怪盗ジンジャーブレッド 前編
シチュエーション


「じゃーねお姉さんたち、予告どおり『ファラオの嘆き』はこの怪盗ジンジャーブレッドが頂いていくよ!」

半ズボンとシルクハットという衣装に身を包んだ少年は展示台の上に降り立つと、挑発するように女性警備隊員たちに向かって笑顔で舌を出した。
その手には数億の価値があると言われるサファイア、『ファラオの嘆き』が握られていた。

「くっ……相手はしょせん子供よ、捕まえなさい!」

上官と思しき女性の号令と共に、少年に向かって数人の警備隊員が飛び掛ろうとするが、それよりも少年が警備隊へと目にも留まらぬスピードで駆け出す方が早かった。

「ふふーん、捕まえられるものならやってみたら?」

楽しそうにはしゃぎながら、まるで弄ぶかのように隊員たちの隙間を縫いながら目にも留まらぬスピードで駆け巡る。

「きゃぁっ!?」
「えーい、このっ」
「待ちなさーい!」

警備隊員たちは必死で目の前の少年を捕らえようと手を伸ばすが、まるで動きが全て読まれているかのようにすべての攻撃をするりとかわされていく。

「えーい、何を手間取っているの、さっさとあいつに手錠を……!」

見かねた上官が苛立った声で叫ぶと手錠を取り出そうと腰のホルスターに手をやるが、その手は虚しく空を切る。

「え……?」

戸惑って自分の下半身に目をやると、穿いていたはずのスカートが手錠と共にずり下がり、足首の周りまで落ちていた。

「な――きゃぁぁっ!?」

同時に、大勢の黄色い悲鳴が辺りでこだまする。
警備隊員たちのスカートが、全て上官と同様にファスナーを全開に開けられてずり落ちていたのだ。

「ばいばーい、パンツ丸見えのお姉さんたち♪」

慌てふためく警備隊員たちを見てけらけらと笑いながら、怪盗は博物館の廊下を走り去った。

「やれやれ、簡単すぎてつまんないなー」

あとは博物館の中庭にある植物園さえ抜ければ、アジトへの逃走経路は安全に確保できている。
見たところ、植物園には特に警備隊が待ち構えている気配はない(もっとも、待ち構えられていたところで自分の脚があれば逃げ切るのは容易いだろうが)

「それじゃ、真っ直ぐに突っ切っちゃうとしようかな?」

直線距離で一気に駆け抜けようとジンジャーブレッドが土に脚をついた瞬間。
突然何かにつまづき、その場に転んでしまった。

「うわぁっ!? もう、何だよ一体……」

木の根っこにでも躓いたのだろうか、そう思って足元に目を落とした少年は愕然とした表情を浮かべた。
地面から伸びている植物のツタが、まるで意思を持つかのように自分の右足首にしっかりと絡み付いていたのだ。

「しまった――罠か!」

慌ててナイフを取り出してツタを切ろうとするが、まるで強固なワイヤーのように傷一つつかない。
夢中になっているうちに、いつの間にかもう一本のツタが地面から伸び、残った左の脚も同様に拘束してしまう。

「な……!」

左足の戒めを解こうともがくと、今度は上からツタが伸びてきて左右の手に絡みつき、少年の全身を大の字に固定してしまった。
ナイフも手から離れて地面に落ちる。

「くっ……! この、放せよぉ!」

もはや脱出する術を持たないジンジャーブレッドが駄々をこねるように叫ぶと、植物の陰から人影が現れた。

「ふふふ、無様なものね、怪盗ジンジャーブレッド。自慢のスピードを封じられたらただの男の子かしら?」

すらっとした体型に、女性用のスーツを着こなした長髪の女性。
女性は、見下すような微笑みを浮かべながらジンジャーブレッドの目の前に近寄った。

「う、うるさいっ……! 罠を張るなんて卑怯だぞ! 正々堂々と勝負しろっ」
「あら、罠も立派な作戦の一つよ。この怪盗ラヴィアン・ローズが特別に品種改良した【絡みつく蔦】はお気に召したかしら?」

その自己紹介にジンジャーブレッドは耳を疑った。

「怪盗……? なんで同じ怪盗なのにボクをこんな目にあわせるんだよっ」
「同業者ならなおのことライバルは潰すのが当然でしょ? 特に今回の『ファラオの嘆き』、私も狙ってたのよね……」

ラヴィアン・ローズはすっと右手を伸ばすとジンジャーブレッドの懐を探り、目当ての宝石を取り出した。

「というわけでこれは私が頂いていくわね? そのツタは自力での脱出は不可能だから、警備の人が駆けつけるまでしばらくそうしていなさい」
「ま……待てよ! それはボクの獲物だぞ! 返せよおばさん!」

指一本も動かせない状態でせめてもの反抗として叫ぶ。
その少年の言葉に、ぴくりとラヴィアン・ローズが反応した。

「ふぅん……今日は機嫌が良いからこのまま大人しく帰ろうかと思ってたんだけど……人をおばさん呼ばわりするようないけない子には、お仕置きが必要かしら?」

ぱちんと指を鳴らすと、少年の脚を拘束していた蔦がまるで意思を持ったかのようにうねうねと動き出し、太腿を上っていく。

「や……この、やめろよ、変態っ……!」

自らの下半身を這い回る感触に震えつつも、少年はラヴィアン・ローズを気丈に睨みつけた。

「あらあら、いつまでその強気が持つのかしらね? この蔦が拘束するだけのものだとは思わないでね?」
「なっ、どういう意味――っ!」

するり、と蔦が半ズボンの裾から侵入すると、一気にズボンとパンツの生地を引きちぎってしまった。

「やぁっ……!?」
「くす、なかなか可愛いもの持ってるじゃない。まだ生えてないのね」
「くっ……み、見るなぁ……!」

ジンジャーブレッドは必死にもがいて下半身を隠そうとするが、両手両足を拘束している蔦はびくともしない。
結果、そのすらりとした両足も、その付け根に生えている少年らしいシンボルも、全てが目の前の女性にさらけ出されてしまっていた。






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