シチュエーション
![]() パンッ。 その乾いた発砲音を怪盗少女の耳が捉えたのはひとえに集中の賜物だったと言える。 次に聞こえたのは空気を切り裂く飛来音。 椿は反射ともいえる反応で身体を逸らし、その動きに少し遅れて発育のよすぎる乳房がブルンと上に弾む。 (弾丸!?) ―――ヒュンッ! つい先程まで自分の頭部があった場所を高速で通り過ぎる小さな影を、ナイトリンクスの目は捉えていた。 咄嗟のことだったので細部までは見えなかったが、ピストルの弾というには少々大きかった気がする。 (そ、狙撃ッ!?) チラリと観客席に目を向けると、柵の合間から突き出た大きめの銃口が見える。 そしてその奥には、いつの間にか用意されていたライフル型の銃を構える複数の男の姿があった。 何かが飛んできた方向と状況を鑑みれば、答えは一つしかない。 自分は、今撃たれたのだ。 (……落ち着け!当たったわけじゃないっ) 突如として襲い掛かってきた危険に、早鐘のように高鳴る心臓。 それを押さえ込むように、椿はGカップのバスト越しに左胸へと掌を当てる。 冷静に考えて、命の危険があることを敵がやってくるとは思えない。 実際、自分の反射神経が優れたものであるとはいえ、発射後に回避できたのだ。 そうなると、飛んできたモノの速度自体は本物の銃には及ばない。 反対側の壁を見れば、着弾した何かは粉々に砕け散っていた。 つまり、発射された何かの硬度もそれほど高くはないということになる。 更に言えば、男達が構えている銃もどこか変だ。 発射口が大きいし、作りも雑で本物というよりは大きなおもちゃを改造したものに見える。 (一体今のは……) そういぶかしむのと同時に、先程の発砲音が再び聞こえてくる。 ただし、今度は一発ではなかった。 四度の乾いた音と、それに続く飛来音。 「また!?」 口では驚きの声を上げたものの、二度目となると怪盗少女の対応も落ち着きが混じっていた。 初弾をかわせたという安心感もあって、一発目、二発目と余裕を持って回避する。 見れば、飛んでくるのはピンポン玉のような形と大きさをしたものだった。 だが、観察に意識を割きすぎたのがまずかったのだろう。 三発目をかわした瞬間に、少し体勢が崩れて四発目をかわすのが難しくなってしまう。 (なら!) 回避は難しいと一瞬で判断した椿は、飛来物を迎撃することに決める。 拳にはプロテクターを着けているし、銃弾の速度を考えれば叩き落せると判断したのだ。 果たして、少女の身体を捉えんとしていた玉は華奢な腕から繰り出された右フックによって叩き落された。 否、厳密に言えば叩き落されたというには語弊がある。 何故なら、拳に接触した玉はあっけなく破裂してしまったのだから。 (何これ。思ってたよりもずっともろい……?) 硬度で言えば、プラスチックよりも下だろう。 この硬さと速度なら、仮に身体に直撃したところでほとんどダメージなどないに違いない。 精々が、ピンポン玉を思い切りぶつけられた程度といったところか。 これなら、よほど当たり所が悪くない限りはダメージにはならない。 一体何が狙いなのか、馬鹿にされているのか。 疑問と怒りが半々といった少女怪盗は、しかし次の瞬間己の身に起きた異常に気がついた。 「えっ?」 ドロッ…… 自身の技とあわせれば、コンクリートすらも砕くナックルガードの表面が少し溶けていた。 よく見ると、何か白い液体が溶けた部分に付着している。 「これがこのトラップルームのメインイベント、射的橋渡りだ。 見ての通り、発射される弾丸自体に殺傷力はない。だが気をつけたまえ、その中には溶解液が入っているからね」 「よ、溶解液っ!?」 「ああ、心配しなくてもいい。別に『人体は』溶かしたりはしない」 からかうように束前から説明された状況に、ホッと息を吐く怪盗少女。 だが、そのすぐ後に訪れたのは激しい怒りだった。 要するに、銃を構えている男達の目的は自分を裸に剥いて辱めることなのだ。 そして、この逃げ場のない細い棒の上で羞恥にオロオロする姿を見て楽しむつもりなのだろう。 そんなこと、冗談ではない。 (そう思い通りに行くと思ったら大間違いなんだから!) なるほど確かにこの狭い道で飛来する銃弾をかわし続けるのは難しいかもしれない。 普通ならば、足場から落ちずに前に進むだけで手一杯なのだ。 それに加えて他方向から飛んでくる弾丸に被弾しないなど、無茶といっても過言ではない。 しかし、彼らはナイトリンクスの実力を甘く見ている。 見た限り、用意された銃の数は五。 つまり、同時には多くて五発までしか弾丸は飛んでこないということだ。 (それならいける、問題ないっ) 反射神経と動体視力には自信がある。 すなわち、この状況において自分は絶対的なアドバンテージを持っているのだ。 勿論全ての銃弾を回避するのは無理だろう。 だが、それならそれで無理だった分は先程のように叩き割ればよい。 空手で鍛え上げた己の四肢を持ってすれば決して難しいことではないのだから。 服が溶けるのは勿論困るし、場所によっては恥ずかしいが、手足の部分が露出するくらいならば特に問題もない。 あと気をつけるべきことがあるとすれば棒からの落下だが、これもバランスに気をつけていれば大丈夫。 (運が悪かったね、束前龍三!) 彼は仕掛けた罠に絶対の自信があるのだろう。 実際、今までの侵入者達は返り討ちにされてきたのだからその自信は過信ではない。 けれども、何事にも例外は存在するのだ。 この場合は物語の主人公のように、罠を打ち破り、悪を倒す者が。 (私が、そうなってみせる!優理……ミルキーキャットの仇は私が、ナイトリンクスが取ってみせるよ!) 気合を入れなおし、歩を進めるナイトリンクス。 その集中力は今までのそれを更に超え、隙の一分すら見あたらない。 そんな彼女に、邪な悪意のこめられた弾丸が再び迫ってくる。 「やっ!はっ!ふ!」 だが、そのことごとくが狙い通りの場所に命中することはなかった。 ある弾丸は空を切り、またある弾丸は拳に、あるいはスパッツの下に伸びる健康的な美脚に迎撃されていく。 破裂した玉から飛び散る飛沫がたまに怪盗少女のコスチュームを濡らすこともある。 だが、その量は少量であるために、その下の肌を露出させるには至らない。 そうなると、銃を撃っている男達にも焦りが出はじめる。 観客達の不満に、あるいは自分の腕への懐疑に、照準がズレていく。 こうなってくると、ナイトリンクスとしては楽なものだった。 進みこそゆっくりではあるものの、その歩みはまったく危なげないものへとなっていく。 (もう少しで半分ってところかな……?) 椿はもはや余裕の笑みすら漏らしていた。 無論、ここで増長して油断などしたりはしないが、このままであれば向こうの扉にたどり着くのも時間の問題。 それに、もう一つ愉快なのは、主催者権限なのか銃撃に参加している束前の存在だった。 彼も他に習ってこちらへと銃弾を飛ばしているのだが、その腕前は五人の中でも一番悪い。 最初の頃は身体に当たりそうだったのに、今となっては照準自体がズレている。 たまにこちらの足元に飛んでくる玉こそあれど、それは十発に一発がいいところで、そのほとんどは前方の鉄棒に命中していた。 恐らく照準器が壊れたか、意地になっているのだろう。 周りの観客もその下手糞さに呆れ、怒り、代われと囃し立てているようだった。 親友を酷い目にあわせた男が無様な姿を晒している。 そう思うと、不謹慎だとわかっていても笑みがこぼれるのを抑えることが出来ない。 しかし、この時椿は忘れるべきではなかった。 束前龍三という男の悪辣さを。 「っと!」 それは道程的に半分を超えた辺りのことだった。 三発の銃弾がほぼ同時に怪盗少女の胸元、腰、太腿の辺りを狙って飛んでくる。 その時の体勢はやや前傾気味だったが、椿は慌てることなく軽く前方に跳躍してそれをかわした。 着地場所は狭いが、バランスを崩しているわけでもない以上は何も問題はない。 ―――そう思っての行動が、彼女の命取りになった。 「……え?」 ズルリ。 着地の瞬間、確かに踏みしめたはずの鉄製の足場から、靴底がズレる。 それはまるでぬかるんだ泥を踏んだ時のような感覚だった。 横幅が細いとは言え、バランスを崩すような着地はしなかったはず。 なのに現実として足は滑り、空へと浮いた。 (な、なんで―――っ!?) 斜めに傾いていく身体を半ば人事のように自覚する椿の脳裏に閃いたのは束前の銃弾の行方。 彼の射撃は、確かに自分にはほとんど向かってきてはいなかった。 だが、鉄棒には常に当たっていたのだ、それも進行方向である前方にばかり。 そして、弾丸の中には溶解液が―――液体が入っている。 そこまで思い出し、次の刹那には束前の狙いがハッキリとわかった。 彼の目的は最初から足場を濡らすことだったのだ。 溶解液とはいえ、流石に鉄で出来た足場を溶かすことはできない。 だが、濡らすだけなら命中させればそれですむ。 そうすれば、自動的に足場の環境は悪くなり、そこを進む者の妨げになる。 現に、たった今足を滑らせた自分のように。 「あッ!」 両脚が足場から完全に離れ、小柄な身体も宙に投げ出される。 観客席の方から歓声が沸いた。 これでナイトリンクスも一巻の終わりだ、皆そう思ったのだろう。 しかし、すぐさま我に返った少女は諦めなかった。 「くっ!!」 懸命に両手を伸ばし、何とか鉄棒を掴んでぶら下がることに成功する。 足を滑らせたとは言え、その直前まではちゃんとバランスが取れていたことが功を奏したのだろう。 怪盗少女の身体は、かろうじてトリモチ地獄への落下を免れた。 (し、しまった……!) 油断していたつもりはなかった。 だが、結果としてみれば油断していたと言わざるを得ない。 最初安全だったからと、鉄棒に気を配らなかったのは確かなのだから。 もっと気を配っていれば束前の狙いも読めたはずなのに、と椿は歯噛みする。 (とにかく、早く上に上がらないと……!?) 思わぬ失態を犯してしまったとはいえ、まだ終わってはいない。 急いで元の位置に戻ろうと懸垂の要領で両腕に力を込める椿は、しかしその動作を中断せざるをえなかった。 落ちた犬は叩けとばかりに、次々に銃弾が飛来してきたのだ。 「せいっ!んっ!くぅっ!」 これでは防御優先も止むを得ず、足を振り上げて迫り来る弾丸を迎撃する怪盗少女。 しかし、先程までと違い、その表情に余裕はない。 それもそうだろう、鉄棒にぶら下がっている状態では回避もままならない。 となると、選択肢は迎撃しかないのだが、両手が塞がっている以上これも難しかった。 状況的に、足しか使えないのだから。 だが、束前側は最大で同時に五発の弾丸を放つことが出来る。 例え両脚でひとつずつガードできたとしても、単純計算で三発は直撃してしまうことになる。 そのことを射手達も飲み込めたのだろう。 バラバラだった五人の射出タイミングがピタリと揃い、少女の身体を狙った。 「うっ!」 バシャッ!バシャバシャッ! 水風船が割れるような音と共に、五発の弾丸が割れた。 その内二発は破壊に成功するが、残りの三発はそれぞれ右肩、右脇腹、左太ももに命中する。 椿が予想した通り、着弾による痛みや衝撃はほとんどない。 しかし、破裂した玉の中から漏れた溶解液が命中箇所の衣服を溶かしていくのを防ぐことはできなかった。 ジュウ……ッ 蒸発するような音の後、ジャケットの右肩部分とスパッツの左側一部に直径五センチ程度の虫食い穴が。 そして、脇腹から零れ落ちた液によってスパッツの上ふちに少しの穴が開いた。 「きゃ……」 溶解液の威力を目の当たりにし、思わず悲鳴を上げる少女怪盗。 しかし動揺がおさまる時間などやらないとばかりに、観客席の方から次弾が飛来してくる。 「う、く、こ、このっ!このこのぉっ!」 懸命に白濁液入り弾を蹴り防ぐが、やはり多勢に無勢。 どうやっても、銃弾が放たれるたびに三発は直撃してしまう。 足場に戻ることも叶わず、ナイトリンクスは防戦一方に追い込まれていく。 「あっ!や、やだっ」 そうこうしているうちに、徐々にコスチュームの被害は広がっていく。 ブラウン色のジャケットはボロボロ溶けてもはや簾のように肩に引っ掛かっているだけ。 インナーも所々穴が開いていて、染み一つない健康的な肌色が覗いている。 下半身は、ずっと銃弾を迎撃していたせいで膝から下は装着物が全て溶けてしまっていた。 スパッツは未だダメージは少ないが、それでも元の面積よりも縮んでいる。 何とか際どい部分は守れているが、このままでは更に被害が広がるのも時間の問題だった。 「なんとかしないと、このままじゃ嬲り者……あ!」 疲れか、それとも焦りからか。 ナイトリンクスは防ぐはずだった二発の銃弾を蹴り損ねてしまう。 当然、それらの銃弾は射手の狙い通りの場所、つまり的の大きい豊満なバストに着弾した。 中身の溶解液が、ボインと突き出た胸をピッチリ覆っているインナーに飛び散る。 数秒の後、溶けた黒の生地の中から飾り気の少ないグレーのスポーツブラが姿を現した。 「ちょっ、やだ……!」 怪盗少女は咄嗟に暴かれた下着を隠そうとする。 が、両手は鉄棒を掴んで塞がったままのため、できることといえば身を捩ることくらいで。 けれども、その程度でコンプレックスになるほどの巨乳を隠せるはずもなく。 むしろ、その羞恥心に溢れた可愛らしい仕草は観客達の欲情を煽っただけという結果に終わってしまう。 「でっけぇオッパイだなオイ!」 「けどブラジャーは地味だな。スポーツブラだっけか?」 「見ろよ、あの揺れと来たら!」 インナーの締め付けがなくなった乳房は、観客の一人が言うようにド迫力の揺れを見せてしまっていた。 未だブラジャーに保護されているとは言え、小柄な身体には不釣合いな大きさの胸である。 ちょっとした動きにすら反応する双子山は、足を振り上げるたびに激しくたぷたぷっと暴れてしまうのだった。 (く、悔しい……!) 小柄な体躯に似合わず大きく発育した胸部は少女のコンプレックスだった。 女友達は羨ましがっていたが、空手には邪魔だし、異性の視線が煩わしい。 それに、男勝りなイメージがあるとは言え、椿はあくまで女の子。 常に気にしている部分を下着越しにとはいえ、不特定多数の男に見られるなど嫌悪と恥辱の極みだった。 「せやっ!あっ、もう、揺れないでったらぁ……!」 下半身を狙う弾丸を横に薙ぐような蹴りで迎撃する少女怪盗。 しかし左右に弾むふたつの柔乳に集まる視線がどうしても気になってしまう。 こうやって恥ずかしがっては敵の思う壺なのは百も承知。 優理はそのせいで負けたようなものだし、自分はそうならないようにと覚悟を決めてきたつもりだった。 それでも、実際に恥ずかしい格好を見せる段になるとどうしても羞恥心が捨てきれない。 (気にしちゃ、駄目なのにッ!) どんなに覚悟を決めようが、女怪盗はあくまで女性。 女として、性的な恥辱を受ければ動揺しないはずがない。 そういう意味では束前のやり方は実に巧妙であるといえるだろう。 人海戦術に出たり、直接的な暴力に訴えたりせず、ただ相手を辱めることだけに心血を注いでいるのだから。 被害を受ける女怪盗側からすれば冗談ではないが、盗みに入った時点である意味では自業自得。 勝ったほうが正義であるという結果論でしかない。 そして今、ナイトリンクスは負けかかっていた。 怪盗としてではなく、女としての山野椿の弱みを突かれて。 (なんとか、なんとかしないと……!) しかしそれでも、半裸に剥かれた怪盗は未だ諦めてはいなかった。 何とか不利な状況を打開しようと懸命に思考を巡らせる。 雲梯の要領でこの体勢のまま進むというのはどうだろうか? いや、それでは向こうに辿り付く頃には丸裸にされてしまうだろう。 となると、やはり上に登るしかない。 しかし、そうするためには迎撃を中断し、数秒の間無防備にならなければならない。 牙を剥いた射手達の狙いは正確である。 そこにどうぞ撃って下さいとばかりの姿を晒せばどうなるか、自明の理だった。 (でも、悩んでる暇なんて……ない!) このままではジリ貧なのは明らか、ならば賭けに出るしかない。 素早く動けばそれだけ無防備な時間は減り、狙いもつけにくいはず。 決意した怪盗少女は、すうっと深く息を吸うと両腕に力を込め、身体を持ち上げはじめた。 「鉄棒の上に戻るつもりだぞ、撃て撃て!」 獲物少女の動きに気がついた観客の一人が射手達に檄を飛ばした。 言われるまでもなく、五人の狙撃手たちは逃がしてなるものかとばかりに弾丸を放つ。 バシャッ!ジュ、ジュワワ……ッ! 回避も防御もできない無防備な少女の肢体に次々と命中する溶解液入りの銃弾。 次々に当たった箇所が派手に溶けていくが、今の椿にそれを気にする暇はなかった。 覆面越しに荒い息を吐きながら、何とか鉄棒の上によじ登っていく。 「あうっ!」 バシャバシャバシャン! 上半身を鉄棒の上に戻した刹那、三発連続で胸元に被弾し思わず驚声が上がる少女怪盗。 これには流石に下着の被害が気になって視線を下げてしまう。 だが、幸いにも銃弾は全て鎖骨のあたりに当たったらしく、ブラに被害はなかった。 はあっ、と息をつきながらもうひと踏ん張りとばかりに椿は全身に力を込める。 そして――― 「よ、よしっ」 遂に小柄な身体は再び鉄棒の上へと帰還した。 束前が散々足場を濡らしたがために、立ち上がるのは難しい。 そのため、腰を下ろして座るしかなかったがこれで両手はフリー。 手も二本しかないのにはかわりはないが、足よりも小回りがきくので防御はグッと楽になった。 サッとコスチュームの被害を見ると、上は下着が丸出し状態で、完全にジャケットとインナーは溶解。 下も所々スパッツの穴から白と青の縞々下着が見えてしまっていた。 ほぼセミヌードだが、これならば被害としては許容範囲。 恥ずかしさは更に増したが、大事な部分はまだ見えていないし、両手が自由に使えるだけ精神的にも楽になった。 (絶対、絶対ゴールしてやるんだから!) 危うい状態からの脱出に気勢を上げるナイトリンクス。 しかし次の瞬間、胸元に涼しさを覚えた少女は「?」と視線を下げ、そして我が目を疑った。 「えっ……?」 視界に入ったのは、フロントが溶け消え、胸の豊満さに押されて外に開こうとするブラジャーの両カップ。 これは先程、連続で三発胸元に被弾した溶解液が原因だった。 確かにあの三発は下着には直撃しなかったが、白濁液自体は肌に付着し、流れ落ちていく。 そう、深く刻まれたバストの谷間に吸い込まれるように。 そうなれば当然、前述の通りブラジャーのフロント部分は溶解液の侵略を受けることになり。 ぷるっ、ぶるるるんっ!! 瞬間、まるで内側から弾かれるようにブラが割れ、その中から女の子特有の膨らみが飛び出した。 拘束から解き放たれたゴム鞠のような双球が、解放の喜びに震えてたっぷんっ!と元気よく跳ねる。 少女のバストは、八十七センチのGカップ。 小玉スイカと見間違うほどの質量と大きさを誇る乳房は、若さを誇るようにツンと上向きの張りを見せている。 その頂点には、小ぶりな桃色乳輪と、ちょこんとしたサクランボ乳首が佇んでいた。 中学生以下にしか見えない童顔と、低めの身長との対比によるアンバランスさ。 この場にいる男たちの視線はその存在に釘付けになってしまっていた。 その背徳的な興奮すら抱かせる存在に、射手の五人すら思わず手を止めてしまう。 「えっ、あっ?な、なんで……?」 呼吸と一緒にゆさゆさと揺れる自分の豊乳を椿は呆然と見つめる。 だが、やがて状況を把握すると、堪えきれない悲鳴が喉からついて出た。 「え……う、嘘!?私の胸、見え……わ、わあぁぁぁッ!?」 限界を迎えた下着が、肩から抜けて落下していく。 だが、トップレスを衆目に晒してしまった怪盗少女にそれを気にする余裕はなかった。 ボンッ!という擬音が聞こえそうなくらいの速度で首筋より上を朱に染めた椿は慌てて両腕を胸元で交差させる。 しかし、その細腕ではたっぷりと実った柔乳を隠すにはまるで足りない。 かろうじてピンクの可愛いぽっちが隠せたくらいだった。 「ボインちゃんのポロリキター!」 「やべえ、発育がいいにもほどがあるだろあのおっぱい。なのに乳首はちっちゃいし」 「ロリ巨乳って奴か……初めてみたぜ、興奮するな!それに谷間テラヤバスw」 少女怪盗が隠し持っていたとびっきりのお宝のご開帳に、観客達の興奮は一気に絶頂へと達する。 その誰もが口にするのは、一瞬前まで露わになっていた自己主張の激しいバストだった。 (み、見られた……っ) 誰にも見せたことのない裸の胸を見られ、それだけでもつらいというのに耳に入ってくるのは男たちの勝手な批評。 自然に、胸元を隠す両腕の力が強まる。 ぎゅむっ、と巨房同士が寄せ潰されて、その真ん中に存在する谷間がより深くなっていく。 ドクンッ…… 異性の前に肌を晒すという初めて受ける恥辱に、空手一筋だったがために純情に育った少女は羞恥を隠せず。 だからこそ、彼女はその羞恥の裏でゆっくりと進行する己の身体の異変に気がつくことができずにいた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |