恋するキャットシーフIF クリスマス
シチュエーション


「……ねえ、涼人君、クリスマス、その……」
「……ごめんなさい。父さんの友達と一緒にクリスマス会をやる予定なので」

そう、声をかけて来た女子生徒に答えて、涼人は済まなそうに微笑む。
そして、バッグを持つと、教室を出て行った。
そしてその後、取り残されたその女子生徒は膝を突いて唸った。

「……うぅぅぅぅぅぅ〜……」
「……だからダメだって言ったでしょう? 涼人君は、里緒ちゃんや一美ちゃんと仲がいいって言ってたのに……」

そう、膝を突く女子生徒の肩を叩きながら、もう一人の女子生徒がそう言う。
そして、涙ぐむ女子生徒を見て、その女子生徒ははぁ、と大きな溜息を吐いた。

「涼人君も、本当に罪な男の子だよね……」


「……で、断って来た、と?」
「うん。何かいけなかったかな? 母さん」

そう、本当に呆れたように亜紀から言われ、涼人は心底本気で首を傾げる。
その涼人の答えを聞いて、亜紀は思わず頭を抱えて、呟いた。

「……一体何処に高2にもなって親のクリスマス会に参加するからって異性の誘いを断る奴が……」
「ここと、夏目さん家と、後佐倉さん家にもいると思うよ?」

そうぼやく亜紀に、本当に素で涼人は返す。
そんな涼人に、亜紀は頭を抱えたままで呻くと、気を取り直したかのように呟いた。

「……好きな……って、好きな女性と一緒にクリスマスを過ごせる、って訳ね」
「そう言う事、だよ、母さん」

ぼやきかける亜紀だが、すぐに何かに気付いたかのように表情を明るくして、そう呟く。
その亜紀の言葉を聞いて、涼人はくすり、と少し照れたような笑みを浮かべると、頷いた。

「だったら、今日のパーティーの時にでも告白しちゃいな? ……里緒ちゃんでしょう?」
「……でも、僕の気持ちはともかく、里緒さんの気持ちが分からないし……」
「……」

そう、そんな涼人に対して言う亜紀だったが、その涼人の答えに大きく溜息を吐く。
そして、呆れ果てたような表情を浮かべると、涼人には聞こえないように呟いた。

「……恭一の恋愛否定よりはマシだけど……、これもこれで厄介ね……」


「……で、里緒はいつ涼人さんに告白なさいますの?」
「ふ、ふえぇぇぇぇっ!?」

そう、いきなり一美から言われて、里緒は思わず真っ赤になって飛び上がる。
見ると、一緒にお茶会をしていた夏目家、佐倉家、そして恭一の合計6人、……つまり、その場にいた里緒以外の全員が頷いていて。

「そーだね。里緒ちゃんが涼人君の事が好きなのは分かってるし。……ねえ、あやめちゃん?」
「え、あ、は、はい」
「……まあ、俺も涼人君なら、別に構わないとは思っているが……」
「……確かに、涼人は里緒君に独占欲を抱いているようだな」
「魔王様、相変わらずだね……」

その、武巳、あやめ、俊也、恭一、稜子の順で言われ、里緒は真っ赤になって俯く。
そんな里緒を見て、一美はにこにこ笑いながら口を開いた。

「……さて、涼人さんの父親からのご承諾も取れましたわよ?」
「う、うぅぅぅぅ〜!」

そう、からかう様に一美が言うと、里緒は真っ赤になったままで呻く。
そんな里緒が少し可愛そうになったのか、武巳が微かに笑いながら一美に向かって声をかけた。

「そんな事言ってるけど、一美は好きな人は出来たのかい?」
「いいえ? 今は自分の恋人を探すよりも、里緒の恋路を応援する方が面白いんですもの♪」
「応援する、じゃなくてからかうの間違いじゃないのかな? 一美」

そう武巳が言うが、一美はにっこりと本当に楽しそうに笑ってそう答える。
そんな一美に稜子はそう突っ込むが、一美は全く堪えもしないでにこにこ笑ったままで。

「どちらにしても、楽しいのは間違いありませんわ♪」
「……悪い、夏目」
「いや、いいさ。……背中を押す奴がいないと、里緒は多分一生告白出来ないだろうからな。
このあたりの性格は、あやめ譲りだしな」

そう、楽しそうに笑みを浮かべたままで言う一美に、武巳は思わず里緒の父親である俊也に謝った。
その武巳の謝罪に一度頷くと、俊也は軽く首を横に振りながらそう答える。
自分の娘がこう言った色恋沙汰に関しては妻の血を引いたのか、やたら奥手な事を知っていたから。

「……ははは、確かに。あやめちゃんって本当に引っ込み思案だしなぁ」
「え、えと、そ、その……」

そうからかうように武巳に言われて、あやめはわたわたと慌てながら顔を真っ赤にする。
そんなあやめをひとしきり愛でた後、武巳は恭一に声をかけた。

「なー陛下ー。亜紀の奴、いつ来るんだ?」
「……ん、ああ。パーティーには間に合うとは言っていたが」

そう武巳から言われ、恭一はそう素っ気無く答える。
その恭一の答えを聞いて武巳は1つ頷くと、ぽん、と里緒の肩を叩いた。

「ま、がんばれよ、里緒ちゃん!」
「そうだな……、頑張れ」
「そうですわよ、里緒には頑張っていただかないと♪ ……では、参りましょうか♪」
「え? え? ……ふえぇぇぇぇぇっ!?」

そう武巳が言うと、俊哉もそれに頷いて、里緒を励ますように口を開く。
と、一美はにこにこと笑いながら里緒を引き摺って部屋から出て行った。

「……あんな所、稜子にそっくりだよな」
「あ、ひどい!」


「「……おじゃまします」」

「あ、亜紀ちゃん、涼人君、いらっしゃーい♪」

そう亜紀と涼人が佐倉邸の玄関で揃って声を上げると、その声を聞いてぱたぱたと稜子が駆けて来る。
そしてそのまま子供のようにじゃれて来る稜子に構いながら、亜紀は涼人に声をかけた。

「涼人、先行きな」
「……うん、分かった」

そう、本当に呆れたように言う亜紀に、涼人は苦笑して頷く。
そして、数分あるいて居間に入ると、恭一が涼人に声をかけた。

「……亜紀はどうした?」
「母さんなら、稜子さんの相手をしてるよ、父さん」

そう、恭一の問いに答えると、涼人はきょろきょろと辺りを見回す。
そして、きょとん、と首をかしげながら口を開いた。

「あれ……? 里緒さんと一美さんは?」
「……里緒なら、連れて行かれたぞ」
「……一美さんに、ですか……」

そう涼人が聞くと、何処か疲れたような表情を浮かべて俊也が返す。
その俊也の言葉を聞いて、涼人は頭を抱えて溜息を吐いた。

「一美さんは、本当に……」
「まあまあ、別にいいじゃないか」
「ええ。一美さんが嫌な人じゃないって事は僕も分かってます。
……いい性格をしているのは、確かですけれど」
「あ、あはは……」

そう取り成した武巳に、涼人がにっこりと笑いながら嫌味を言うと、武巳は思わず苦笑する。
そんな2人を見ながら、俊也は苦笑気味の笑みを浮かべて口を開いた。

「……に、してもお前ら2人の息子だとは思えないな、あの饒舌さと社交性は」
「……どういう意味だ?」

そう俊也に言われて、恭一は軽く俊也を睨み付ける。
しかし、心当たりは恭一自身にも十分すぎる程あったため、それ以上は何も言わなかった。


「さあさあ、お姫様の登場ですわよ♪」
「か、一美〜……」

パーティが始まると、そう言いながら一美は里緒を引っ張って来る。
そんな一美の方を涼人は苦笑しながら見やり……、……時が止まった。

「うぅぅぅぅぅ〜……」
「……わ……」

純白のウエディングドレス様の衣装を身に纏って、顔を赤らめて俯く里緒。
そんな里緒に、涼人は思わず見とれてしまっていた。

「すっごーい! 良く似合ってるよ、里緒ちゃん!」
「はい、本当に……!」

そう稜子とあやめに言われて、里緒は照れ臭そうに笑う。
しかし、その視線はちらちらと固まったままの涼人に向けられていて。

「ほら、涼人さん! 何かおっしゃらないと!」
「え? あ……」

それに気付いた一美に突付かれて、涼人は気を取り直す。
そして、赤くなった頬をぽりぽりと掻きながら、口を開いた。

「その……、綺麗だよ、とても」
「〜っ!」

そう涼人から言われて、里緒は顔を真っ赤にした。


……その日の夜、涼人はベッドに横たわって、はぁ、と溜息を吐く。
その顔には紛れも無い苦笑が浮かんでいて。

「一美さん、本当に強引なんですから……」

そう呟いて、涼人は自分達を半ば無理矢理泊まらせた一美の事を考える。
親達は親達で積もる話があるのか、まだ酒盛りを続けていて。
微かに聞こえて来るその喧騒をBGMに涼人がつらつらと考え事をしていると、突然ノックの音が響いた。

「? はい、どちら様ですか?」
「え、えっと、里緒……です……」
「ああ、里緒さん? いいよ、入って」

ノックの音に涼人が答えると、扉の向こうから里緒の声が返って来る。
その声を聞いて涼人が許可を出すと、里緒が部屋の中に入って来た。

「里緒さん、どうかし……、その格好……、サンタさん?」
「〜っ!」

そう涼人が半ば呆気に取られて言うと、途端に里緒は真っ赤になる。
しかし、ミニスカサンタ姿の里緒は急に顔を上げ、口を開いた。

「え、えっと……プレゼント、ありがとう」
「あ、あれ? ……ああ、もう付けてくれてるんだ?」

そう里緒から言われ、また右手首に光るブレスレットに気付き、涼人はくすり、と微笑む。
クリスマスプレゼントとして里緒にブレスレットを、一美にネックレスを贈っていたから。
……普通好きな異性に贈るならネックレスだと思うのだが、ここでブレスレットを贈るのは涼人らしいと言えばらしいが。

「そ、それでね! 私もプレゼント、あげようと思って!」
「あ、そ、そうなんだ。……でも、何を? 里緒さん、何も持ってないみたいだけど」

そう続けて里緒が言い、涼人はそんな里緒が両手を胸の前で組んでいるのを見て、首を傾げる。
すると、里緒は口を開き……、

「え、えっとね!? プレゼントは、その……、私なの!」
「……はい?」

顔を真っ赤にしてそう叫んだ里緒に、涼人は呆気に取られる。
しかし、すぐに気を取り直すと、里緒を怒鳴り付けた。

「里緒さん、何考えてるのさ! そう言う事は好きな人と」
「してるよ! 私が好きなのは涼人君だもん!」
「……はい?」

そう、里緒を怒鳴りつける涼人だったが、その里緒の言葉に、また呆気に取られる。
……そして、急にくすくすと笑い出すと、思い切り里緒を抱き締めた。

「きゃっ!?」
「……何だ。だったらもっと早く里緒さんに好きって言えば良かった!」






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