不良とお嬢様 ある日の作業〜つかさ⇔司〜
シチュエーション


ごつい体に工務店のつなぎを着て同じような男達と男臭い汗を撒き散らせながら働く俺。
今日はとあるビルにデカイ看板を取り付ける作業だったのだが、休憩中汗を拭きながら見上げるとその看板が目に入った。そこには美しいロングヘアーと見事なスタイルでこちらに微笑む一人の“美女モデル”がこちらを見つめていた。
それを見た仲間は口々に「つかさちゃん可愛いよなぁ」とか「彼女にしてえなぁ」とか漏らしていた。また「つかさちゃん三葉学院卒業らしくてよ、中学時代から美少女で頭も良くて人気だったんだぜ。俺ら“学園”の野郎どもには高嶺の花だな」とも言っていた。
そうそこに映っていたのは今ファッションモデルとして人気の「斉藤つかさ」だ。

俺らが通っていた「三葉学園」暴力事件は日常茶飯事で校舎は至る所の落書きにガラスの割れも目立ち、
壁のへこみや穴も開いていたり、ゴミやタバコの吸殻も転がるそんな学園の近くに一字違いの「三葉学院」がある。
しかし学園とは大違いの超お嬢様校で伝統あるセーラー服に身を包んだ美少女が多く通い、
数々の優秀な人材を輩出した名門校だ。
そこに通っていたのが例の“斉藤 つかさ“だ。
でも今ここにいる俺が本当は“中学時代評判だった美少女つかさ”なんだぜ…。
本当は俺が“学院”に通うはずだったんだ。同じ名前の“司”と試験を取り違えられてすっかり逆転しちまったけど…
しかし誰も信じねーだろうな。今の短い金髪にした髪。鍛え上げた男らしいごつい体。脂ぎった汗の滴る無精ひげの生えた顔。
眉毛を細くして釣り上がった鋭い目。男にしか見えねーだろうが性別的には今も一応れっきとした女なのだ。
でももう男になんか感じたりしねーけどな。
元の俺の立場を奪ったアイツをおかずにしてるくらいだからな。学園時代から一緒に悪さしていた職場の仲間の野郎二人とタバコをふかしながら、しゃがみ“つかさ”の話に花を咲かせていた。

今思うと…学校にはいいようにやられたな。
そもそも学校側のミスでこうなったのは知ってるはずなのに、
今じゃ誰もそんな事あったなんて認めようとしねーなんて…
今思えば入学した時から変だったけどな…
男子校だけど特別に女子として扱ってくれるって話だったのに、入学の時に渡された制服は
他にないからと不良校だと丸わかりの男子の学ランだったし、生徒手帳も男子の“斉藤 司”となっていた。
名義上仕方ないと言ってやがったが始めから男として扱う気満々だったんじゃね?
しかも周りから浮かないようにって髪型も変えさせられて、長かった自慢の髪をバッサリ切られて、
髪を茶髪にするなんて事までしやがった。ここ学校だろって思ったが…。
制服や授業料とか免除になったのは有難かったが当然といえば当然の話だろうが
おかげで学校の言いなりになっちまった。

俺自身まだ入学時はあくまで女のつもりだったが、周りがそうさせてくれなかった。
男らしく虚勢張ってなきゃなめられる世界で、ビクビクしているわけにはいかなかったのだ。
肉体を鍛えるためという事で学校側が用意した薬剤も進んで投与した。おかげで小柄な体から身長もグングン伸びて、筋肉もついた。
でも顔は女性らしい柔らかさが消え、髭も伸びてきて、髪質も変わり、自慢だった胸も筋肉の中に埋もれるように小さくなり、
脇や足には無縁だった腋毛やすね毛も生えていた。さらに透き通るような声も成長した喉仏にかき消されて
三葉学園の不良らしい野太い声が出せるようになっていた。自分で鍛えたってのもあったけど、
ホルモンでも入っていたのだろうか…女らしさは知らぬ間に失われていって、気づいた時にはもう引き返せないほど“男”になっていた。
お嬢様で真面目だった俺だが、学校に馴染むのに必死だった。だから勉強はそっちのけになっていた。
まぁ不良の民間収容所なんて呼ばれる三葉学園でまともに勉強しようなんて奴は天然記念物に近いだろうし、
三葉学院とは比べたら月とスッポンの小学生レベルの授業では頭良くなろうなんて無理な話だろう。
これまでの中学時代、非の打ち所のないお嬢様で成績優秀だった俺だが、超底辺不良校の簡単すぎるテストもさっぱり出来なくなっていたのだ。
いかに学園で強くなるか、悪い事をするかばかり考えていた。喫煙・飲酒はすぐに始めたし、
鍛えた体で本物の斉藤司ばりに喧嘩もした。おかげで入学時ひょろっとしてなめられた俺はその後1年にして恐れられる存在になっていった。
そんな俺に学園側も匙を投げているのは明らかだったが、2年生になったある日いつもより酷い喧嘩で暴れた俺は、運悪く警察に補導されてしまった。
そこで刑事に思いもよらぬ事を言われた。「お前、中学時代も相当悪かったらしいな。先輩と大喧嘩してボコボコにしたり、○○中と喧嘩して鑑別所まで行きかけたそうじゃないか」
と中学時代の“斉藤司”の起こした悪行・素行の悪さや学年最低レベルだった成績などがまるで自分の事のように言われたのだ

「ああん!?それは学院に行った斉藤司がやったことじゃねーか、俺じゃねーぞ!」

と反論するも「ああ、お前のクラスに居た同じ名前の優等生の女の子の事か?馬鹿言うんじゃないぞ、三葉学院に行った優秀なお嬢さんとお前みたいな根っからの悪を一緒にするんじゃない」
と信じられない事を言われた。その後受験のいきさつを話しても「そんな馬鹿な話がある訳ないだろう」
と刑事は俺の言う事を信じてくれなかった。今度も何とか釈放された俺だが、納得できず学校を問い詰めると…
「受験の取り違い事件などもう存在していないのだよ」と言われた。ふざけんなよ!と思ったが詳しく聞くと
どんどん変わる俺らを見た学院と学園が勝手に話し合い決めたようだ。
信じられんが何でも学院でアイツはトップクラスの成績の優等生らしい。
次期生徒会長候補でもあり、名門ソフィア女子大の推薦も間違いないものの
過去の男時代の経歴が唯一の汚点だった。そこで学園側へ話し合いを申し出たところ、
今の手の付けられないワルと化した“斉藤 つかさ“には中学時代の輝かしい経歴は必要ないと判断したようだ。
双方の学校も中学校も受験時の取り違いミスもなかった事にできるし、今の優秀な”斉藤 司“には”斉藤 つかさ“としての
経歴が必要だという結論になったらしい。
俺には別にどうでも良い話だったが何ともムカつく話だ。

俺の中学時代の成績や評価や経歴はアイツと取り替えられて、
女子時代の楽しい思い出さえもこの間の同窓会で全てアイツにもってかれた…
代わりにアイツの大喧嘩や中学時代の最低レベルの成績や評価・補導歴は全て俺に押し付けられた。
つまり俺は昔からバカで不良という事にされたわけだ。実際超底辺な学園のテストでも散々な成績だったけどな…
3年になった時だが三葉学園の不良と化した俺に行ける大学などあるはずもなく…
受験取り違いの罪滅ぼしなのか?学園が「お前らにも出来るだろ」と用意してくれた
工務店に不良仲間と働く事になったのだ。
一方俺の素晴らしい過去を手に入れたアイツは有名女子大に受かりスタイルも良くて
今や有名モデルになったようだ。本当は俺が手に入れるはずだったかもしれないものは全部アイツが持ってった…
ただの学校の取り違いのはずが、過去も未来さえ取り替えられて人生さえも変えられちまうなんて…

「それにしてもお前とは大違いだな。同じ“サイトウツカサ”なのによ」

回想から帰った俺に学園の仲間がそんな事を言う。
中学時代の“つかさちゃん”はどうだったとかまた聞いてきたので
「うるせぇ」と言ってタバコを踏みつけ再び作業へ戻る。

そういえば同窓会の後アイツに今晩二人であって思い出話をしようという事になったのだが、
その条件が中学時代の思い出の品を交換するというものだった。
中学時代の制服やアルバム、テスト、成績表、通知表、部活で使ったものなどあるもの全部欲しいらしい、
完全に“斉藤つかさ”としての人生を手に入れたいようだ。まぁそれで“美女”になった
アイツと二人きりになれるのなら悪い話じゃない。性欲もオス化した俺は二人きりの夜を妄想するが…
こうしてまた“つかさ”としての足跡は消されてゆくんだなぁとふと思った。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ