陛下とシルヴァリア2
シチュエーション


目が覚めてすぐに、肌触りのよいシーツを体に巻き付けた。
触れた感触が心地よくて思わずそうしてしまったのだ。
まだ半分夢の中にいるようなひどく心地よい感覚。
起きてしまうのが惜しくて私は枕に顔を埋める。

……あれ?

僅かに感じた違和感の正体を探ろうと鼻を動かす。
枕から私の部屋と違う香りがする。

この香りは──

一気に眠りから覚めて、私は勢いよく起きあがった。
目の前に現れたのは国王陛下の顔。
悲鳴を上げそうになるのを必死に飲み込む。

「おはよう」

いつもより少し低めの、けれどとても甘い声。
愛おしさすら感じる眼差しに心が溶けてしまいそうだ。

「おはよう、ございます」

小さく頭を下げると陛下の唇がこめかみに触れた。
そして、私の目には露わになった太股が。
慌てて自分の姿を確認して、今度は悲鳴を飲み込むことに失敗した。

「シルヴァリア?」

シーツを引き上げて体に巻き付け、陛下に背中を向けた。

どうして全裸なんだろう。
どうして、どうして。

一生懸命考えて、すぐさま答えに思い当たる。

そうか、私、夕べ陛下と……。

体温が一気に上昇する。
枕から陛下の香りがするのも寝台に陛下がいるのも裸なのも、理由はすべて理解した。
ここは陛下の寝室なのだ。

「シルヴァリア」

ぎゅっと陛下の腕が腰に回される。
肩に顔を埋めて、陛下が私の名前を呼ぶ。

どうしよう。
胸がドキドキする。
幸せすぎて死にそう。

「後悔しているのか?」

不安げな声にぎょっとする。
そうか、こういう態度をとるとそう思われるのか。

でも、だけど、でも。

面と向かって顔を合わせるのは恥ずかしすぎる。
それでも、せめて誤解は解きたいと私は必死に首を振った。
安堵の吐息が首にかかる。

「では、顔を見せてくれ」

だから、それは無理なんです。
同じように首を振ると陛下が困ったように大きく息を吐いた。

「シルヴァリア?」
「へ、変な顔をしてます。寝起きだから髪もぼさぼさだし」
「それは私も同じだ」

違う。断じて違う。
陛下は寝起きでも美しいけれど、私は陛下のように人並み外れた美貌は持ち合わせていないのだ。

「陛下は……お綺麗です。さっき見ましたけど変なところなんて一つもありませんでした」
「お前も可愛かった」

腰に回されていた陛下の手が太股を撫でる。
唇が項に当たり、陛下が喋る度に吐息がかかる。

「夢ではないかと疑いながら寝顔を眺めていた。昨夜のお前を何度も何度も思い出した。例え夢だとしても忘れたりしないように」

夕べ教えられたばかりの不思議な感覚が全身を這い回る。

「お前の顔も体も声も例えようもないほどに素晴らしかった。お前の声が好きだ。私を信頼しきった瞳が好きだ。何の躊躇いもなく私に捧げてくれる心が愛おしい」
「あっ…や、待って」

太股に触れていた陛下の手が内へ滑り込む。
自分でもなんとなくわかってはいたけれど、触れられては隠しようがない。
陛下の指をすっかり濡らしてしまっているのだと思うと恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだ。

「お前のすべてが愛おしい」

すっかりシーツを剥ぎ取られ、陛下の手が私の胸に触れる。
先の方がじんじんと痺れているようで、早く陛下に触れてほしくてたまらない。
陛下の指が軽く摘んだだけで、体がびりびりと痺れた。
私の体がまるで私のものではないみたいになる。
体が痺れる度に陛下の指を締め付ける。
苦しい。苦しくて心地いい。
噛みしめた唇からは私のものとは思えない声が堪えきれずに漏れる。
陛下の指が引き抜かれて、安堵する間もなく体重をかけて倒される。
うつ伏せになってシーツを掴み、呼吸を整える。
けれど、その間も陛下は私の背中に舌を這わせ、休ませてはくれない。
声が出る。
こんな声を出して、はしたない女だと陛下に思われはしないだろうか。
でも、声がいいと陛下は仰った。
でも、やっぱり声をあげるのは恥ずかしい。
陛下の唇が離れ、ぐいっと腰を引かれた。

「ああっ!!」

慌てて唇を噛みしめようとしたけれど間に合わなかった。
体がまるで半分に引き裂かれるような、体の奥深くまで杭を穿たれたような、慣れない感覚。
どちらかというと不愉快な感覚だけれど、昨夜は何度も繰り返す内に不快感は薄れていった。
それに、今日は昨日よりは大丈夫そうだ。
深い呼吸を繰り返していく内に、中に留まっている陛下の陰茎に体が馴染んでいく。
私の背中と陛下の腹がぴたりと合わさり、優しく私の腹を撫でてくれる。
そうしながら、もう片方の手は乳房を弄る。

「平気か?」
「ん……は、はい」
「動いても大丈夫か?」

陛下が動くということは夕べのようにわけのわからない感覚に飲み込まれていくということだ。
もうしばらくこのままでいたいような、また陛下だけが導いて下さる場所へ連れて行ってほしいような、私は私の感情を持て余して曖昧に小さく呻いた。

「……正直に言うと私はもう限界だ」

緩やかに陛下の腰が引き、同じ速度で潜り込む。
不愉快だった感覚が僅かに色を変える。
何度も何度も陛下はもどかしいまでに緩やかな動きを繰り返した。
だんだんとその動きに慣れていくと少しばかり物足りなさを感じる。
たまらずに首だけで振り返って陛下を見上げると突き上げるスピードが増した。
シーツに爪を立て、唇からは意味をなさない言葉が漏れる。
陛下の動きは巧みに私を追い詰める。
気がつけば私は押し寄せる波に抵抗することもなく、簡単に身を投げ出していたのだった。






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