王都騎士団
シチュエーション


ファムレイユ・ゴードンスは深い溜め息を吐きながら、上官の執務室へと続く螺旋階段を登っていた。
王都の天気は晴れ。白くそびえ建つ城や騎士団の常駐する棟が、昼の日差しを照り返して眩い程。鍛練を終えた幾人かの騎士達の声に混じって、午後を告げる城の鐘が、王都一帯に響き渡っていた。
しかしファムレイユの表情は、晴れるどころか今にも霙が降り出しそうな程にしかめられている。
王都を守護する騎士団の中でも、数少ない女性騎士であるファムレイユを悩ませているのは、向かう先の部屋に居る──居る筈の──上官、デュラハム・ライクリィだった。

騎士団最高峰の黒旗隊隊長を務めるデュラハムは、当年とって三十八歳。
歴代、黒旗隊隊長は同時に全ての騎士団を纏める団長も兼任する。その殆んどが四十を越えて就任している事から考えれば、二年前にその地位を得たデュラハムの切者具合いを、多少なりとも想像出来るだろう。
しかし、ファムレイユにとって、それは何の意味もない事。
三年前、若干二十三歳にして黒旗団百人隊隊長を任され、尚且、現在は黒旗隊副隊長補佐と言う地位にある彼女にしてみれば、デュラハムが隊長である事自体が、そもそもの謎なのである。

「ヒュー殿がいらっしゃれば……」

今日になって、何度溜め息を溢した事か。
最後の一段を登ると同時に吐き出した溜め息は、狭い回廊に消えた。

ファムレイユ直属の上官であるシルヴァリア・ハリスは、現在任務の為に王都から海を隔てた離島に居る。
本来ならばファムレイユも同行しなければならないのだが、今回の任務は第二騎士団でもある赤河隊との合同任務。黒旗隊とは違い、女性の入隊不可な赤河隊の任務に、ファムレイユが同行は出来ない。
代わりに隊長補佐であるヒュー・ゴセックがシルヴァリアの補佐に赴き、入れ替わりにファムレイユがデュラハムの手足となって働いているのだ。
基本的に隊長であろうと副隊長であろうと、補佐がこなす仕事には大差はない。
問題があるとすれば、デュラハム自身である。

「隊長、いらっしゃいますか」

執務室の前で足を止めたファムレイユは、姿勢を正すと規律に従って部屋の扉を三回ノックした。
返事はない。

「隊長」

再度ノック。
しかし扉の向こうからは、ウンともスンとも返事はない。
苛々とした様子で眉間に皺を刻んだファムレイユは、握り締めた拳に力を込めて、ガツガツガツと激しく扉を叩いた。

「隊長っ!入りますっ!」

これだけノックをしても返事がないのだ。文句を言われる筋合いはないだろう。
些か乱暴に扉を開いたファムレイユは、年頃の女性には似つかわしくない荒々しい足取りで部屋に入った。
簡素な部屋に人気はなく、窓から差し込む陽の光が妙に虚しい。
予想通りの室内にファムレイユはまた溜め息を溢した。
執務室にいないとなれば、デュラハムの居場所は一ヶ所しかない。

「隊長、入りますよ」

声にあからさまな怒気を含みながら、ファムレイユは私室に繋がる扉を開けた。そこに遠慮や躊躇いなど微塵もない。

執務室と隣接している私室は、普段は隊長補佐と副隊長以外の勝手な入室は禁じられている。
しかし、ファムレイユが此処に入るのは今回が初めてではない。
シルヴァリアとヒューが任務に向かう以前から、ファムレイユは頻繁に此処を訪れていた。
何度も言うが、全てはデュラハムのせいなのである。

やはり簡素な私室の隅には、作り付けの棚と机と椅子。酒瓶と脱ぎ捨てられたブーツと衣服が、ベッドの脇に転がっていた。
窓から一番遠い壁際には、古道具屋でも売られていないような古びたベッド。
其処に倒れるようにして眠っているのは、他でもないデュラハムである。

「……隊長、そろそろ起きませんか?」

こめかみがピクピクとひくつくのが嫌でも分かる。
それでも何とか平静な声を装いながら、ファムレイユはベッドに歩み寄った。
相手の下着姿など、見慣れた今となっては、恥ずかしいとも思わない。

デュラハムが黒旗隊隊長に就任する以前は、ファムレイユは彼に多少なりとも憧れを持っていた。
だが、現状はこれである。
デュラハムが身近な存在になればなる程、ファムレイユの中で憧れは失望と呆れに変わっていった。
確かに、剣の腕は一流だ。貴族や王族に対しても引けを取らぬ程に弁は立つし、騎士団内で辣腕を奮うのも事実。
しかし人として、余りにも物事が適当すぎる。

他の騎士団──現在王都に残る青岳隊や緑雨隊隊長は、今頃はそれぞれ執務をこなしているだろう。
なのに、それを束ねるべきである黒旗隊隊長の姿ときたら、冴えない宿屋の親父の如き代物。
酒と煙草の臭いを染み付かせ、無精髭を蓄えて、下着姿でボロベッドに寝転がる。騎士団団長に憧れを持つ多くの女性に見せれば、百年の恋も一気に冷めるであろう姿である。

「……隊長」

努めて冷静な声を出すファムレイユは、握り締めた拳に力を込めた。
叩き起こすのは最終手段として取っておきたい。
この場合「叩き起こす」と言うのは、文字通りの代物である。どちらかと言えば「殴り起こす」と言った方が正しいかも知れない。

「隊長、お昼です」

枕を抱えるデュラハムの肩を揺する。
デュラハムは低い唸り声を漏らしたが、まだ目が覚める様子はない。

常日頃、隊長の手足となって働くのが補佐の仕事であるのだが、これではまるで母親だ。

──こんなデカい子どもを持った覚えはないわよ、私は。

そんな事を考えながら、ファムレイユは更にデュラハムを揺さぶった。

「隊長っ、起きて下さいっ」
「ぅ……ん」
「お昼過ぎてますよ。いつまで寝てるんですか!」
「ん………………ん?」
「起きろって言ってるんです!」

耳元で怒鳴り付ける事暫し。
ピクと瞼が動いたかと思うと、ゆるゆるとデュラハムの目が開かれた。

「……ファム?」
「愛称禁止。いつまで寝てるんですか、貴方は」

冷徹な声でピシャリと言い放ったファムレイユは、デュラハムの肩から手を離すと、呆れたように鼻先に皺を寄せた。

「……何時だ?」
「午後の鐘が鳴りました。お昼の時間は遠に過ぎています」
「そうか」

くぁ、と大きな欠伸を放ちデュラハムはのっそりと体を起こす。
鍛え上げられた体躯は大きく、赤茶色の混じる金髪と程良く日に焼けた赤銅色の肌のせいもあってか、冬眠明けの熊を連想させた。

「そうか、じゃなくてっ」
「あんま大声出しなさんな。さっき眠ったばっかりだっての」
「……また夜遊びですか…」

皮肉たっぷりに告げるファムレイユの言葉に返事もせず、デュラハムはボリボリと頭を掻きながら、再び大きな欠伸を漏らした。
その有り様にファムレイユの頬がヒクと痙攣する。

「とっとと着替えて下さい。ヒュー殿からの定時連絡まで、余り時間がありませんから」

低く押し殺した声で済んだのは、日頃の訓練の賜物だろう。
しかしデュラハムは、ちらりとファムレイユに視線を向けただけで、ベッドを降りる様子はない。それどころか再び布団を掴むと横になろうとする。

「隊長ぉっ!」
「まだ時間はあるんだろ。もう少し寝かせろや」
「そう言う訳にはいきませんっ!ほら、とっとと起きるっ!!」

完璧母親と化した台詞を紡ぎながら、ファムレイユは布団を引き剥がそうと手を伸ばす。
だが。

「っ!?」
「そうカリカリしなさんな」

布団を掴もうとした手はデュラハムによって阻まれ、ファムレイユはデュラハムの上に倒れ込んだ。
早い話が、手を捕まれ引っ張られたのだ。
二人分の重みでギギィとベッドが悲鳴を上げた。

「真面目だねぇ、ファムは」
「貴方が不真面目過ぎるだけですっ。て言うか、何してんですかっ!」

抱き止められファムレイユの心拍数が跳ね上がる。
だがデュラハムは、素知らぬ表情のまま、チュニックの上からファムレイユの胸元をまさぐり始める。

「ち、ちょっと…!」
「一発抜いたら目ぇ覚めるかもなぁ」
「いっ…っ!?」

後ろから抱き竦められる格好になったファムレイユは、抵抗しようと試みるが、両腕はがっちりとデュラハムに抱え込まれている。
手が無理なら足と思っても、足の間にデュラハムの足が滑り込まされた。
その間にもデュラハムの手の動きは止まらない。
服の上からでも的確に胸の頂を摘み上げ、首筋に舌を滑らせる。

「ちょ、隊長ぉ…」
「ん〜?」
「こんな事、してる、時間は…っ」
「一回分くらいはあんだろ」
「ぅくっ……!」

逃げる手立てはいくらでもある。しかしそう出来なかったのは、デュラハムから与えられる刺激のせいだ。

少なくともファムレイユはそう思っている。

服の上からでも分かる程に、反応を始めた頂を指先でこねるように弄ぶ。かと思えば胸全体を強く揉まれ、ファムレイユの唇から熱い吐息が漏れた。
割られた膝の間では、足の付け根を擦るようにしてデュラハムの膝が上下しており、首筋から耳までをねっとりと舌が這い回った。

「…たい…っ……んんっ!」
「お前さんも、たまにはのんびりしろって。な?」
「み、耳元で喋るなぁ…っ!」
「お〜、悪い悪い」

デュラハムが口を開く度、吐息がファムレイユの耳に降り掛る。
ぞくりと首筋が粟立つ感覚に思わず抗議の声を上げるが、デュラハムに悪びれた様子はなく、逆に切り揃えられた髪の隙間から見えるファムレイユの耳を咥え込んだ。

「ひぁっ!」

チュプと水音がダイレクトに響く。舌を捻じ込まれなぶられて、ファムレイユは声を上げた。
デュラハムは楽しげな笑い声を喉の奥で漏らすと、チュニックをたくし上げてファムレイユの肌を外気に晒す。
下着代わりに胸に巻き付けている白い布も同時に取り払うと、薄く色付いた白い肌が露わになった。

桃色に染まった胸の頂はツンと尖り、デュラハムの指の動きに併せて形を変える。
その度にファムレイユの腰に痺れにも似た感覚が走り、ファムレイユは鼻に掛った声を上げた。

「あぅ…っ、やめ…」
「此処まで来てそりゃないだろ」

耳から口を離しデュラハムがファムレイユの顔を覗き込む。
頬に柔らかく噛みついて舌を伸ばすと、デュラハムは片手をファムレイユの腹部へと移動させた。

「分かるだろ、俺のが反応してんのが」
「し…知らないっ…!」

態とらしい言葉に顔を背けて頬を舐めるデュラハムから逃れようとしたが、ファムレイユははっきりとデュラハムの欲望を感じていた。
全体重の殆んどを預ける形で、背後からデュラハムに抱えられているのだ。押し付けられなくても腰に当たる感触が、徐々に固さを増しているのが嫌でも分かる。
それでもファムレイユは身を捻り、デュラハムの腕から逃れようとしていたが、デュラハムは手早くズボンのベルトを緩めると、その中に手を滑らせた。
耳をなぶるのは諦めてはいたが、肩や首筋に噛みついては吸い痕を残す。その度に不揃いな無精髭が肌を擦り、その刺激にすらファムレイユは快感を覚え始めていた。

「や、ぁあ…っ」

下着の上から、主張を始めた肉芽に触れられ、ファムレイユは耐えきれず嬌声を上げる。
手慣れた動きで指先は肉芽を押し潰したかと思うと、胸の頂と全く同じ動きでグリグリとこねまわされた。

「やぅっ…あ…んんっ」

短くなる呼吸に混じる声は多くなり、それが酷く恥ずかしい。
しかしデュラハムは手を休める事なく、湿る下着の上から執拗に肉芽を弄ぶ。胸を揉む手は時折腰や腹部へと降りて、徐々にズボンは脱がされていった。

「ファム、ブーツ」

騎士団から支給されているブーツはズボンを脱がすのには邪魔になる。
端的な言葉の意図を汲み取りはしたが、ファムレイユはふるふると首を左右に振った。刺激が欲しいと素直になるのは簡単だが、ここで言いなりになるのは癪に触る。
目の前で青みがかった黒髪が揺れるのを見て、デュラハムは眉を上げた。

「相変わらず素直じゃねぇな、お前さんは」
「う、うるさ…っ…ひゃうぅ!」

憎まれ口を叩こうとしたファムレイユだったが、言い終わる前に下着の隙間からデュラハムの指が滑り込む。

充分過ぎる程の潤いを見せる亀裂に太い指が差し込まれ、グチッと粘ついた水音が耳に届いて、ファムレイユは強く目を閉じた。

「いつまで強がってんのかねぇ」
「やぁ…だ、んあぁ…!」

太股までを剥き出しにされた姿で、下着はそのままに体の中に指を埋め込まれている。

そんな自分の姿を自覚するだけで、ファムレイユは羞恥心で一杯になるが、それ以上にデュラハムの指の動きに理性が狂わされる。
二本に増やした指でファムレイユの中を掻き乱しながら、デュラハムは体を反転させてファムレイユを組み敷いた。
体重を掛けられ逃れる術を失ったファムレイユは、自由にならない体を捻ってデュラハムを見遣った。

「た、たいちょ…」
「おーおー、そんなに目ぇ潤ませて。物足りねぇか?」
「ち…ちが…っ」

今ならまだ退き下がれる。
経験上、何とか行為を中断させようとデュラハムに声を掛けたが、デュラハムはニヤリと意地の悪い笑みを見せると、指を引き抜いてファムレイユの下着をずり下ろした。
重みの無くなった体だったが、逃れる程の力はない。
それを見越してでもいたのだろう。デュラハムはファムレイユの腰をがっちりと掴むと、高く掲げて濡れそぼった秘部に口を付けた。

「あぁぁぁっ!!」

思わずシーツを握り締める。
ジュルリといやらしい音を立てて溢れる蜜を吸い上げたデュラハムは、更に蜜を求めるようにファムレイユの中に舌を差し入れる。
漏れる呼吸や、触れる無精髭や、指とは違う熱く蠢めく舌の感覚に、ファムレイユの体は本人の意識とは勝手に反応する。

「あっ…やぁぁ、駄目ぇ…っ」

再び肉芽を弄ばれ、胎内を激しく乱されて、ファムレイユの腰が跳ねた。

蜜にまみれた指は緩急を付けて的確にファムレイユの熱を高め、舌は溢れる蜜を溢すまいと妖しく蠢めく。
時折態と聞こえるように水音を立てて秘部を吸い上げると、ファムレイユの体は実に素直にビクビクと震えた。

「まだ止めて欲しいか?」

あえぐ声に掠れが混じり始めた頃、デュラハムは顔を上げてファムレイユに問掛けた。

デュラハムとて嫌がる女性を無理矢理抱くような悪い趣味は持ち合わせていない。ならば、今までの行動は何なのかと言われるかも知れないが、其処はそれ。
仮にも恋仲にある女性が相手で、尚且自分以外の男を知らぬ相手に、多少の無理強いを強いてみたい気持ちは分かって欲しい。

ファムレイユ自身も、全くその気が無かったと言えば嘘になる。
ただ生来、色恋沙汰には無器用で、普段から素直に「好き」と口にする事すら難しい彼女が、職務に励むべき時間に淫らな行為に耽るには抵抗があった。

それを知った上で強いる時点で、デュラハムは充分人が悪いとも言えるが。

肉芽を弄る手は休めずに、自分は胡坐を掻いて座りながら、ファムレイユの腰を引き寄せる。
自分の手でファムレイユが乱れる様を感じ続けていたせいで、デュラハムの肉棒ははちきれんばかりに存在を増していた。
先程よりは幾分与えられる刺激が弱くなったからか、ファムレイユは弱々しくあえぎながら、汗で張り付いた額の髪を乱雑に撫でた。
その仕草がまたデュラハムの欲望をそそるが、生憎とファムレイユは気付かない。

肩越しに振り返ったファムレイユは自分を見下ろすデュラハムの眼差しの強さに息を飲んだが、視線を避けるように目を逸らすと、乾いた唇を噛み締めた。

「……っ…う…。……デュー…」

静かな室内に小さな声が響く。

愛称を呼ぶ。
ただそれだけの事なのだが、二人の間ではそれは暗黙の了解だった。

満足気な笑みを浮かべたデュラハムは肉芽から手を引くと、下着を脱ぐのもそこそこにファムレイユの体を反転させる。
膝裏に手を掛け大きく足を開かれたかと思うと、次の瞬間、ファムレイユの胎内に熱くたぎったデュラハムの肉棒が埋まった。

「あぁぁっ…や、んぁあ…っ!」

顔の横でしっかりとシーツを握り締め、一際大きくファムレイユが鳴く。
石造りの室内に反響した自分の声に、今更ながらファムレイユは甘い色が混じっている事に気付いたが、次の瞬間にはもう、そんな事はどうでも良くなっていた。

浅く。深く。
幾度も体を交わらせた事のあるデュラハムの動きに無駄は無く、その度にファムレイユの口からは言葉にならない声が溢れる。
髪と同じ青みがかった茂みの奥で、ぷっくりとした肉芽が色付いている。デュラハムがそれに手を伸ばすと、彼を包む肉壁がきゅうと締まった。

「はぅっ、あぁ…デュー、やだぁ…っ」
「気持ち良すぎんのか?」
「ぅ、ん…っ」

デュラハムが抽挿を繰り返しながら肉芽を弄ぶと、強く瞼を閉じたファムレイユは頭を上下に振る。
態々訊かなくとも自身に返る刺激でファムレイユが感じているのは明らかだ。
しかしはっきりと態度で示されると──何とも単純な話ではあるが──常日頃素直とは無縁なファムレイユだけに、デュラハムは身も心も文字通り満たされるのだ。

「あっ、はぁ…んっ、ああぁ…っ!」

纏わり付く締め付けと共に、デュラハムの動きは徐々に早さを増して行く。
腰が浮くような感覚にファムレイユは必死になって意識を繋ぎ留める。
デュラハムが膝裏から手を離しファムレイユの顔の横に手を付くと、すがるようにしてファムレイユはデュラハムの背に手を回した。

蜜にまみれた口許など気にする余裕もなく、ただ欲望に忠実にファムレイユがデュラハムの唇に吸い付く。割り開かれた唇の隙間に舌を差し込み、互いの熱を感じながら舌を絡ませ唾液を交わらせる。
それを味わおうとデュラハムが腰の動きを緩やかにするが、ファムレイユは自分の腰を押し付けながらデュラハムの舌を貪った。

──普段もこんだけ素直なら、いじめる回数も減るんだがな。

そんな考えがデュラハムの脳裏を掠めたが、直ぐにその考えを振り払う。もしもファムレイユが素直になれば、その分楽しみが減ってしまう。
人が悪いだとか最低の趣味だとか、ファムレイユに罵倒されても仕方のない楽しみだが、生憎とデュラハムはこの趣味を手放す気はない。少なくとも今の所は。

混ざり合った唾液を飲み干しながら、腰をくねらせてファムレイユが刺激を求める。
唇を交す間にも隙間から漏れるファムレイユの声は艶を増し、デュラハムの脳髄に欲望が渦巻く。それを満たそうと唇を離してデュラハムはより深く激しくファムレイユの胎内を擦り上げた。

「んあぁぁっ!…いや、…やぁぁ……っ!!」

快感と充足感とが入り混じり、ファムレイユの声が啜り泣きにも似た色を帯る。それは限界が近い証で、ファムレイユは背に回した手に力を込めた。

「デュー、……デュー…っ!」

耳元で懇願するように名を呼ばれ、デュラハムはもう一度軽くファムレイユに口付ける。
そのままファムレイユの頭を抱き締めると、デュラハムは激しく腰を打ち付けた。

ジュブジュブと大きな水音を繰り返し、何度も何度も突き動かされて、ファムレイユは天を仰ぐ。
腕の中で退け反るファムレイユに言葉にならない愛しさを感じながら、デュラハムは最奥を貫く。

耐えきれぬ欲望が全身を巡り、デュラハムがファムレイユから身を引き抜く。
それと同時に腹部に巻き散らされた熱い体液を感じながら、ファムレイユの意識は宙に飛んだ。

ファムレイユが意識を取り戻したのは、それから間も無くの事だった。
久し振りの──しかも背徳感満載な──情交に乱れきった自分が情けないが、ファムレイユを待ち受けていたのは更に情けない事態だった。
ベトベトになっていた筈の腹部は、気を失っていた間にデュラハムによって清められ、衣服の乱れも直されている。しかもご丁寧にブーツは脱がされ、掛け布団まで掛けられている始末。
肝心のデュラハムの姿は見えず、床に散らばっていた筈の彼の衣服も見当たらない。

執務だ何だと口煩くしていたのは自分なのに、デュラハムと情を交す為に来ただけのような有り様に、ファムレイユは眉間を寄せた。
慌ててベッドから起き上がり、ブーツを履くのもそこそこに執務室への扉を開ける。
執務室の机の前では、まるで何事もなかったかのように、デュラハムが執務に向かっている。背後の窓から差し込む陽光に赤茶色混じりの金髪が煌めいて、ファムレイユは思わず目を細めた。

「お〜、起きたか」
「っ!……も、申し訳ありません」

デュラハムの飄々とした態度に腹が立つが、それは自分のひがみと言う物。
声を低くし、視線を合わせぬようにして頭を下げると、ファムレイユは平静を取り戻そうと小さな深呼吸を繰り返した。

「ゴードンス補佐官」

愛称でなく役職で呼ばれ顔を上げる。
デュラハムは口角を上げた表情で机に頬杖を突いていた。

「何でしょうか」

こうして──珍しくも──デュラハムが執務に向かっているのだ。ならば自分は、出来得る限り補佐するしかない。
私情は取り合えず心の棚に預けておいて、ファムレイユは職務用の表情を取り繕った。


が。


「煙草、買って来てくれ」
「………………はい?」

能面の如くファムレイユの表情が固まる。ただし、思考回路は正常に稼働している。

──…このオッサン…一回締め殺してやろうかしら。

物騒なファムレイユの考えなど知る筈もなく、デュラハムは笑って手を振った。

「煙草吸わないと頭が働かなくてな〜。仕事が進まないのなんのって」
「買 っ て き ま す !」

必要以上に語気を強め、くるりと体を反転させる。
惚れた弱味だとかそれ以前に、執務をまともにこなして貰わない事にはファムレイユにもお叱りが回って来る訳で。

──ヒュー殿っ、シルヴァ副隊長っ!早く戻って来て下さいっ!!

心の中で血の涙を流しながらファムレイユは執務室を後にする。
そんなファムレイユを見送ったデュラハムは、心底楽しそうに笑いながら窓の外へと視線を投げた。


王都は今日も平和である。






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