ユリシスとイリス(閣下の願望編)
シチュエーション


「……イリス?」

自慢の副官が眼前で裸体を披露しようとしている。
現在進行形で脱いでいる。
上着を脱ぎ捨て、ベルトを外し、スラックスに手をかけたところでユリシスは慌てて椅子から立ち上がった。
ご自慢の美貌は焦っていても変わらない。

「イリス!」
「なんでしょうか、閣下」
「ちょっとこちらへ来い」

手招きをされ、イリスはユリシスへ近づいた。
黄石のような瞳は相変わらず無表情でユリシスを圧倒する。

「何をしているんだ貴様は」
「閣下が申されたのではありませぬか」
「確かにそうだが……お前はいいのか」
「愚問ですね。あなたは肌を合わせる前にいつもそのようにしつこく確認なさるのですか」

ユリシスは呻いた。
確かに「女遊びを控えさせたいならお前が相手をしろ」といったのはユリシスだ。
しかしそれは「ご冗談を」といつものように軽く受け流されると思ったから口にしたにすぎず、よもや快諾したあげくに脱ぎ出すとは予想外も予想外。

「やはり自分のような女が相手では興が乗らぬと仰るのであれば」
「そんなことがあるものか!」

ユリシスはイリスをぎゅっと抱きしめる。

「抱いてもいいのか?」
「かまいませんと申し上げています。自分は閣下にすべてを捧げる覚悟でお側近くに仕えております。この体が慰めになると仰るのなら自分に何の否やがございましょうか」

そういう意味で訊いているのではないとユリシスは思うが、このまま問答を続けたところで期待する答えが得られるとは思えない。
きつく抱きしめたイリスの体は女とも男とも違う。
女にはない引き締まった筋肉と男にはない脂肪の丸みの共存する体。
一生触れることはかなわないのだと思っていた体。
愛のない行為など虚しいだけだとわかってはいるが、焦がれる思いにはかなわない。
それでもいいから触れていたいのだ。

「私が脱がせてやろう」
「は。恐縮です」

体を離してイリスの服を脱がせはじめる。
シャツのボタンを外す指が知らず震えてしまう。
震える指ではなかなか思うようにいかず、ユリシスはたっぷりと時間をかけてイリスを裸にした。
裸体を晒しても一向に動じないイリスとは対照的にユリシスは息を飲んで彼女の姿を見つめる。

「綺麗だな。イリス、お前は美しいよ。アルステアの女神ですらお前の美しさの前では霞んで見える」

ユリシスの漏らした感嘆の吐息にイリスが初めて表情を変えた。

美女ならば飽きるほど見てきているであろうユリシスが本気でそう思っているのだ。
ユリシスの目を見ればイリスにはわかる。
自分の体に女性としての美しさなどないと知っているイリスは困惑した。
傷跡だらけの体のどこが美しいのかと。

「おいで」

ユリシスは椅子に深々と腰掛けてイリスに腕を差し出す。
請われるままにユリシスに近づいたイリスは彼の腿を挟むように膝をついて彼の肩に手を置いた。
自然とユリシスの目の前にイリスの乳房が晒される。

「思っていたよりも大きいな」

イリスの乳房は小振りなものだったが、平らに近いのかと思っていたユリシスにはそれでも大きく見えた。
そっと手のひらで包み込み、すくいあげるようにしてユリシスは揉みはじめた。

「キスしてくれ」

ユリシスがねだるとイリスは身を屈めて口づけてくる。
触れるだけの口づけに焦れたユリシスは舌を差し入れて口づけを深める。
ユリシスの手の中で敏感な頂が自己主張するように固くなっていく。

「……あっ」

唇を離し、その頂を唇に含むとイリスが甘い声を漏らした。
すぐさま口を閉ざしたところをみると声をあげることに抵抗があるようだ。
舌で転がし、甘噛みする。
ユリシスは片方の手を下腹部へおろした。
おそらく未だ誰も触れたことがないだろう秘裂に指を這わせる。
優しくなぞれば僅かながら蜜が溢れはじめる。
劣情に襲われているというのに不思議と焦りはなかった。
このまま挿入せずともイリスに快感を与えられればそれでいいと思う。

「……っ、ん……ふっ」

頂が赤く腫れ上がるほどに執拗に愛撫を続ける。
イリスの口からは熱っぽい吐息が堪えきれずに漏れている。
既にユリシスの指が二本、彼女の中を解すように蹂躙している。
溢れた蜜はユリシスの指を濡らし、太股を伝い落ちていく。

「……閣下」

唇を離してイリスを見上げる。

「もう、これ以上は……ぅあっ」

びくりとイリスの体が震えた。
膣が収縮してユリシスの指を締め付ける度にイリスが快感を覚えているのだと思えばそれがユリシスの悦びとなる。

「まだ十分ではない」
「閣下を…お慰めするのが、自分の役目、です……最低限の、準備のみで」
「寂しいことをいうな。どうせならともに果てたい」
「閣下……!」

切れ切れに言葉を発するイリスの強い眼差しに押され、ユリシスは仕方なく指を引き抜いた。
そのまま着衣を乱していきり立つ欲望を露わにする。
頭上のイリスが息を飲むのを感じた。

「私が支えていてやるから、ゆっくり腰を下ろすといい」

こくりと頷き、イリスが腰を落とす。
イリスは頭をユリシスの肩に埋め、彼の腕をぎゅっと掴んでいる。
先端が割れ目に当たり、イリスの動きが止まった。

「大丈夫か?」

励ますようにユリシスはイリスの髪に口づける。
大きく呼吸を繰り返し、イリスは覚悟を決めて再び腰を下ろしはじめた。
ゆっくりとイリスの中に潜り込んでいく。
狭くきつい場所に飲み込まれていく快感よりもイリスと結ばれた感動の方が大きかった。
イリスがぴたりと腰を下ろしきるとユリシスは感極まって彼女をきつく抱きしめた。

「イリス、ああ、イリス!」

少しだけ体を離し、彼女の唇を奪う。
情熱的な口づけを交わした後、ユリシスは気遣わしげに問うた。

「体は平気か? 痛くはないか?」
「はい、思っていたほどではありません。この程度ならば行為に支障はないかと」
「そうか」
「自分が動くべきでしょうか?」

ユリシスが答えるよりも早くイリスが腰を揺らす。

「乗馬のような要領ですか?」

イリスが動く度に奥で粘膜が擦れてユリシスに強い快感を与える。
絞り出すようなきつい締め付けも、耳元で繰り返されるイリスの熱のこもった呼吸も、肌から立ち上る甘い香りも、すべてがユリシスの性感を刺激する。
愛した女との交わりはこんなにもよいものなのかとユリシスは驚愕する。
今まで自分が経験してきたことは本当に戯れにすぎなかったのだ、と。
いつしかユリシスは夢中で腰を突き上げていた。
溢れた蜜を絡ませてすべりのよくなった内部をユリシスのものが激しく行き来する。
どちらからともなく舌を絡ませあい、腰を振りたて、獣のように貪りあう。
何度も何度もユリシスは最奥を抉るように叩きつけた。
そして、頂点は思いの外近かった。
イリスの心地よい締め付けの中でユリシスは欲望の滾りを迸らせた。
深々と挿し入れたまま、ユリシスは最後の一滴まで絞り尽くす。
すべてを吐き出してしまったユリシスは脱力して、イリスの胸に顔を預ける。
甘い香りと柔らかな感触、イリスが優しく髪を撫でてくれる。
ユリシスは至福に包まれ囁いた。

「愛してる。イリス、愛している」

切実な告白にイリスが答えてくれたような気がした。

しかし、その甘やかな声は別の声にかき消されていく。
気だるさはそのままにユリシスを包み込む温もりだけが消えていく。

「──っか、閣下」

鋭く自分を呼ぶ声にユリシスは顔を上げた。

「起きましたね。うたた寝などしている場合ですか。いくら辺境の地とはいえ、やることはいくらでもあるのですよ」

ぼんやりとご立腹な副官を眺めながらユリシスは深々と溜め息をついた。

「……そんなことではないかと思っていたのだ。通りで話がうますぎるわけだ」

ぼやくユリシスをイリスは眉を寄せて見下ろす。

「何の話ですか」
「夢の話だよ。お前が邪魔をしなければアルステアの女神に負けず劣らぬ美女から愛の告白を受けていたところだったのに泡と消えてしまった」

呆れ果てた様子のイリスにおどけて答えながらもユリシスは心底残念に思うのだった。
どうせ夢ならば愛の一つでも囁いてくれればよかったのに、と。






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