シチュエーション
酷い国政を考えると頭が痛くなり、予想できる未来に恐怖を覚える。侍女の私でさえこうなのだ。 ふいに、自分が仕えて世話をさせて頂いている南からこられた美しい姉妹の翳った顔を想像し、ぴしゃりと頬を叩く。 「ん。しっかりしなくちゃ!。美味しい果物を姫様に召し上がって頂くのよ!」 そう思い顔をあげた少女が、さっきまでの不安をかき消す新たな不安に襲われる 考え込んでた為に、歩くスピードが遅く、いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。 なんとか、目の前の道は視覚できるものの、来たときとは違う感じがする森に、果物屋の唄を思い出し震える。 そうだ、町まで出ればと、後ろを振り返ってみる。しかし、ずっと真っ直ぐ歩いていたはずなのに! 道が――――――無いのだ。 言い知れない恐怖。不気味な何かを感じて肌が粟立っているのを明確に感じとってしまう。 「きっと、少し外れて歩いていたのね、そうだわ!きっと。」 自分を奮い立たせると、もう一度前を振り向きなおす。 「どういう…こと…?。」 振り向いた先には、樹木の壁。人一人通れる道さえもないのが分かる。 周りを見回してみると、どこにも道がない所か、囲まれるように、樹木が立っている。 ――――――もう自分がどこにいるのかすら分からない。 足が竦む。声が震える。息が出来ない。そして聞こえてくる風と虫と獣の遠吠えと、さらにもう一声。 「ん?おい、そこのお前。」 びくっと一度震えて振り返るとと少女は思いっきり叫んだ。 「きゃあああああああああああああ!食べないで!呑まないで!連れて行かないで!」 「うおおおおっマンドラゴラでも、踏んでしまったのか、俺は!」 少女と声をかけた黒い影は同時に叫びながら飛びのく。少女の目には今まで写ってなかったはずの黒いベッドを境界線のようにして。 「「はぁっ…はぁっ…」」 何故か両者荒い息。少女は自分がどこにいるのか分からないが、行ける所まで後ろに飛びのいた。 背中に当たる冷たい樹木の温度が夢ではないと告げていた。落ち着け、落ち着いて!私は侍女なのよ! 木を背に落ち着いて目を凝らしてみる。目の前にはよく分からないけど、黒い影と黒いベッド。周りは樹木の壁。 普通の状況なら失神して倒れるくらいのこの状況を、落ち着いて捉えているのは、王宮のごたごたに揉まれた精神なのはいうまでも無い。 サクッサクッと草を踏みしめながら黒い影が近づいてくる。良く見ると、赤い目が暗闇の中でギラギラと光っている。これは怖い。 ああ、私食べられてしまうのね、姫様ごめんなさいと、覚悟してしまうのも無理はなかった。 ぴたっと、黒い影の歩みが止まる。赤い眼が上から下まで舐めるように行き来する。そしてまた下から上まで目線が戻り、 少女の視線とかち合う。震える少女の耳に自分の心臓の音がこだまする。ここで、食べられてしまう…逃げろと告げているように。 そして…黒い影が、行動を起こした――― 「お前、町娘か?それにしては気品があるよな」 と、低く通る声で黒い影から訪ねられる。眼が点になるとはこの事だろう。 オマエマチムスメドコカキヒンアルカ?答えははい…?だ。 森に迷い込み、退路を絶たれ、黒く赤い眼をした影に少しづつ近寄られたら誰だって襲われる覚悟を決める。 だが、その覚悟をあざ笑うかのように、起きたのは問いかけ。一瞬だが安堵してしまい、少女はずるずると木を擦りながら地面にぺたんと 腰を下ろしてしまった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |