シチュエーション
![]() <人物説明> ・穂村憲一(ほむら・けんいち)/ルビーレッド 真紅の「炎」の戦士。正義感の強い真面目な剣術家の青年。武器は剣。 養父母をDUSTYに殺され、義姉は行方不明だった。 ・珠城真奈実(たまき・まなみ)/パールストーム 白き「嵐」の戦士。少し霊感が強いが、ごく普通の今時の若い女性。武器は銃。 ・蒼木洋(あおき・ひろし)/サファイアオーシャン 青き「海」の戦士。飄々とした軽い性格。一応これでも僧侶。武器は槍。 ・土萌英美(ともえ・えみ)/トパーズガイア 黄色い「地」の戦士。委員長気質な見習いシスター。洋の恋人。武器はハンマー。 ・梓左矢香(あずさ・さやか)/ダイヤモンドエア 新たに加わる純白の「風」の戦士。清楚で控えめな性格の巫女さん。武器は弓。 ・魔隷姫サブキュース DUSTYの三幹部のひとり。黒衣に身を包んだ妖艶な女将軍。魔術師タイプ。 ついにエクサイザーズに敗北し、捕えられるが……。 ・魔妾姫エシュベイン サブキュースに代わる新たな女幹部。パッ見の印象はサブキュースそっくり。 ただし、性格はより攻撃的。また、術も使えるが鞭を振るう方を好む。 ※真奈実のイメージは、「地獄先生ぬ〜べ〜に出会わないまま成長したイタコギャルのいずな」。決して悪い娘ではないが、短気で軽率、かつ物欲・名声欲も強い。ちなみに、それに対比して言うなら、左矢香は美奈子先生。 ![]() ついに浄魔部隊エクサイザーズの秘密基地を突き止めた、悪の組織DUSTYの女幹部サブキュース。 しかし、近頃失態続きで功を焦った彼女は、組織に知らせず単身エクサイザーズの基地に潜入しようとして失敗。基地近くの採石場に追い込まれてしまった。 それでも幹部の意地を見せ、パールストームを気絶させ、捨て身の攻撃によってサファイアオーシャンとトパーズガイアまでも負傷で戦闘不能状態に追い込むサブキュース。 しかし、奮戦もそこまで。満身創痍に近くエネルギーも枯渇した状態で、唯一軽傷で残ったエクサイザーズのリーダー、ルビーフレイムとの戦いに勝ち目はなかった。 「これで終わりだ!エクソイズム・バースト・フルドライブ!!」 生身でも剣道のインターハイで優勝した経験を持つフレイムが、化焔剣レイヴァーテンを振り下ろすと、剣から龍の形をした炎が噴出し、螺旋を描くような軌跡でサブキュースを取り囲み、襲いかかる。 「きゃああああああぁぁぁーーーーーっ!!」 豊満な若い女性ではあるが、いかにもな黒いコスチュームとアーマーを着て、毒々しいメイクを施したケバい印象の女幹部は、意外に可愛らしい悲鳴をあげて、ついに大地に斃れた。 「グッ……やった……か?」 負傷自体は軽いとは言え、全エネルギーを放出する必殺技を出した直後だけに、全身に力が入らず、フレイムは片膝をついた。 「いやリーダー、それ負けフラグだから」 どんな時も軽口を忘れないオーシャンがツッコミを入れるが、幸いにしてサブキュースが「今のはちょっと痛かったわね」などと起き上がることはなかった。 「勝ったんですね、私たち……」 その事実が信じられないように、ポツリと呟くガイア。 当然だろう。DUSTYのサブキュースと言えば、実力はもちろん、搦め手からの嫌な作戦で散々彼らを手こずらせて来たのだ。あるいは伏兵でも……と思ったが、周囲に敵が潜んでいる様子もない。 「ったぁ〜、よくもやってくれたわね、オバさん……って、あれ?」 ようやく、「勝った」という実感を3人が噛み締めているところで、気絶していた仲間も目を覚ましたようだ。 「ストーム、お前なぁ……」 「こら、おちゃらけ男!あたしのことはパールって呼べって言ってるでしょ!!」 他の3人は変身中はコードネームの下半分を略称として呼び合っているのだが、パールストームだけは、「ストームなんて可愛くないから」という理由で、「パール」と呼ばせているのだ。 ちなみに、フレイムとオーシャンが男性、ガイアと「パール」が女性である。 「さて、サポート班を呼んで、俺達は基地に帰るか」 周囲に敵の気配がないことを確認したうえで、4人はexスーツのアクティブモードを解除し、パッシブモードに切り替える。 これは、いわゆる「変身」を解いてブレスレットを着けただけの状態で、一見生身の時と変わりなく見えるが、負傷や疲労が通常の10倍から100倍近い速度で治っていくのだ。 また、耐久力自体もある程度強化されてるため、時速60キロで走る車にはね飛ばされても「イタタタ」と呻く程度でケロリと立ち上がれるというチートぶりだ。 これのおかげで、4人は半年間にもわたるDUSTYとの激しい戦いにも耐え抜いてこれたのだ。 実際、数分前までは立つことすらおぼつかなかったオーシャンとガイアが、互いに支え合うようにしてだが、ゆっくり歩くことができるくらいには回復しているのだから。 「……ぅぅっ……」 いざ、4人が帰ろうとしたところで、フレイム──穂村憲一の耳が小さな呻き声を耳にした。「!まさか!?」 すでに戦闘でのダメージが半分以上回復した憲一は、注意深く、サブキュースの死骸へと駆け寄る。 いや、それは「死骸」ではなかった。全身をエクソイズム・バーストの高温の炎に灼かれながらも、この女幹部はかろうじで生きていたのだ。 「あー、このオバさん、まだシブとく生きてたんだ。よーし、あたしがトドメを……「よせっ!」……えっ!?」 パール──珠城真奈実がブレスレットから彼女の武器である銃を出したところで、フレイムが制止する。 「どうするんだ、リーダー?」 「……捕虜として基地に連れて帰ろう。俺たちは、DUSTYのような無法者集団じゃない。敵とは言え、重傷で戦闘能力を無くした者をいたぶり殺すような真似はするべきじゃない。 それに、基地で武装解除したのち、尋問で情報を聞き出せるかもしれない」 オーシャン──蒼木洋の問いに対して、数秒の葛藤の後、憲一が下した決断に、他の3人も──まことは不満そうだったが──従う。 なぜなら、DUSTYに肉親を殺された憲一は、かの組織を他の誰よりも強く憎んでいることを知っていたからだ。 その彼が、私情を抑えて、エクサイザーズのリーダーとしてとるべき道を選ぶというのに、どうして異議を唱えられるだろう。 幸いと言うべきか、サブキュースは、ほぼ完全に意識を失い、また負傷のために戦闘能力は残っていないようだ。 それでも背負うのは首を絞められるなどの危険がある、ということで、憲一が彼女を両手に抱き上げて、基地に運ぶこととなった。 憲一の横で、洋とガイア──土萌英美は、女幹部の様子が暴れたりしないか、注視しつつ足を進めている。 (チッ……なによ、あのオバさん、ムカつく!) 密かにフレイムに憧れている真奈実としては、まるで「お姫様だっこ」のようなその体勢が羨ましくで仕方がない。 腹立ち紛れに足元の石を蹴り飛ばしたつもりだったのだが……。 「あら、これは……?」 それが大粒の赤い宝石が嵌った指輪であることに気づき、拾い上げる。 色味が紅玉(ルビー)のような明るいものではなく、やや暗めの赤なので、おそらくは柘榴石(ガーネット)なのだろう。 (そう言えば、あのサブキュースとか言うオバさん、ジャラジャラ沢山指輪してたっけ) 彼女は、それらの指輪にはまった宝石を使って様々な大規模な術を行使することを得意としていたようだ。 もっとも、宝石は1度使うと消費してしまうようで、最近はその数が大分減っていたのだが……。 (!なら、ここでコレをあたしが貰っちゃっても、わかんないよね?) 普段なら、さすがにそんな事はしないのだが、魔がさしたと言うのだろうか、自分でも理解できないイライラと衝動に突き動かされて、ついそんな考えに至ってしまう。 (どうせ没収されるくらいなら……) 「おーい、何やってんだストーム、行くぞ!」 「あたしをストームと呼ぶなぁ!!」 反射的に言い返しながら、真奈実はポケットにその指輪を突っ込むと、仲間を追って走り出した。 ──ほんの一瞬、指輪に嵌められた宝石が鈍く光ったことに気づかないまま。 捕虜としてエクサイザー基地に連れてこられたサブキュースは、武装や鎧はもとより、全身にまとったその衣裳や装飾品に至るまでをすべて剥ぎ取られたうえで、医療部の特別室に監禁されることとなった。 もっとも、監禁と言っても、全身いたるところに1度から2度の火傷があるうえ、頭を強く打ったせいか本人の意識が戻らないので、ひとととおり治療を施したうえで、外から鍵のかかる部屋で質素なベッドに寝かされているだけなのが。 エクサイザーチームを指揮する司令以下数名は、基地を知られたことによるDUSTYの襲撃も警戒していたのだが、あれから24時間経っても、その兆候は見えない。 待機状態のエクサイザーズ達も、さすがに少しずつダレてきた。 もっとも、恋人同士でもある洋と英美は、これ幸いとふたりで部屋にこもってイチャイチャしているらしい。一応、ふたりとも聖職者のハシクレのはずだが ……いいのだろうか? 憲一を狙う真奈実としても、この機会にぜひアプローチをかけたいところなのだが、肝心の憲一は……。 「まさか……左矢香姉さん!?」 捕えた敵の女幹部サブキュースを武装解除し、そのメイクもすべて取り払って素顔が明らかにしたところ、その正体は、憲一の行方不明の姉、左矢香だったのだ! 2年前、両親を亡くした憲一が中学生の頃から世話になっていた梓家が、何者かの襲撃を受けた。 幸か不幸か当時の憲一は剣道部の合宿で家にいなかったのだが、知らせを受けて家に戻ると、養父はすでに死亡。養母も手当の甲斐なく病院で息を引き取った。 そして、もうひとりの家族である義理の姉、左矢香は行方不明。 復讐に燃える憲一の前に現れたのが、国立浄魔研究所の所長、御堂博士だった。 博士は、梓家を襲ったのが謎の組織DUSTYであることを告げ、彼らを倒すのに力を貸して欲しいと、憲一に要請。無論、彼は即座に頷いたのだった……。 「あの優しかった姉さんが、どうしてDUSTYの幹部なんかに……」 「憲一くん。君も知っての通り、奴らは高度な洗脳技術を持っている。おそらく、2年前その高い霊力資質を見込まれて連れ去られた左矢香さんは、洗脳処理を受け、サブキュースとして働かされていたのだろう」 「くそッ、どこまでも汚い連中だ!博士、姉さんの洗脳は解除できないのか?」 「無論、全力を尽くそう。うまくいけば、君のお姉さんを助けらればかりでなく、DUSTYの内部情報を詳しく知る絶好のチャンスだからね」 ──と、そんなやりとりがあった後、憲一は未だ目が覚めない義姉につきっきりだった。 当然、真奈実としてはおもしろくないが、「ほとんど生存が絶望視されていた家族と、ようやく再会できた」憲一の気持ちがわからない程、KYではない。 仕方なく、基地内をブラブラして暇を潰すしかなかった。 そんな中で……。 「あれ?コレって……」 ファッションやスイーツ関連で趣味が合うため、割合仲がいい博士の秘書、緑丘恭子の部屋を訪ねた真奈実は、意外なモノを目にすることとなる。 「あ、マナちゃん、こんちわ〜」 レディススーツにネクタイを締め、タイトスカートを履いた恭子は、それだけなら大手企業のやり手OLに見えないこともないが、その上から糊の利いた白衣を羽織っている。 彼女は理工系の大学を優秀な成績で卒業した才媛であり、秘書業務の傍ら博士の助手も務めているのだ。 色々な意味で「濃い」メンツの多いこの基地では数少ない常識人なので、自称「普通のカワイイ女の子」である真奈実は、彼女とよく話をしにくる。 今日も彼女は美味しいカフェオレを入れてくれた。そのまましばし雑談する。 「そこの台に並べてあるのって、あのオバ……おっと、サブキュースのコスチューム?」 さすがに、想い人の姉をオバさん呼ばわりするのはマズいだろう。 実際、左矢香は憲一より2歳年上なので22歳。19歳の真奈実がオバさん呼ばわりする程の年ではない。どうやら、あのケバいメイクが彼女を5、6歳老けて見せていたらしい。 「ええ。DUSTYの、とくに幹部クラスの装備は、私達から見ても桁外れの代物が多いでしょう?分析できれば今後の戦いの助けになると思って」 「へぇ〜、確かにそうだね。あ、でも昨日の戦いで、結構壊れたんじゃ……」 その割に、焼け焦げや破損の痕跡はほとんど見られなかった。 「それがね、スゴいのよ!昨日の夕方ここに運ばれた時はボロボロだったんだけど、ひと晩経ったら殆ど直ってるの。どうやら、自己修復機能があるみたいね」 真奈実達が使用しているexスーツにも、多少の修復機能はついているが、あくまで「無いよりマシ」というレベルだ。もし、このDUSTYの装備の秘密を解明できれば、確かにより安全に戦うことができるだろう。 「で、何かわかったの?」 「うー、それがねぇ……」プルルルルッ!「……はい、緑丘です。え、今すぐですか?はい、了解しました」 チンっと内線電話を置くと、恭子は真奈実に頭を下げた。 「ゴメン、博士が呼んでるから行かなきゃ」 「大変だね〜」 「まぁ、その分、やり甲斐もあるけどね。マナちゃんは、それ飲んだらカップは適当にかたしといて」 パタパタと、あわただしく部屋を出て行く恭子。 中身が半分以上残ったカップを手に、所在なさげに辺りを見回した真奈実の視線が、それに止まったのは、はたして偶然だろうか? 「サブキュースの装備、かぁ……」 先ほどの恭子の話を聞く限り、悪の組織の産物ながら、なかなか大した装備のようだ。 実は、真奈実はふたつ程、自分たちが使用しているexスーツに不満があった。 ひとつは、その燃費の悪さ。 このスーツは、確かに桁外れの性能を持っているが、その反面非常に大量のエネルギーを必要とする。しかもエネルギー源は電力などのように簡単に補えるものではなく、着用者の生体エネルギーだった。 それゆえ、戦闘後や負傷後のエクサイザーたちは、華奢で小柄な英美でさえ、周囲がドン引きするほどの大量の食事を必要とする。 エクサイザーの4人の給料(一応、国家公務員なのだ!)が高めなのは、危険手当以外にこの食費手当がついてるからだというもっぱらの噂だ。 食べる端から消費するので、ダイエットの必要がないのはある意味利点かもしれないが、大食いキャラはどうも……と思う真奈実。 一応、緊急用として博士が開発した「ひと粒で800kcal」のエネルギータブレットもあるのだが、これがまた死ぬほど不味い。ある意味、究極の選択だった。 ふたつめは、「スーツのデザインがダサい」こと。 基地(研究所)の総責任者であり、exスーツの開発者でもある朱鷺多博士は、少年時代に80年代系特撮番組を見て育った人間で、自身の発明品にも当時の「古き良き戦隊物」的センスをしばしば盛り込みたがる。 あまりにアレな場合は助手を務める恭子が修正してくれるが、exスーツは最初期の発明品で、かつ戦いの中で長年増築を重ねたホテルのごとく後づけでバージョンアップしているため、根本的な改良にまで手が回っていないのが現状だ。 「だからって、全身タイツ+フルフェイスヘルメットはないわよね〜」 この件に関して、一番不平を漏らしているのは真奈実だろう。 そもそも硬派な憲一は機能性重視で格好にはあまりこだわらないし、洋はある意味博士の同類(マニア)だ。英美も、元が修道女見習いであったせいか、オシャレにいまいち疎いところがある。 恭子が気をつかって、ただの単色ではなく別の色でラインを入れたり、手袋とブーツは別の素材で作ったりはしてくれたが、シルエット自体が「全タイ+ヘルメット」という事実には変わりはない。 そんな彼女にとって、魔隷姫サブキュースのコスチュームは、ベース色が黒だということを差し引いても興味を覚えるに足る代物だった。 アンダーウェアに相当するのは、レオタードに近い形状のノースリーブの漆黒のボディスーツだ。ボトム部は際どい角度のハイレグ仕様で、逆に上半身は喉元まで覆うハイネックになっている。 特筆すべきは、その胸部でエナメルのようなラバーのような、あるいは昆虫の甲殻のような不思議な素材で出来た胸当てが付いている。 また、ちょうど左右の鎖骨の中間あたりが菱形にくりぬかれていて、下の肌──というか胸の谷間が見える形になっていた。 ボディスーツの上には、半袖の丈の短い軍服のような上着を着るのだが、この上着には黒の地に暗め赤のラインと金の縁取りがいくつか施されており、「幹部」「将軍」らしさを演出している。 しかも、布製に見えるこの上着自体が、防弾チョッキなどメじゃない高い防御力を持っていることは、これまでの戦いで実証済みだ。 パールの通常モードの銃撃が当たったくらいではロクにダメージを与えられなかったし、フレイムが振るう剣でも切り裂くことはできなかったのだから。 脚部については、まず太腿までの黒い網タイツに脚を通し、その後、ニーガードの付いたロングブーツを履く。 剥き出しの腕部の方は、左手は肘の上まである黒い長手袋を付けるので、肌が露出する部分はほとんどない。右手の方が、手首から肘までをアームカバーで覆う形なのは、利き手の細かい動きを阻害しないためだろうか。 ブーツと手袋&アームカバーは、胸当てと同様の不思議な黒い素材でできているので、防御力はかなり高そうだ。 ほかには、武骨なショルダーガードのついたマント(表が黒、裏が暗い赤)と、悪魔のような湾曲した角が左右についている額当てが置いてあった。 何気なく、ボディスーツを手に取った真奈実は、そのあまりの手触りの良さに驚嘆する。 最高級のシルク……いや、一度だけ友人に触らせてもらった高級ミンクの毛皮の手触りを連想させるソレは、ゴワゴワしたナイロンのようなexスーツとは雲泥の差だった。 誰もいないことを承知で、部屋の中をキョロキョロ見回す真奈実。 「──ちょ、ちょっと着てみようかな?」 好奇心に負けて、今着ている私服──サンドベーシュのジャケットと、オフホワイトのワンピースを脱ぎ始める。 部屋の主の恭子が博士の部屋に行った以上、おそらく1〜2時間は戻って来ないだろう。 それに、このボディスーツの特性を身を以て実体験してから、恭子や博士に進言すれば、exスーツの改良に役立ててくれるかもしれない。 ……などと自分に言い訳をしていたが、客観的に見れば、真奈実のその心理は明らかに異常だった。 友人の部屋で、全裸になって、敵の女幹部が着ていた服に着替えようと言うのだから。 だが、目の前の衣裳に気を取られている彼女は、そのことに気づかない。 黒いボディスーツは、下着まですべて脱ぎ捨てた真奈実が手に取ると、胸元の切れ込みから頸部と腹部にかけてスッと自然に切れ目が広がる。 「ここから着るのかしら?」 一瞬躊躇ったものの、好奇心には勝てず、両脚を通し、腰までたぐり寄せる。 「ふわぁ……」 思わず嘆声のような呻きが口からこぼれる。 クロッチから下腹部にかけてが密着しただけなのに、その気持ちよさは筆舌に尽くし難いほどなのだ。 夢中で、両袖を通し、首のカラー部分の位置も調整すると、自然に前の切れ込みが閉じた。 「ハア……すごい」 先程以上の心地良さが体中を覆っている。 ボディスーツは、ピッタリと彼女の肌に密着し、皺のひとつも出来ていない。まるで皮膚に張り付いてしまったようだ。 驚くことに、ノーブラなのに胸当て部分がぴったりと彼女の乳房に密着して、ツンと幾分上向きに持ち上げているせいか、いつもより胸が大きくなったかのように見える。 ほんのり潤んだ目で、真奈美は残りの装備品にも視線を向けた。 「ここまできたら……他のも試してみないとね」 上着を着る。肩から二の腕にかけてが優しく包まれると感触が頼もしく、かつ一軍の女幹部にふさわしく背筋がピンと伸びた気がする。 網タイツとブーツに足を通す。こちらもボディスーツと同様の心地よい感触が彼女を魅了した。手袋とアームガードも同様だ。 さらにマントを羽織り、角付きの額当てを被ると、全身の装備の相乗効果か、それだけで彼女はイッてしまいそうな快感にうち震えた。 さすがに若い女性の部屋だけあって、壁に30センチ程の鏡がかけてある。彼女は、ブーツの踵をカツカツと鳴らしながら、鏡の前に移動して、自分の姿を覗きこんでみた。 「フフフ、妾(わらわ)はDUSTYの女幹部サブキュース。愚民どもよ、我が軍勢の前にひれ伏すがいい!……なぁーんてね」 マントを翻し、右手を前に突き出す、見覚えのあるポーズをとってみたところ、まさにありし日のサブキュースそっくりに見えたのだが……。 (うーーん、何か、物足りないのよねぇ……!そうだ) 先程脱ぎ捨てたジャケットから、昨日拾ったガーネットの指輪を取り出し、右手の薬指にはめる。 「やっぱり、サブキュースと言えば、光りものよね〜」 そんなことを言いながら、満足げに深紅の柘榴石を眺めていた真奈実だったが、いつとの間にか、頭がボーッとしてくるのを感じていた。 「そろそろ……着替えない、と……」 名残り惜しげにマントと額当てを外したものの、そこから先は、どうしても体が動かない。 この気持ちのよい服を脱ぐことを彼女の体が拒否しているようだ。 「じゃあ……」 少し考え込んだのち、何とか上着だけは脱ぐと、そのままワンピースを身に着ける。 これで、一見したところ、彼女の姿は先ほどまでとあまり変わらないように見えた。もっとも、左手は黒い手袋に覆われ、足元もブーツを履いているのだが。 そして、脱いだ上着とマント、額当てを部屋の隅にあった大型のスーツケースに丁寧に畳んで入れる。 「早く……行かなきゃ……」 焦点の合わない目つきで、トランクを片手に恭子の部屋から出る真奈実。 おりしも、基地の厳戒態勢が解除された直後ということもあって、虚ろな目をした彼女が基地から出るのを咎める者はいなかった。 さて、時間は少し前後し、真奈実が恭子相手にまだ雑談をしていた頃。 「──うっ……」 医療部の特別室──といっても、窓に鉄格子があり、入口のドアが分厚い鉄製になっているという程度だが──で、ひとりの女性が目を覚ました。 「姉さん!」 彼女が寝かされたベッドの側の椅子で、心配げに彼女を見守っていた青年──ルビーフレイムこと穂村憲一は、すぐさま立ち上がって、義姉の顔を覗きこんだ。 「……?ケンちゃん?ココは……うぅっ!!」 目をしばたたかせていた女性は、聞き馴染みのある声に視線を向け、彼の名を呼んだ。 「姉さんッ、しっかりしてくれ!」 「だ、だいじょうぶ、よ…………」 血相を変える義弟を優しくなだめるその声色と瞳に、サブキュースだった頃の凶悪さは露ほども見当たらない。 「ふむ。梓さん……でよかったかな?」 折よく特別室を訪れていたこの基地の責任者、朱鷺多博士が彼女に声をかける。 「はい。梓左矢香と申します」 「無粋な質問をするようだが……君は本当に「君」かね?」 「!博士ッ!!」 「いいのよ、ケンちゃん。はい、わたしは確かに梓左矢香です。ですが……」 激昂しかける弟を、彼女は引きとどめ、視線を宙に逸らした。 「──ですが、この身が魔隷姫サブキュースとして為した悪事の一部始終も承知しております。貴方のお疑いはもっともです」 どうやら、洗脳が解けた彼女にも「サブキュース」時代の記憶はあるようだ。 朱鷺多博士は、助手の恭子を呼びよせて、ドクター・ハミアを病室に連れて来るよう依頼した。 ドクター・ハミアは、エクサイザーズのブレインたる三博士のひとりで、裏の総責任者たる朱鷺田、表の顔である御堂と並ぶ、最重要人物だ。 DUSTYの首領と同じ世界からこの地球に来た賢者であり、御堂博士に程なく襲来する侵略者の存在と対処方法を教えたのは、他ならぬ彼女だった。 錬金術と浄化術、さらに攻撃魔法に長けた彼女の協力がなければ、日本がエクサイザーズを設立してDUSTYの侵略の魔手を跳ねのけることはできなかったろう。 現在の外見は、落ち着いた服装の、眼鏡をかけた知的なアラサー美女といった趣き。もっとも、彼女の実年齢は、地球側はおろか故郷を同じくするDUSTY側もつかんでいない秘中の秘だったが……。 マッド科学者としての勘が、「この左矢香はシロだ」と囁いてはいたが、立場上そのまま「よっしゃ、無罪放免!」と言うわけにもいかない。 そこで、虚言感知(センスライ)と邪悪感知(センスイビル)の魔法が使えるハミアに確認してもらったのだ。 ハミアによる判定の結果も白、それも彼女に「これほど曇りがない清廉な心映えの持ち主は珍しい」と言わしめるほどの結果となった。 その後、正式に「被害者」として認められた左矢香を囲んでの、しばしの歓談タイムとなった。 「それにしても……よく、あのスカイゴワールの呪縛から逃れることが出来ましたね」 DUSTYの首領と、幼き日には学び舎で机を並べていたこともあるというハミアは、かの首領の魔力の強さを知っている。それだけに不思議だったのだろう。 「もしかして俺のエクソイズム・バーストの当たりどころが良かった……とか?」 いつも張りつめたように生真面目な憲一が、珍しく冗談を言う。これも、長年の懸念であった義姉を取り戻せたからだろう。 「クスクス……ケンちゃんったら。でも、実は当たらずと言えども遠からずなんですよ」 「へ!?」 肯定的な返事を返されて固まる憲一。 左矢香いわく、2年前、その高い霊力に目を付けられ、DUSTYに捕えられた彼女は、しかし頑として協力を拒み続けた。 半ば拷問じみた脅迫にも屈しなかった彼女に業を煮やした首領は、自らの知識と魔力を駆使して作り上げた「黒の洗礼」という術式を左矢香に施したのだ。 「黒の洗礼」とは、特定の呪物を対象に身に着けさせ、それを起点に装着者の意識を心の一角に封じ込めたうえ、本人とは逆の悪しき疑似人格を作り上げ、その身体を乗っ取らせると言うものだ。 それだけなら呪物を外せば元に戻るだろうが、この術式の悪辣なところは、強制洗脳装置も兼ねている点だろう。 閉じ込めた本物(の意識)に、偽物が行っている行為の「感覚」や偽物の感じる「感情」を送りつけ、いつしかそれを自分自身のものと錯覚させ、徐々に本物も悪に染めてしまうのだ。 「そんなモノに丸2年間も耐え続けたのかね!?」 大した精神力だと感心する朱鷺田博士に、「いいえ」と首を振る左矢香。 「わたしが「黒の洗礼」を施されたのは1年程前ですし……それに、わたしは梓流古神道の心得がありましたから」 彼女は意識の中で隔離された空間に結界を張って、「外部」からの「感覚」や「感情」を遮断していたと言うのだ。 「とは言え、結界の表面にテレビのように自分の身体が見聞きした事柄は写しだされていましたけど……」 と僅かに顔を曇らせる。 確かに、それなら直接「感覚」や「感情」を流し込まれるよりは耐えやすいだろうが……。それにしたって、1年間結界を張り続けた霊力と、いつ終わるとも知れぬ苦行に耐えた精神力はたいしたものだろう。 「それは……ケンちゃん達に会えたから。必ず助けてくれると思っていたわ」 「姉さん……」 なんとなく、甘ったるい空気が病室に充満したような気がした。ゴシップ好きな恭子など、友人の恋路のことも忘れて「あららん♪」と楽しそうな目で眺めているし。 たぶん、この様子を見たら、硬派な憲一にお熱な真奈実などは目を疑うだろう。 あるいは、左矢香の美貌とプロポーションに敗北感を覚えるか、逆に青筋を立てて逆ギレするか……。 しかし、事態は思わぬ方向に動くことになる。 「!そうだ!わたしが身に着けていた「悲涙晶」はどこに?アレは放置しておくと危険です。早く破壊しないと……」 ベッドに半身を起こして会話していた左矢香が、不意に表情をこわばらせた。 「えーと、姉さん、その「悲涙晶」って、具体的には何を指してるのかな?」 憲一が義姉の身体を慎重に押さえつつ、問いかける。 「「サブキュース」が着けていた指輪のことです!」 「ふむ……それらしいものの回収報告は来ておらんはずじゃが……」 チラリと朱鷺多博士が恭子に目をやると、秘書兼助手もフルフルと首を横に振った。 「そうですか……」 ホッとしたようにいったん身体の力を抜いた左矢香だったが、ハッと再び緊張を取り戻す。 「まだ昨日の現場にあるとしたら、それはそれで問題かもしれません。回収して破壊するようお願いします」 「むぅ……できればどんなモノか研究したいところなのじゃが……」 マッドの本領を発揮してボソッと呟く博士だったが、他の人間から非難の目を向けられて、「わかっとるわかっとる」と残念そうに頷く。 「アレは、言うならばDUSTY首領の魔力と呪念を形にしたようなモノです。持ってるだけで、その邪気の影響を受けますし、身につければさらにその影響は高まります。 さらに言えば、推測ですが首領の思念波を中継する魔導的通信機のような機能もあったのだと思います」 どんなに遠くにいても、首領と会話できるみたいでしたし……と補足する左矢香。 「確かに危険ではあるけど、即破壊するほどのものではないのでは?」 ハミアの問いに、けれど左矢香は首を横に振った。 「悲涙晶単体ならそうでしょう。ですが、「黒の魔装」──サブキュースの各種装備品を着たうえで、アレを身に着けると、それだけで「黒の洗礼」が発動するんです。 そして、いったん発動すると、それらのひとつでも身に着けている限り、術式は維持されます。 わたしがこうして正気に返れたのは、それらすべてを身体から遠ざけられたからなんです」 それに、「黒の魔装」自体にも、軽い洗脳効果があるみたいでしたし……と、左矢香が言葉を補足すると、恭子が真っ青になった。 「うわぁ……えっと、実は今、その「黒の魔装」とやらを分析しようと私の部屋に持ちこんであるんですけど」 私、おかしくなってませんよね?と、ドクター・ハミアにすがりつき、彼女の霊視で「問題なし」のお墨付きをもらい、安堵の息を漏らす恭子。 「あ!でも、今私の部屋にマナちゃんが!!」 「なんだって!?バナナの皮があれば踏んで転び、「押すな」と書かれたボタンを絶対押しちまう、あの珠城が!?」 同僚に何気にヒドい形容をする憲一。……まぁ、否定はできないのだが。 「あの珠城くんが、万が一、好奇心の赴くままに、その「黒の魔装」とやらを手にとったら……」 「万が一」と言うか「二分の一」くらいの高確率で実現してそうな光景に青くなる博士。 「すぐに、ミス・タマキの居場所の確認を!もし洗脳されていても、軽度なら私が浄化して元に戻します」 こういう時、専門家であるハミアがいてくれるのは心強い。 ──しかし、読者の皆さんは御承知の通り、すでに真奈実の姿は基地内にない。 ご丁寧にもビーコン付きの変身ブレスも恭子の部屋に置きっぱなしにされていたため、その足取りもすぐには掴めそうになかった。 「んんっ……」 ひんやりとした感覚を感じて、真奈実は目を覚ました。 周囲は薄暗闇だったが、目を慣れてきたのか、徐々に周りが見えてくる。 どうやらここは、部屋と言うのもおこがましい2メートル四方ほどの狭いスペースだった。 四方の壁は元より床や天井までも、黒い透明なガラスのような材質の壁で覆われている。 視線を下に向けた拍子に、自分が一糸まとわぬ裸であることに気づく。 「キャァッ!な、なんなのよ、コレ!?」 慌てて大事な部分を隠そうとするが、周囲には布切れひとつない。 真奈実は、左手で胸を隠しつつ、内股になってペタンと冷たい床に座り込むことしかできなかった。 「なんで、あたし、こんなコトに……」 このような状況に置かれている経緯を思い出そうとするが、どうもハッキリしない。 状況からすると、おそらく敵対組織であるDUSTYに囚われたと見るべきなのだろうが、そうなるに至った過程をどうしても思い出せないのだ。 「えーと、確か最後の記憶は……サブキュースの指輪を右手にはめて……」 右手を見れば、くだんの柘榴石の指輪は、いまも彼女の薬指にはまっている。 何となく嫌な予感がした真奈実は、外そうとしたのだが、生憎このテの話のお約束通りそれが外れる様子はなかった。 と、その指輪に触れたことが何かの合図になったのか、壁面のひとつに軽く曇り、次の瞬間まるで大型モニターになったかのように、そこに何かの映像が鮮明に映し出されていた。 「ふん、あたしの目が覚めたから尋問の時間ってワケ?それとも、悪の親玉による脅迫?」 半ば強がりつつも虚勢を崩さない真奈実だったが、壁に映った映像は、そのどちらでもなかった。 ぼんやりと赤みがかった照明に照らされた薄暗い廊下を、誰かが歩いている。 背後からの視点のためその人物の顔は見えないが、その特徴的な黒いコスチュームには、真奈実は見覚えがあった。 「あれは……サブキュース!?」 せっかく生け捕りにしたはずなのに、どうやってかエクサイザーズ基地から脱出したのだろうか? サブキュースらしき女性は、自信に満ちた堂々たる足取りで洞窟のような岩肌の廊下を歩いている。 時折、DUSTYの戦闘員──黒と灰色の全身タイツのようなものを着て、目元と口元を隠す覆面を付けた男女とすれ違うが、彼らは皆、「サブキュース」の姿を見ると立ち止り、片膝をついて頭を下げる。 それらに鷹揚に頷きつつ、カツカツと歩みを進める「サブキュース」。戦闘員の様子からして、どうやらこの女はかなりの人望とカリスマを持っているようだ。 何度も戦い苦戦させられてきた憎い敵ではあり、「オバさん」と嘲弄しつつも、この女幹部のそういう点については、真奈実も正直憧れる部分がないではない。 なにしろ、エクサイザーズ基地における真奈実は、それとは逆にまるで人望とか人徳というのがなかったからだ。 たった4人しかいないヒーローチームの一員であり、ことが起こればDUSTYの怪人たちと戦う戦士……とくれば、普通はそれなりに尊敬され、頼られるものだろう。 しかし、珠城真奈実という少女に関しては、一応感謝こそされてはいたものの、尊敬や信頼という言葉とはあまり縁がなかった。 まぁ、その大半は、自己中で見栄っぱり、その癖ミスやドジが多い真奈実の性格が原因なのだから、自業自得ともいえるだろうが。 やがて、高さ3メートル以上はありそうな壮麗な扉の前に来た「サブキュース」が何か合言葉めいたものを呟くと、巨大なドアはゆっくりと左右に開いていく。 「──失礼します」 一礼して中に入る「サブキュース」の声にどことなく違和感を覚える真奈実。 (えっと……あの女幹部の声って、もう少し低くなかったっけ?) それでいて、どこかで聞き覚えがあるのは確かな声色だ。 それが誰のものか思い出せないまま、囚われの真奈実は様子を見守ることしかできない。 その部屋の内部は、真紅をベースカラーに、品の良い調度や豪華な絨毯で整えられた、まるでどこかの王宮の謁見室のような空間だった。 ぬめぬめした暗色の壁や、骸骨の飾り、よくわからない謎のメカといった、趣味の悪い、いかにもな「悪の首領の部屋」を予想していた真奈実は、意外にまともなセンスに軽く目を見張る。 ただし、一点だけ予想と近かったのが、部屋の奥にしつらえられた大きな玉座、そしてそこに座る濁魔帝国DUSTYの首領──いや、総統スカイゴワールの姿だった。 「サブキュース」は、廊下で見た戦闘員のごとく、片膝をついて恭しく頭を下げる。 「……戻ったか、我がいとしき魔姫よ」 スカイゴワールが姿を地球人の前に姿を見せたのは、日本侵攻を宣言した半年前の一度だけだった──そして、それも立体映像だったため、かの総統についてての詳細は、地球人側は未だ誰もつかんでいない。 漆黒のプレートメイルとヘルムを着込んだスカイゴワールは、体格も容貌もはっきりとわかりづらいが、「サブキュース」との対比で見る限りさほど大柄ではなく、また僅かに除く目元は意外な程涼やかだ。 (あれ、もしかして中身は結構イケメンかも♪……って、何考えてるのよ、あたしは!?) お気楽思考に流れかけた自分を制して、フルフルと首を横に振る真奈実。 しかし、次の瞬間、彼女は驚きのあまり、言葉を失うこととなった。 なぜなら……。 「──此の度の独断専行と敗戦、誠に申し訳ありません……」 「フフフ、そう畏まることはない。余は無事にお前が我が元に戻って来てくれただけで、十分満足なのだ、面を上げよ」 そんなやりとりの後、頭を上げて皇帝を潤んだ目つきで見つめる女幹部の顔は、紛れもなく真奈実自身のソレにほかならなかったのだ! *** 驚きのあまり、茫然自失状態となった真奈実が、再び明確な意識を取り戻したのは、どれくらい後のことだろうか? なにせ、ここには時計ひとつないので、時間がよくわからないのだ。 数時間か……あるいは数日か。 不思議なことに、それだけ時間が経つのに、食欲も排泄欲も湧いてこないし、睡眠への欲求もあまりない。ただ、目を閉じて横になれば一応眠れるようだ。 ふと気がつけば、彼女は全裸のまま床に座り込み、テレビのような壁面の映像をボンヤリと眺めていた。 その視線の先では、サブキュースの格好をした「真奈実」が、DUSTYの女幹部としての責務を精力的にこなしていた。 ある時は鞭を片手に戦闘員達を叱咤激励して過酷な訓練に励ませ、またある時は新たな怪人の誕生に立ち会い研究者を尊大に労う。 時には、他の幹部ふたりと日本侵攻計画について話し合う──しかも、何気に「本物」の真奈実よりも、ずっと狡猾で強かな発言をしているのを見て、微妙に複雑な気分になった。 そして……もちろん、幹部のひとりとしてDUSTYの作戦を実行する。いや、実際に行動するのは怪人や戦闘員達だが、現場でその指揮をとるのは黒衣に身を包んだ「真奈実」だ。 「真奈実」の指揮は、意外にも大胆かつ適確で、エクサイザーズでは陰でトラブルメーカー扱いされていた(そしてそれを自分でも認めていた)パールストームとは雲泥の差だった。 「彼女」は日本と言う「舞台」における悪役であるかもしれないが、少なくとも魅力的で存在感のある「女優(スタア)」であることも、また確かだった。 「彼女」の「活躍」を目にする度に、真奈実はみじめな気分になっていった。 (アレ、誰なんだろう……) 少なくとも自分ではない。本物の自分がココにいるから、という表面的な理由以上に、自分があんな風にその場の「主役」「ヒロイン」になれるワケがないという根強い劣等感が、彼女を苛んでいた。 ──アレハ、ジブンジャナイ。アタシハイツモヒトリボッチ…… (寒い……さむいよぅ……) 彼女の孤独感が影響したのか、先ほどまで感じなかった体が凍えるような感覚に襲われる。 しかし、布一枚ないこの部屋で、その寒さを和らげることは……。 「えっ!?」 何気なく辺りを見回した真奈実は、すぐそばにひと山の衣類が積まれていることに気付いた。 (い、いつの間に……) 疑問には思うものの、それでも体の芯から冷える感覚は耐え難く、真奈実はその衣類を手に取った。 「!これは……」 それは、紛れもなく、あの「サブキュース」が着ているのと同じ、黒いボディスーツだった。ご丁寧にも、手袋&アームカバーと網タイツまで一緒に置かれている。 一瞬、恭子の部屋での記憶が脳裏に甦り、ウットリとした表情になった真奈実は、そのままそれらを身に着けようとしたが、慌てて手を止める。 「ダメ駄目!きっと罠に違いないんだから……」 これを着た前後の記憶はあまり定かでないが、自分が今こんな場所に囚われることになった原因は、確かにこの「サブキュース」のコスチュームにある気がする。 真奈実は、(自覚はないが)名残り惜しげに手にした黒い衣裳を床の上に戻したが……やはり寒さが耐えがたいのか、あるいは異なる理由からか、チラチラとソチラの方ばかり気にしている。 体感時間で数分後、ついに真奈実は音を上げた。一度「寒さ」を自覚した身にはその苦痛は耐え難かったのだ。 「──ボディスーツだけなら……仕方ないわよね、このままじゃ凍えちゃいそうだし」 そんな風に自分に言い訳してしまう。真奈実は黒いボティスーツ──第一の「黒の魔装」を身につけた。 「はわぁ…ふぅ……」 一度だけ経験したことのある、ウットリするような気持ちのよい触感に包まれ、安堵とも昂揚ともとれる溜息を漏らす真奈実。 どのような素材なのか、極薄の布地一枚を身に着けただけなのに、彼女が感じていた「寒さ」は大幅に緩和されたように感じる。 大胆なデザインのボディスーツは、寸分の隙もなくピタリと彼女の肌に貼りつき、ウェストや乳房を程良く締め付けているが、その圧迫感さえどこか心地よい刺激となって、彼女の心身を適度な緊張状態へと導いていた。 特に異状もなかったため、とりあえずはひと安心か、と安心した真奈実だったが……。 先程までとは一転して快適さに包まれた胴部に比べて、今度は手足が冷たくてたまらない。 「うぅっ……やっぱり、こっちも……」 一度妥協してしまえば、その先に手を出してしまうのも早かった。 真奈実は、黒い手袋とアームガード、太腿までの網タイツを、ひとつずつもどかしげに身に着けていく。 そのおかげか、先ほどまで止まらなかった震えは収まり、心を浸食していた孤独感さえ幾許か和らいだように感じられた。 (はぁ……何だろう……誰かに抱きしめられてるみたいなヘンな感じ……) ──でも、決してイヤじゃない。 そう思いながら、彼女は手袋を嵌めた指先やた黒い網タイツに包まれた脚をなんとなく眺めてみる。 「やっぱり…いいなぁ……」 恭子の部屋で感じた「大人の女」への羨望を、この衣裳は強くかきたてる。 敵の女幹部のコスチュームに憧れるだなんて、あの基地で公言するのははばかられるが、ココにいるのはどうせ自分ひとりだ。 だったら、自分に素直になって、いいものはいい、素敵なものは素敵と認めてしまってもよいのではないか? そんな風に真奈実が考え始めたところで、唐突に視界が変化した。 「えっ!?」 いつものように、壁面に映像が写し出され、天井から音声が聞こえてくるのではない。 気が付けば、彼女は大きな姿見の前で、着替えているところだった。 鏡の中には、先程身に着けた「黒の魔装」姿の「真奈実」が映っている。 慌てて辺りを見回そうとするが、どういうワケか彼女の意志では指一本自由に動かせない。 それどころか、彼女の身体が勝手に動き、例の黒い上着を着て、ロングブーツを履き、最後に肩当て付きマントを羽織っていく。 よく見れば、鏡の中の顔には、すでにドギツい──見ようによっては扇情的な──メイクが施されていた。 (うわぁ……あたしの顔、メイク次第でこんな大人っぽい雰囲気にもなるんだぁ) そこには、田舎から都会に出て、精一杯背伸びする19歳の小娘の姿はない。 驕慢だが、妖艶かつ艶麗で、自らへの自信に満ちた大人の女が、誇らしげに立っているだけだ。 普段なら「ケバい!悪趣味!」と切って捨てるはずのその装いを、なぜか今の彼女は好ましいものに感じてしまう。 もっと見続けていたいという彼女の願望を無視して、「真奈実」はそのまま部屋を出ると、DUSTYの女幹部として部下を引き連れ、総統から命じられた作戦遂行のために出撃していく。 自らとソックリな人物──あるいは自分そのものが作戦に従って、町の人々をいたぶり、高笑いする様を、彼女は見聞きしていることしかできなかった。 いや、より正確には、視聴覚だけでなく嗅覚や触覚など五感のすべてが繋がっているのだ。 そればかりではなく、「真奈実」が鞭を振るい男達を弄ぶ時に感じる、ゾクゾクするような興奮、血が滾るような昂揚さえもダイレクトに伝わってくる。 (ちがう!あたしは、そんなこと感じてない!) 必死に目をふさぎ耳を逸らそうとする彼女だが、生憎と今彼女が宿っている身体は、彼女の意志で動かすことはできず、意に反した行動をとるばかりだ。 ──「意に反した」?本当に? あまりに嬉々としてサディスティックな行動に走る「真奈実」の行動を体感していると、次第にそんな疑念さえ湧いてくる。 結局、街の人への蹂躙は、エクサイザーズの3人が出動してくるまで続けられた。 逆に、フレイム達が到着した途端、「真奈実」は部下を指揮して転身、その場に仕掛けた罠も利用して、3人の追撃を阻み、鮮やかに退却してみせたのだ。 「フレイム、助けて!ガイア、あたしはココよ!あぁもう、この際、アンタでもいいわ、オーシャン!」 そう叫びたいのに、「真奈実」の口から出るのは、いかにも悪の女幹部然とした高笑いと、彼らを嘲笑する台詞ばかりだ。 「オーッホホホホホ!今ごろ来たって手遅れですわよ、ヘナチョコ戦隊! この町の住人のダークファルスは、十分いただきましたわ!」 バサリとマントを翻し、捨て台詞を投げて身を翻す女幹部な「真奈実」。 そう、本来は炎・水・風・地の4人いて初めて真価を発揮できるエクサイザーズは、このところDUSTY相手にやや劣勢な戦いを強いられているのだ。 そのことは、例の壁のビジョンで知っていた彼女だったが、いざその現場を魔の当たりにすると少なからずショックだった。 今日だって、この地区を封鎖していた怪人との戦いに手間取ったから、遅れたに違いない。 しかし、それと同時に心の片隅に「やっぱりあたしがいないとダメなんだ」という優越感にも似た感慨が生まれる。 彼女のそんな複雑な感情を一顧だにせず、女幹部は目くらましと共に姿を消し、DUSTYの秘密基地へと帰還するのだった。 真奈実が自由を取り戻した(と言う言い方は語弊があるが)のは、女幹部が自室に戻り、「黒の魔装」を脱いで風呂に入ろうとした瞬間だった。 唐突に女幹部な「真奈実」の身体から、「牢獄」に囚われた自分へと意識が戻る。 見れば、壁の画面には、黒薔薇の花弁を浮かべて浴槽で満足げに己が裸身を磨きたてる「真奈実」の姿が映っていた。 「あれ?」 自由に動けないとは言え、久しぶりに暖かい風呂の感覚を味わえると思っていた真奈実は、元に戻った喜びよりも、咄嗟に不満の方を強く感じてしまう。 「でも、どうして……」 その疑問の答えはすぐに明らかになった。 風呂から出た「真奈実」が、髪を梳り、裸身に念入りにパフュームを振りかけ、手足の爪を真紅のマニュキュアで飾りたて……。 そして、出撃の直後なのに汚れの気配すら見えない「黒の魔装」を再度身に着けたところで、再び彼女の意識は「真奈実」の身体に囚われていたのだから。 どうやら、あちらと同じ衣裳を着ていることが関係しているようだ。 「真奈実」は、幹部としての正装に身を包みつつ、同時にどことなく「女」としての面を意識した身支度をしていたような印象があった。なんとなくソワソワしながら、時計らしきものを眺めていたが、しばらくすると足早に自室を出る。 (!まさか……) そう言えば、先ほど今回の作戦の報告をした後、褒美の言葉とともに、総統様から部屋に誘われていなかっただろうか? 男が女を自室に誘うということは……つまりは、「そういうコト」なのだろう。そもそも、総統様は、「真奈実」のことを「我がいとしき魔姫」なんて呼んで、寵愛してるみたいだったし。 (って、えーーっ、そんなぁ……) 事態を把握した彼女は、意識の中で困惑の声をあげたが……そこには思いのほか拒絶や嫌悪の色は少ない。 実は、彼女に男性経験はなかった。 田舎にいた頃はそれなりにモテたのだが、その見栄っ張りな性格からいわゆる高嶺の花的に敬遠されていたし、逆に東京に出て来てからは、自分が井の中の蛙であったことを実感し、男性とのつきあいにも消極的だった。 普段の「我がままでミーハーな珠城真奈実」という女性像は、ある種の虚勢でもあったのだ。しかし、こんな状態になってしまっては、そんな虚飾も今更だろう。 さらに言えば、一方的で不本意な形ではあったが、彼女はここ数日(あるいは十数日?)この組織──いや、濁魔帝国DUSTYに所属する者たちとともに過ごし、彼らが決して血も涙もない、悪夢の化身ではないことを知ってしまった。 十把一絡げの雑魚に見える戦闘員たちにも、それなりの個性や友情、同胞意識などはあるし、残虐非道な悪人に見えた幹部──獣魔参謀や鎧魔将にしても、実際に話してみれば人間臭い部分も多々見られる。 特に、帝国のトップに立つ総統スカイゴワールは、部下という観点から見れば、高貴な威厳とカリスマ性、聡明さと決断力を兼ね備えた素晴らしい人物だった。 あい変わらず素顔は見ていないが、声などから判断する限りまだ比較的若いと推察される総統は、彼女が抱く「王子様」のイメージに、ある意味もっとも合致する存在だった。 その「憧れ」の相手に抱かれるということに、戸惑いはあったものの、ひとりの女としては決して嫌な気はしない……というのが、彼女の正直な気持ちだった。 総統の私室に主の許可を得て入ると、そこには無粋な兜を脱いだ総統が、彼女の来訪を出迎えてくれた。 兜に隠されていた総統の素顔は、彼女が想像していた以上に端麗で、その見事な金髪もあいまって、まるで太陽神(アポロン)、いや武女神(アテナ)のような威厳と美を両立させていた。 「よく来たな、我が魔姫よ」 その赤い唇から流れる声も中性的で、耳に心地よい。 「……ふむ。いつまでも、そう呼びかけるのも無粋か。よし、新たな「器」を得たそなたにふさわしい魔名(マナ)と二つ名を、余から贈ろう」 ──総統自ら名付け親となって、新たな、あたくしだけの名前を戴ける! 「真奈実」の心が歓喜に奮え慄く様が、彼女にも伝わる。 その熱狂は、ともすれば彼女の心にまで伝染し、冷静さを失わずにはいられないだけの熱さが込められていた。 「そうだな。生まれ変わったそなたは……エシュベイン。「魔妾姫エシュベイン」と名乗るがよい」 エシュベイン!何と甘美な響きなのだろう!! その名が、かの御方の口から発せられただけで、「真奈実」は背筋が震えるのを感じる。 そして、二つ名は「魔妾姫」。かつての「器」が「魔隷姫」と呼ばれ、しょせんは「奴隷」にしか過ぎなかったのに対して、自分は「愛妾」として遇して下さるということの証……。 そう思っただけで、「真奈実」、いや魔妾姫エシュベインの心と体は至高の幸福感に満たされていく。 そして、あまりに大き過ぎるその法悦は、同じ身体に存在する彼女の心までも浸食し、ふわふわした多幸感に染め上げていった。 「嗚呼……有難き幸せです、総帥閣下」 敬愛する総統の足元に膝まづき、熱い吐息とともにそんな感謝の言葉を述べたのが、エシュベインなのか自分なのか、もはや彼女にもわからなかった。 「ふふふ、エシュベイン、愛い奴よ」 くたりと力の入らぬ身体を軽々と抱き上げられ唇を奪われても、彼女も、抵抗しようとは思わなかった。むしろ、こちらから唇を押しつけ、積極的に舌を絡める。 その行動すら、もはや自分の意志なのか魔妾姫の意志なのか定かではない。なぜなら、確かに彼女自身も、そうすることを望んでいたからだ。 だから、総統が武骨な鎧を外し、その下から引きしまった筋肉質の肉体が現れ、同時にその胸や尻の形状がどう見ても豊満な女性のそれであることを知っても、彼女の心に動揺はない。 むしろ、そのギリシャ彫刻のような美しさに感嘆し、称賛の溜息を漏らすばかりだ。 「あぁ……素敵ですわ、総帥閣下」 熱浮かされたような魔妾姫の身体を抱き寄せながら、総統は囁く。 「スカイと呼ぶがよい。この部屋に限り、そなたに我が魔名を呼ぶことを赦そう、エシュ」 至尊の御方より私室でその名を呼ぶことを許され、さらには愛称で呼ばれるとは、女としてどれほどの栄誉、そして喜びなのか! 慣れた手つきで、マントと上着を脱がされ、そのまま寝台に横たえられる魔妾姫。ブーツに関しては、総統のベッドを汚してしまう……と危惧しただけで、自然に足から脱げ落ちた。 肌に貼り付くボディスーツで締め付けられているせいか、あるいはここ数日で本当に成長したのか、以前より格段に大きく形よく見える彼女の乳房を、スカイゴワールが布越しに優しく揉みほぐす。ボディスーツの下で乳首がピンと勃っていくのがわかった。 「ああン……」 さらに、総帥の右手の親指の腹が、魔妾姫のピンと尖った乳首を弄ぶ。自らも同じ体組織を備えるが故の巧みにツボを突いたその手つきに、たちまち彼女の息が荒くなっていった。 胸ばかりではなく、髪やうなじ、脇腹など、女の弱い部分、触れて欲しい部分を、総帥の唇は的確に愛撫していく。 また、胸を重点的に責める右手に対して左手は、女幹部のなだらかな腹部やまろやかなヒップの辺りを彷徨う。 「ひ、ひゃぁあン!す、スカイさまぁ……」 内腿のあたりまで来たところで、「いよいよか」と言う期待を外され、涙目になる魔妾姫。 「ははは、よいよい。可愛いぞ、エシュ」 耳を甘噛みされながら、そんなことを言われては、羞恥と歓喜に気が狂いそうになる。 「そなたがあまりに、愛らしいので、もう余も我慢ができぬようだ」 「ハァハァ……ど、どうぞ……あたくしめの、身体も心も……全て、スカイゴワール様のモノでございます……存分にご賞味ください…………はぅン!」 それを口にしたのは、果たして魔妾姫か、それとも彼女自身か。 「うむ、よくぞ申した」 総帥は、鎧の下に着込んでいたチュニックとショーツを脱ぎ捨て、一糸まとわぬ裸身となる。 「ぁあ……その、お姿は……」 彼女の視線は、総帥の下半身に釘付けとなる。何となれば、そこに備わった女陰の亀裂をメリメリと押し開いて、本来男性の股間に備わっているべき極太の肉竿が生えていたのだから。 「余は、女にして男、男にして女なる存在。エシュよ、我が寵愛……受け入れてくれるな?」 甘く優しい、けれど断られることなど微塵も考えていないその言葉に、気が付けば彼女はコクンと頷いていた。 そればかりか彼女は、身に着けたボディスーツのクロッチ部分を震える指先でズラし、自らのソコを露わにする。 「はい、もちろんでございます。あたくしめに、どうかお情けを……」 ──ズブリ……! 彼女がその言葉を口にし終わる前に、両性具有の総帥の陽根が、魔妾姫の秘裂に突き込まれていた。 「あ……ああっ……スカイさま……あのっ、な……なんか……」 確かに彼女は初めてのはずなのに、あまり痛みらしい痛みを感じない。 「フッ……痛みがないのが不思議か?種明かしすれば、そなたが着ている魔装と、自在に変形する余のモノのおかげよ」 確かに総帥の肉棒は、先程見た時よりもずっと細く、また長くなって彼女の膣口へと忍び込んでいる。 また、「黒の魔装」には着用者に加わる痛みをある程度カットする機能があることを、彼女は「思い出した」。 そのふたつの相乗作用によって、今の彼女は処女膜を喪失したばかりの身でありながら、純粋に膣内に加えられる快楽の刺激だけを受け取ることができるのだ。 「んうぅ……スカイさまぁ!もっと……きもちよく……ふあっ!」 はしたなくせがんじゃ駄目。この交わりは、あたくしではなく、スカイゴワールさまを気持ちよくするためのものなのだから。 そんな彼女の想いを察したのか、総帥は笑いながら自らの愛妾に告げる。 「んんっ……大丈夫。我慢しないで、そのまま感じるがよい。感じているそなたが、いちばん可愛いからな」 優しいその言葉に彼女は頭が沸騰しそうになる。 心と体の両面から愛でられ、たちまち昇り詰めていく。 「あぁ……すかいさまっ……ああ……も、もう……あたくし……いくっ……いってしまいますぅ!」 「く……あぁっ……いけ、エシュっ、余も、今……くぁっ、ううっ……」 ふたりの身体がぶつかりあい、痙攣し、跳ねる。 クグッと総帥の肉棒が、自らの胎内の最奥部まで侵入し、先端をコツコツと子宮口を叩いているのが、彼女には分かった。 頭のてっぺんからつま先までがまるで痺れたように快感に打ち震えている。 「はぁ……あああ……」 頭が真っ白になってきた。もはや、何も考えられない。 「ああ……スカイ……さま……エシュは…えしゅはぁああ……」 「うっ……出すぞ、エシュ。余の子種を受け取るがよいっ!」 「はいッ!ください、スカイさま、貴方様の白くて濃いのをいっぱいいっぱい…あっ、あっ、ああぁぁぁーーーーーーッ」 ビュクッ、ビュクッ、と精液が子宮へ注ぎ込まれているのを感じる。 「はぁ……でて……る。あたくしの、おなかの中に、いっぱい……」 初めて経験する性交の、そのあまりの気持ち良さに半ば気を喪いながら、それでも、彼女は無意識に脚を、総帥の腰に絡め、一滴たりともその精を逃すまいとしていた。 ふと気が付けば、彼女は自らの意思で動けるようになっていた。 もっとも、両性の総統の美麗ながらたくましい体にのしかかられ、また自らも悦楽の余韻に、未だほとんど力が入らない状況ではあったが。 (あたしは……いえ、あたくしは……) それでも、その気になれば、スカイゴワールを突き飛ばして逃げることも出来たかもしれない。が、彼女は、そうしなかった。 代わりに、自らを本当の意味で「女」にした人物に、甘えるように体を摺り寄せる。 (あたくしは……魔妾姫エシュベイン。濁魔帝国DUSTYの三幹部のひとりにして、スカイゴワール様の愛妾……) それが、彼女──かつて珠城真奈実と呼ばれていた女性の出した答えだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |