続・そこはとあるお屋敷 その6
シチュエーション


昼食後、紗雪の伝言通り遥人は南館の小ダンスホール前へ来ていた。
ダンスホールなどと言われているが実際の所ただの広い部屋である。

「ここって最近使われた事無いよな」

こんな所に何があるのだろうと思いつつも、呟きながらドアを開けて中に入る。
少し埃っぽい様な空気を感じながらも中を見渡すと、やはりただの広い部屋だ。
誰も見当たらず何をすれば良いものかと思案に入ろうとした時、
今しがた遥人が入って来たドアの方から誰かが入って来た。

「いらしゃいましたのです」

可愛い声が聞こえそちらを振り返ると、そこには掃除道具を手にして佇む小さな姿を見つける事が出来た
メイド服を着ているのでここのメイドで間違いない様だが、その顔立ちは子供にしか見えない。
だが身体は小さいのに、ささやかだが胸のふくらみはしっかりとあり女性である事を主張していた。

「ああ、茉莉(まり)ちゃんか」

遥人は直ぐにその人物の正体がわかった。
茉莉はこのお屋敷で最年少のメイド、正確にはメイド見習いである。
顔立ち通りの年齢で、何時もは遥人が普段使っているエリアを雛子や真由と一緒に担当している遥人にも顔なじみのメイドだ。
そして何を隠そう雛子の実の妹だったりする
しっかり者と言うか真面目なのだが、雛子と違い少し内向的な面があり表立って何かをするのは苦手な性格をしている。

「本当にメイド服を着ているのです」

茉莉は遥人をじっと見つめるとぽつりと一言言葉をもらす。
色んな人に見られ過ぎて、気にしなくなっていたが改めて見られるとやはり恥ずかしくなる。
考えて見れば今のメイド服はミニ丈なのだ。

「なんか恥ずかしいからあまり見ないでくれると助かるんだけど」
「そうですね。男の人がメイド服を着ているなんて恥ずかしいのです」

そう言いつつも茉莉の視線はそのままだ。
遥人が感じるに自分はあまり茉莉に好かれていないと思っている。
嫌われていると言う訳ではないが、
使用人と主人との距離を保つと言うより壁を隔てた様な余所余所しさが随所にあるのだ。
それは真面目さから来るものなのか、人と接するのが苦手なせいなのかは解らない。

「今日はそう言う趣向なので仕方が無いのですが、
遥人様を雛子姉さまとして接しなければならないのは気が進まないのです」
「だったら、そこら辺を無理に意識しないで接してくれると俺としても少し気が楽なんだけど」
「そうはいきません。雛子姉さまも言っていましたです『今日一日は私を遥人だと思って、遥人の事は私として扱う様に』と、
だから不本意ながらそうさせて頂きますのです」

茉莉のこう言う所が変に真面目と言われる所だ。
言われた事に対し可能な限り対応し実行する。
それはメイドとして理想的な事なのだろうが、
普段雛子の様なメイドが側に居てなんだかんだとふざけ合ったりしていると、茉莉の場合は頑張り過ぎなのではないかと思われる。

「不本意なのは俺も同じなんだけどね」
「雛子お姉さまはそんな言葉づかいはしないのです。やるからにはきちんとしなければいけないのです」
「う、 分かった、わよ」
「あと雛子姉さまはそんな仕種はしないのです。
足幅はもう少し狭く、脇は開かないです。そして私を見る瞳は優しげにです」

最後の指摘が少し変なのは、茉莉がお屋敷に雛子を慕って働きに来てしまったぐらい
雛子の事が大好なお姉ちゃん子だからなのだが、それを遥人に求めるのは間違っている気もする。

ちなみに遥人と雛子が幼馴染なら茉莉もそうだろうと思われるが、
親に付いてお屋敷に良く出入りしていたのは雛子だけで茉莉と遥人の接点はそこまで親密ではない。
雛子の母親と遥人の母親はとても親しい間柄だった様で、遥人の母親は雛子の母親を頻繁にお屋敷へと招き、
その際に遥人と雛子はお互いに顔を合わせていた訳である

茉莉は真面目に指摘している様なので、取り合えず遥人は言われるままに佇まいを直し、
思いつく限りの優しい眼差しを向けてみる

「こ、こうかしら?」
「やっぱり違うのです」
「ダメなの?」
「ダメです。これっぽっちも違います。ダメダメなのです」

何故か明らかに落胆する茉莉。
普段から一緒に居るとは言え雛子がどんな眼差しで茉莉を見ているかなど遥人に解る訳もない。

「出来ない場合や真面目にしない時は報告するようにと遥人様な雛子姉さまが言っていましたです。
ペナルティーの用意があるとも言っていましたのです」
「ちょ、またそんな事」

本人が居なくてもしっかりと遥人をいじれる様に仕向けてあるとはやはり雛子だ。
しかも真面目な茉莉にその事を頼むあたり確信犯だ。

「そう言うのやめて本当に」
「仕方が無いのでそこは妥協しますです。その代わり抱っこして頭なでなでして下さいです」

また変な要求だが、その光景は見た事がある。
雛子は抱き癖があり、さすがに今の遥人にはしないが、
嬉しかったりして感情が高ぶると人を抱き寄せて頭を撫でまわす癖があるのだ。
茉莉はそれをされると嬉しい様だ。
ただそれを遥人に求められても困るのだが。

「本当にそれやるの?」
「また戻ってます。ちゃんと雛子姉さまして下さいです。
身も心も雛子姉さまになりきってちゃんとして下さいです」

恥ずかしいと言うより、茉莉にそんな事をすると後で雛子に何か言われそうで躊躇うと言うのが遥人の心情だ。
だがここまでやって欲しいと望まれてやらないのは、それはそれで後で何かありそうだと思う。
しょうもない決断を迫られるのは何時もの事だが、こんな時は自棄になってやってしまえと吹っ切るのが遥人だ。

「(私は雛子、私は雛子、茉莉は可愛い、手っとも可愛い、可愛い妹の茉莉を抱きしめたいの)」

心の中で暗示を掛ける。
そして一息に行動に移す。

「もう、茉莉ってば可愛いんだから」
「えへへ」

自分のパッドで膨らんだ胸に茉莉を引き寄せ密着させ、茉莉の後ろ頭を優しく撫でる遥人。
そして撫でられながら嬉しそうにはにかむ茉莉。
その光景は仲の良いメイド姉妹と言った感じで絵になっているが、
素に戻れば遥人にとって女装して女の子に抱きついている訳で恥ずかしい事この上ない。

ひとしきり抱擁と愛撫を堪能すると、茉莉は身体を離しメイド服の乱れを整えた後に咳払いを一つする。

「ごほん。 えー、ではこれからこの部屋の掃除をしますです雛子姉さま」
「掃除だね、わかった」
「また言葉使いがなっていないのです」

本当に雛子になりきらないと納得してくれない様だ。
こうなる事を見こして雛子は遥人と茉莉を一緒にさせたのだろう。
どうあっても雛子を演じなければずっと指摘され続ける破目に合うのは想像に容易く、
しかもその後に雛子へ報告されペナルティーを受ける流れになるのだろう。
またもやの受難に遥人はもう苦笑いするしかない。

「はは、ゴメン」
「笑って誤魔化してもダメなのです。まずはハタキで窓のサッシと壁の埃を落とすです」
「わかったわ。でもこの部屋って結構広いわよね、埃払うのだけでも大変そう」
「そうなのです。雛子姉さまが手伝ってくれて助かるのです」
「そう?茉莉にそう言ってもらえるとお姉ちゃん頑張っちゃう!」

力瘤を作るポーズでおどけた様に言うその姿は普段の雛子がやりそうな感じだ。
遥人も伊達に雛子と一緒に居る時間が多い訳ではないらしく、雛子ならこうだろうなと言う行動はなんとなく思いつく。
思いつくからと言ってそれを行動に移すのは恥ずかしいのだが、
それよりもペナルティーと言うのが恐ろしい気がしてならないので仕方がなくやっているのだ。

その事に表情には出ていないが茉莉は満足してくれている様だ。

「雛子姉さまらしくなってきたのです」
「さ、ちゃっちゃとやっちゃうわよ」

遥人は気合を入れると先程に茉莉がもちこんだ掃除道具からハタキを探したのだが、ハタキが見つからない。

「雛子姉さま、ハタキはこれなのです」

茉莉が取り出したのは、昔からある布製のものではなく、もこもこのほこり取りムートンだった。
お屋敷だからと言って掃除道具がレトロとは限らないのだ。
遥人が通っている学校の方が掃除道具は昔ながらの物でそろっている位である。

「あ、これ便利かも」

ほこり取りは柄の長さが調整でき穂先の向きも変えられるので高い所も楽に掃除できる。
こう言う新しい道具を使うとつい楽しくなるのは遥人もやっぱり男の子だ。

「茉莉は下の方をお願い。上の方は私にまかせて」
「解りましたのです」

指示を出して着実に掃除を行う姿は本当のメイドと遜色ない働きぶりである。
ただ上の方の掃除をするとどうしても背伸びをした様な体制になり、
後ろからだとスカートの中が見えそうになっているのを遥人は自分で気が付いておらず非常に無防備になっている。
スカートとニーソックスの間の絶対領域を楽しむ者ならば、その姿に萌えを感じずには居られないだろう。
たとえその対象が男の娘であってもだ。
遥人にとって幸いなのはこの場にその様な人間が居なかった事で、
茉莉は興味がない様子で微塵にも遥人の方を見ようともしていない。

「ところで茉莉は普段はなにをしているの?」

無防備な姿で掃除をしつつ、茉莉に話しかける遥人。
茉莉があまりのも黙々と掃除をするので少し場が和めばと思っての行動だ。

「雛子姉さまが知らない訳ないです」
「(それもそうか)じゃあ、好きな人とか居る?」
「雛子姉さまです」

雛子になりきる事を意識した遥人的には、女子の会話の入りは恋話と言うイメージで尋ねて見ただけなのだが、
こう言い切ってしまうのはいくらお姉ちゃん子でも結構重症な気もする。

「そうじゃなくて、好きな男の子とか居ないのかしらって事なのよ?」
「・・・・。」

会話を引き出す為の話題振りだが、振り方を間違ったらしく茉莉は黙り込んでしまった。
なんとなく気不味い雰囲気が流れる。
普段から茉莉は遥人とは必要以上に口を利いてくれないので、どうも間が取り辛い。

「茉莉は可愛いからきっと学校でもモテてるわね」
「・・・・。」

再度の声掛けにやはり返事はない。
おかげで雛子の口調を真似して一人で話し掛けているのが余計恥ずかしい。
止せば良いのに恥ずかしいのを紛らわす為、また茉莉に話掛けてしまう。

「もう、返事しなさいってば、頬っぺたぷにぷにしちゃうわよ」
「ほむむ、ひゃめてくらさいです」

耐えられない反動か、ついには暴走し茉莉の両頬をつまむんで揉むと言うちょっかいまで出してしまう始末だ。
少し調子に乗り過ぎな気もするが、茉莉は払いのけようとはせずされるがままだ。

「ほら、笑いなさいって、笑った方が可愛いんだから」
「しょんなひょとひゃれてて笑りゃえりゅわけにゃいのれす」
「あ、ゴメンゴメン」

遥人がなにかとても楽しそうだ。
いくら雛子になりきっているにしても、なりきり過ぎである。
これが遥人の中の雛子のイメージなのだろう。

「仕事中なのです。仕事中は集中しなければいけないなのです」
「いいじゃない、ちょっとぐらい」
「よくないのです」
「可愛い妹を愛でてるだけよ?」
「仕事に差し支えるのです」
「もう、茉莉のいけず」

変なスイッチが入り調子に乗った遥人は止まらない。
恥ずかしさも限度を超えると感じないのか、普段の遥人だったらやろうと思っても絶対出来ない様な行動をしている。

「いい加減にして下さいのです! 雛子姉さまは仕事中にそんな事はしないのです」

とうとう怒られた。
考えて見れば雛子は仕事の時はしっかりと仕事モードになってやっている。
普段はいま遥人がやった様な事をしていても、そこの分別は出来ているのが雛子である。
そんな姉の背中を見ている茉莉にしてみれば、この遥人の行動は許容を超えてしまったのだろう。

「もっとちゃんと雛子姉さまをして下さいです。
今度おかしな行動をしたらその度にペナルティーを増やしてもらうです」
「うっ、それだけは許して」

調子に乗り過ぎたのかもしれないが、本当につれない茉莉の態度にやはり壁を感じる遥人。
最初の「頭なでなで」で喜んでいるようだったからスキンシップを図って見たのだが、とても不評の様だ。

「(うーん、茉莉はよく解らないよ)」

それが遥人の思う所だった。

結局黙々と掃除をするしか無く、茉莉と広いこの部屋を時間をかけて綺麗にして行った。
ほこり取りに窓ふき、モップでの床掃きに水拭きとやる事は沢山あり広い部屋の掃除はそれなりに大変だった。
そして最後に調度品の像を磨き終えると掃除は終了となる。

「終った〜」
「また言葉使いと仕種がなっていませんのです。雛子姉さまは最後まで気を抜きませんです」

思わず、伸びをして茉莉に指摘を受けてしまう。
掃除中の会話と言えば「雛子姉さまらしくして下さい」ばかりで、いい加減パターン化してしまった気がする。
そんな事を考えていると誰かがこの部屋にやってきたようだ。

その人物は男装の女子『遥人な雛子』と後輩メイドの真由の二人だ。

「やあ、掃除は終わったかい?」
「あ、雛子… じゃなくて遥人様」
「滞りなく終わりましたのです」
「二人ともお疲れ様ですぅ」

今は遥人と雛子の立場が入れ替わっているのでそうとは言えないかもしれないが、
雛子を筆頭に真由と茉莉を合わせて通称「遥人様お世話隊」とされる顔触れが揃う。
ちなみに人事については遥人の意思ではなく母親の一存だ。

「茉莉ちゃんお願いしておいたものは?」
「はい、これなのです。ちゃんと撮影しましたのです」

言って茉莉が雛子に渡したのは小さなビデオカメラだった。
雛子はそれを受け取ると早速画像をチェックする。

「どれどれ? おおー♪これは良わね」

そこに映っていたのは、茉莉を抱き寄せ頭を撫でているメイド姿の遥人だった。

「わ〜っ、ちょっと何時の間のそんなの映したのさ!?」
「なんですかぁ?私にも見せて下さい」

何が映っているかと不審に思って覗きこんだ遥人もそれを見て赤面し慌てる。
真由も断然興味を惹かれた様だ。
次に映し出されたのは背伸びをしながら窓の埃を取る姿だ、
背伸びをするたびに短いスカートが上がり下着が見えそうになっている。

「ナイスアングルね」
「天然でこれやっちゃうなんて侮れないですぅ」

見えそうで見えない何ともギリギリ感がそそる映像で、雛子と真由は歓声を上げる。
その映像があると言う事はもちろん、その次の雛子になりきって茉莉にちょっかいを出す姿の映像もある訳で

「あっははは、何これ、ノリ良すぎ」
「確かに雛子先輩ならやりそうですぅ」

案の定、大爆笑だ。
一体どうやって撮影したかは謎だが、どうやら茉莉には隠された技能がある様である。
当の茉莉本人は涼しい顔をして側に控えており、遥人は恥ずかしさのあまり耳を塞いで小さくなっている。

「いや〜良い画が撮れたわね。茉莉には後で御褒美ね」
「本当なのです?雛子姉さま。嬉しいのです」
「でもこの画像、一つだけ惜しいと言うか足りない所があるのよね」

雛子はそう呟くと、小さくなっている遥人に向き直り、ご主人様モードで声を掛けた。

「雛子、そんな所で小さくなっていないでこっちに来るんだ」
「はい、なんでしょう遥人様」

朝からずっとしているので主従逆転の立ち振る舞いも慣れてしまい、
すぐ反応出来てしまうあたり遥人は意外と順応力が高いのかもしれない。
こんな順応力は要らないとは遥人の心の声だ。
幼馴染みゆえの阿吽の意思疎通によって出来ている事でもあると思うのだが。

「ちょっと片足立ちで、このコインを拾ってくれないか?」
「はあ?解りました」

意図が見えず困惑するが、取りあえず言われた通り片足立ちをし、
ふら付きながら床に置かれたコインを拾おうとした。

「今ねっ!」
「っ!?」

ドシン ザバー
遥人の足をいきなり雛子が払う。
遥人は見事にひっくり返り、おまけに近くにあったモップバケツの水を浴びてしまう。
これには抗議の声を上げずにはいられないと言うものだ。

「あう〜、何するんだよ」
「あの映像に足りないもの。それはドジっ娘とパンチラよ!」

ばーんっ!と雛子が指さすその先には、バケツの水でびしょ濡れになりひっくり返って捲れ上がったスカートから下着が丸見えな遥人。
メイド服としましまパンツの組み合わせはマニア度が非常に高い。

「おお、さすがは雛子先輩です、ハイレベルすぎますぅ」
「こんなの必要じゃないって」

雛子は堪能しつつもしっかりとその遥人の姿を撮影もしている。
こうなった時の雛子は無敵だ。
暴走する雛子は何時でも遥人を巻き込み収まる所を知らないのだ。

諦めるのが最善と心得えるのが良策である。
好きにやらせれば終るはずであった。

「あっ!その下着私のなのです」

だが思わぬ方からの声で事態が一変する。

「な、これって茉莉のショーツだったの!?」

遥人が今晒している縞パン、
新品ではないと思っていたがまさか茉莉の物だったとは思い至る訳もなく、
その事実の発覚に遥人はうろたえる。

「間違いないのです。それ昨日の私のなのです」

続く言葉がさらに遥人を追い詰める。
しかも使用済み未洗濯の物だったとは、本気でヤバい。

「あ、丁度良いのがあったから遥人にいいと思って少し借りたのよ。思った通り似合ってるし良いでしょ?」
「私も似合っていると思いますぅ」
「(妹の洗濯物を穿かせるとか有り得ないって)」

しれっと言う雛子はまったく悪びれていない。
羞恥プレイと言うより茉莉にトラウマを与え兼ねない、まさに最悪な所業だ。
しかしこの場合一番悪いのは茉莉の下着を穿いている遥人自身だ。

「あ、う、あ、茉莉ちゃんごめん。これはその」

慌てて何か取り繕うと思うが何も思い付かず、だからと言って今ここで下着を脱ぐ訳にもいかない。
「ぱんつはいてない」は高度な萌えと実践者には羞恥を与える高等プレイなのかもしれないが、遥人が自分からやるはずもない。

「(絶対変態扱いされるし最悪だ)」

このままではただでさえ良好とも思えない茉莉との距離がいっそう酷くなるに違いないと危惧して更に焦る遥人だが、
そこで思いもよらない言葉が茉莉から返って来た。

「似合っていますのです」
「は?」
「遥人様が私のを穿いているなんて嬉しいのです」

一体何なんだろうこの反応は?
何がどうしてそう言う反応なのか皆目見当もつかない。
しかも表情が恥じらいつつも嬉しそうな茉莉なんて今まで見た事がない

「さすがは我が妹ね。茉莉は萌えを心得てるわ」
「雛子姉さまの教えの賜なのです」
「素晴らしき姉妹愛ですぅ」

それは萌えとは言わないし、そんなものを姉妹愛ともして欲しくない。
似ていない姉妹だが、変な所でそっくりだ。

「遥人様、その下着は差し上げますです。大事にして下さいです」
「いや、もらっても困るんだけど」
「いえ、私も遥人様のお古の下着を頂いておりますのでお返しなのです」

まさか茉莉がこんな娘だったとは。
雛子のおかげで女の子に対する幻想など懐かなくなっていると言え、
雛子の様な娘がそうそう居るとも考えていなかった遥人には軽く衝撃だった。

「あのね、この際だから言っておくけど茉莉って遥人の事を…」
「雛子姉さまそれ以上は言わないで下さいです!」

遥人の事を何だと言うのだろう。
普通なら「好き」と言う流れだが、何分よく解からない所のある娘である。
「弟にしたいと思っている」「夜のおかずにしている」「学校で商売にしている」
などなど普通ではない続きがありそうだ。

「茉莉ってば照れてますね、可愛いですぅ」
「からかわないで下さいのです」
「愛の力ねえ」

気にした所で遥人に答えが解るなら苦労はしない。
なので一言だけ呟いておく事にした。

「もう訳が解らないよ」

誰が使い始めたか解らないが便利な言葉だ。
全ての問題を投げやりに出来る魔法の言い回しである。

「さてさて、何時までもここで騒いでいるのは何だし休憩も兼ねてお茶にしましょうか?」
「賛成ですぅ」
「それは嬉しいのです」
「と言う訳だ。雛子、部屋に戻ってお茶にするぞ」

雛子はそう言いまた主従逆転を再開させる。
今日1日の約束なのだから、まだ遥人は雛子と言う訳だ。

「かしこまりました」

遥人は立ちあがると、メイド服の乱れを直し雛子へ一礼する。

「さっきの雛子の素敵画像を大きな画面でみんなで鑑賞しようじゃないか」
「ちょっと!それは無し!」
「なんだ雛子はしたないぞ?」
「それは雛子姉さまらしくないのです」
「わ〜ぁ、楽しみですねぇ」
「もう勘弁してよ〜」

遥人をいじるメンバーに茉莉も加わり、更に遥人の受難が増したのは言うまでもない。
賑やかさを増す遥人の回りだが、その事が遥人の苦労を更に増加させるのだった。
そして雛子の企みはまだまだ続くのである。






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