どんな感じなの?2
シチュエーション


――三日程経ったある日の事――

「……なんか最近変やね、あんた」

……そう?

「自覚ないのん?」

……無いけど。

「なんか溜め息ばっかついとるし、表情も暗いやん」

………………。

「片想いの彼と何かあったん?」

………………。

「……あったんやね」

……えっと……かくかくしかじか。

「そかそか。とうとう告白してその場でエロエロな事までやってってあほかーいっ!」

……えぇ!?

「一足飛びにそこまで行くなや……お姉さんは呆れたわ」

……も、物の弾み、って奴かな?えへ。

「えへやないわい!……ワタシカテマダナノニ……」

え?何?

「べ、別になんでもあらへん!……んで、想い遂げたんなら、なして暗い顔してんのん?」

………………えっと……。

「なんやの、顔赤くして?お姉さんにゃ言えんような事なんかなー?ぐへへ」

……おじさんみたいだよ、咲子ちゃん。

「うっさいわ!んで、どないしたん?誰にも言わんし、話してみ?」

………………かくかくしかじか。

「………………」

……色々調べたんだけど、私、不感症って奴なのかな、って。

「………………」

……さ、咲子ちゃん?

「………………」

………………。

「……あのなぁ」

何?

「くらえっ、くすぐり攻撃っ!」

きゃっ……や、やめて、くすぐったいよ……!

「……くすぐったいんやろ?」

……え、うん。

「んな奴が不感症なわけあるかいっ!」

……そう、なの?

「そや」

じゃあ、なんで私、イケないのかな?

「……しれっとした顔でとんでもない事きくなぁ、あんたは」

咲子ちゃん、どうしたらいいのか知ってる?

「……まあ、初めてん時は、むしろ痛いだけで終わるんも普通や」

へえ。咲子ちゃんも?

「………………そ、そやな」

そうなんだ。ちょっと安心。

「……ウチはちょっと不安になったわ……」

いつ頃からイケるようになったの?オナニーの時もイケるの?やり方どうやってるの?

「………………………………………………ちょ、ちょっと待ちぃ」

どうしたの、咲子ちゃん?

「……あ、あのなぁ、千沙。女の子同士でもあんまり踏み込んだ話はせん方がええと
ウチは思ったり思わんかったりっていうかまあ思うわけだったりなんかしたりしちゃったりするんやけど
っていうかアンタあけすけ過ぎやろ怖いもんなしかいコラ」

けど……私、咲子ちゃんの他にこういう事相談できる人、いないし。

「………………」

……ねぇ、教えて?

「上目遣いはやめい!……しゃーないな。今度、ちゃんと……調べてきたるから、ちょっと待っとき」

ホント!?ありがとう、咲子ちゃん!


――一方その頃――


「先輩っ!」

……どうした高橋悠一郎。私は所用で忙しいのだが。

「経験豊富な先輩に、一つご相談したい事がっ!」

……わかったから、迫るな。暑苦しい。

「す、すいません」

で、相談とは何なのだ?私に応えられる事であれば応じよう。

「……えっと、その……男と女との事で、少々……」

ふむ。例の片想いの彼女に関してかね?確か岬千沙と言ったか。

「……はい、そうなんですが……」

告白する決心がつかないので、背中を押して欲しい、といった所か。

「え、いや……そうじゃないです……」

では何なのかね?

「実は……かくかくしかじか……で」

………………。

「せ、先輩?」

……そのようなシチュエーションが実在するとは、驚愕だな。

「そ、そうなんですか?」

フィクションの世界でしかお目にかかれんぞ、そのようなご都合シチュは。

「ご都合って……」

という事は何か。彼女を気持ちよくしてやれず、男の自尊心がボロボロで、次の機会があればリベンジしたい。

「そ、そうです」

ついては、その為の手練手管について、教授して欲しい、と……。

「その通りです!お願いします、黒沢先輩!俺を、恥じる所のない、立派な男にしてください!」

……微妙に誤解を招きそうな表現だが……了承しよう。

「ありがとうございます!」

……だから近いと言うに。暑苦しい。

「す、すいません」

で、何がどうなったから、どうしたいというのだ?

「えっと……かくかくしかじかで、かくかくしかじかなので、何とか、その……いわゆる絶頂というものを
感じさせてあげられたらな、と」

全く、恋する若者というのは性質が悪いな。自分がどれだけ恥ずかしい事を口走ってるのか理解していない。

「……す、すいません」

謝らずともいい。それが若さというものなのだからな。

「……先輩って、俺の一個上なだけですよね?」

ふっ……。

「………………」

細かい事はいいだろう。早速本題に……と行きたい所なのだが。

「何か問題が?」

少々そういったケースについての情報が不足している。生憎、そういったタイプとの経験が無いのでな。

「せ、先輩でも、ですか?」

だがまあ、早晩何とかしよう。

「ホントですか!?」

情報が手に入ったら、こちらから改めて連絡しよう。

「ありがとうございます!ホントに……先輩は頼りになります!」

はっはっは、褒めても何も出んぞ。

「じゃあ、今日のところは失礼します!本当にありがとうございました!」


「……ああは言ったものの……どないしたらええかな……」

……ああは言ったが……さて、どうしたものかな……。

「……………………アイツに……聞いてみよか」

……………………あそこで……聞くかな。


「恭二、おる?」

ああ、いるぞ。どうした春日?

「………………えっと、なぁ」

……どうしたモジモジして。気持ち悪いぞ。

「うっさいボケ!」

用があるなら早くしろ。今とある件をリサーチ中でそれなりに忙しい。

「何見とんの?……ああ、また例の掲示板?好きやなー、そういうの」

別に好きで見ているわけではないんだがな。そこに必要な情報がある。だから見ているに過ぎん。

「なになに……ぴんくびーびーえ……って、これエロい奴やん!?」

そうだが。

「うわ、女の子部屋に入れておいて、なんでそんなトコ当たり前に見とれるん!?信じられんわ!」

俺にデリカシーというものが存在しない事は、何年も前に承知していると思っていたが。

「……まあ……そやけど……」

で、お前の用は一体何なんだ?

「……そのリサーチって、何なん?」

後輩から頼られてな。経験の少ない女の子を感じさせるにはどうしたらいいか、だと。

「……アンタ、経験豊富やて言うてなかったっけ?なして調べとん?」

何故かそういう話になっているな。あまり見に覚えは無いんだが。

「………………」

そういう事例に関しては情報を持っていなかったのでな。今こうして調べている所だ。

「………………そ、そう……そうなんや……」

だからモジモジするなと言ってるだろう。

「………………別に、モジモジなんかしとらんよ?」

……今日のお前は何か変だな、春日。風邪でもひいてるのか?顔が真っ赤だぞ。

「……あの……なぁ」

なんだ?

「………………その、リサーチいうん?それ………………ウチ、手伝おうか?」

……手伝う?

「そそ」

……パソコンからきし駄目なお前がか?

「えっと……ほら、アレよアレ!百聞は一見に如かずって……言う、やん……か……」

………………。

「………………」

……春日。お前、自分が何を言ってるのか、わかってるのか?

「………………わかっとる」

………………。

「………………」

……理由は、なんだ?

「へっ?」

何か理由があるんだろう。この所のお前の言動から考えるに、あまりに唐突すぎる。

「……そやな。ウチの親友が、困っとんよ。それを、助けてあげたい思ったんが切っ掛けやけど――」

誰かの為に、か。だったら俺は断わ――

「せやけど!……せやけど……一番の理由は………………好き、やから……アンタが……」

………………。

「……言ってしもたやん、思わず」

……何か悔しい気がするのは、気のせいか?

「あー、気のせい気のせい」

………………。

「……じゃ、しよか?」

………………ああ。

………………本気か?

「ちょ!?小さな胸が張り裂けそうになりながら、勇気振り絞って言ったのに、反応がそれ!?」

………………いや……すまん。信じられなくて、つい、な。

「そりゃアンタは根暗で理屈っぽくてインドア派の引きこもりで言葉使いが尊大でむかついて、
まあ顔はそれなりやけど、欠点のがよっぽど多いだめ人間で……」

……酷い言われようだな。

「……それでも……好きになってもうたんやから、仕方ないやんか……」

親友とやらは、体のいいダシという事か。

「はははっ、否定はできへんね。あの子も酷い友達持ったもんやなー」

………………春日。

「……昔みたいに、名前で呼んで」

………………咲子。

「……ええよ。許したげる、それで」

………………本当に、俺でいいのか?

「ええ言うてるやん……アンタが……恭二がええのよ、ウチは」

……そうか。

「経験豊富なんやろ?ウチ、ひぃひぃ言わせたってな」

………………。

「ほな……しよか?」

……あ、ああ。

「……優しう、したってな」

……ああ。

「………………」

………………。

「……どしたん?」

……何というか……俺も、初めてなもんでな。

「………………」

………………。

「……経験豊富、っちゅうてたやん?」

……何故か、そういう事になってるようだが……噂と事実は違う、という一つの例だな。

「………………ぷっ」

笑うな。

「いや、ごめん……なんか、照れとるアンタ初めて見た気がして、おかしゅーてな。
真っ赤になっとるし……ふふふ……」

笑いたきゃ笑え。

「どっちやねん」

……幻滅したか?

「んなわけないやん。むしろ、ホッとしたわ」

……そうか。

「ええやない、処女と童貞君で。ゆっくり行こうやないの」

……何か悔しい気がするのは、気のせいか?

「あー、気のせい気のせい」

………………まあいい。

「……じゃ、しよか?」

………………ああ。






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