今日は『コレ』
シチュエーション


けたたましい電子音をわめきちらす目覚まし時計を黙らせ、ベッドから半身を起こす。
カーテンの隙間から差し込む光は痛いほどまぶしく、
憂鬱なまでにいい天気であることを知らせている。
ひとつため息を吐き、ゆっくりと壁のほうへ振り向く。
数ヶ月前から習慣になった、朝の儀式。
今日はいったいどんな制服なのか、神に祈るような気持ちで視線を動かすと、
そこには……学ランがかかっていた。
黒く地味な厚手の布地。金色にピカピカ輝くボタン。
どこからどう見ても、あの悪名高い不良高校・雄道館高校のものだ。

「はぁ……今日は『コレ』なのね……」

これだったら、昨日の中央小学校のほうがまだよかったかもしれない。
この年齢で九九の勉強とか恥ずかしいけど、後ろ指さされるよりはよっぽどマシだ。
朝から何度目かわからないため息が、一段と気分を重いものにする。
しぶしぶワイシャツに袖を通し、ズボンを履き、そして学ランを身にまとう。
鏡に映った姿は、首から下だけならばどこからどう見ても男子高校生。
でも、本当は、数ヶ月前までは、正反対の女子高生だったはず。

……もう、ずいぶんと『女子高生』やってないけど。間違いなく。本当に。

あまりのんびりしてもいられないので、
手早く髪の毛を整え、歯を磨き、食卓の上においてある1000円札
――つまりは朝食兼昼食代――をポケットに無造作にねじ込んで玄関を出た。
手にしているのは、教科書が一冊も入っていない汚らしいナイロン製のボストンバッグ。
あまりの軽さにブンブン振り回したくなるほどだ。
振り回すのもなんなので、そのまま肩にひっかけて駅への道をとぼとぼ歩く。
本当の雄道館高校の場所なんか知らないけれども、向かうのはいつもと同じ学校。
毎日のように、めまぐるしく通う学校が変わるけれども、
これだけはなぜか変わらない不変のルール。
たった5駅の定期券を改札に通し、混雑したホームへと足を進める。
背広姿のサラリーマンやOL、学生でごった返す朝のラッシュアワー。
そんな中でも、私の目を強烈に惹きつけてやまない制服の集団がいた。
後ろ襟の隅に校章が入った濃紺のセーラー服と、黒いタイツ。
格好だけ見れば、私が本来通っているはずの、
名門女子高として誉れ高い白薔薇女学院の生徒そのもの。
しかし首から上はというと、どこからどうみても男子不良学生で、
コント番組のワンシーンのようなアンバランスさを醸し出している。
電車が来るまでボーッと彼たち――彼女たちかもしれないけど――を眺めていると、

「やだ、白薔薇のヤンキーがこっち見てる」
「だから一本早い電車に乗ろうって言ったのに」

いつか、自分が雄道館の生徒を見ていたような、
おびえながらもどこか軽蔑した目で私を見つめかえしてくる。
視線を彼らの顔のほうに移すと、まるでおびえる子羊のように目を背け、
向こうのほうへと歩いていってしまった。

「よう、今日はやけに早いじゃねーか」

背中をどんと叩かれたので振り返ると、そこには親友の桜子の姿が。
本当は名家の生まれで、箱入り娘を絵に描いたような彼女も、
この制服姿にふさわしい『不良』となって私の前に姿を現した。

「ホント、雄道館の連中はお高くとまってやがんな。
あーいうのと一度ズコバコやってみたいもんだが、どうすりゃいいのかね」

朝からガムをくちゃくちゃやりながら、信じられないような卑猥な言葉を吐く桜子。
時折つばを線路に吐いたりとマナーもへったくれもないが、
『不良学生』である私たちに注意しようとする勇気のある人は誰もいない。
今日一日、三流高校の不良学生として過ごすことが決まり、さらに気分が重くなる。
そんな私の気持ちも知らないで、桜子はなおも隣で品のない笑みを浮かべていた。

満員電車に揺られて5駅ほど。
小学校からずっと降りているなじみの駅は、
本当ならば紺色のセーラー服を身に纏った白薔薇乙女たちであふれかえっているはず。
しかし、今日は誰も彼もが全身から不良オーラを漂わせている学ラン姿ばかりで、
押し寄せるほどの黒の波に息が詰まりそうになるほどだ。
そして、誰も彼もが白薔薇乙女なのかと疑うほどのマナーがなっておらず、
そこらにゴミを投げ捨てる、道にタンを吐く、
あげくの果てには歩きながらタバコを吸うなど、もうやりたい放題。
以前ならば白薔薇乙女の登校風景を暖かい目で見守ってくれていた
駅員さんや売店のおばさん、駅へと向かう会社員たちは
汚らしいものを見るような目つきで私たちを見ている。
時折、通行人の目が気に入らないのか、怒鳴り声を上げて威嚇する生徒までいる始末。
前方でくわえタバコしながら会社員に因縁をつけているあの人は、
確か風紀委員長の今川さん。
ルールや校則の遵守を訴えている彼女が、先頭切って社会に迷惑をかけている。
その姿はどことなくイキイキとしていて、もしかしたらこれが彼女の本性なんではないか?
とすら思えてくる。
横にいる桜子も、昨日見たテレビの話とかどこそこの学校の生徒がかわいかったとか、
普段だったら絶対しないようなことばかり、バカっぽい口調でまくしたてている。
そんな中身のない話にいちいち相槌を打つのも面倒くさく、
話の切れ間に気のない返事を返していく。

「んでよ、てめぇ聞いてんの?」

下から上にぐいっと、桜子の顔が近づいてきた。
脱色もパーマもかけていないのに、ゆるやかにウェーブした栗色の髪。
ほんのりピンク色に染まっている形のいいくちびる。
整った眉にぱっちりした瞳。長いまつげ。
街を歩いていると1週間に1回はスカウトに声をかけられるような美少女が、
まるで漫画の不良のように、眉間にすごいしわを寄せながらにらみつけてくる。

「あ、ゴメン。ちょっとボーっとしてた」
「なんだ、昨日ヌきすぎたんか?」

またもいやらしく、シシシと歯の間から抜けるような笑い声を上げる桜子。
今朝出会ってから30分も経ってないのに、もう彼女という存在にうんざりしている自分がいる。

さっきよりは身を入れて、しかし聞き流すように空返事をしながら通学路を歩くと、
レンガ造りの校門が見えてきた。
その向こうにはモダンな洋風建築の校舎がそびえ立っており、
校舎だけならば数ヶ月前の白薔薇女学院とまったく変わらない。
だけど普通ならば校門のところで登校風景をニコニコと見つめているシスター様が、
くたびれたジャージを着て竹刀を地面にバシバシ叩きつけながら生徒たちを睨みつけている。

「おら、今川!てめぇタバコ吸ってただろ!」

校門を通り抜けようとした今川さんの胸元に、突きつけるように竹刀を当てるシスター。
いつもの温厚さはどこへやら、今時テレビドラマでしか見ないような鬼教師そのものの形相で、
今川さんに向かって怒鳴り散らしている。

「これで何度目だぁ?ああん?」
「うるせぇクソシスター!」

あれでもちゃんとシスター扱いなのがちょっと面白く、思わず噴き出しそうになる。
そんなやり取りを横目に校舎の中へと入っていくと、さらに『現実』が襲い掛かってきた。
きちんと掃き清められてチリひとつなかった下駄箱は、
砂埃どころか紙くずや菓子の空き袋が散らばっていてゴミ溜めのような有様で、
こんなところで靴を脱ぐのかとためらってしまうほど。
実際、桜子のようにそのまま土足でガシガシ上がっていく生徒も珍しくない。
下駄箱からこんな感じなのだからと、嫌な予感を抱きつつ教室に行ってみると案の定で、
紙くずや空き袋どころか空き缶まで散乱していた。
そして机の上に座ったり背もたれを抱えるようにして座って大声で談笑している子たちや、
携帯電話をなにやらポチポチいじってる子、机の上に足を乗せて漫画を読んでる子、
ちょっと前までの『お嬢様学校の生徒』どころか
昨日の『公立小学校の生徒』だったときには考えられないぐらいにすさみきっている。
そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴り、一応形だけでも自分の席に着席しはじめるクラスメイトたち。
しばらくして教壇側のドアが開き、担任の高田優子先生が入ってきた。
去年大学を卒業して白薔薇に赴任してきた新人教師で、
彼女自身もまたOGという、みんなのお姉さん的存在の先生。

「あ、あの……しゅ、出席とります……」

昨日の『いかにも小学校低学年を教えています』といった感じの彼女とは打って変わり、
凶悪な生徒を前にしておびえているのがひしひしと伝わってくる。
そんな小動物のように震えた先生が、教壇に置かれた出席簿を恐る恐る開くと

「きゃっ」

中にあったなにかに驚いたのか、小さな悲鳴とともに出席簿を放り投げた。
宙に舞う出席簿から零れ落ちる一枚の紙切れ。
高田先生の顔写真とおそらくアダルト雑誌に掲載されていた女性の裸を
単純に張り合わせただけの稚拙なコラージュ。
そんな簡単ないたずらにすらおびえ、驚き、泣き出してしまう高田先生。

「ゆーこちゃーん!泣いてないでおっぱいでも見せてよ!」
「せっかく大きい胸してるんだからさー」

下品な野次と笑い声が教室内に響き渡り、高田先生は泣きながら走って教室を後にした。
出だしからこれなのだから、今日の授業がマトモに行われないような気がしてきて、
もうこの場から逃げ出したい衝動に駆られてきた。

案の定というか。予想通りというか。
授業は学級崩壊状態でまったく進まないか、
先生が生徒たちを無視して黒板に向かってしゃべり続けているか
あるいは何かというと生徒を殴り倒すような暴力教師の授業のどれかしかなかった。
その授業内容というのも、数学といいつつ分数の足し算だったり、
英語といいつつアルファベットの書き方だったりと、
中学レベルどころか小学校高学年でももうちょっと高度なことをやっているといいたくなるようなもので、
噂に聞いていた『雄道館の授業は中学生以下』というのを身をもって体験することとなった。
しかも、そんな内容の授業なのに、まったく勉強についていけない層が大半というのにも驚いた。
そんな生徒ばかりだから、放課後ともなれば授業が終わった開放感からはしゃぎだす子ばかり。
もちろん桜子もその1人で、制服を脱ぎだしてなにやら着替えだした。
体育の時間ですら人前に肌を晒すのを嫌がっていた彼女が、
いまだ生徒であふれている教室で堂々と着替えるのにもびっくりしたけど、
その着替え終わった姿も驚きを隠しきれなかった。
真っ黒なTシャツに、なんだかゴチャゴチャした英文字がプリントされた上下のスウェット、それにスニーカー。
首元や指には鈍く光るシルバーのアクセサリーに、
ずり落ちちゃうんじゃないかと思うぐらいの腰履き。
さらにトドメとばかりに、ワニ皮っぽい加工が施された合皮の野球帽。
もう、普通だったら話したことが親にバレただけでもお説教されてしまうような、
怖い系お兄さんたちっぽいファッション。
ちょっと前までの桜子の『深窓の令嬢』っぷりを覚えている私としては、
そのまま気絶してしまいそうになるぐらいの驚きだった。

「あれ、オマエは着替えないの?」

さも当然のように桜子が聞いてくる。

「え?あ、着替え忘れちゃった」

着替えを忘れたことにしてごまかそうとしたけど、
なぜか用意周到にもう1つ用意してた着替えを突きつけられた。

「俺の予備貸してやんから」
「う、うん」

断る雰囲気もどこへやら、桜子にせかされながらしぶしぶ着替え始める。
肩口からわき腹にかけて金色の民族文様的な意匠が施された真っ黒なロングTシャツに
やけに太いベルトで締める、チェーンがジャラジャラついたダボダボのジーンズとジャケット。
ちょっと不良っぽい装いで、まさか自分がこんな服を着ることになるなんて夢にも思わなかった。
夏場に着ることになた小学生用の競泳パンツも恥ずかしかったけど、
この格好の恥ずかしさも相当なものだ。
もし家族に見られたら、一生口を利いてもらえなくなってしまうぐらいだと思う。

「ま、予備だからこんなもんか。さ、いくべ」

着替えに満足した桜子は、にやりと笑って歩き出した。
ついていかないと、これまたまずい雰囲気なので慌てて歩き出す私。
いまさらどこに行くかなんて、恐れ多くて聞き出せない。

不良っぽい格好のまま、電車で揺られて1時間。
車内では私たちが怖いのか、なんとなく周りが空いていたのが気になったけど、
そんなことを気にしてもどうにもならないことは、もう嫌というほど知っている。
電車から降りた後は桜子に従うままファーストフード店で時間を潰していたら、
時計の針は既に夜の8時。
普通ならば、というか、ここ数ヶ月小中高と『いろいろな学校』に通う羽目になったけど、
ここまで外にいたのは初めてのこと。
なんだか本格的に不良になってしまった気がして、逆にすがすがしくなってきた。

「さ、そろそろ行くか」

おもむろに桜子が立ち上がり、やはりその背中をヒヨコのように後をつけていく。
到着した先は、ネオンの看板が光る怪しげな店。
入り口で料金(これまた桜子に借りた)を支払い、扉を通るとドンという衝撃が体を貫いた。
それが大音量の音楽によるものだと気がついたのは、その数秒後。
『震えるほどの大音響』なんていう言葉があるけど、本当に震えたのは初めてだ。
音だけじゃない。クラクラしてくるほどの光の洪水が押し寄せ、暗いのに目が開けていられないほど。
そんな激しい衝撃ばかりの店内を、さっきのファーストフード店と変わらない顔で歩く桜子は、
2人組の女性を見つけると人懐っこそうな顔で話しかけ始めた。
胸元が編み上げになったゴールドのミニワンピースを着た女性と、
紐とリングでつながっているだけで正面も胸元や下半身の一部とかしか隠れていないような
大胆なパープルのワンピースを着た女性。
どちらもふんわりとした巻き髪に派手めの化粧をして、
どうやって生活するんだろうと思うほど長い爪にネイルアートを施している。
いかにも遊んでいるといった感じの女の人なのだが、身長がおかしい。
どうみても私の胸元ぐらいしかない。
よく見ると、女性ではなくどう見ても男性。しかも小学校高学年ぐらいの男の子。
話によると『彼女』たちは、霧山小学校5年2組の生徒らしい。
それを聞いた桜子が「うわー、お嬢様ばかりで有名な女子大じゃん!」とはしゃぎだす。
どう考えても公立小学校の高学年としか思えないけど、
たぶん『彼女』たちも、私たちと同じように突然学校が変化しちゃったんだろう。
小学男児をやっている女子大生を想像するとちょっと面白いけど、それはそれ。

「こっちのコも結構カッコイイじゃん」

パープルのワンピースを着た男の子が、長い爪で胸元をゆっくりと撫でる。
彼から漂ってくる、むせ返るほどの化粧と香水のにおい。
脳のどこかが「超えちゃダメだ」とけたたましく警報を鳴らす。

「ゴメン、帰る!」

その警報に背中を押されるように、私はその場から走り出していた。
轟音に混じって桜子の怒号が聞こえた気がしたけど、無視してとにかく走り続けた。

気がつくと、私は最寄り駅へと向かう電車の中にいた。
家路へと急ぐ会社員や、学校帰りに予備校に寄った学生などでごった返す車内は、
朝ほどではないが窮屈で、体の向きを変えるにも苦労するほどだ。
そんな中、くたびれた背広を着たサラリーマンのそばにいる白薔薇女学院のセーラー服
――今日は雄道館高校の制服だけど――の子が恥ずかしそうにもじもじしている。


痴漢だ!

そう直感した私は、そのサラリーマンの手をひねり上げ

「その子が嫌がってるだろ」

とにらみつけた。
その瞬間、駅に着いたのか不意に電車が止まり、車両の扉が開いた。
これ幸いとばかりにサラリーマンは私を一発殴りつけ、ひるんで手を離した隙に逃げ出してしまった。
下車する人の波に流されるように私と雄道館の子も車両の外に押し出され、
ぽつんとホームに取り残されてしまった。

「あ、ありがとうございます」

深々と頭を下げる雄道館の『女の子』。
首から上は不良っぽいのに、目つきや物腰は柔らかくお嬢様然としている。

「いや、たいしたことはしてないから」
「あ、血が出ています。大丈夫ですか?」

さっき殴られたときに切ったのだろうか、気がつくと唇の端から血が流れていた。
それをふき取ろうと、『彼女』はポケットからハンカチを出し、そっと私の唇に当てた。
『彼女』の髪が揺れるたびに漂う甘い香り。
さっきの『女子大生』の化粧とはまったく異なる、
自分が女なのにもかかわらず胸が高鳴ってしまうような、
優しくて柔らかい、女の子のにおい。
長いようで短い手当ての時間は終わり、『彼女』は頭を下げて電車に乗って行ってしまった。
あとに残されたのは、鈍い傷の痛みとハンカチ、そして淡い残り香だけだった。
家に帰った後も『彼女』のことが忘れられず、
ベッドの上でハンカチに残った香りを胸いっぱいに吸い込み、
そしてその香りと『彼女』の可憐さをオカズに1人でみだらな行為をしてしまった。
それも普段とは違う、自らの『男』を慰めるような仕方で。何度も。何度も。


翌朝。毎日の儀式。

壁にかかっていた制服は白薔薇女学院のもの。
数ヶ月ぶりの待ち望んでいた『本来の制服』に、いそいそと袖を通す。
その時セーラー服から漂ってきた甘い香りが脳をしびれさせ、
朝からちょっとイタシてしまったのは私だけの秘密。
駅に着くとラッシュアワーの人ごみは相変わらずで、
様々な職業、学校の人でごった返していた。
しばらくすると、後ろから鈴の鳴るような声がする。

桜子だ。
白薔薇女学院の制服に身を包んだ彼女は、昨日とは正反対のお嬢様スタイルで私の前に現れた。

やっぱり桜子はこうでなくては。
と、思っていたら、桜子はおもむろにポケットからガムを取り出し、
くちゃりくちゃりと噛みはじめた。
そして私の肩に腕を回し

「おう、なんでせっかくナンパ決まったのに逃げ出したんだよ」

さっきまでの雰囲気はどこへやら。まるで昨日の不良桜子みたいな雰囲気で私を脅してくる。

「ご、ゴメン」

その迫力に気おされ、謝ることしか出来ない私。

「お、相変わらず雄道館の子はかわいいなぁ!
昨日のバツとして、あいつらナンパしてこい、ナ・ン・パ!」

その桜子の様子を、向こうにいた黒い学ランの集団はおびえた目つきで私たちを見てくる。

「やだ、白薔薇のヤンキーがこっち見てる」
「だから一本早い電車に乗ろうって言ったのに」

雄道館高校の生徒たちは、逃げ出すようにホームの向こうへと歩いていってしまった。

「ホント、雄道館の連中はお高くとまってやがんな。
あーいうのと一度ズコバコやってみたいもんだが、どうすりゃいいのかね」

そういうと桜子はシシシと笑い、またくちゃくちゃとガムを噛みはじめた。






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