アホな魔王様 王
シチュエーション

さぁぁと、風に撫でられていく草と木りんりんと、上質な鐘の音に似た虫の声。
いつもの荘厳な夜魔の森、その静かな光景に不釣合いな黒いベッド。その上でじゃれ合う二人が魔王と人間だなんて
誰が信じるんであろうか。寝そべるマリギュラと、それに抱かれるステラ。

「調子に乗ってちょっと激しくしすぎたな。」「…優しくしてくださると仰いました。」

そういってぽりぽりと頭を欠くマリギュラ。ふいと、顔を背け胸板を抓っているステラ。
とてもあの魔物染みた行為に浸っていたとは思えない穏やかな二人の顔を月が優しく見下ろしていた。

「大体お前、慣れすぎじゃねぇか?侍女ってのが嘘かと思うほど乱れてやがった癖に。」
「む。失礼です。私はちゃんと誠意精神、身も心も捧げる覚悟で抱かれたのですから、あれくらいは…。」

先ほどの行為を思い出しているのか、ぽっと赤く顔を染め上げるステラ。

「肝が据わっているっつーかなんつーか。魔王に抱かれてヨがり狂って、あまつさえ文句を言い出す侍女をはじめてみたぞ俺は。」
「それは、その…快楽に溺れてしまう、侍女だって王宮では少なくないのですよ?。」
「ホントかよ…。まぁ俺も調子に乗って血とか吸ったりしたから、何も言えないが…。」
「そうですよ。マリギュラ様が優しくしてくださらなかったのがいけないのです。」

マリギュラの胸板に頭を擦り付けて、拗ねるその表情は侍女ではなく、一人の熱に浮かされた女のそれだった。

「それより、ひょっとして私もう太陽の下を歩けないとか、そんなことになってたりしますか?。」

首に飽いた二つの小さな穴を撫でながら、ステラは心配そうな上目遣いでマリギュラを見る。

「あー心配ないない。別に血を吸う自体に悪影響とか、俺の流し込んだ唾液に何かあるとかそういうのは心配するな。
吸血鬼みたいな劣等種と違って、魔王は都合よくできてるんだよ。」

マリギュラはそういいながらステラの頭を撫でる。くすぐったげな微笑をもらしてステラはかけられたシーツを腕で抱く。

「退屈が埋まるな…。」

ぼそっともらしたマリギュラの呟きに、ステラが訪ねる。

「退屈、ですか?。」
「そうそう。生まれてからこの方、大きなコトは起したことがねーんだが、今日起しちまったからな。
魔王が人間の王になる。歴史書に載るな、こいつは。」

ステラに指を向けながら、意地悪くマリギュラは笑っておかしそうに語る。

「その、やっぱりマリギュラ様が人の王になるというのは大変なことなのですか?
先ほどの事は、えと、忘れないでいてくだされば私は…。」

くっくっくと含み笑いをし始めるマリギュラに訝しげな視線を送り、少し睨むステラ。
どーでもいーだろ。そんなことはと、そういいながらステラを抱きしめる。

「魔王が人の上に立つってのが別に禁止されてるわけでもねぇし、思ってみれば一番適任なのは俺なのかもな。
夜魔は人間共と、結構近い位置にあるからな。サキュバスが美少年に絆されて、一生を尽くすなんて話だってよくあることだ。
そう思えば、不思議でもなんでもないだろ。」
「ですが、そのやっぱり…。」
「ここまで来て、ひっくり返すのはナシだ。それにだな、こう、何かを手に入れ、それに愛され、愛でるのもそう悪くないと感じた。
お前のいる城で俺の庭を作り、人間共の世話をするのもまた一興なのかもしれないと、そう思ったわけだ。」
「マリギュラ様…。」
「そんなことを心配する前に、どうやってお前の城の王になるかを考えてくれ。一人落すだけでもこの労力なんだ。
お前も侍女なら俺に楽をさせてくれよ。」

そういって笑うマリギュラと釣られて笑うステラ。ステラがあれこれ考え、入れ知恵をし、マリギュラは王になるはずだったのだが、

「俺が魔王マリギュラだ!お前らの王になりに来た!いいか!」

と剛速球を放ちながら、正面突破するのはまた別のお話である。






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