シーフイントラップ プロローグ
シチュエーション


西暦2302年。
この年、世界中にあるひとつの情報が駆け巡った。



―――ありとあらゆる富と栄光を与える、願いを叶える宝石が存在する。



その情報を得たものは、誰もが最初に苦笑し、何を馬鹿げた事をとまともに取り合おうとはしなかった。
それはそうだ、願いをかなえる宝石などファンタジーでしかない。
現に、噂こそ広まったものの、その宝石の存在は現実に確認されなかった。
一部の物好きやトレジャーハンターによる捜索が行われたものの、やはり有力な情報は出てこない。
勿論、仮にではあるが、そんな力を持つ宝石が本当に存在しているのならば所有者が名乗りでないのは当たり前。
見つかるはずもない。
そして月日は流れ、願いを叶える宝石の存在は人々から忘れ去られようとしていた。
ある一人の男の発言がメディアで流されるまでは。

『フォーチュン。その宝石を私はそう呼んでいます』

西暦2332年。
世界的大富豪である束前龍三の発言から、数年前に下火になったはずの噂が再燃した。
この人物は一代で巨万の富を築き上げたとされる稀代の成り上がりと言われているが、元々はトレジャーハンターだった。
そんな彼が急に財界で名を馳せ始めたのがちょうど三十年前。
すなわち、願いを叶える宝石の噂が流れていた頃だ。
この符合はただの偶然なのか。
ひょっとしたら、束前龍三は願いを叶える宝石を手にし、富と栄光を手に入れたのではないか。
どこからともなく流れた噂を人々は語り合う。
そんな中、あるテレビ番組に出演した龍三がとある発言をした。
自分の成功の全ては、トレジャーハンター時代に見つけたある宝石のおかげなのだと。

願いを叶える宝石『フォーチュン』

その宝石の名前は一晩にして世界中に広まった。
当然、全員が全員こんな胡散臭い話を信じたわけではない。
しかし、龍三が躍進したのは事実であり、彼が宝石を珍しい所有しているのも事実である。
だが、だからといって彼から強引にフォーチュンを奪うのは不可能だった。
世界でも五指に入る財力と権力によって護られているその宝石に手を出すなど容易なことではない。
そもそも、フォーチュンは存在こそ龍三が明言したものの、実物を見たものはどこにもいないのだ。

それでも、この願いを叶える宝石を求める人間は多数存在した。
何せ噂が本当ならば、フォーチュンは栄光と富を与えてくれるのだ。
欲しいと思わない道理がない。
ある者は私欲のため、ある者は浪漫のため、ある者は己の存在を誇示するため、またある者は復讐のため。
世界中の人間がフォーチュンの奪取を目指して動き出した。
しかし、前述の通りかの宝石は世界でも五指に入る財力と権力によって護られている。
保管場所と思われる束前の屋敷に侵入するどころか、彼の私有地に入ることさえ困難であった。
とある富豪に雇われた武装集団などは、束前の私有地に入った瞬間
レーザー銃の一斉ポイントを受けて何も出来ずに追い返されたくらいなのだから。
しかし、ここまでの厳重な警備は逆を言えばフォーチュンの存在を肯定しているとも言えた。
となると宝石を狙う者としては諦めきれるはずがない。
何か穴はないのか、屋敷に侵入する方法はないのか。
悶々と欲深き者達が苦悩していたその時、ひとつの情報が舞い込んだ。
なんと、束前の屋敷に侵入成功した者が現れたというのだ。

その者の名前は『怪盗ラブジュエル』

名前の通り、その者は宝石を専門に狙う女性怪盗だった。
だが、この人物はそれなりに名前が売れていたとはいえ、所詮は単独犯である。
とてもではないが、束前の屋敷どころか私有地にも侵入できるほどの腕があるとは思えない。
しかし、彼女が屋敷に侵入したという証拠は誰であろう、束前龍三本人が提出している。
これでは疑う余地などない。
今まで鉄壁を誇っていた護りが突破されたことを暴露するメリットなどありはしないのだから。
とはいえ、怪盗ラブジュエルがフォーチュンの奪取に成功したのかといえばそれは否だった。
私有地内部がそうであるように、屋敷の内部もセキュリティは強固である。
あっという間に捕縛された彼女は、丸裸にひん剥かれた姿で警察に突き出された、というのが事の顛末であった。
ただの偶然かまぐれかそれとも奇跡か。
怪盗ラブジュエルの一件は関係者の間では物議を醸し出すことになる。
何せ肝心の彼女が事件のあった夜のことをまるで話そうとはしなかったのだ。
余程の屈辱を受けたのか、顔を真っ赤にして黙秘を続ける元怪盗はそのまま牢獄送りとなり、一旦この件は終了と相成った。

そしてこの件が再び日を浴びたのは半年後のことであった。
この半年の間も、幾人もの侵入者が束前の屋敷を目指して露と消えていっていた。
そんな中、奇妙なデータが関係者の間を流れる。
不法侵入してくるものは誰であっても私有地境界線付近で容赦なく追い返す束前だが、例外が存在しているのだ。
それは女怪盗と呼ばれる者達に対する対応である。
単独、あるいは複数犯。
そのどちらであっても、性別が女性で世間的に怪盗と呼ばれている者であれば、何故か屋敷までは侵入されている。

更にアンダーグラウンドではあるが、とある動画がネット上に流れ始める。
それはトラップにかかり、裸に剥かれ、辱められる女性の姿を映したものだった。
これだけならば裏ビデオにいくらでも存在するが、問題は主演女優。
数本アップされたその全てに、今まで束前屋敷に侵入し、そして捕縛された女性怪盗達が映っていたのだ。
動画のタイトルは『シーフイントラップ』
ここまで情報が揃えば結論を出すのは容易い。
すなわち、束前龍三は意図的に女性怪盗のみを屋敷まで通し、その上で彼女達を捕縛するまでの過程を録画。
そしてネット上に流しているのだ。

当然のことながら、この束前の所業に激怒したのは世界中の女性怪盗である。
特に、彼の本拠地である日本における反応は顕著であった。
公然と、あるいは秘密裏に数多くの女性怪盗達が束前の鼻を明かそうと屋敷への侵入を試みた。
だが、結果は侵入側の全戦全敗。
十数人にも及ぶ有名無名の女怪盗達は、その全員が屋敷から無事に帰還することができなかったのだ。
勿論、その後の彼女らの末路は悲惨なものである。
直接的には文字通り丸裸にされて警察に突き出され。
間接的には自身の痴態を収められた動画がネット上に晒されるのだから。
だが、それでも闇夜に生きる女性達は諦めはしなかった。
自分こそが束前龍三からフォーチュンを盗む者である。
その誓いの元に、今日も美しき怪盗たちは宝石を求めて淫らな罠の待つ屋敷へと吸い寄せられる。

現在、西暦2333年。
未だ、フォーチュンを見た者はいない。










「さあ、今宵も楽しませてくれ……フォーチュンの光に誘われし美しき獲物たちよ」






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