振り向くと、口を開いた。 「首領以外を確保したら、警官隊は引き上げさせてください。 後は、逃げ回って疲れ果てた仔猫に手錠をかけるだけ、僕1人で充分ですよ」 そうにっこりと笑って涼人は言うと、部屋から飛び出した。 「……それに、これは、僕がカタを付けるべき問題ですから」 ……そう、誰にも聞こえない程の音量で呟いて。 「な……!何よ!何なのよ!」 1人夜道を走りながら、その少女は毒づいていた。 まるで子供の悪戯か何かのような落とし穴の次は、高圧放水。 それにたまらず手にしていたマシンガンを取り落とした所で、警官隊の強襲。 敵を分断し、無力化し、取り押さえる。まるで教科書のような制圧戦術に、少女の仲間達は成す術なく無効化されて。 「それなのに……、何で私だけは逃がすのよ!」 ……しかし、取り押さえられて行く仲間達の中で、その少女だけは取り押さえられなくて。 一応警官は襲いかかっては来ていたのだが、他の仲間達と比べると明らかに軽くて。 しかも、あからさまに突破口を残し、しかもそうしつこくは追ってこない。 「後悔させてやる……、私を逃がした事、後悔させてやるわ!」 そう叫ぶと、その少女は少し開けた原っぱのような所に出て、ほっと一息を吐き……、 その瞬間、その原っぱに人影がある事に気付いた。 「だ、誰よ?」 その人影を見て、その少女は思わず身構えるが、その人影がどうやら女らしい事に気付くと、構えを解く。 すると、その人影が、口を開いた。 「……あなたが、今の『レインボーキャット』?」 「!?」 その言葉に、その少女は思わず硬直する。 と、それを見てその人影はくすり、と笑い……、口を開いた。 「どうやら、そうみたい……だね」 「だ……誰……?」 その人影が言った「今の」と言う言葉。それは、少女が偽者のレインボーキャットである事を知っていると言う事で。 その事を知っているその人影を気味悪く感じ、少女は思わず及び腰になる。 と、そんな少女を見て、その人影はもう一度くすり、と笑い……。 その瞬間、雲に隠れていた月が顔を覗かせて、その人影が映し出され、 「……え?」 その瞬間、その少女は凍り付いた。 グラマラスな肢体を全身タイツで覆い、自然体でその場に立ち尽くす。 それは、今、少女がしている格好と全く同じ格好。そう、レインボーキャットの格好だった。 「……ま……さか……」 「そう、そのまさか。……偽者にはお仕置きしなくちゃね?この、『レインボーキャット』が!」 そう叫んで、その人影……里緒は、少女に突貫した。 「―――っ!」 「もらいっ!」 驚きで身体が完全に硬直している少女を見て、里緒はにやり、と笑ってその身体にスタンガンを突き込む。 しかし、 「あ、あああああっ!」 「え……!?」 その少女は全く堪えていないように叫ぶと、そのまま里緒にタックルをかけ、押し倒した。 「な、何で!?」 「こうなったら、本物だけでも!」 混乱したようにそう叫んだ里緒。 と、そんな里緒に馬乗りになって、少女は里緒の首に手をかけた。 「あ、ぐ、っ……!」 「殺してやる、殺してやるっ!」 そのまま首を締められ、里緒は苦しい息の下でもがくが、馬乗りになられているのでは、蹴る事も出来ない。 手だけでは全力で首を締めているその少女の手を外す事も出来ずに、だんだんと里緒の意識が薄れて行って……。 「ぎゃうっ!?」 「っかは!げほっ、げほっ!」 ……その瞬間、少女がいきなり横に飛んで行って、里緒は咳き込んだ。 すると、その身体が抱え上げられ、仮面が外される。 「里緒!大丈夫か!?」 「……ぁ……」 そして、焦ったように、涼人が里緒に向かって叫んだ。 「りょ……と……」 「喋らないで!苦しいなら、呼吸だけに専念して!」 そう叫んで、涼人は一度里緒をそのまま地面に寝かせる。 そして、そのまま涼人は、視線をさっき蹴り飛ばした少女に向けた。 「……何、やってんだよ、お前……」 「ぐううううう……」 頭の螺子が何本か吹っ飛んだのか、まるで獣のような唸り声を上げるその少女。 そんな少女を見て、涼人は無造作にポケットに手を突っ込み、そこから何か握り拳大の物を取り出した。 「話、聞ける状態じゃない、か……」 「どけぇっ!」 そう涼人が呟くと、その少女は涼人に、いや、涼人の足元でまだ咳き込んでいる里緒に向かって飛びかかる。 そんな少女に向かって、涼人は1歩足を踏み出して。 「でも、そんな状態だからこそ、これが効く!」 「!!?」 手にしていた物を投げ付けると、その何かは少女にぶつかり、その瞬間、その何かは一気に広がった。 一瞬にして投網と化したそれに、少女は成す術無く絡み取られ、足を取られてその場に転倒する。 そんな少女を冷めた目付きで見詰めて、涼人は口を開いた。 「……作動」 「!?」 その瞬間、少女はびくり、と身体を反らせて……、その場に崩れ落ちた。 「どうだい?特製投網……、電撃の味は。に、しても……何処かの蜘蛛男かよ、その格好……」 そう呟くと、涼人は後ろを向いて、里緒の傍にしゃがみ込み……、 その瞬間、里緒は顔を真っ青にした。 「涼人!避けてぇっ!」 「え、うわああああああっ!?」 そして、次の瞬間、投網ごと飛びかかって来た少女に涼人は思い切り抱き付かれた。 「っか……」 「涼人!涼人ぉっ!」 その瞬間、投網にかかっていた電撃をもろに受け、涼人は叫び声を上げる。 咄嗟に投網の電源を切った次の瞬間、涼人は里緒の上に崩れ落ちた。 そんな涼人を受け止めて、里緒が泣き声を上げながら微かに煙を上げる涼人を揺すっていると。 「涼人……、そう、アンタが高原涼人だったの……」 「……え……?」 「まあいいわ。どきなさい。この猫、殺せないから」 そう、逆に怖くなる程冷静な声色でそう言う少女。 さっきまでのまるで獣のような動きとはまるで違い、優しさすら感じられる動きで涼人をどかそうとして……。 「っ……あああっ!」 「っが!?」 思い切り振り回した涼人の右拳が顔面に当たり、その少女は盛大に吹き飛んだ。 そのまま涼人はふらふらと立ち上がる。そして、涼人はゆっくりと拳銃を取り出して……。 「きゃああああっ!?」 ……少女の両腕両足を撃ち抜いた。 「りょ、涼人君!?」 そう、驚いたように声を上げる里緒を無視して、涼人は痛みに喘ぐ少女の腕を捩じ上げると手錠をかける。 そして、涼人は荒い息を吐きながらその場に膝を突いた。 「……あなたを、逮捕します、高橋文音さん……」 ……最後に、そう呟くように言って。 SS一覧に戻る メインページに戻る |