恋するキャットシーフFinal〜猫は、もう一度〜第11話
シチュエーション


「……」
「おかえり、里緒」

病院からまだ眠っている渚緒を連れて涼人がホテルの部屋に入ると、それとほぼ同時に里緒が帰って来る。
しかし、里緒は涼人が声をかけてもずっと何かを考えていて。

「……里緒?」
「ねえ、涼人。……私、本当にこのまま自首しなくて、いいのかなぁ……?」

そんな里緒に涼人がもう一度声をかけると、里緒はそう涼人に向かって呟く。
その言葉を聞いて、涼人は1度大きく溜息を吐くと、里緒を抱き締めた。

「……ぁ……」
「里緒。僕は5年前からずっと言ってるよね? このままでいいって、幸せになっていいって。
……確かに里緒がした事は罪かもしれない。でも、僕は許すよ。
世界中のみんなが、誰も許さなくても、僕だけは許し続けるよ」

ぎゅっと里緒を抱き締めて、涼人はその背中を撫でながら呟く。
そして、身体を離すと涼人は里緒の腕に眠っている渚緒を渡した。

「……それに、今は渚緒もいる。今里緒が自首したら、僕だけじゃなくて渚緒も悲しむよ?」
「っ、あぁっ……!」

そう涼人が言うと、里緒は渚緒を抱き締めて嗚咽を漏らす。
そんな里緒に微笑みかけながら、涼人は口を開いた。

「……さ、今日はもう寝よう? もう遅いんだしさ」
「……うん……」

そう涼人に言われ、里緒はこくり、と頷くとベッドの方へ向かう。
そんな里緒を見送って、涼人はほっと安堵の溜息を吐くと、呟いた。

「……ごめんね、里緒。でも、僕はずっと里緒と一緒にいたいんだ。どんな手を使っても」

そう呟いて、涼人は里緒の後を追いかけた。


……そして、半月後。

「渚緒、忘れ物はもう無い?」
「ないよー!」

きゃっきゃっとはしゃぎながら膝の上によじ登って来ようとする渚緒を抱き上げて涼人がそう聞くと、渚緒はそう元気に答える。
そんな渚緒を渚緒のお気に入りの場所である膝の上に乗せて、涼人は里緒に向かって微笑みかけた。

「さ、行こう、里緒」
「うんっ!」

その涼人の言葉に里緒は微笑を浮かべながら答えて、涼人の横に並ぶ。
そんな、どこからどう見ても一家団欒の光景にしか見えない3人を見ながら、シャルルはマリアンヌに向かって囁きかけた。

「……俺達、お邪魔虫みたいですよね……」
「……だね。本当はりょーとが公私混同してるんだけど……」

シャルルから囁かれ、マリアンヌは心の底からの苦笑を浮かべてシャルルの言葉に頷く。
そんなマリアンヌ達に、涼人は急に振り向いて声をかけた。

「……シャルル君、マリアンヌさん、何か言った?」
「「い、いいえ!」」

急にそう涼人から声をかけられ、シャルルもマリアンヌも慌てて姿勢を正しながらそう答える。
それに軽く頷くと、涼人は視線を前に戻して、口を開いた。

「お見送りありがとうございます、大山のおじさん」
「何、これくらいは誰でもやるさ」

その涼人の言葉に、大山はにやり、と笑いながらそう答える。
そんな大山に涼人は思わずつられるように笑って……、

「……佐倉さん、一美さんは、やっぱり……?」
「……ああ、もしも当たっていたら、産むそうだ」

……急に表情を真剣な物に変えると、そう同じく見送りに来ていた武巳に向かって聞く。
その言葉に、武巳は大きく溜息を吐きながら頷いた。

「……どうして……、僕には、分かりませんよ」
「俺も分からないさ。堕ろせるギリギリの時点でDNA検査なり何なりして、あの男の子なら産む、ならまだ分からなくもないんだが……」

そう頷いた武巳に涼人が首を傾げながら言うと、武巳も頷く。
武巳と涼人には、もしもあの時起こった事の結果妊娠していたら、高畑の子かどうかすら調べず、産んで育てると言った一美の言葉が理解できなかったから。

「……私には、少し分かるな……」
「里緒……!?」

そうしていると、急に里緒がそう言い、涼人は驚いて里緒の方を見る。
すると、里緒は少し斜に俯き、頬を赤く染めながら、ゆっくりと口を開いた。

「私なら、もしも涼人と初めて、その、した後涼人が死んじゃって、自分が妊娠してるって分かったら、絶対産むもん。
涼人の事をずっと好きでいたいって思うし、涼人がこの世にいたって事の証明にしたいから」
「……それは……」

そう言った里緒に、涼人は少し気恥ずかしそうに頬を掻くと、考え込むような仕草をする。
そして、じっと考え込みながら、ゆっくりと呟いた。

「……と、言う事は、高畑さんとは、したって事か。そう考えないとまず産もうとは思わないはずだし」
「ああ。『最初は高畑さんとした』、そう一美は言ってたよ」
「……そうですか。じゃあ、そう言う事なのかな……」

その涼人の呟きに付け加えるように武巳が言うと、涼人は大きく頷く。
そして、涼人は考え込むような仕草を続けながら、一言一言呟くように言った。

「多分、一美さんはもし子供が生まれたとしたら高畑さんの間に出来た子供だと信じたいんだと思います。
だから、検査も受けないし、受けたくない。……多分、半分ぐらい一美さんの心は壊れかけているのかも。
それを自分と好きな相手との間に出来た子で繋ぎとめて置きたい。そう、心の奥底で考えて、いるのかも知れません」
「……なら、勝手に検査はしない方がいいのか……」

そう涼人が言うと、武巳は真剣な表情になってそう聞く。
その武巳の言葉に、涼人はこくり、と大きく頷いた。

「ええ。幸い、一美さんの血液型はOで、高畑さんも、『組織』のメンバーもO型はいません。
この先何らかの理由で生まれた子供に輸血の必要があったとしても、それでどうにかなると言う事はありませんよ。それに……」
「それに……?」

そう言って、涼人は何故かふっ、と微笑んで俯く。
そんな涼人に少しむっとしたような表情を浮かべながら武巳は聞き……、

「まだ一美さんが妊娠すると決まった訳でも無いんですから、今まで僕が言った事はもしもの時の事だと考えておいた方がいいですよ」
「……そうだね」

続けた涼人の言葉に、武巳は頷いた。






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