シチュエーション
![]() あんなに嬉しそうな顔もするのかと安心した。 あの冷血漢にも人並みの情ってもんがあるんだと。 初めて会ったのはあいつが五つの時だった。 大人びた顔をするガキだと思った。 我が儘一つ言わずに母親の意見に従い、その代わりに笑いも泣きもしない。 かわいげのないガキだった。 ──あれがシルヴァリア・イルマ。フレデリクの娘だ。 遠巻きに見えた金髪を目を細めてみていた。 あいつがあんな顔で女を見るとは想像もできなかった。 二十年ばかり側にいて初めて見る顔だった。 どんな女なのかと近づいてみれば、年相応の可愛らしいお嬢ちゃんだった。 そして、何よりもあいつに惚れていた。 陛下を一番近くで守りたいのだと頬を染めて言われた時は見ているこっちが照れくさくてたまらなかったものだ。 思い合っているんだからとっととくっつきゃいいのに、お互いに相手の気持ちに気づかないんだから鈍感というかなんというか。 お嬢ちゃんはあの性格だから側にいられればそれでいいなんて言うし、あいつはあいつで何かを言えば命令になるからと口をつぐんだまま。 だから、あの資料はいい起爆剤になるんじゃないかと思う。 お嬢ちゃんがあいつの前で泣くとは思えんが、やきもち妬いてますって態度が少しでも出てれば目敏いあいつが気づかないはずがない。 これがきっかけでくっついてくれりゃあ長年の寂しい生活から解放されるだろ。 人並みの幸せってやつをあいつにも知ってほしい。 それに、あいつがバカ面さらしてのろけるとこも見てみたいじゃねえか。 まあ、あれでだめなら早々に次の手考えなきゃなんねえんだけど。 まったく人の恋路に世話やくなんて俺も焼きが回ったもんだぜ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |