美咲がパパで私が娘
シチュエーション


「はい、できた」

普通の服とは比べ物にならない時間をかけて、ようやく着付けが終了した。
最後に刺した髪飾りが立てる、しゃらしゃらとした音がなんだか耳にここちいい。

「ほらほら、こっちよ」

おばあちゃんに手を引かれて大きな姿見の前に立つと、
淡いピンク色の布地に桜の花びらをあしらった振袖を着た私が映っていた。

「似合ってるわよ」
「そうかな……えへへ」
「さぁお父さんたちに見せに行きましょうね」
「うん♪」

居間でゆっくりしているパパやおじいちゃん、親戚の人たちに振袖姿を披露したら、
みんながみんな「かわいい」と褒めてくれて、なんだかうれしくなってきてしまった。
おじいちゃんなんか、まるでカメラマンみたいにずっとデジカメで私の写真ばかり撮っている。
ただ……パパだけは、なんとなく私の振袖姿をうらやましそうに見つめている。

「雅弘、よかったなぁ」

本当だったらパパが着るはずだった、桜の花びらが素敵なピンク色の振袖。
でも、今は美咲がパパで私が娘だから、私が着て当然。
パパの羨望と嫉妬のまなざしを受けながら、
私はおじいちゃんが構えるカメラに向かってほほえみを浮かべるのだった。






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