怪盗トライアングルムーン第九話
シチュエーション


「お、おいなんだよありゃ…」
「裸の女の子?AVでも放送してるのか?」
「いや、それにしてはなんか様子が…でも、ゴクリ…」

ざわざわ…
ミリオンで人間が最も交差する道、すなわちミリオンライトビル前の交差点に大きなどよめきが起こっていた。
普段は人気キャスターがニュースを報じているはずの巨大スクリーン。
そこに今映し出されているのはまだ十代であろう少女の裸体だ。
少女の顔はショーツを被らされているため確認することはできない。
だが所詮薄布でしかない下着では輪郭、そして顔の半分以上を露出させてしまっている。
仮に知り合いが今の少女を見たとしてもその素性を察するのは難しいだろう。
だが、薄布の上からでもハッキリと少女の美貌は確認できる。
更に、晒されている少女の肉体はグラビアアイドルも真っ青なほどの艶と色気を放っているのだ。
このような映像を目に入れてしまえば男は勿論、同性である女性とて目を離すことは難しい。
スクリーンに目を向けた人々の視線は魅入られたかのように画面から離れようとはしなかった。

「……っ、なんという、ことを…」
「ねえ、ウィッチィ。あの女の人は…」
「間違いありません、カグヤさんです…!」

信じたくない、といった口調で恐る恐るそう訊ねるサキ。
その問いに答え、怒りに拳を震わせているのはトライアングルムーンの衣装を身に纏ったルナだった。
二人の後ろで情報を集めているアルテは主の怒りを悲しげに見つめながらも作業の効率を落とさない。
アンドロイドであるアルテは主人の怒りを理解することはできても共有することはできない。
無論、眼下の映像が憤怒に値するものということは彼女とて理解はしている。
だが、あくまで彼女の最優先はルナなのだ。
ここで冷静さを失って作業の効率を落とすことのほうがアルテにとっては罪深いことなのである。

「アルテ…」
「申し訳ございません。思いの他セキュリティが堅固で…」
「あのスクリーンだけでもどうにかならないのですか?」
「…現状では、全てのリソースを回すのならばまだしも、内部の情報等の引き出しの平行ではとても」
「構いません。スクリーンの制御を最優先にお願いします」
「お嬢様!?しかしそれは……いえ、わかりました」

自分の言葉に驚きながらも即座に命令の遂行し始めるアルテにルナは申し訳ない気分を抱く。
今から敵組織が待ち構えているであろうビルに突入するというのにスクリーン停止にのみ力を注がせるなど正気の沙汰ではない。
しかし、これ以上仲間の――カグヤの恥態を衆目に晒しておくなどルナには耐えられなかった。
もう少し時間をかければスクリーンの制御以外にも手が回るかもしれないが、そういうわけにもいかない。
今この瞬間にもカグヤは下種な男たちに身体を嬲られているのだ。
仲間思いの少女にとって、それは看過できることではない。

「では、私たちは突入を開始します。大丈夫です、アルテ…見取り図に変更はないのでしょう?」
「その通りですが…それはあくまで内部の構造の話であり、奴等がどのような罠を仕掛けているか」
「確かにその通りです。ですが、これ以上時間をかけるわけには行きません」
「心配しないでいいよ。ウィッチィにはボクがついてるからさ!」

むん、薄い胸を張る小柄な少女の姿に主従の二人は僅かに相好を崩す。
暗く張り詰めた空気が緩和され、ルナの心に活気が満ちてくる。
トライアングルムーンの実質的なリーダーはウィッチィだが、こういう時頼りになるムードメーカーは間違いなくラビットだ。

(サキさんがいてくれてよかった…)

過去の自分の決断に感謝しながらウィッチィは装備を確認し、無人ビルの屋上から眼下のスクリーンへと目を向ける。
画面に映るカグヤは大股開きという女性にとって一番の屈辱の体勢を取らされたまま身体を弄ばれていた。
表情を見る限りまだまだ抵抗の意思は残っているようだが、それもいつまで持つか分からない。
何より、いつ彼女の素顔が暴露されるか分からないのだ。
バイザーを外されているという事は既にカグヤの素顔は見られたのだろう。
だが、少なくとも今映像を見ている一般人たちには彼女の素性はばれていない。
そもそも、画面に映る少女がトライアングルムーン・ブレイドということすら市民たちはわかっていないはずなのだ。

(それにしても、許せません。女性にあんなことを…そ、それに…っ)

仲間への非道は勿論だったが、ルナにとってはもう一つ許せないことがあった。
カグヤの素顔を隠している下着。
それは紛れもなく昨夜自分が穿いていたものだったのだから。

(ううう…)

見ている市民たちはその下着の主がルナだということを知らない。
当然トライアングルムーン・ウィッチィのものだということも知らないだろう。
普通に考えてカグヤのものだと認識しているだろうし、正確な事実を知っているのは敵と自分だけだ。
だが、皺の一つ一つまでが精密に見えるくらい拡大された自分の下着に人々の視線が集まっているのだと考えると顔から火が出るほど恥ずかしい。
スクリーンの消去を最優先したのはカグヤのためというのが第一だが、自分の下着を見られたくないという面も多分にあったのだ。
そして数秒後、突然の画面暗転に人々のざわめきが増し、一時的な混乱が発生する。
それこそが突入の絶好のタイミングであり、二人が待っていた瞬間でもあった。

「よし、行こう!」
「はい!」
「スクリーンの切断で向こうもこちらに気がついたはずです。どうか、お気をつけて…」

駆け出す二人の怪盗少女の背を見送りながらアルテはどうしても嫌な予感を拭うことができなかった。
だが、主人の命令は絶対であり、スクリーンの制御を手放すわけにはいかない。
主人思いのアンドロイドは自身の無力さを噛み締めながらも一つの覚悟を決めようとしていた。

「……ほー、姉ちゃん吉報だぜ。このビルに侵入者だ」
「侵入者…?まさかっ」
「反応は二つ。まず間違いなくお仲間だろうな、ヒヒッ、飛んで火にいるなんとやらだな」

ウィッチィとラビットが侵入を開始した同時刻。
部下から報告を受けた刃物使いの男がポケットに手を差し込んだままニヤニヤと口元を笑みに歪めた。
自分たちの優位をまるで疑ってないその様子にカグヤの怒気が喚起される。

「そうやって笑っていられるのも今のうちだ。あの二人を甘く見ないほうがいい」
「ヒヒッ、ご忠告どうも。だがまあ、ネズミちゃんたちの相手をするのは俺様じゃないんでね」
「何?」

仲間の救援に顔をほころばせる剣術少女の瞳に僅かな動揺が浮かぶ。
人格はともかく、目の前の男は紛れもなく強かった。
もし仲間たちの迎撃に当たっている敵がこの男と同等以上の戦闘力を持っているのならば…

(…っ、何を考えている。信じるんだ、あの二人はそう易々と負けはしない!)

暗い不安を追い出すように少女の首が一度ずつ左右に振られる。
ジャックはそんな獲物の反応を楽しむように見つめると、ゆっくりとポケットの中から手を引き抜いた。

「ま、もう少し経てばお仲間も姉ちゃんと同じようにしてやるから安心しな。だが…」
「…?」
「どっちにしろ、まだまだ時間はかかるんだ。なら撮影の続きをしないと……なあ?」

スクリーンの制御が奪われたことは既にジャックの耳にも入っていた。
だが目の前の拘束少女にそれを知る術はなく、当然教える気はサラサラない。
肉体的な刺激にはなんとか耐えているようだが、羞恥心に灼かれている精神はそうはいかない。
年頃の娘が丸裸で男たちに蹂躙されている映像が街中で流されている。
その事実は時間とともにしっかりとカグヤの精神を削り取っているのだから。

「ほれ、これが何かわかるかい?」
「な、なんだ…これは」

ポケットから抜き出した手をカグヤの眼前に差し出した男はゆっくりと握っていた五指を開く。
掌の上に置かれているのはピンク色のカプセル状の物体だった。
大きさは親指大といったところだろうか、潔癖なカグヤは知らなかったがそれは俗に言うローターと呼ばれる道具だ。
ただ、市販のものとは違いコードは見当たらない。
それどころか、底の部分はまるでナマコのように生体的な動きを見せている。
そのなんともいえない不気味な物体に囚われの剣術少女は嫌な感覚を覚えた。
知識はなくとも性的な道具に対して生理的嫌悪を覚えたのだ。

「ひひっ、ローターも知らねえのかよ。まあいい、使えばすぐに分かるさ」
「な…や、やめ、それを……近づけるな…っ」

顔の前からゆっくりと下降していく男の手にカグヤは焦燥を覚える。
だが、拘束された身体はそれから逃げることを許されず、ただ冷たい汗を浮かばせるだけ。
焦らすように降りてくる手はやがて開脚によって惜しげもなく晒されている足の付け根に達した。

「うあああっ!?」

その瞬間、今までどうにか冷静さを保っていた剣少女の喉から引きつった悲鳴が上がる。
男の手はピクリとも動いていないのにピンクの物体は生き物のように自分からぴょんと飛び上がり、獲物の身体へと着地したのだ。
右の太腿に着地した桃色固形物は底の部分を吸着させて自身を固定する。
肌と接している部分がうにょうにょと動き始め、まるでナメクジのようにずるずると移動を始めた。

「なっ、なんだこれは!気持ち悪いっ、早くどけろっ!」
「そんなに嫌ってやるなよ。よく見りゃあ可愛いじゃねえか」
「くっ…くそっ…!」
「一応解説するとだな。それはうちのマッドが開発した生体機械…ってなんか名前からして矛盾してるような気がするが。
まあいいか、とにかくだな、そのローターは生きてる。つまり自動で動く」
「そんなことはどうでもいい!いいからこれを取……うあっ、の、上って来るな!」

太腿の上、つまり女性にとって一番大切な部分へと侵攻を開始したピンク物体に声を荒げるカグヤ。
だが聴覚は搭載されていないのか、ローター生物はじりじりと這いずり上がるのをやめようとしない。
ジャックが口笛を吹きながら少女の股間を弄っていた刀をそっと引き上げる。
瞬間、囚われの怪盗少女の秘部が露わになるが、それはすぐに別のものによって隠された。
そう、滑らかな肌を上り終えたピンクの物体によって。

「はっ、離れ……なっ、あふぁっ!?」

快感、というよりは不意を突かれた間の抜けた少女の悲鳴が男たちの耳に届く。
姫筋に吸着した物体はブブブ…と微かな振動音を立てながら身を震わせ始めたのだ。
当然、それがそんな動きをするなど知らなかったカグヤは驚愕する。
しかしその驚愕はすぐに怒りへと変わる。
愛刀の次は気味の悪いモノで淫部を弄られるなど屈辱にも程がある。
拘束されていない腰を揺すり、なんとかこの淫辱の道具を振り落とそうとする黒髪の少女。
それを振り落とすということは自分の股間を晒すということに他ならないのだが、既にそれは頭になかった。
今はただこの気持ち悪いモノを自分の身体から離したい。
その一念で少女剣士は腰を上下左右にと捩り揺すっていく。

「離れろっ…このっ、くふぅっ…」

だが、生体ローターはしっかりと肌に吸着しているためその程度で離れるはずがない。
ブブブ、と自身の振動を獲物の身体に送り続けるだけだ。

それだけではない。
カグヤ自身は気がついていないが、彼女のとっている動きは卑猥極まりないものとして他者の目に映っていた。
四肢を拘束され、必死の表情で激しく腰を動き回らせている全裸の少女。
下半身に連動して大きく実った胸の果実はぶるんぶるんと揺れ、先端の実が空に軌跡を描く。
張りのある肌からは珠のような汗がぽつぽつと吹き出て上気した肌を色っぽく装飾している。
それは見ようによっては快感に悶えているようにも見えた。
現に、撮影をしている男たちは少女に襲い掛かりたいという衝動を抑えるのに必死だった。
今は制御をとられているとはいえ、録画機能は働いているし、制御を奪い返せば再びこの状況はスクリーンに映る。
それ故に、撮影をおろそかにすれば罰が下ると分かっているため男たちは欲望と義務の狭間で苦悩する。

「無駄だって、まあ俺らは眼福だからいいけどよ、いい加減あきらめとけって」
「はっ、くっ……ふっ…!」
「ったく強情だねぇ。まあ、それも今のうちだけどな」
「な、何……はうっ!?」

苦闘しながらも、それはどういうことだと言葉をつなげようとしたカグヤの動きが止まる。
口だけではない、激しく動いていた身体全体がビクンッと大きく震えて停止した。
ビクッ、ビクンッ!
間を置かず、少女剣士の身体が電気ショックでも受けたかのように数度ずつ跳ねる。
視線は奇形生物の張り付いた下へと向かう。
肉ごと神経が吸い出されるかのような感覚が連続して少女の脳へと運ばれていく。
ピンクの物体は振動に加え、吸引を始めたのだ。

「な、あっ…ひっ、うっ…?」

股間の柔肉を吸われるという思ってもみなかった責めに動揺するカグヤ。
しかしその心の隙は恥辱に耐え続けてきた肉体には致命的な隙だった。
ヒク、とわななく肉びらの奥――お腹の中の子宮がその刺激にきゅんと脈動してしまったのだ。

「こ、これはっ…何故っ、くあっ…」
「お?ようやく感じ始めたのか?」
「ち、違う!これは……はくっ?」

否定の言葉をあげようとしたカグヤの頭が大きく仰け反った。
続けてその体勢のままビクンビクンと成熟した肢体が痙攣する。
それは紛れもなく性的な責めに反応する女の身体の反応だった。

「やめろっ…これは、こんなのは…はうっ、ちが……あぅんっ!」
「そんな気持ちよさそうな声を出しておきながら何が違っていうんだか。ほれほれ、素直に気持ちいいっていえば今の状態をやめてやるぜ?」
「誰がっ…うぁ…そんなこと、をぅっ」
「ひひっ、本当に強情な姉ちゃんだ。だがな?身体のほうは正直なようだぜ?」
「何を言って…え、あ、あっ!?」

男の視線を追って愕然とするカグヤ。
ピンクの生体機械によって張り付かれた股間からは、汗ではない液体が確かにこぼれ始めていた。






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