シチュエーション
「〜逢魔ヶ時の夜魔の森〜
入るは穴の如し、出るは牢のごとし 巡り巡って迎えるは夜魔の寝所 夜の帳が落ち、目覚めるは王 立ち入ってはならぬ、立ち入っては…」 「ならぬ〜っと♪こんな唄を知ってるかい、嬢ちゃん?。 おおっと、唄ばかりじゃなく注文も聞いてもらわないと」 「あはっお上手な唄ですね。これと、この赤いのと黄色いのを。ああっこちらの果物も綺麗」 「かぁーっ!分かるねー。そいじゃあこいつもおまけだ!果汁が溢れて食べごろよ! 王宮の物にだって負けやしないよ!オペラの町の果物屋さんはよ!」 「まあ!ふふふ。」 よくある客商売のやり取り。それが行われているここ、オペラの町。 人口2000。町としては小さな規模ではあるが、町の上に立つ、城と王宮、そう、城下町なのである 北西に位置するこの場所は、寒気が多いものの、冬でも特有の温暖風が吹き、果物がよく育つ。 「いつもありがとうございます。」 「なぁに、いいってことよ!さぁさぁ日が暮れないうちに、お姫様に届けてやんな!。」 「はい。姫様もお喜びになられます!。」 他愛ない会話と共に袋に果物を入れ、お札を受け取り、袋を手渡す果物屋。 不意に果物屋が不安げな顔をして城を見上げながら少女へ尋ねる。 「なぁ嬢ちゃん。一応国民として聞くぜ? 次期オルガノ国王は、まだ決まらないのかい?。」 「それは…まだ決まっておりません。私は侍女ですので詳しい事は話せませんが、この国は必ず立ち直ると信じております。」 「俺も含めてよ、結構民衆も不安になってきてやがるんだ。そこのところ、大臣に伝えちゃくれないかい?」 「分かりました。必ずお伝えいたしますね。」 「ありがとうよ。湿っぽい気分にさせて悪かった。それとなさっきの唄だが、ただの唄じゃないんだ。 お嬢ちゃん、町と城の間にある、あの森。いつもあの森を通ってくるだろう?。」 「はい。これといった獣もいませんし、真っ直ぐオペラへ向かえます。どちらかといえば並木道みたいで歩きやすいんです。」 「確かにそうだけどよ、あの森に夕刻以降は入っちゃいけねーぜ。 なんでも、三年前ほどにどっかの勇者様が仲間を引き連れて、日が沈むか沈まないかくらいあの森に入っていったんだが、 次の日ボロボロになった勇者が、「魔王がっ魔王がっ」って何度も呟やきながら床に伏せっちまったらしい。 この唄が指してるのはあの森で、こんな逸話がある以上危ないってことは確かだからな。」 「分かりました。とても親切にありがとうございますね。」 「おう。さー森を通るなら日が暮れる前に通りな!。」 少女は一礼すると、帰り道の方へと歩き始めた。毎度ありという暖かい言葉を背中に受けながらも、 頭の中で城の様子、国王相続の事がめぐり始め、顔が陰り、歩く速度も遅くなっていった。 「はぁ…。」 果物屋で買い物を終え、俯きながら帰路を歩いていく少女から心底落胆したため息が漏れた。 その原因は国王相続である。オルガノ国の王、ターマス前国王。 元大貴族の出であり、その財を巧みに操り、貿易などを潤わせ、オルガノの平定を守ってきた王。 普通に考えれば、知性に富み、貿易などを発展させ、オルガノの国を潤してきたように思える。 だが、城の中を知る少女に取ってはそんなもの、聞こえが良いだけにしか聞こえない。 実際は、口が上手く、私財を持ってさまざまな貿易を取り付けたり、意味もない徴兵をしてその数に満足したり、 あろうことか、敵対国である南の帝国ロウディアの姫姉妹二人を莫大な金でもって娶り、南の帝国は力をつけ、宣戦布告をされるという始末。 大臣達の言われるがままに、その私財と国財を動かし、後先考えず政治という名の豪遊を嗜んでいたにすぎない。 そのおかげで不安を覚えた兵士、忠誠心無い家臣が、国財を持ち出し夜逃げ。兵も財も、一国どころか、町単位しか残っていないのだ。 おまけにその国王本人は、貿易を結んだ国、主に南の帝国ロウディアからのプレッシャーで床に伏せり、病死。 侍女の私にだって、分かるくらいの悪政。町へ噂が届かないのは一緒になって楽しんでいた大臣達の口止めによるものだろう。 こんな滅びそうな国を、誰が継ぐのであろうか。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |