シチュエーション
<登場人物> ●緑川進(みどりかわ・すすむ) 本作の語り手(主人公?)。つい先日、蒼空戦隊トランセイヴァーのメンバー(グリーン)に昇格したばかりの新人。熱血と言うほど熱くはなく、かといって理知的と言える程クールでもない、ある意味普通の青年(強いて言えば優しい、か)。 前のグリーンが出来婚で急きょ寿退職したため、慌てて補充されたたため、かなり未熟な面も。だが、その分、憎しみや偏見が少ないとも言える。 ハプニングから、敵対する組織「キュー・ベレイ」の女幹部グラキトゥルースとして行動することになる。そして……。 ●地帝皇子ジョシュアム その二つ名の通り、地底人の国「新聖帝国キュー・ベレイ」の皇帝の息子、しかも皇太子。同時に、キュー・ベレイ四天王筆頭、つまり地上侵攻計画の実働部隊の、事実上のトップでもある。 白皙で爽やかなイケメン。文武両道で性格も良い……と、非の打ちどころのない人物だが、欠点がふたつ。ひとつは、父である皇帝に絶対服従であること。もうひとつは(性格ブスと言われていた)グラキトゥルースにベタ惚れであること。 ●ドクター・レイモンド 帝国主席魔科学者であり、紛れもなく天才だが、人格的には色々残念な、いわゆるマッドサイエンティスト。わかる人にわかりすく言うと、女版西博士。 彼女が作る発明品の90%は、とてつもなく高度だがとてもくだらないものか、とてもチープだが意外な使い道があるもののいずれか。残る1割程度が、ピーキーだが、どうにか普通に役に立つ代物。数少ないグラキトゥルース(真)の飲み友達。 グリーンとグラキトゥルースの立場入れ替わりの元凶。 ●皇帝メルキボス 「新聖帝国キュー・ベレイ」のトップ。かつては温厚かつ思慮深い賢帝と言われていたのだが、半年前、突如地上への侵攻命令を出してから、人が変わったように苛烈で酷薄な性格となる。 ○グラキトゥルース 「キュー・ベレイ」の女幹部(いわゆる将軍に相当する地位)。まだ若い(20代半ば)が、実力+権謀でのしあがってきた女傑で、ジョシュアムとの関係も、後ろ盾を得るためと割り切っていた。 当時は本当に驚いた。 その日も、いつも通り出撃し、敵対組織「キュー・ベレイ」との戦闘したはずだった。 「いつも」とは言っても当時の私──僕は、ようやく見習いから正規の実働部隊に昇格したばかりの、まだ出撃3回目の新米でしかなかったけど。 でも、だからと言って何か大きなミスをしたという覚えはない。 後に地底人による帝国だとわかるものの、当時はまだ「謎の組織」扱いだった「キュー・ベレイ」の女幹部・グラキトゥルース率いる一団と交戦し、優勢に戦いを進めていたはずだった。 ……そう、彼女がアタッシュケースから奇妙な機械を取り出してスイッチを入れるまでは。 その途端、僕達、蒼空戦隊トランセイヴァーの動きが鈍くなり、ミスと被ダメージが増える。どんな勘が鈍い人間でも、当然、さっきの機械が怪しいとニラむよね? 幸か不幸か、その時一番グラキトゥルースの近くにいたのは僕で、しかも勝利を確信した彼女が隙だらけなのを見つけてしまったんだ。 「フフフフ……ドクター・レイモンドの発明品だから半信半疑だったけど、スゴい効果だわ!」 「そこまでだよッ!」 上機嫌でほくそ笑むグラキトゥルースに気配を殺して忍び寄った僕は、得意のジャンプキックを彼女に向けて放ったんだ。 新米とは言え、まがりなりにもトランセイヴァーの一員が放った本気のキック。けれど、さすがと言うべきか、グラキトゥルースは、とっさに手にしたアタッシュケースを盾にして直撃を防いだ。 もっとも、その時の僕はソレが狙いだったんだけどね。 計算外だったのは、ケースが予想以上に丈夫だったこと。僕のキックは作動中の機械を粉々に砕……くところまではいかず、中に納められた機械の動作を狂わせるに留まった。 あるいは、そこでやめておけばよかったんだろうなぁ。でも、初めての手柄らしい功績に調子に乗った僕は、続けてローリングソバットを放ち、ついにアタッシュケースを破壊しちゃったんだ。 その瞬間、機械が爆発を起こし……それに巻き込まれた僕とグラキトゥルースは仲良く意識を失うことになった。 で、意識を取り戻した僕は、見たことのない(けれど、どこか見覚えのある)部屋に寝かされていた。 部屋の内装や置かれている道具の意匠・文字から見て、どうやらココは「キュー・ベレイ」の基地かアジトっぽいけど……。 もしかして、あの場で気を失った僕は捕虜になってしまったのかな?でも、それにしては、室内の作りは豪華だし、特に縛られてたりもしていないし……。 地上の文化とは異なるけど、どうやらココは女性、それも結構身分の高い人の私室のように感じられた。 キョロキョロと部屋の中を見回すと、古代ギリシャ文明を思わせるデザインのクローゼットやチェストボックスに混じって、高さ1.5メートルくらいの姿見が目に入る。 その前に立ったことで、僕は初めて自分がとんでもない服装をしていることに気がついたんだ。 何かの革を加工した赤い素材でできたジャケットのような上着は、まぁいい。前を留めるボタンが1個しかないのもそういうデザインなのだと納得しよう。 でも、その下に着せられてるのが……。 「こ、これは……SMの女王様!?」 後から冷静になってよく見れば、キチンと胸部にはアーマーっぽいものが付いてるし、各パーツにも刺繍が施されてたりと、色々凝った部分はあったんだけど、その時の第一印象は、まさに「女性用の黒いボンテージ衣裳」そのものだった。 しかも単にハイレグで胸元が際どいばかりでなく、お腹や背中も大きく肌が露出している。コレ、服としての意味あるの? 足元も、ピンヒールになった革のロングブーツだし……我ながらよくこれで歩き回れたものだなぁ。 (クッ、もしかしてこれは(この基地の人間からして)憎きトランセイヴァーの一員に対する羞恥責めなのか!?) これほど恥ずかしい格好をさせられたのは、高校の体育祭で仮装リレーで「ブルマー+女子体操服+二ーソックス」姿でグランド一周した時以来だッ! こんな服装では脱出もままならない。なるほど、確かに下手に拘束したりする必要はないワケだ……と、その時の僕は思ったんだけど、真相は全然別だったんだよね〜。 それに気付いたのは、直後に部屋に入って来た敵幹部のひとり──四天王の筆頭である地帝皇子ジョシュアムが、僕に話しかけてきたからだった。 「おぉ、目が覚めたのか、ラキ。心配したぞ」 元々ジョシュアムは、「キュー・ベレイ」の指揮官であったものの、民間人には極力被害を出さず、また卑怯な戦略もとらない、敵ながら天晴れと言いたくなるような武人だ。 彼なら、たとえ捕虜に対しても乱暴なことはしないと思うけど、この時の彼の視線は明らかにそういうレベルじゃなく、まるで大切な恋人に対するような労わりと気遣いに満ちていた。 「爆発に巻き込まれたと聞くが……どうだ、体に不都合なところはないか?」 「えっと……は、はい」 状況が見えない中、とりあえず、無難な返事をしてしまう僕。 「そうか、それはよかった。医者の見立てでは、とくに大きな負傷はないし、細かい傷は治癒術で消させたのだがな」 「あ、ありがとうございます」 捕虜に対するものとしては破格の待遇に、僕は驚いてお礼を言う。 「なに、気にするな。お前のその珠の肌に消せない傷痕などが残るのは、我も心底惜しいからな」 微笑みながら、そう言うとジョシュアムは僕の右手をとり、その手の甲に、まるで貴婦人に対する騎士のように接吻する。 「あ……」 本来なら、たとえ唇じゃないとは言え男にキスなんてされたら鳥肌が立つと思うんだけど、その時の僕はなぜか不快感を感じず、むしろドキマギするような気分に襲われていた(まぁ、その理由はあとでわかるんだけど)。 慎重にジョシュアムと会話しつつ、僕なりに懸命に今の状況を分析してみた結果、得られた結果は、トンデモないものだった。 その一。僕は誰か──おそらくは女幹部であるグラキトゥルースと間違えられている。 その二。しかも、この取り違えを(少なくともキュー・ベレイ側は)誰も不審に思っていない。 その三。どうやらグラキトゥルースは、ジョシュアムと愛人的な関係にあるらしい。 ──なに、このカオスな状況? 確かに僕は、20歳の男性としては少し小柄で華奢だし、長身のあの女幹部とは背丈や体格だけならほとんど変わらないかもしれない。 でも、顔立ちも髪の色も全然異なるし、何より僕は男だ。こんな格好していても……いや、こんな衣装だからこそ、胸がないのも、ハイレグになってる衣装の股間が……その、モッコリしてるのも、見れば一目瞭然なはずなのに。 とは言え、新米ヒーローな僕でも、こんな敵の本拠地まっただ中で「実は、僕、グラキトゥルースじゃないんです」と告白するのが悪手であることはわかる。 仕方なく、ジョシュアムとの会話は適当に話を合わせつつ、情報を探っていると、気になる単語が出てきた。 「ドクター・レイモンド」 あの戦いの時に、本物のグラキトゥルースが呟いていた名前だ。トランセイヴァー側には、「キュー・ベレイ」の技術顧問だという程度の情報しかつかんでいなかったけど……。 けれど、その時、僕はふと気付いたんだ。 僕らトランセイヴァーは、彼ら──「キュー・ベレイ」のことを殆ど知らないし、知らされていないことに。 コレは……ある意味チャンスかもしれない。 理由はまだわからないけど、今の僕が「女幹部グラキトゥルース」として認識されているなら、この基地?の中を色々歩きまわっても不審に思われないはず。 なら、できるだけ情報を集めてから脱出し、元に戻る算段をつけよう。 気がかりなのは、おそらくは僕の立場になっている本物のグラキトゥルースのこと。おそらく向こうも僕と同じことを考えるはずだけど……。 ただ、新米の下っ端──せいぜい下士官程度の地位でしかない「セイヴァーグリーン・緑川進」では、正直たいした情報を得られないだろう。相殺しても僕の方がメリットは大きいはずだしね。 そんなワケで、僕は当面「グラキトゥルース」として振る舞うことを決意したんだ。 ──それが、この無益な戦いの幕を引く始めの第一歩になると、その時の僕は気付いていなかったけれど。 「恋人(愛人?)」の身を心配するジョシュアムには悪いが、とりあえず彼には適当なことを言って帰ってもらう。 「本当に大丈夫か、ラキ?今日くらいはゆっくり体を休めていてもよいのだぞ?」 部下想いなジョシュアムなら確かに言いそうな台詞だが、同時にそこには僅かに私情──惚れた女性を気遣う愛情──が混じっていることがわからない程、僕も馬鹿じゃない。 「お心遣いありがとうございます。では、お言葉に甘えて、もう少し部屋で休んでから、任務に復帰させていただきます…わ」 彼を騙しているという後ろめたさもあったため、僕はグラキトゥルースの口調を思い出しつつ、努めてジョシュアムに愛想良く笑顔で答えた。 「(おぉ、ラキが微笑みかけてくれるとは珍しいな。だが……その笑顔、イイ!)そ、そうか。ならよい。無理はせぬようにな」 なぜか顔を赤らめつつジョシュアムが部屋から立ち去ったのを見送ると、僕は扉の鍵をかけて、ホッとひと息ついた。 「はぁ〜、とりあえず最初の試練はくぐり抜けたか」 とは言え、今回はグラキトゥルースに好意を抱いている彼だったからこそ、多少言動が怪しくても見逃してもらえたのかもしれない。 幸い此処はグラキトゥルースの部屋みたいだし、彼女のフリをするなら少しでも情報を得ておいた方がいいだろう。 そう考えた僕は、「若い女性の私室を探る」と言う行為への罪悪感とほのかな興奮から極力目を逸らしつつ、部屋の中を色々探ってみたんだ。 クローゼットを開けると、女物(たぶんグラキトゥルース)の服が沢山かかっていた。 今僕が着ている出撃用の戦闘服(?)とよく似たデザインのものが複数ある反面、ギリシャ神話とかに出て来そうな簡素なワンピースっぽい衣装(キトン)もある。 (もしかして、こっちが私服というか部屋着なのかな?) だとしたら、着替えるべきなのかもしれないけど……いったん保留。 さらにクローゼットの反対側には、現代風の服装がいくつも掛っていた。 キャリアウーマンっぽいスーツとか、若奥様風の清楚なワンピースとかは、日本の街並みに紛れるための偽装用だとわかるから、まぁいいんだけど……。 (なんでメイド服とかナース服とかチャイナドレスとかが混じってんの!?) いや、待った。訓練所で読んだキュー・ベレイとの交戦記録の中には、グラキトゥルースが色々な職業の女性に化けて行った作戦のことが載ってたような……。 「あ〜、つまり、コレはその当時の記念品?」 ──いや、何も言うまい。彼女だって若い女の子(?)なのだ。年齢や立場によらず、女性が色々な服を着てオシャレしたいと思う気持ちは、ごく自然なものなのだろう、ウン。 続いて机の周辺を探ってみたところ、運がいいことにグラキトゥルースが書いた日記と思しき冊子を引き出しから発見できた。 いかに敵とは言え、うら若い女性のプライベートを覗き見ることに多少の躊躇いはあったものの、背に腹は代えられない。 (これもこの窮地を無事にやり過ごすためだ……ゴメン!) 思い切って開いてみると、そこにはグラキトゥルースのこれまでの任務や日々の雑務、そしてそれらに関連する雑感が赤裸々につづられていた。 これを読む限りでは、彼女の本名は、グラキトゥルース・メリオール・エッセンシュバルツと言い、この「新聖帝国キュー・ベレイ」に於いて貴族とも言うべき地位にあるらしい。「なるほど、あんなに高飛車なのはお嬢だったからか」とどことなく納得がいく。 同時に、文章の端々から、彼女が仲間の四天王や部下達に抱いていた感情も窺えたんだけど……。 ひと言で言うと、「コレはヒドい」。その出自から、エリート意識が強いのは理解できるけど、自分勝手で我が儘と言うか、被害妄想が強いと言うか……リアル電波女一歩手前、いや半歩くらい踏みこんでるかも。 そもそも、あのジョシュアムは、こんなヒス女のどこに惚れたんだろうと思ってたら、その答えも日記に書いてあった。どうやら、グラキトゥルースの顔が、ジョシュアムの亡くなった母親の若い頃にそっくりらしい。 「つまりは……マザコン?」 ジーザス!あんただけはマトモだと思ってたのに。 とは言え、「男は誰でもマザコン」というコトもよく言われるし、自分の経験に照らしてみて頷ける部分がないでもない。 このグラキトゥルースみたく、心底嫌悪するのもどうかと思うんだけどなぁ。 そうそう、グラキトゥルースとジョシュアムは、確かに恋人と言うか愛人的な関係ではあったようだけど、少なくとも彼女の方に恋愛感情はないみたい。 「上司かつ主筋の皇子である男への義理立て」プラス「いざという時の後ろ盾に」という打算から、関係を持ってたらしい。 (うぅ……哀しいよなぁ、男ってヤツは) さすがに、コレは同じ男としてジョシュアム皇子に同情せざるを得ない。多分、あの聡明な皇子のことだから、薄々感づいてるとは思うんだけど。 先程の彼の暖かい心遣いを思い返すと、他人事ながらグラキトゥルースに腹が立ってきた。せめて僕がココにいるあいだくらいは、彼に優しくしてあげよう。 そのまま2時間ばかり日記を何度も読み返すことで、どうにか僕は此処で「氷結女将グラキトゥルース」の思考パターンと行動を、おおよそ飲み込めたとは思うんだけど……。 「さすがに、こんな地雷女を演じるのは無茶だよなぁ」 思わず溜息が洩れる。僕の素の性格との差が大き過ぎるよ。 無理になぞろうとするよりは、いっそ不審を抱かれない範囲で僕なりの「グラキトゥルース」像を想定したほうが無難かもしれないな。 要するに、彼女の行動に、僕なりに納得がいく理由付け・キャラ付けをできれば、ちょっとはマシかもしれない。 まず、あのツンケンした態度のうち、プライドがやたら高いのは、「ほかに頼れるものがないから」という不安の裏返し……としてみたらどうだろう? それに血筋に誇りを持つってことは、同時にノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)もキチンと果たさないといけないよな。 それと、言葉がキツいのは、素直じゃない性格から優しい言葉を言えない──要するにツンデレなんだと考えてみたら。 つまり、「普段はプライドが高くで高慢ちきに見えるけど、実は単なる照れ隠しで、心の奥に弱さを隠し、陰でひと一倍努力してるツンデレ娘」だと想定してみる……と。 うん、コレなら少しは感情移入できそうだ。 よーし、コレでも僕は中学の頃は演劇部だったんだ──おもに小道具担当で、舞台には何回か端役でしか上がったことはないけど。 そ、それでも、門前の小僧なんとやらで、演技することにかけてはまったくの素人よりは一日の長がある!……と思う、たぶん、メイビー。 と、とりあえず、こーゆー時は、イメージトレーニング、イメージトレーニング。 「えーと……僕、じゃなくて私は新聖帝国キュー・ベレイの最上級幹部グラキトゥルース・メリオール・エッセンシュバルツです、わ!」 照れくさいのを我慢して、鏡の前でいくつかのポーズをとり「私はグラキトゥルース」と何度も繰り返す。 100回目を数える頃には、何とか自然にその言葉が言えるようになっていた。おかげで右手の甲を口元に当てて、「オーホホホ!」って高笑いもできるようになってたさ!(←ちょっとヤケ) グラキトゥルースのフリをして基地内を歩くための、最低限の準備が整ったところで、僕は日記の最新ページに書かれていた「ドクター・レイモンド」とやらの研究室を訪ねてみることにした。 「○月×日 ドクター・レイモンドから、また新発明品の試験運用を依頼されましたけど、この「因果律改変装置」ってホントに効果あるのかしら?もし、話半分だとしても効果があるなら、確かに今後の戦いがグッと楽になるのでしょうけれど……。 そのために、トランセイヴァーごとき相手にワザと戦闘で劣勢になれだなんて、あのメガネ、何考えてますの!? フン、まぁ、よろしいですわ。仮に今回の作戦が失敗した時は、レイモンドに責任を負わせてやりましょう。華麗なわたくしの経歴に汚点は似合いませんからね」 この「因果律改変装置」ってヤツが、たぶん、あの戦いのときに、グラキトゥルースがいぢくってた機械のことだろう。 名前からして、いかにも怪しいよなぁ。それが衝撃で誤動作したのか、それとも根本的に欠陥品だったのか知らないけど、ソイツのおかげで、いま僕(と、たぶん本物のグラキトゥルース)が奇妙な状態になってるんだろうし。 ……日記の記述からして、問題のドクターとやらは、どう転んでもマッドサイエンティストっぽいから、気は進まないんだけどね。 ──けれど、その時の僕はあまりにいっぺんに多くの厄介事が我が身に起こったことで、ひとつ重大な事柄を見落としていたんだ。 そう、どうして、僕が、地底人の文字と言葉で書かれたグラキトゥルース日記を、平然と読んで内容を理解することが出来たのか、ということに。 SS一覧に戻る メインページに戻る |