シチュエーション
![]() 陶器のように白い肌、深い色をした黒髪は緩く波打ち、澄んだ切れ長の瞳は蒼く輝く。 眼差しは常に物憂げで、怠惰な印象を抱かせる。 けれど、真正面から蒼眸に射抜かれてしまえば人は皆その美しさに魅了される。 人在らざる者と称されるのはその美貌と国一つ滅ぼしてなお表情を変えぬ冷酷さからだ。 美貌の国王陛下が紫煙をくゆらせる様を眺め、神という者が居たならばそれは恐ろしく気まぐれなものだろうと考える。 すべてを手にした彼は神に愛されているのか、はたまた疎まれているのか。 なぜあんなにもすべてにおいて無関心でいられるのだろう。 少女は国王に気づかれぬ程度に小さく溜め息をこぼす。 少女の名はシルヴァリア・イルマ。 父は先々王、先王の側近として仕えていた。 晩婚な上に男子に恵まれなかった父により、少女は幼い頃より世継ぎとなるべく男子さながらに厳しく育てられた。 数ヶ月前に前国王が退位するとともに父も隠居し、少女は僅か十八で家督を継ぐこととなった。 そして、家督を継いだ報告の為に謁見した際に現国王から側近く仕えることを許された。 噂には聞いていたが、実際に国王を目にした時はその美しさに言葉をなくしたものだ。 今でもシルヴァリアは国王の美しさに慣れない。 蒼い瞳がシルヴァリアを映し出せば赤面し、低い艶めいた声が名を呼べば体が震える。 だから、シルヴァリアは女性であることを意識せぬように心がけた。 長かった髪を切り、ドレスの類は一切身につけない。 国王の側に仕える際も適度な距離を保ち、近づくことは極力避けた。 努力の甲斐あってか、シルヴァリアは国王の前で悲鳴を上げるような失態は片手で足りるほどしか犯していない。 ごく稀に、国王の機嫌がすこぶるいい時に彼は音もなくシルヴァリアの背後に立ち、耳元に低い声を落とす。 そうして、シルヴァリアがわなわなと震えて座り込む様を楽しげに眺めるのだ。 そういう行動をとるのだから国王はシルヴァリアに親しみを覚えているのかもしれないが、シルヴァリアはそこまで頭が回らない。 今日も今日とてシルヴァリアは国王の物憂げな表情を五歩は離れた場所から心配そうに眺めるのであった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |