アホな魔王様 瞑(非エロ)
シチュエーション

相変わらず、魔王様は暇だった。

「ふぅぅぅ…。またしてもやることが、ない。勘違いな勇者とか、盗賊でも、忍び込んでこればいいのによ。」

漆黒のベッドに仰向けになり、頭の後ろに腕を組みながらそう呟く。
目に入るのは、曇りの無い夜空と、森。耳に入るは、虫の鳴き声、獣の遠吠え、風の音を合わせた交響楽。
最高の風流の中で目を瞑り、先ほど呟いた事を頭の中で思い出す。

「勇者…か。あいつは良い暇つぶしだった。」

勇者が攻めて込んできたのは3年前。

「なんで魔王がこんな所でベッドに寝ているんだ!」

という勇者の怒号がはっきりと思い出せる。あんぐりと口を開けた勇者の仲間もなかなか見ごたえがあった。
森の中にベッド一つ。その上に魔王。攻め込んできたというよりは、ばったり会ってしまった!というのが適切ではなかろうか。
まさに、

「まおうがあらわれた!」

である

「なかなか強かったが、何が失敗だったんろーな…もうこないだろうなぁ。」

これはいい暇つぶしの相手が現れたな!と喜んでいたのだが、もうここ20年顔をみない。
楽しくて楽しくて、倒れてからも、仲間に回復魔法をわざとかけるタイミングを与え、何度も何度も転がしたのが不味かったのか。
聖剣の一撃を受けてみろ!なんていう勇者に対して、歯の頑丈さを見せたのが悪かったのか…
魔族の王たる所存を見せてやる為に、尻尾をぶん回して、4人とも吹き飛ばしてやったのが致命傷だったのか?あれは良い音がしたからな。

「んーむぅ…だって勇者だろう?だったらこっちも魔王らしい所を見せないと失礼だしよ。」

またもごちりながら、勇者のパーティをなぎ払った尻尾を顔の前でふりふりと動かす。
普段は羽も尻尾も角も使わない為隠してあるが、勇者との戦闘を思い出して動かしてみる。
戦闘が終わった後に、仲間に連れられて帰っていった勇者の顔が脳裏に浮かんだ。まるでサキュバスに精気を吸われた少年だったと。

「礼節に非はない、よな。ちゃんと最初に頭を下げたし、寝ている所に不意打ちも寛大な心で許したぞ俺は!
とすると、褒美か!褒美が足らなかったのか!魔王を倒したら、褒美が出るものだものな。
そりゃあ、ベッド一つしかない無い所を見たら、やる気を無くすのも無理はない」

盛大な勘違いである。

「闘争にしても、代わりばんこに攻撃するとか、何かあったはずだ!むおお…俺としたことがっ!
全力を出さなかったのもいけなかったんだな!ちょっとでも、長く戦舞に興じていたいというのは俺の我侭だもんな。
ようし、次のイベントは全力でこなすとしよう。おっと、真摯と誇りも忘れてはいかんな。魔王たるもの…」

分かった!と無邪気な子供がクイズの答えを発見したかのように、本当に嬉しそうな顔をしながら壮大にレベルアップした勘違いをまた呟く。
しかし近いうちにこの言葉の変なプライドが、自身の暇を、女体と、闘争と、政治と、宇宙を覆う愛で塗りつぶしていくのを彼は知らない。






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