肉食女と草食男
シチュエーション


「どーすんだよこれぇ……」

僕の名前は田中幸平(たなか こうへい)
至って普通の高校生だ。
学業はそこそこ、見た目は普通……
いや、ごめんなさい、普通以下かもしれません。
まあ、別に女の子にモテたいって願望はそこまでないし、
友達もいないわけじゃないので、不便はしてません。
何の話でしたっけ? ああそうそう。
目の前にデンと居座るこの物体。
冷気の白いガスを放出しながらこちらを威圧してらっしゃる。
僕は実家から送られてきた大量のブツを前にして途方にくれていた。

「冷凍庫に入りきらないじゃないか、全く……」

そこに鎮座していたのは、
冷凍便で送られてきた段ボールまるまる一つ分の大量の肉≠セ。
何キログラムになるのか見当もつかない。
中身を確認してみる。
焼き肉用、カレー用、しゃぶしゃぶ用などの他、極めつけはステーキ肉ときた。
全て純国産。偽装表示ではない。
なぜなら、この肉は全部ウチの実家で作ったものなんだから。
そう、僕の実家は畜産農家だ。
最近では海外でも和牛の需要が高まっているんだとかで、
手広く商売したのが成功したとかでそれなりに羽振りは良い。
同時に、こうして余った肉を大量に息子に送りつけてくるのだった。

「……父さんも母さんも何回言ったら分かるんだか」

だが、僕には決定的な欠点があった。

「俺、肉嫌いなんだけどな……」

そう、僕は草食系なのだ。
子供の頃、可愛がっていた牛が肉になって食卓に並ぶというトラウマを経験して以来、
肉がどうにも苦手だった。
完全に食えないわけではないが、好んで食べる気が起きない。
何で普通の米や野菜を作っている農家に生まれなかったのか悔やむところだ。
お米なら保存もきくし、主食だから消費もするだろう。
だが、こんなに肉があっても俺は食べきれない。

「まあ、仕方ないか……」

肉が嫌いとはいえ、人間に食べられるためにこの肉になった牛や豚や鶏たちは犠牲になったのだ。
ちゃんと食べてあげるのが何よりの供養だろう。

「……焼き肉のタレ、切らしてたな」

普段肉なんて全く食べない僕にとっては、そんな調味料はあっても邪魔なだけなので、最低限しか揃えていない。
近所のコンビニに買いに行くことにしよう。
僕は冷凍庫に入るだけ肉をしまうと、アパートを出た。
もう時刻は六時半。
夕暮れ時の夕食時だ。
それなりの町中にある僕のアパートは、幸いなことにすぐ近所にコンビニがあった。

「焼き肉のタレ焼き肉のタレ、と」

肉嫌いの僕には、味付けなくして肉を食べる気にはならない。
上等のタレは必須だった。
と、僕がコンビニに入ろうとした時だった。

「はぁっ!? なんでよ! なんで焼き肉じゃないワケ!? アタシ焼き肉だから行きたいって思ったんだよ!?」

突然、大きな女性の声が横で聞こえた。

「国産牛は高い!? 当たり前じゃん! おいしいんだから当然じゃないか!」

携帯電話で話している若い女性だった。
黒髪のショートカット、少しツリ目がちな瞳。
温かくなってきた季節柄か、服装は少し露出の大きいホットパンツ姿で、
白い太股が眩しかった。
大きく背中の開いたキャミソールを、その大きな胸が押し上げていた。
近所の大学に通う大学生辺りだろうか、美人といって差し支えない女性だった。

「どうすんだ! アタシもう焼き肉のタレ買っちゃったぞ!?」

話し相手は彼氏だろうか、ずいぶんとお怒りのようだった。

「自分ん家で使えっ!? 分かったよバカ! もう知らないっ!」

彼女は今にも携帯を地面に叩きつけてしまいそうな勢いで電話を切った。
そして、少し息を整えると、大きくため息をつく。
彼氏とケンカしたことを悔やんだのだろうか、さっきまでの剣幕が嘘のような、どこか悲しげな表情だった。
そして、ぽつりと一言呟いた。

「……久しぶりにお肉食べれると思ってたのに」
「そっちっすか!」

僕は思わず叫んでいた。

(あ、し、しまったつい……)

同時に妙な人に関わってしまったことを若干後悔する。
草食系の座右の銘は君子危うきに近寄らず≠ネのにだ。
しかし、もう遅いようだ。
彼女は僕に気づくと、その肉食獣を思わせる鋭い瞳をこちらへ向けた。

「なぁんだぁ? 肉が食えない女がそんなにおかしいの?」
「あ、い、いえ……拙者は左様なことは……」

死亡フラグびんびんな小物な台詞でシラを切る。
彼女はギロリと僕を見据えた。
飢えた虎は追い詰めた獲物に死のビジョンを見せるという。
そんな鬼気迫る表情だった。
彼女がずいとこちらへ一歩踏み出す。

「肉が嫌いな女なんているわけねぇだろ……?」

んなアホな、と反射的に言い返したくなるが、喉もとで抑えておく。
どうやらこの女性はかなりの肉食系らしい。
僕には理解の及ばない存在である。

「分かる? レポートに追われる合間に食べる飯が三食もやしメインな時の惨めな気持ち……?」

もやし、おいしいじゃないですか! しかも安いのだと18円くらいで一袋買えるんですよ?

「そ、それは大変ですね……」
「あああああああああああああああああああああーーーーーーー!!」

女性がいきなり頭を押さえて狂ったように絶叫した。
僕はその完全に正気を失った彼女の目に怯えるしかなかった。

「嫌だぁああああああ!! 食べたい! お肉食べたいぃぃーーー!!
早くしないともやし星人がアタシを殺しに来るぅぅーー!!」

コンビニの駐車場で絶叫する若い女の姿に、往来の人々の注目が集まる。
端から見れば、何かイリーガルなクスリをキメた若者の姿にしか見えないだろう。
僕は地雷の中でも最強の対戦車地雷を踏んだ思いで彼女をなだめにかかった。

「ちょ、ちょっとお姉さん、落ち着いてくださいよ!」
「はぁ……はぁ……」

僕の説得に応じたというより、叫び疲れたようだった。
肩で息をしながら、今度はコンビニのゴミ捨て場にいる野良犬に目を向ける。
焦点の合っていない虚ろな目のまま呟く。

「……韓国じゃ犬も焼き肉にするんだっけ?」
「らめぇええええええええええ!!」

僕は犬を守るように彼女との合間に立ちふさがる。

お姉さんが犬歯を見せるように口の端を歪めて笑った。

「何よ、アンタも殺して食うぞ?」
「ま、待て! 話せば分かる!」

いかにもこのまま殺されそうな言葉が口をついて出てくる。

「問答無用ぉ!」

お姉さんが手にしたレジ袋に入っているビン入り焼き肉のタレを凶器に襲いかかってくる。

「そ、そうだ! に、肉ならありますよ!?」
「……え?」

電源を抜かれた殺人ロボットのように、お姉さんの動きがピタリと止まった。



なんでこんなことになってしまったのだろうか?
僕はただ善良な一市民として焼き肉のタレを買いにコンビニへ出かけただけだというのに。

「………しゅごい……」

ちゃぶ台の前に座ったお姉さんは、ただそう一言感想を漏らした。
実家から送られてきた肉の内、焼き肉用の肉を一通り並べたのだ。
僕はホットプレートを用意し、ご飯をよそって彼女に差し出した。

「ど、どうぞ」
「ありが……と」

彼女は肉を目の当たりにしてから、ずいぶんと大人しい。
猛獣は猛獣でも、調教された猛獣のような不気味な静けさだった。

「じゃ、じゃあ焼きましょうか」

ホットプレートの電源をオンにすると、同時に彼女のスイッチもオンになった。

「う、うん! 焼こう! いっぱい焼こう! アタシこれ食べていいんだよね!? いっぱい食べていいんだよね!?」
「え、ええ、どうぞ……」
「やったーっ! やったねタエちゃん! これでもやし星人を倒せるぞー!」

彼氏さん、この人と別れて正解ですよあなた。



2時間後。

「はふー……国産牛やっぱうめぇ」
「よくこんだけ食べましたね……」

身長は女性としては少し高いくらいだというのに、
どこにこれだけの肉を食べるスペースがあったのだろうか。
成人男性数人分は食っている気がした。
彼女が持っていた焼き肉のタレはほぼ一本なくなっている。

「幸せー」

彼女は心底満ち足りた表情で横になっていた。
僕は彼女が食べ残した野菜類をちまちまと食べて夕食に代えた。

「……お前は肉食べないのか?」

彼女が野菜ばかり食べている僕を見て、少し不安げに尋ねてきた。
肉ならまだ冷蔵庫と冷凍庫両方に結構な量余っているが、
彼女が満足するまで出した分以上に自分が食べるつもりはない。

「ええ、お姉さんがあらかた食べ切りましたからね」
「あ……」

彼女が初めて罪悪感のようなものを感じている表情を浮かべた。
慌てて起き上がると、僕に真剣な目を向ける。

「わ、悪い……つい久しぶりの肉だったから」
「いいんですよ、もう満足でしょう?」
「あ、ああ、アタシはな……」

僕は片付けに入ることにした。台所へホットプレートを持っていき、洗い始める。
ふう、やれやれ、大変な目に遭ったな。
でもまあ、肉が大分さばけたし、結果的には良かったのかもしれな……

「わっ!?」

不意に、誰かに抱きつかれた。
誰かといっても、今この部屋には自分以外にいる人間は一人だけだ。
何より、背中に当たる二つの膨らみの感触。

「ちょ、ちょっとお姉さん!?」
「洗い物なんて後にしろよ……アタシと気持ち良いコトしようぜ」
「え、えええ!?」

彼女は僕の股間に手を伸ばしていた。
その凶暴な性格からは想像もつかない繊細な指先だった。

「あ、あう!?」
「なんだ……お前もこんなになってるんじゃないか」

僕の男性のものはその刺激にあっという間に固くなっていた。
お姉さんの吐息が耳元に当たる。
彼女は僕のその耳を甘噛みしながら、僕の股間をしごき続けた。

「あ、ああ! お、お姉さん、だ、ダメ、で、出ちゃう……」
「続きはベッドでしようぜ……」

僕は一体自分に何が起きているのか理解もできないまま、
ふらふらと彼女の後に続いたのだった。



「お、お姉さん、ほ、ホントにいいんですか?」
「ああ、いいぜ。肉のお礼だ」

お姉さんはベッドで服を脱いで下着姿になった。
初めて見る女性の露わな姿に、僕は心臓がバクバクしっ放しだった。

「そ、それくらいで……」

だがたった1回の食事だけでエッチOKというのはなんだか安過ぎる気がした。
お姉さんはクスっと笑うと、僕のズボンを脱がせる。

「何言ってんだ、上等な国産肉であんだけの量っていったら、軽く諭吉さん二枚は飛んでんぜ?」
「そ、そりゃあまあ……はぅ!?」
「ん……」

お姉さんは躊躇いなく僕のペニスを口にくわえ込んでいた。

「うぁあ……」

僕はあまりの快感に思わず天井を仰いでしまう。
ねちょねちょの彼女の舌が、僕の亀頭を舐め回している。
彼女は僕のものが十分にそそり立つと、自らブラを外してその大きな乳房を見せつけてきた。

「それになぁ……アタシ肉食った後はシたくなるんだよ」

僕の首に腕を絡め、ベッドに引き倒すと、股間に手をやって僕に愛撫を促す。

「あぁ……そうだ、いいぜ、もっと触ってくれ」

初めて触る女性の膣の感触に、僕は顔を真っ赤にしてしまう。
よく分からないが、彼女のアソコはもうかなり濡れているように思えた。
思い切って膣内へ指を入れると、キュッと指を締め付けてくる。

「ふふ、肉食って栄養ついたから、身体が子孫を残そうとするんだろーな」

彼女は妖艶に微笑んで僕を挑発してくる。たまらなくエロい姿だった。
でも……

「あ!」
「どした?」
「えーと……僕ん家、コンドームとかないんですけど?」

彼女が一瞬きょとんとした顔になる。
あ、あれ、なんか不味いこと言ったかな?

「あははは!」
「な、なんですか?」
「いや、お前若いのに落ち着いてんなって思ってさ」
「ふ、普通ですよ」
「そうかぁ? お前くらいの歳の男ってもっとガツガツしてて避妊なんてガン無視なもんだけどな」

ちゅ、と彼女がキスをしてくる。
ファーストキスだった。
……舌の感触は気持ち良かったけど、少しだけタレの味と肉の香りがしたのが複雑だった。

「ちょっとアタシのカバン取って」
「は、はい」

彼女は僕から受け取った自分のカバンをまさぐり、中から小さな箱を取りだした。

「ほら、じゃあコレ着けて」

コンドームを一枚渡された。
僕は彼女を待たせないように慌ててそれを受け取り、封を切って中身を取り出した。
だが、いざ着けようとすると、ぬめったゴムということもあってなかなかうまく被さらない。

「貸してみ」

彼女がゴムを僕から奪う。
そしてそれを口にくわえると、僕の股間に顔をうずめた。

「ん……」

彼女がフェラの要領で僕のペニスにコンドームを被せてしまう。

「じょ、上手ですね」
「着けたがらない男って多いからな、こんくらいできないと」

彼女はベッドに横になると、自ら指で花弁を横に開いた。

「さ、今度はお前が肉≠味わう番だぜ……」

ヒクヒクと脈打つ彼女の綺麗なピンク色の膣肉は、
どんな上等な肉よりもおいしそうだった。
そこへ僕は自信の先端をあてがっていた。

「うあぁ……お姉さんの、凄く熱い」

クチュ、と先端と花弁がキスする。
そのまま、ゆっくりと腰を押し出した。

「あはぁっ!」

何とか挿入に成功する。
お姉さんが甲高い声を上げた。

「……どうだ? アタシの肉の味は?」
「あ、温かくって、凄く気持ちいいです……」
「ふふ、そうだろ? なんたって国産だからな」

経験豊富なのだろう、お姉さんはそんな親父ギャグを言う余裕があるようだった。

「あ……あぁ……動いてくれ」
「う、うん」

僕はぎこちなく腰を振り始める。

「あっ あっ あんっ いいっ……」

お姉さんが僕の背中に腕を回して喘いでいる。
彼女の身体は全体的にむっちりとしているせいか、身体を重ねるとたまらなく心地良かった。

「んぁあ! おっぱい吸っちゃダメぇ!」

僕は無我夢中で彼女の身体を貪った。
腰を突き入れる度に激しく揺れ動くその巨乳を揉みしだき、それに飽きたらずにそのピンク色の乳首を口で味わう。
ベッドがギシギシと軋み、僕の興奮も限界を迎えてくる。

「はっ あはっ あんっ もっとぉっ!」
「うあぁあ! お姉さん、ぼ、僕もう……」
「あぁん! いいぞ……いっぱいアタシの中で…」

僕はせめて少しでもお姉さんが気持ちよくなってくれるように、
限界まで腰を降って頑張ってみる。
彼女は僕の腰に脚を絡め、身体全体の肉で僕の絶頂を受け入れてくれた。

「うっ……うぁあああっ!?」
「ぁはぁっ!!」

ガクガクと腰を痙攣させ、僕は彼女の膣奥で射精していた。
ドクドクと脈打つ度に、大量の精液が放出される。
彼女の膣肉が、それを絞り取るように脈動していた。

「うっ……うっ……」
「はぁ……はぁ……」

絶頂感が収まるまで、僕らは暫くそのまま折り重なったまま互いの肉体を感じ合っていた。



「やっば、もうこんな時間だ!」

彼女はコンドームを始末した後、部屋の時計に気がついて血相を変えた。

「明日提出のレポート書かなきゃ! ゴメン、後片付けよろしくね!」
「え? あ、ちょ、ちょっとお姉さん?」

彼女は素早く身なりを整えると、バタバタと部屋を出て行こうとする。
僕は童貞喪失後の脱力もあり、後を追いかけることができない。

「あ、お肉ホントにありがとね! これで徹夜してもへっちゃらだよ!」

ブーツを履いた彼女が振り向きざまにそう言い残す。
僕はなんとか身を起こして彼女を追いかけようと試みた。
だが、今の僕は悲しいかな、全裸の状態だった。
出て行った彼女が、アパートの階段を下りる音が聞こえる。
ドアを開け、外を見る。

「じゃーねー!」

彼女が手を振って夜の闇に消えていくのを、僕は見送るしかなかった。

「……名前くらい、教えて欲しかったな」

そう呟く僕に、まだちょっと冷たい夜の風が吹いていった。



数日後

「あーあ……やっぱり全然減らないや、肉」

今日も僕はあのコンビニに立ち寄っていた。
買う調味料は、味塩コショウ。
まだ大量に余っているステーキを焼くためのものだった。
ついでに今日発売の漫画雑誌をカゴに入れる。

「誰かステーキ一緒に食ってくれないかなぁ……」

時刻は6時半。
夕暮れ時の夕食時だ。
コンビニ弁当などを買う客の列に入る。
少し混んでるな。

コロン

「ん?」

微かな異常を感じる。
誰かが僕の抱える買い物カゴに何かを投げ入れたようだった。
なんだろう、とカゴを見やる。

「なっ?!」

コンビニに売っているコンドームの箱だった。
こ、こんなものを誰が!? なんちゅう悪戯だ!
クラスの悪友どもだろうか、僕は背後を振り返った。

「あ」

そこに立っていたのは、彼女だった。
犬歯を見せるような、口の端を歪めた笑みを浮かべている。

「……今日はステーキか?」

彼女は僕の耳元で、そう確認したのだった。






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