アネット 第十話:堕落2
シチュエーション

虫の音は遠く、風の音も遠く、月明かりだけがやさしい。
ベッドの上は、私とサラだけの、暗くて碧い世界だった。
私は座っていたサラを、肩を掴んで優しく押し倒した。
腕を立てサラに覆いかぶさり、ちょうど四つん這いになる形だ。
サラと私は見つめ合う。
サラはまだ嗚咽の余韻で息が荒く、
その息使いは静寂の中の彼女の存在を引き立たせる。

サラは不安げだ。
小さな身体はわずかにこわばり、不安の汗がかすかににじむ。

「…快楽って、どんな感じなの…?…堕ちるって、怖いの…?」

消え入りそうな声で、絞り出すようにサラが問う。

「…快楽はね、とても気持ちいいことだよ…。大丈夫、すぐにわかるから。」

そう、この少女は真に初めてなのだ。

スイッチの入ってしまった私には、快楽に怯えるサラの姿が、ひたすら魅力的に見えた。
サラは無垢で、まだ快楽というものを知らない。
未だ穢れを知らない少女は、堕落が糧の魔物にとって、
これ以上ない最高の御馳走なのだ。

私は、淡々とサラの服を脱がせた。
高鳴る胸に、どうしても手の動きが早まってしまう。

「お姉さん…、私…怖い…。」

サラが怯えるのも無理はない。
だから、サラの問いに、やさしく応えてやる。

「…大丈夫…、怖くなんてない。…サラも気に入るよ。」

私はいつもの行為より、少なからず昂っていた。
それは、空腹だったからかもしれないし、今までサラを我慢していたからかもしれない。
あれほどサラを魔物で穢してしまうことが嫌だったのに、私は今、最高にわくわくしている。
だから今の私は、サラの怯える様子に、ひどく興奮を掻き立てられるのだ。
この何も知らない少女を、如何に染め上げるのか、想うだけで血が沸き立つ。

さて、まずはこの少女に、快楽というものを教えてやらなくてはならない。
この少女の体と魂に、快楽というものが如何なるものか、刻み付けるのだ。
でも相手は愛しいサラ。
ぐちゃぐちゃにしてしまっては面白くない。
快楽で破壊するのではなく、快楽で少しずつ変容させるのだ。
だから、あくまで、気持ち良くさせてあげなければならない。

怯えにやや強張る表情のサラの顔。
少女特有の薄紅の唇に、ゆっくりと近付いて、キスをする。
まずは触れるだけの優しいキスだ。

「…んっ…。」

サラは眼をきゅっと瞑って強張った。
互いの呼吸が触れ合う。
初めてのキスなのだ。
緊張するのも無理はない。
長くないキスのあと、サラの表情を窺う。

「…驚いた?」

「…ううん、大丈夫。大丈夫だから続けて。」

「そう。」

言うは早く、今度は、一気に距離を詰めた。
今度は急性に塞がれた唇にサラは驚き、ひぃっと、くぐもった声をあげる。
私は戸惑うサラに構わず、舌で唇をこじ開けた。
サラの味が、匂いが、舌触りが、私の舌を彩る。
私はそのまま、サラの下唇を吸い上げしゃぶり、
歯茎を舌で撫で抉り、歯の間に舌の先を潜らせ、
更に横からの圧迫を加える。
緊張してやや力の入った顎は、
突然の生肉の侵入に怯み、わずかに弛緩し、
私はその隙を逃さず舌をねじ込む。
よもや噛み付くわけにもいかず、なす術なく侵入を許すサラ。
私はサラの舌の根を舐め、揉み、誘い出し、吸い出し、私の咥内まで導く。
唇同士、やわやわ、ふにふにと、優しく揉み解しながら、舌に唾液をたっぷりと絡ませて、
舐め、潤し、注ぎ、啜り、湿りを帯びた音を立て、互いの汁を交換する。
二人の口を境にして、潤いとわずかな粘りを伴って、紅い肉が行き来する。
収まりきらず余った汁が、開口部から溢れ、滴り、小さな顎と頬を濡らす。
互いの肉に疎外された二つの呼吸が、空気を求めて不規則に喘ぎ、
その吐息は熱く甘く、ふたりを温め合う。
すでにサラの瞳はやや虚ろに泳いでいた。
ここまでくれば、ほぐしとしては十分すぎるほどだ。
今夜、私がサラを犯し、サラは肉と汁を絡ませ合う感覚に翻弄され続けることだろう。

発情した淫魔は、毒である。
もしも、淫魔がその気であるならば、
人は離れていようと視線が合えば意識が色づき、
同じ空気を吸っただけで身体が熱くなる。
吐息に触れればひどく上気し、肌に触れれば快感に悶え、
唾液など交換しようものならば乱れてしまう。
快楽という抵抗しがたいその毒は、侵し、蝕み、残留し、
哀れな犠牲者を苛み、さらなる快楽への渇望を生み、狂わせる。
淫魔は人を壊してしまうのだ。

…だから、手加減しなければならない。
私はサラを壊すのではない。
単に堕とすこととも少し違う。
私はサラを変えるのだ。
快楽に浸し、侵し、サラを快楽という魔物そのものに変容させるのだ。
私がそうであるように。

しばしのキスが続き、私は唇を離した。

「…どう?」

荒い呼吸音だけが静寂に響く。

「…あ…ん…なんか、変だよぉ…。」

うつろな瞳、呂律の回らない口調でサラは応える。
私がサラに染み込ませた、少し気持ちが良くなる毒。
体が切なく励起し、愛して欲しくなる、甘い毒。
丹念なキスにより、私の毒は小さなサラの体に隈なく浸み渡っていた。
サラは今、感じたことのない疼きに苛まれていることだろう。

サラに気持ち良くなってもらうこと。
それは、無垢な少女に肉に溺れる悦びを覚えさせることに等しい。
堕落を糧とする淫魔の私は、堕落へ誘うこの行為に、言い知れない悦びを覚えていた。
体が、心が、魂が、私を構成するすべてのものが、歓喜に打ち震えていた。
私はきっと、この少女を堕落させるために生まれてきた。
私はきっと、このときのために存在する。
少なくとも今は、そう確信して止まなかった。

サラの胸に手を伸ばす。
乳頭の辺りのわずかなふくらみ。
まだ、触られる備えなんて、まるでできていない、未熟な部分。
将来、子を育むはずだったその場所を、魔物の手で慈しむように包み込む。

「…ぁっ…。」

ピクンとサラの体が跳ねる。
私の手の平にサラの温もりが、鼓動がとくんとくんと伝わる。
未熟なはずのその中心は、淫魔の毒に中てられて、すでに固く自己主張していた。
ゆっくりと、なじませるように諸手で円を描く。

「…あ、ふぁぁ…やぁ、なに、これぇぇ…。」

サラは両手で顔を覆って困惑した。
私が力を込めるたびに、サラの表情が歪み、弛む。

「…気持ちいい?気持ちいいでしょう?」

「へん…へんだよぉ…。なんか、なんか…こわい…。」

「やめてほしい?」

私の問いにサラはこくこくと頷く。
もちろんやめたりはしない。

…先端を指で挟んだ。

「ああっ―――あああっ―――!」

くにくにと、捏ねながら、扱きながら、やはり円を描いてやる。

「ひぃぁあっ―――、あぁぁっ―――!!」

毒に浸されたその部分は、すでに成熟した感覚器官に変わっていた。
私が変えてやったのだ。快楽を得るための器官に。
サラはよだれを垂らしながら、がくがくと震える。
私は、もう少しサラの反応が見たくて、
先端だけ摘み上げ、持ち上げながら転がしてみた。

「ひっ――はあぁっ―――、…」

…サラはひときわ大きく強張った後、だらりと弛緩した。
達してしまったのだ。
初めてにしてはやりすぎだったかもしれない。
肩で息をするサラは、口を開けたまま、どこか遠くへ行ってしまった。

…もちろん、本番はこれからだ。
たった一度、達したくらいで許したりはしない。

サラの性器に手を伸ばした。
クリトリスはすっかり勃起し、ヴァギナはすっかり濡れていた。
クレバスはてらてらと粘液を纏い、鮮やかな赤色を覗かせている。
毒に侵されたサラの内側は、無理やり代謝を高められ、
強制的に受け入れの準備を整えさせられる。
体内で分泌液が作り出され、割れ目から淫水がこんこんと湧きだしている。

私は十分に濡れたその場所に人差し指をあてがって、ゆっくりと押し込んだ。
つぷり、と音がしたような気がした。
でもそれは気のせい。
毒で劣化した純潔の証は、なんの抵抗も見せることなく、あっさりと決壊する。
サラを守る肉の膜は触れただけで道を譲る。
サラの処女はあっけなく失われた。

「…いっ…ああっ!?いたい、刺さってる!?刺さってる!!」

放心していたサラが戻ってきたようだ。
自身の股間に突き刺さる指と、異物を咥え込んだ初めての圧迫感に悲鳴を上げる。
おかしいなあ、痛くなんてないはずなのに。
仕方がないのでサラの体内の毒を少し活性化させてやる。
それでも、指を小さく出し入れし、進行をやめない。

「ああっ…やああっ…!!」

また、サラの体ががくがくと震え出した。
顔を涎と涙でぐしゃぐしゃにしながら、力なく暴れる。
痛みではなく、快楽に耐えられないのだ。
さっきはやりすぎたと思ったが、さらにやってしまった。

…まあ、いいか。

サラの動きが徐々に規則性を帯び始める。
でたらめに暴れるサラの動きが、妖しく誘う腰の動きに変わる。
指を咥え込んだ膣が、なめらかに蠢動しはじめる。
私の毒が、サラに備わった女性の本能を引き出したのだ。
咥え込んだ異物を、奥へ奥へ導く動き。
精を胎内へ取り込むための蠢き。
サラの膣が、私の指を、ちゅぱ、ちゅぱ、としゃぶる。
サラが私を求めている。
その様子は、赤子が乳を吸う仕草を連想させて、
私の中に、暖かくてどす黒い感情を湧きおこす。
もっと、快楽を注いであげたい。
サラの求めるまま、あふれる以上の快楽で満たしてあげたい。

だが、そろそろサラは限界だ。
そろそろイかせてあげよう。

仰向けになった膣の、天井側の壁を、優しくなでなでしてあげた。

「―――――、――――!!!」

サラの小さな身体が跳ね上がり、仰け反る。
口をぱくぱくさせながらあさっての方向を向く。
空を泳いだ手が、シーツを掻き毟り、手繰り寄せる。
指をくわえていた締め付けがひときわ強くなる。
きゅうきゅうと音が聞こえそうな絶頂のあと、
再びサラは弛緩した。

はあはあと荒い呼吸音が響く。
サラは、涙と涎とその他分泌液に濡れて、ひどい有様だった。
ぐったりとして、胸だけが上下するサラだったが、それでも意識はまだあるようだ。

「どうだった?」

今にも眠りの世界に旅立ってしまいそうなサラ。
返事は返ってこなかった。

サラの意識が閉じるその前に、私は再び唇を塞いだ。
私の毒で腐食した、サラの精を吸いだす。

とても美味しい。
愛しいサラの精だ。
それに、今まで穢れにさらされていない、極上の精。

少しずつ、味わいながら、私はサラを取り込んだ。

だが、これで終わりではない。

私が吸って空いたサラの容量に、私の毒を――私の精を注ぎ込む。


消耗したサラの精に、私の精が溶け込んでゆく。



―――淫魔の精による、致命的な汚染。



穢れなき少女であったサラが、魔物の精で汚染されてゆく。
存在自体に関わる重大な侵害を、美味しそうに受け入れるサラ。
やがて、サラの意識は失われていった。

唇を離し、私はサラの寝顔を眺めた。
疲労しつつも安らかになりつつあった表情が、
徐々に苦悶の色に変わってゆく。
サラの最も大切な部分に、異物が、それも毒が侵入したのだ。
苦しくないわけがない。

これから、サラの変化が始まる。
サラに混入した私の精は、元のサラの精を浸食し、混ざり合い、
やがてサラ自身の新たな精となる。
それを何度も繰り返し、徐々に淫魔に近づけてゆくのだ。
精に合わせて体も変化する。
より快楽を得られる体へ、快楽のためだけの体へ、より堕落を誘う体へ、魔物の体へ。
私がそうだったように。

サラの体を濡らしたタオルで拭いてやる。
汗と粘液を丁寧に拭き取ってやる。
まだ子供の貧相な身体も、じきに魅力的な成長を遂げることだろう。
それが淫魔への変化なのだから。
もう一度サラの顔を見た。
相変わらず苦悶の表情だったが、
その中には甘い熱が見え隠れしている。

今日のところはここまでだ。
愛おしさを感じながら、寝具を掛けてやる。
私も寝床へ戻るとしよう。


サラを愛する喜びを感じながら、
同族を迎える歓びを感じながら、
人間を堕とす悦びを感じながら、


満足感を枕にして、私も眠ることにした。



―――その喜びは、その歓びは、その悦びは、
私自身の心か、それとも魔物の本能か。
その時の私には、どちらでもよかった。―――






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