奴隷と主人
シチュエーション


湯船に浸かり目を閉じているジブリールを横目にラサはせっせと手の中で石鹸を泡立てていた。
ラサの髪よりも少し茶色がかった黒髪に白い肌、今は隠れているが瞳は濃い蒼色をしている。
対するラサは髪も瞳も漆黒で肌は褐色だ。
二人は生まれ育った土地が違う。
違う部族の人間だ。
少し前にラサはジブリールに買われた。
いわゆる奴隷というものだ。
ラサは身も心もすべてジブリールに捧げねばならない。
今現在、ラサは薄い夜着を一枚身につけた状態でジブリールの体を洗う準備をしている。
毎日風呂に入るという習慣はラサにはなかったがジブリールのために風呂に入ることを覚えた。
きめ細やかな泡を作り出すことに成功し、ラサはジブリールの肩をぐいぐいと引いた。

「ジル、できた」

ゆっくりと目を開いたジブリールの前に泡をたっぷり乗せた手のひらを差し出す。

「ん、それはよかったな」
「ジルすわる。ラサあらう」
「あのな、俺はガキではない。自分でやるといっとるだろうが」

不機嫌そうに唸るジブリールの態度はまったく意に介さず、ラサは懲りずに彼の短い髪を引いた。

「ジル、きれいにする」

振り払ってもお構いなしにあちこち引っ張ってくるラサに負け、ジブリールは不服そうに立ち上がり湯船からあがる。
そして、ラサの正面に座り込んだ。
当然ながらジブリールは全裸だ。
鍛え上げられた逞しい体を惜しげもなくさらしている。
嬉々として膝立ちになったラサがジブリールの背後に回り込んで泡にまみれた手のひらを押しつける。
ぐるぐると円を描くようにしてジブリールの体を泡でコーティングしていく。
鼻歌交じりのラサとは対照的にジブリールの眉間の皺が消えることはない。

「そもそも俺はお前を奴隷のように扱うのは嫌なんだ。金で買ったがそれはやむを得ない事情がだな」

ぶつぶつと文句を言ったところでラサは話を聞いていない。
否、聞いているのだが半分も理解できていないのだろう。
言葉の壁とは高く大きいものであるとジブリールは日々思い知らされている。

「聞いているのか、ラサ・ラサラ・サラ」

ジブリールの正面に回り、腕を洗っていたラサがきょとんとした顔でジブリールを見上げる。
ラサは愛らしい顔立ちをしていた。
それに加えて十代後半の瑞々しい爽やかな色気がラサにはある。
なんだかんだで既にジブリールに男を教えられた体は、ラサの意志とはほぼ関係なく魅惑的に彼を誘う。

背中を覆い隠す黒髪と濡れて肌に張り付いた夜着。
ごくりとジブリールは唾を飲み下した。
言動に態度が伴っていないと自覚しながらも、ラサを魅力的だと感じてしまった瞬間から下半身に熱が集中する。
たちまちの内に臨戦態勢に入ってしまった自身を呪い、ジブリールはラサから顔を背けた。
ジブリールはまだ若いし、ことこちら方面の欲望は一般的な若者よりも強いくらいだった。

「あ……」

自己主張を始めた陰茎に気づき、ラサが僅かに顔を赤くする。

「ジル」

もじもじと泡まみれの手で頬に手を添えたり、意味なく服を引いてみたりしていたラサだが意を決したように頷いた。
濡れた夜着を脱ぎ捨て、ジブリールの顔を両手で掴む。

「だいてあげる」

顔を覗き込み、ジブリールの唇をそっとついばむ。

「ラサ、抱いてあげるは間違ってるぞ」
「ちがわない。ラサはジルをだく」

豊満な胸をジブリールに押し付け、ラサは再び唇を寄せた。
今度は舌を差しだし、ジブリールの咥内を舐める。
口の端から唾液が漏れようとラサは一向に気にしない。
ジブリールが喜ぶようにと熱心に口づけを深める。
初めはラサに任せていたジブリールだが、我慢できなくなったのか浴室の床にラサを押し倒した。

「抱くのは俺だ」

若さ故の荒々しさでジブリールはラサの足を開き、体を割り入れて陰茎を擦りつけた。

「なんだ。キスだけで濡れたのか」

溢れる蜜を絡めてぐいぐいと押しつける。

「ん…きもちいい」
「もっとよくしてやるよ」
「あっ、ジル……はいってくる」

ろくに愛撫もしない内にジブリールはラサの中へと侵入していく。
しかし、ラサの内部は大した抵抗もなく彼を受け入れる。

「ラサ、愛してる。愛してるぞ」

馴染ませるように腰を押しつけ、ジブリールはラサの耳朶を噛む。
愛の意味は教えてあるのだからきっと理解しているはずだと自身に言い聞かせながらジブリールは欲望のままにラサの体を貪り始めるのだった。



くったりとしたラサを膝に乗せ、ジブリールは湯船に浸かっていた。
またしても欲望に負けてしまったという後悔が半分とラサへの愛おしさが半分、ジブリールの心を支配している。
愛おしさのままに髪に口づけてみたり、体を撫で回したりしている。
時々愛してると囁くとラサが嬉しそうに頬を染める。
一応報われてはいるのだろうかとジブリールはぼんやりと考える。

「ラサ、俺のこと愛してるか?」

ぱちぱちと瞬きを繰り返し、ラサは口元に手を当てて考える。
そもそもラサが自分の言葉をどの程度理解しているのか、ジブリールにはわからない。
しばらくしてラサがぱぁっと表情を輝かせた。

「ラサはジルのもの。ぜんぶジルのもの。あいしてるもジルのもの」

満足げに微笑むラサを見つめ、ジブリールは脱力する。
言葉の壁とはやはり高く大きいものであるとジブリールは改めて実感させられるのであった。






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