王都騎士団【妬きもち】
シチュエーション


純粋に実力のみを重視する騎士団に於いて、出自や家名は何の意味も持たない。
例え爵位を持つ家柄の出であっても、見習いとして入団した時には王家に──一時的にではあるが──名前を返還しなければならない。
だから、と言う訳ではないだろうが、極々庶民の出であるデュラハムは、貴族達の事を快く思っていないようだった。

しかし、そんなデュラハムでも懇意にしている貴族が居る。
その中の一つとして、ハリス侯爵家が挙げられるだろう。

ハリス侯爵は、デュラハムの部下であり、ファムレイユの上官でもある、シルヴァリアの従兄弟に当たる。
年齢で言えばデュラハムとシルヴァリアのちょうど中間。シルヴァリアと乳母を同じくするせいか、兄弟同然の間柄。
自然、シルヴァリアと──ハリス侯爵とはまた違った意味で──兄弟のようなデュラハムとも、個人的な付き合いを交している。

ファムレイユがそれを知った時は驚きもしたのだが。



バルコニーに出たファムレイユは、酔った頬に触れる夜風に目を細めた。
丘陵に立つ此処からは、王都が一望出来る。ちらちらと営みの灯りが眼下に広がり、空には僅かに膨らんだ月と満天の星。眺めが良い。
後方のサロンからは賑やかな声が聞こえているが、ファムレイユはどうにも馴染めず、其処を抜け出して来たのだ。

ハリス侯爵の息子の婚約披露とあって、多くの貴族や王家からの使者が集っている。
しかし一介の騎士に過ぎない自分には、何処か遠い世界の事のようにも思える。
「一人で行くのは先方に対し失礼だ」と、デュラハムに──半ば無理矢理──引っ張り出されたのだが、当のデュラハムはと言うと、ハリス家の面々と和やかに談笑している。
デュラハムはデュラハムで年嵩故の付き合いもあり、話を持ちかけたシルヴァリアも、ハリス家分家の出自と言う事もあり、それなりに顔は広い。
しかしファムレイユは、まだ年若く庶民の出。見知らぬ人ばかり、と言う訳でもないのだが、執務以外で付き合いのある人物、となるとファムレイユには皆無に等しい。
結果、こうして一人バルコニーに出たのだが、疎外感は拭えなかった。

「……窮屈だわ、本当に」

淡いブルーのドレスはデュラハムの見立て。
ファムレイユとて、私物の礼服を持っていない訳ではなかったのだが、デュラハムが頑として利かなかったので、態々仕立てて貰ったのだ。
ただし、仕事が忙しかった為に採寸は仕事の合間に行い、デザインに関してはファムレイユは一切関知していない。デュラハムが口煩く仕立て家に口出ししていた、と言う事もファムレイユの預かり知らぬ所である。
ドレスを着るために普段は着けぬビスチェを下に着けているのだが、コルセットの役割も果たしていてそれが窮屈さを増す。

溜め息を溢したファムレイユは、手摺に頬杖をついて王都を眺めた。

「お嬢さん、お一人ですか?」

不意に掛った声に後ろを振り向くと、フロックコートに身を包んだヒューが居た。
先程まではサロンに居なかったのだから、恐らく遅れて来たのだろう。

「見ての通り」

ファムレイユが肩を竦めて向き直ると、ヒューはフと微かな笑みを浮かべてファムレイユの隣に立った。

「これを機会に貴族評議会に顔を売るのも、執務のうちです。まぁ、俺も窮屈なのは苦手だが」
「聞いてたの?」
「あぁ。憂い顔もしっかりと」

しれっと言いきったヒューを軽く睨みつけたファムレイユだったが、直ぐに視線を外すと口先を尖らせて大仰な溜め息を吐いた。

「相変わらず人が悪いわ、ヒュー殿は」
「油断する君が悪い。俺だって、聞きたくて聞いた訳じゃないさ」

そっぽを向いたファムレイユだったが、ヒューは意に介する様子もなく、手摺に背中を預けてサロンの方へと目を向けた。

隊長補佐であるヒューは立場としてはファムレイユの上官に当たるのだが、口調が砕けた物になるのはヒューのお陰だ。執務以外で敬語を使われる事を嫌うのだ。
ファムレイユよりも五歳程年上だが、見た目が若いせいかファムレイユと然程変わらないように見えるので、ファムレイユもそう気を使わなくて済むのが有り難かった。

「ゴードンスの浮かない顔の原因は、隊長殿ですか?」
「別に。あの人が誰と話そうと、私には関係ないわ」
「ほぉ」
「……何よ、その目は」

ヒューの声にチラリと其方を向くと、ヒューは目を細めて口許を緩めている。
思わず咎めるような口調で突っ掛ると、ヒューは顎でサロンを示した。

「いや、なに。君はそうかも知れないが、隊長は君を気にしているようなのでね」
「え?」

つられてサロンを振り返ると、其処では相も変わらず談笑を繰り広げる人々の姿。
背の高いデュラハムの姿は直ぐに目に止まったが、此方を気にしている様子はない。

「そう…?」
「あぁ。時折視線が泳いでる。君を探しているんだろう」
「……目が良いのね」

暫くデュラハムの様子を観察したが、ヒューが言っているようには思えない。
仮にそうだとしても、のこのこと顔を出してまた疎外感を感じたくはなかった。

「行かないのか?」
「……そのうち戻るわよ」

頑に拒むファムレイユを視線だけで見下ろしたヒューは、小さな吐息を漏らすと腕を組んでまたサロンへと目を向けた。

「隊長殿も……もう少し気を使う事を覚えた方が良いな」
「……どう言う意味」
「君のドレス姿なんて、そう見られる物じゃない。あれだけ人にノロケ話を聞かせておいて、結果がこれじゃあな」
「……」
「まぁ、あの人が無粋なのは今に始まった事じゃない。気に病むだけ損ですよ」

からかいめいた口調にファムレイユは再びサロンに背を向ける。
態々言われなくともファムレイユにだって分かっている。

今の自分は、単に拗ねているだけだと言うのが。

だからと言って、今更デュラハムの元に顔を出しても、居心地が良くなる訳でもなく。社交的な場で笑顔を振り撒けるほど器用ならば、とっくの昔にそうしている。
気後れする以上に無器用な自分が腹立たしいが、こればかりは直ぐに何とかなる問題でもない。

「ヒュー殿は戻らないの?」
「俺か。さて…目的のご婦人はいらっしゃいようだし──それに、子守りも悪くない」
「……すみませんね、お子様で」

眉間に皺を寄せたファムレイユの姿に、ヒューは僅かに肩を震わせる。


春の夜風は冷たかったが、デュラハムがバルコニーに気付くまで、二人は他愛もない話を続けていた。

帰りの道はハリス侯爵が手配した馬車。カタコトと揺れながら、馬車は騎士団の宿舎へと向かう。
幾人かで乗り合わせていたが、その中にはヒューや青岳隊隊長のギデオン・ランバートもおり、二人きりになれたのは黒旗隊の棟に戻る回廊でだった。

ヒューも黒旗隊の棟に私室を持つのだが、飲み直すと言って兵卒の宿舎がある棟へと向かい、その気の使い方が益々ファムレイユを無口にさせたのだが、デュラハムは苦い表情のままヒューを見送った。

先を歩くファムレイユの姿が、廊下に点る蝋燭の灯りで揺らぐ。
無言の威圧、とでも言おうか。始終無言の訳を感じていたデュラハムは、矢張無言でその後ろを歩いていた。

「では隊長、おやすみなさい」

ピタリと足を止めたのは、ファムレイユの執務室。
振り返ったファムレイユに表情はなく、デュラハムは内心舌打ちを鳴らしながら首筋を掻いた。

「そう邪険にしなさんな」
「……おやすみなさい」
「おいおい…弁解の余地もねぇってか?」

語気を強めるファムレイユに、デュラハムは情けない様子で溜め息を吐く。

視線も合わせず口も利かず、ハリス家から此処まで来てしまっている。
冷たい眼差しどころか、完璧に壁を作られては、デュラハムとてやりきれない。

「おやすみなさい」

頑に同じ言葉を繰り返すファムレイユを見下ろして、デュラハムは眉間に皺を刻んだ。

「こら、子どもかお前さんは」
「……十二歳も離れてますから」

可愛いげのない態度にデュラハムは舌打ちを鳴らすと、不意にファムレイユの腕を掴んで執務室に続く扉を開けた。

「ちょ、隊長っ!」
「拗ねるのはしゃあねぇが、俺だってお前さんに言いたい事があるんだよ」
「な…っ!」

勝手知ったる何とやら。
更に私室へと足を運んだデュラハムは、ファムレイユをベッドに放り投げると、両腕を押さえ付けるようにして乗し掛った。

「隊長っ!」
「ヒューと何を話してたんだ」
「……え?」

灯りも点さぬ室内は暗く、窓からの僅かな月明かりが光源。
腕を押さえられ身動き出来ないファムレイユだったが、デュラハムはいつになく真面目な顔付きで、ファムレイユを見下ろしていた。

「……何って…別に」
「別に?」
「下らない雑談です。隊長が勘繰るような事は、これっぽっちもありません」

言われのない罪を着せられては敵わない。

この状況に、デュラハムの問いに、怒りが込み上げたファムレイユは、キッとデュラハムを睨みつけた。


睨み合う事暫し。


先に口を開いたのは、深い溜め息を吐いたデュラハムだった。

「分かった。……いや、分かってた」

呟かれファムレイユは眉を顰める。
しかしデュラハムは唐突に腕を掴む手を離すと、ファムレイユを抱き締めた。

「…っ」
「……大人げねぇのは俺の方だったな。悪い」
「…隊長?」

目の前で赤茶色混じりの金髪が揺れる。
力強さと暖かさに目を白黒させるファムレイユに、デュラハムは自嘲染みた口調で呟いた。

「テメェが蒔いた種なのに、みっともねぇ嫉妬してやがる。……情けねぇ」
「……」
「仕事だ何だってのは言い訳だ。それについちゃ、申し訳ねぇと思ってる。……だからって、お前さんとヒューを疑うのはお角違いってもんだよな」
「隊長……?」

ファムレイユが首を捻りデュラハムを見ると、それに気付いたデュラハムが顔を上げた。
いつか見た、気弱な笑みが浮かんでいる。

「悪かったな、あんな場所に連れ出して」
「……え…っと」

デュラハムの腕の中で、ファムレイユは戸惑いを隠しきれない。
デュラハムはフと笑みを深めると、僅かに抱く腕に力を込めて、ファムレイユの肩に顔を埋めた。

「嫉妬。妬きもち。好きに呼べ。お前さんが考えてる以上に、俺はファムが好きなんだ」

耳元で淡々と告げられてファムレイユの思考回路が止まる。
その言葉はじわじわとファムレイユの胸の奥に染み込んで、暖かな気持ちで満たされる。

もとより、ファムレイユはデュラハムに対して怒っていた訳ではない。
ヒューとの事を疑われた瞬間は、それは腹も立ったのだが、それ以前に自分に対して怒っていたのだ。

デュラハムにはデュラハムの世界がある。
疎外感を感じたのは自分の都合で、デュラハムの世界に歩み寄ろうとさえしなかった。
子どものような態度だと分かってはいたが、素直になれなかった自分が悪い。
口を開けば責任転嫁をしてしまいそうで、それがいっそう腹立たしかったのだ。

「……すみません」

後悔の念に駆られながら、そっとデュラハムの背に手を回す。
デュラハムは視線だけでファムレイユを見たが、頬を緩めるとファムレイユの髪に手を伸ばした。

「言葉より、態度で示しちゃくれねぇか?」

髪を撫でるその口調は先程の笑みと同様、力がない。
デュラハムの意図する事が分かり、ファムレイユは寸間考えるように眉を寄せたが、小さな吐息を漏らすとデュラハムの頬に己の頬を擦り寄せた。

その動きにデュラハムの口許に笑みが滲む。
ファムレイユに対し、心底申し訳ないと思っていたのは事実だ。
自分の身勝手であの場に引っ張り出し、要らぬ疑いを持った自分が情けない。

が、それとこれとは話が別。
誤解が解ければ、あとに残るのはただファムレイユが可愛いと、愛しいと言う想いだけ。
それと同時に首をもたげるのは、僅かな悪戯心。

そう言えば、と。ふと考えたデュラハムは、そろりと片手をファムレイユの背に回す。
我慢の利かぬ自分に苦笑するが、止められるならば最初から誤解を解こうなどと思いはしない。

背で結い上げている形のドレスの組紐が手に触れる。
僅かに晒された首筋から腰までをゆっくりと撫でながら、デュラハムは徐々に組紐を解いて行く。

頬を擦り寄せたファムレイユが気付いた頃には、ドレスは完全に緩められ、淡いブルーは二人の間でするりとずれた。

「! たい…んっ!」

抗議の声を上げようとしたファムレイユの唇を塞ぎ、デュラハムは更にファムレイユのドレスに手を掛ける。
優しくも執拗に、ファムレイユの甘い声ごと唇を味わいながら、ドレスを腰まで脱がせると、今度は太股に手を掛ける。

息つく暇もない甘い刺激に、ファムレイユは必死になってデュラハムにしがみつく。
止めて欲しいとは言えない。
罪滅ぼしと言えば大袈裟だが、多少なりとも負い目がある。それに何より、デュラハムの事を愛しいと自覚している。

それでも、残る理性は羞恥心を呼び起こし、無意識に微かな抵抗を試みる。
膝を割るデュラハムの手を押さえ付けようと、足に力が篭るが、デュラハムは難無くファムレイユの足の間に居場所を定める。
ドレスごと太股を撫でられ、ファムレイユの肌が震えた。

「……お前さん」

ドレスをたくし上げる手を止めたデュラハムが唇を離す。
二人の間で糸を引いた唾液がファムレイユの濡れた唇に落ち、ファムレイユは慌てて手の甲で拭う。
いつもなら、変わらず初々しい仕草だとからかうデュラハムだったが、今日ばかりは違った。

「反則…っ」
「え? あ、きゃっ!」

何かに耐え切れなくなった。
そんな強さを持ちながら呟かれた言葉に、意味が分からず眉を顰めたファムレイユだったが、デュラハムは体を起こすと強引にファムレイユの膝裏を持ち上げる。
絹擦れの音をたてファムレイユの腰にドレスが落ちるが、デュラハムはそれに目を遣る事もせずファムレイユの足に──正確には太股に目を向けた。

「ちょ…や、やだっ!」

漸く事の次第を察したファムレイユは、恥ずかしさの余り思わず両手を突き出すが、抵抗にもならぬ抵抗に気付き腕を抱く。
デュラハムは無遠慮な視線を其処に送ると、ニヤリと人の悪い笑みでファムレイユを見下ろした。

先程までの気落ちしていた男とは、同一人物だとは思えない底意地の悪さである。

「ガーターベルトなんて持ってたんだな」
「やっ、言うな馬鹿っ!」

顔を真っ赤にしたファムレイユがジタバタと足をバタつかせる。その弾みにヒールが脱げて、石造りの床へと明後日の方角へと飛んで行った。

太股までを覆う純白のタイツ。それを繋ぐように腰から続く同色の真っ白なベルト。細やかな細工の施されたガーターの下には、やはり純白の下着の姿。

常日頃、堅苦しい騎士団の制服姿が多いだけに、ドレス姿を見た時には感嘆の吐息を漏らしたデュラハムだったが。

──これはこれで…中々。

思考回路が親父臭いのは、今更言う間でもない。

「態々買ったのか?」
「ちがっ…ドレスに、付いて来てたからっ」
「で、ちゃんと着けたって訳か」
「っ…」

羞恥と怒りで耳までを真っ赤にしたファムレイユは言葉もない。
唇を噛み締め半ば本気で睨む眼差しすら、デュラハムの欲情を仰って仕方ない。

「やらしいな、コレ」
「卑猥ですよ、その顔!」
「何を今更」

バタバタと暴れる足を胸許に押し付け、下着の上から唇を押し付ける。
いつもより乱暴に、強く其処を吸い上げると、途端にファムレイユは喉を震わせ足の動きを止めた。

下着の上からでも分かる程、膨らみ潤った秘所に舌を押し付け、いつもよりも乱暴に其処を攻める。
ヒクヒクと腹部が震える度、溜ったドレスが揺れる。
デュラハムは指先で器用にタイツとガーターを繋ぐベルトを外すと、足から手を離して、ズボンのベルトを緩める。
その間も秘所に舌は這わせたままで、ファムレイユの足は力無くベッドへと落ちた。

肉棒を露わにしたデュラハムは、体を起こすとファムレイユの腰に手を掛けて引き寄せる。
勢いのままに下着を下ろすと、秘所から溢れた蜜が糸を引いていた。

「や、待…っ! デュ──」
「待てねぇ」
「ん、あぁっ! やぁぁっ!」

性急さに制止を掛けるファムレイユの言葉を遮って、デュラハムは躊躇いなく肉棒をファムレイユの胎内へと埋める。
退け反ったファムレイユの口から、甲高い喘ぎが漏れた。

「は、うぁ、ふああっ」

激しく腰を打ち付ける度、ファムレイユの喉が震え体が軋む。
快感と満たされた想いが渦を巻き、熱く甘い欲望がデュラハムの脳髄へと走る。
ビスチェの前をはだけさせると、窮屈な下着から解放された胸が動きに併せ揺れる。
其処に手を伸ばし、欲心のまま貪るようにして頂を口に含むと、一際激しくファムレイユの腰が跳ねた。

「んぁ、や…も、ああっ!」

果てのない何処かへと飛びそうになる意識を繋ぎ止めようと、ファムレイユの手がデュラハムの頭を掻き抱く。
デュラハムは思う存分胸を味わうと、顔を上げてファムレイユに口付けた。

「ふ…ん、んうぅ…っ!」

欲望の果てを誘う声が互いの唇の隙間から漏れる。

やがてその色も泣き声にも似た声へと代わり、デュラハムを包む快感が強くなり。
デュラハムは腰を引くと滞っていた欲望をファムレイユの秘所へと吐き出した。

毛布に包まったまま、ファムレイユはデュラハムに背を向けていた。
あれから立て続けに二回、事に及んだ結果はファムレイユにとっては、余り嬉しくない事態を招いていた。

久方ぶりの──これに関しては、八割がた自分のせいなので強くは言えないが──激しい情交は腰の痛みをもたらしているし、買ったばかりのドレスは体液に塗れてしまった。
今はもう夜着に着替えているのだが、粘ついた感触のせいで着替えるのも一苦労。
そして何故か、いたくガーターベルトを気に入ってしまったデュラハムが、外すのを拒んでしまったせいで、タイツやガーターにも白い液が染み付いていた。

「……機嫌直せって」
「知りませんっ」

すっぽりと体を包み込んだファムレイユは、これ以上指一本触れさせないとばかりにデュラハムの手を拒む。
隣に横たわったデュラハムは、取り付く島もないファムレイユの姿に、眉を下げて苦い笑みを浮かべるしか出来ない。

だが内心。
仕立て屋の親父に金弾まなきゃな、等と考えている辺り、反省の色は殆んど無いと言えよう。

「悪かったって。……今度は、ちゃんと脱がすからよ」
「……っ! 馬鹿っ!」

失言。
そう気付いた時には遅かった。
ファムレイユは毛布に頭まで包まって芋虫状態。
完全に機嫌を損ねてしまったファムレイユを見つめ、デュラハムは深い溜め息を吐いた。

こうなってしまっては、今はもう何を言っても無駄だろう。
諦め半分。それでも愛しさには敵わず、毛布の芋虫を抱き寄せたデュラハムは、疲労と半分に減った満足感の中、訪れた睡魔に目を閉じた。

だから。

「……そんなに好きなら、ガーターベルトと結婚でもすれば良いんだわ」

毛布の中でファムレイユが呟いた言葉など、デュラハムが知る由もなかった。






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