恋するキャットシーフFinal〜猫は、もう一度〜第10話
シチュエーション


「……どうしてよ……」
「……」

涼人から拳銃を突き付けられ、文音は思わず1歩2歩と後ずさる。
しかし、すぐに気を取り直して涼人を睨み返すと、そのまま口を開いた。

「どうして今ここにアンタがいるのよ! あのタイミングで場所をリークすれば、今日中には踏み込めない。
最速でも突入して来るのは明日の朝のはずなのに……!」
「……へえ」

その文音の叫びに、涼人は軽く目を見開き、驚いたような表情をする。
そして、感心するかのように大きく溜息を吐くと、涼人は口を開いた。

「君の計算は間違ってないよ。それどころかむしろこっちが呆れる程正確だ。
……でもね、君は1つだけ忘れているよ、高橋文音」
「なん……ですって……!?」

そう言われ、文音は思わず表情を歪め、身構える。
そんな文音に油断無く拳銃を構えながら、涼人は続けた。

「……別に礼状を取らなくても突入は出来るし、あなた達を捕らえられる。
……君は、それを忘れていたんだ」
「っ……!」

そう言われ、文音は限界まで目を見開く。
……そして、文音は諦めたように1つ大きな溜息を吐くと、両手を上げた。

「……降参よ。アンタの娘は、そこのドアの向こうの部屋に寝かせてあるわ」
「渚緒……!」

そう文音に言われて、涼人は一瞬だけそのドアに視線を送る。
……それはつまり、その瞬間文音から注意が逸れた事を意味していて。
その隙を突き、文音は懐に隠してあった拳銃を取り出し……、

「喰らいなさいっ!」
「―――っ!」

……そして、銃声が響いた。

一方、その頃。
血の海となっている大部屋に、シャルルは少し青い顔をしながら口を開いた。

「……す、凄いですね……」
「……うん。ここまでりょーとが荒れ狂ったの、私も初めて見たよ……」

そのシャルルの言葉に、マリアンヌも少し蒼い顔をしながら頷く。
突入後の涼人は、不意打ちでまず2人を撃ち倒し、銃撃戦になっても怖い程の活躍をしていて。

「りょーと、本当になおちゃんの事溺愛してるから……」
「……俺、絶対に警視を本気で怒らせないようにします……」

そう呟きながら、シャルルとマリアンヌは銃撃戦の時の涼人を思い出して身震いする。
銃撃戦の最中ににこにこ笑っているだけで十分におかしいのだが、その目が全く笑っていないのならなおさらで。
そして、変なオーラを出しながら44マグナムを撃ちまくる涼人は、本当に怖くて。

「……警視を本気で怒らせたら、こうなるんですね……」
「そうだね……」

そう言いながら、シャルルとマリアンヌが溜息を吐くと、急にシャルルは顔を上げる。
そして、怪訝そうな表情を浮かべながら、マリアンヌに向かって口を開いた。

「……先輩、今、何か聞こえませんでしたか?」
「何が?」
「……何か、銃声みたいな……、警視が入った部屋から聞こえたような……」

そう言ってさっき涼人が入って行った部屋に入ろうとするシャルルを、マリアンヌは慌てて止める。
そして、慌て続けながらシャルルに向かって口を開いた。

「止めておいた方がいいよ、シャルルん! りょーとが来るなって言ってたでしょ?」
「……ぅ……」

そう言われて、シャルルは蒼い顔をして動きを止める。
涼人が1人で奥の部屋に行くと言い出した時、当然反発もあった。
しかし、娘を自分の手で助け出したいと言うのは理解出来るし、何より涼人の笑顔が怖すぎて。
その恐怖はシャルルの動きを止めるのに十分であった。

「……痛ぅ……」

撃たれた胸を押さえながら、涼人は大きく息を吐く。
そして息も絶え絶えになっている里緒に近付くと、四苦八苦しながらその身体を抱き起こした。

「里緒、里緒!」
「ぅ……ぁ……?」

ゆさゆさと里緒を揺さぶると、里緒はゆっくりと目を開ける。
そして、涼人の姿を見つけると、みるみるうちに里緒の目に涙が浮かんだ。

「りょ……と……涼人ぉ……!」
「っぐ……!?」

急に飛び込まれ、思い切りさっき撃たれた場所を圧迫され、涼人は顔を顰める。
しかし、里緒はそれを半ば無視して涼人の胸に顔を埋めて。

「わた……わたしっ……!」
「里緒……、大丈夫、大丈夫だよ」

そのまま無き続ける里緒を優しく抱き締めて、涼人は慰めるように言う。
そして、里緒の髪を撫でながら、続けた。

「大丈夫だよ、大丈夫。……ほら、早く服着て? 一緒に里緒の所、行こ?」
「……う、うん……」

そう言って涼人が里緒をあやすと、里緒はようやく泣き止む。
そして、ぎゅっと自分の身体を抱き締めながらその場にへたり込むと、口を開いた。

「う、後ろ向いて!」
「……ん、分かった」

その里緒の叫びに、涼人は少し苦笑を浮かべながら車椅子を後ろに旋回させる。
そしてそのまま、里緒に向かって口を開いた。

「……別にいいじゃないか。いつも見てるんだし」
「そ、それでも恥ずかしいの!」

その涼人の言葉に、慌てているような声色で里緒が言い返す。
その顔はきっと真っ赤なんだろうなと考えて、涼人は苦笑を浮かべた。

着替え終わった里緒と一緒に、涼人は小部屋のドアを開ける。
するとそこには、ベッドの上ですやすやと眠る渚緒の姿があった。

「渚緒……!」
「待って、里緒。……大丈夫。ただ眠ってるだけみたいだ」

すぐに駆け寄ろうとする里緒を制して、涼人は渚緒の身体を調べる。
そして、少なくとも調べた限りでは渚緒の身体に何の異常も無いのを確かめ、安堵の息を吐いた。

「……良かった……」
「……うん、本当に」

その涼人の言葉を聞いて思わずその場にへたり込む里緒。
そんな里緒に一度微笑みかけると、涼人は真剣な表情になって口を開いた。

「……里緒、しばらくこの部屋に隠れてて。一時的に屋敷内の警備を薄くするから。
……その隙に脱出する事、出来る?」
「……んー……」

そう涼人が言うと、里緒は軽くその場で屈伸をする。
そして、涼人に向かって満面の笑みを浮かべた。

「……うん、大丈夫!」
「……良かった。じゃあ、家で会おう?」

そう言うと、涼人は里緒の額に軽く口付ける。
急にそんな事をされて、里緒は真っ赤になって額を押さえた。

「り、りり、涼人!?」
「ふふっ、里緒、顔赤いよ?」

真っ赤になっている里緒に微笑みかけると、涼人は里緒を抱き上げる。
そして、真っ赤になったままの里緒に向かって、口を開いた。

「30分後ぐらいから30分ぐらい、警備を薄くさせるから、その隙に脱出して。……分かった?」
「う、ううううう〜!」

そう涼人が言うと、里緒は真っ赤になったまま、それでも頷く。
そして、涼人はそのまま唸り出した里緒を見て微笑むと、小部屋を出た。

小部屋から出ると、涼人は渚緒を膝の上に乗せたまま無線を取り出す。
そして、涼人はそのまま無線のスイッチを入れ、大山に連絡を取った。

「大山のおじさん、高原です。……渚緒を、保護しました」
『おお、そうか!』

そう涼人が言うと大山は声を弾ませ、無線が届いた他の警官達も歓声を上げる。
そんな警官達に、涼人はそのまま続けた。

「……突入直後、高橋天山の娘、文音に遭遇、銃撃戦の結果これを射殺。
その後、その部屋に隠し部屋を発見。その中に居た渚緒を保護しました」
『射殺……そう、か……」

その涼人の報告を受け、大山は悲痛そうな声を上げる、
そして、そんな大山に、涼人はさらに報告を続けた。

「それと、渚緒が睡眠薬を使用された恐れがありますので、救急車の要請を」
『ああ、分かった。……お前は大丈夫か?』

そんな涼人の翻刻を受け、大山は涼人を心配するように声をかける。
すると、涼人は急に何かを思い出したように胸を押さえて、口を開いた。

「……そう言えば、旨に一発喰らってました。チョッキは抜いてないですけど、一応病院行っておくべきですかね?」
『当たり前だ!』

そう涼人があっけらかん、と言うと、大山は全力で怒鳴り付ける。
そんな大山に苦笑して、涼人はさらに続けた。

「救急車の追加は1つでいいですよ、渚緒のに同乗しますから。
……それと、ある程度の人員を外に配置してください、あれだけ銃撃戦したんだ、野次馬が凄そうです」
『ああ、分かった。しかし、いいのか? 屋内が手薄になるが……』

その涼人の言葉に頷き、大山は1つ疑問が生じたのか、声色に疑問の色が混じる。
そして言われたその言葉に、涼人は苦笑を浮かべた。

「一体何の心配をしているんですか? 外に配置する際にまだ調べてない部屋を虱潰しにすればいいじゃないですか」
『……それもそうだな』

そう涼人が苦笑を隠さずに言うと、大山も苦笑しながら頷いた。

「りょーと! 無事!?」
「警視!」
「しっ!」

涼人の姿を見るなりそう叫んで駆け寄って来るシャルルとマリアンヌ。
そんな2人を涼人は口元に人差し指を当てながら止め、口を開いた。

「……静かに。渚緒をこの環境で目覚めさせたくは無いし」
「「……あ……」」

そういわれてシャルルとマリアンヌがあたりを見回すと、血の海の室内が映る。
そんなそこら辺のスプラッタ映画も目じゃない程の光景を子供に見せたい訳が無く。

「……ですね」
「……そだね、トラウマになっちゃうかも……」

涼人の言葉を理解し、シャルルとマリアンヌはそう言って互いに頷く。
そんな2人に、涼人は1つ頷くと軽く胸を押さえ、口を開いた。

「さ、早く出ましょう。渚緒が起きる前に」

その言葉に押されるように2人は道をあける。
そして、左右にシャルルとマリアンヌを従えて部屋を出ようとする涼人に、大山が声をかけた。

「涼人、少しいいか?」
「……何ですか?」

大山に声をかけられ、涼人は早く行きたいんですけど、とでも言いたげな視線を送る。
そんな涼人に、大山は少したじろぎながらも口を開いた。

「……奥の部屋と隠し部屋、他に隠れてる奴がいるかチェックしたか?」
「もちろん。トリプルチェックしました」

そう自信たっぷりに答える涼人に、大山は1度大きく頷く。
そして、朗らかな笑みを浮かべながら、口を開いた。

「そうか、それならいいんだ。……もうすぐ救急車が来るはずだ、外に出ておいた方がいいだろう」
「ええ、分かってます」

そう言った大山に、涼人は1つ頷いて、今度こそ部屋を出て行った。

「……良く、こんな傷であんなにあっけらかん、としてたね?」
「……あ、あはは……」

病院で、そう心底呆れたように言う医師に、涼人は思わず苦笑を浮かべる。
痛みを発していた涼人の左胸、そこの肋骨の一本には、罅が入っていて。

「それよりも、渚緒は、渚緒は大丈夫なんですか!?」
「あの子はただ眠ってるだけだね。今すぐ連れ帰ってくれてもいいくらいだよ」

そう、苦笑を消して涼人は聞くが、医師はそんな涼人にそう返す。
その医師の言葉に、涼人はほっと安堵の溜息を吐いた。

「……良かった……」
「こっちとしては、そんな心配をしてる君の方が重傷だし、入院もさせたいくらいなんだけどね?」

そう安堵の溜息を吐く涼人に、医師は呆れたような声を上げる。
そんな医師に苦笑を浮かべて、涼人は口を開いた。

「申し訳ありませんが、恐らく半月後までにはフランスに帰らなければいけないと思いますので」
「おや、そうなのかい」

そう言った涼人に、医師はそう声を上げる。
普通ならば発砲した事が問題になりそうな物だが、唯一先制で発砲した涼人は日本の警察官ではない。
それ以外は全て応戦で、それ以前にべレッタとカラシニコフを乱射して来る相手に撃ち返した所で、大した問題になる訳が無く。

「そう言う事なら、2,3ヶ月はあまり胸に衝撃が行かないようにしないといけないよ?
こんどは折れて、肺や心臓に刺さるかも知れないから」
「……肝に銘じておきます」

そして、真剣な表情で医師が言ったその言葉に、涼人は冷汗を流しながら頷く。
そんな涼人を見て、医師は1つ大きく頷くと、席を立った。

「……それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。今日は戦争だからね」
「……すみません」

その言葉が、涼人達が撃ち倒した『組織』の男達の手当てに忙しいと言っている事に、涼人は気付く。
そして、涼人は心の底から頭を下げた。






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