執事とメイドと若様と
シチュエーション


酒々井が唇を離すと粘度を伴った蜜が糸を引いた。体を起こした酒々井は口周りにまとわりつくそれを手の甲で拭う。
体全部で呼吸しようとしているかのように若葉は胸を大きく上下させて呼吸を繰り返している。
十七という年相応に普段はあどけない笑顔で酒々井を見上げる若葉だが、今ばかりは女の色香を交えて酒々井を見つめた。

「酒々井、さま……も、ください」

口唇と指での愛撫だけでは足りないと若葉は切なげに呻く。

「こんな……もう、や…です」

力なく小さく首を振る若葉を見下ろし、酒々井は彼女の髪を優しく撫でる。
今までに数回若葉は酒々井に裸体を晒したが、いつも若葉ばかりが達してしまい酒々井が若葉の前で乱れることはない。口唇と指での愛撫ばかりで熱い楔で貫かれたことは未だにないのだ。
それを若葉は切なく思い、いつも半分泣きながらねだる。

「……欲しいか?」

妥協とばかりに口唇での奉仕は許されていた。今日もそれで終わりなのだろうか、そんなのはもう嫌だと若葉は思う。

「ほしい、です……しすいさまぁ」

羽根が触れるように優しく酒々井の唇が若葉のこめかみや額、頬に口づけを落とす。
若葉は力の入らない手を一生懸命上げて酒々井の肩にしがみついた。

「抱いて、ください」

酒々井に向かって何かをねだるなど恐れ多いと常日頃から甘えることをしない若葉もこの時ばかりは必死にねだる。
欲しくて欲しくてたまらなかった。自分が欲しいと感じているのと同じだけ、若葉は酒々井にも求めて欲しかった。

「すき…すきです」

唇が重なり、若葉は自ら舌を絡めて懸命に口づけを深めていく。
酒々井は若葉の体を抱き起こし、膝に座らせて宥めるように背を撫でる。

「わかった」

唇が離れると酒々井はそう呟いた。

「だが、準備が必要だ。少し待て」

若葉を置いて、酒々井は立ち上がる。
寝台に残された若葉は切なげに酒々井を見上げる。

「すぐ戻る」

啄むような口づけを落として、酒々井は部屋から出ていってしまった。
若葉は不満たっぷりに溜め息を吐いて寝台に横たわる。肌触りのよいシーツを引き上げてそれにくるまると火照った体が冷やされて気持ちよかった。

(酒々井さまの意地悪)

くるまったシーツは酒々井の香りがする。酒々井はいつもここで休むのだ。そう思えば、こうしているのも悪くない気がする。

酒々井の部屋で寝台に横たわっていられるのは自分だけの特権だと若葉は信じていた。冷血漢だの鉄面皮だのと称される酒々井が実はとても優しい人だと知っているのは若葉だけ。それが若葉にとっての幸せなのだ。
気だるさと心地よさに眠気を覚え、うつらうつらしていると扉が開いて酒々井が現れた。

「若葉。手を」

上体を起こし、若葉は酒々井に両手を差し出す。
すると、酒々井は大きくて赤いリボンで若葉の両手を縛り始めた。肌触りのよい、絹のリボンが柔らかくけれどけして解けぬように若葉の手首を戒めた。

「あ、あの……」

若葉とて知らぬわけではない。世の中にはこういう類の性癖を持った人間もいる。とはいえ、酒々井にその気があるとは考えたこともなかった。

「嫌か?」

見上げる酒々井の顔には嫌ならやめると書いてある。やめるとは戒めばかりでなく行為すべてをやめるということだろう。
若葉はこくりと唾を飲み下す。

「大丈夫、です」

酒々井になら何をされても我慢できる。それに、耐えきれないほど嫌なことはきっと強いられたりしないはずだ。
軽く肩を押され、若葉は寝台に横たわる。

「宗一郎様」

扉に向かい、酒々井が声をかける。

「え?……坊ちゃま」

扉の開く音がする。
どくんと若葉の心臓が跳ねる。

「どうされました。お入りください」
「うん。酒々井、本当に大丈夫なのか?」
「ええ、宗一郎様が心配されることはありません。若葉も宗一郎様の役に立てるのであればと健気にも申しておりますので」

目の前で交わされる会話の意味が若葉にはわからない。正確にはわからないのでなく、脳が理解することを拒んでいる。

「酒々井、さま……?」

何が起こっているのかわからず、若葉は探るように酒々井を見上げる。しかし、酒々井の表情は常と変わらぬものであり、そこから感情を読みとることは不可能だ。

「宗一郎様に女を教えて差し上げようと思ってな。教材ではよくわからぬと申される。百聞は一見に如かずというだろう?」

つまり、酒々井は宗一郎の為に若葉の体を教材にしようというのだ。
若葉は怯えきった表情で酒々井を見つめた。いくら酒々井の頼みとはいえ、男を知らぬ若葉にはその役目を果たせというのは酷な話だ。

「心配せずとも宗一郎様にお前を抱かせはせんよ」

酒々井は安心させるように頭を撫でてくる。

「さあ、宗一郎様。お近くへ」

ぎしりと寝台が軋み、宗一郎が寝台の端にかけた。

横たわる若葉の肢体をまじまじと眺め、宗一郎は溜め息混じりに呟く。

「若葉、お前はきれいだね」

羞恥に肌を染め、若葉はきつく目を閉じた。

「よろしいですか、宗一郎様。まずは体の構造から」

淡々と語る酒々井の言葉に耳を傾け、宗一郎は時折質問を交えながら知識を深めていく。
学校の授業のようなやりとりを聞きながら、若葉は早く終わることだけを祈って目を閉じていた。

「さあ、じっくりご覧ください」

膝を掴まれて、大きく開かされる。

「ぁ……やっ」

反射的に開こうとした足は酒々井が支えていて動かすことができなかった。

「変な形だ」

宗一郎の声に若葉の肌がより赤く染まる。

「手本を見せましょう」

膝から手が離れ、ほっとしたのも束の間、酒々井の唇が太股に触れたのだ。

「やっ!ああっ」

そして、舌が秘裂を舐める。

「舐めてあげるの?」
「ええ。こうして受け入れる為の準備をします」

暫く見ているようにと酒々井は宗一郎に告げ、若葉への愛撫に専念する。
指で皮を剥き、露わになった陰核を舌でつつく。ねっとりと唾液を絡ませて、舐めたり啜ったりと刺激を繰り返す。
宗一郎の視線を感じる分、いつもよりも敏感に酒々井からの刺激を感じてしまう。

「あ、ん……ひ、いやっ…あッ」

羞恥と快楽の狭間で若葉は揺れる。恥ずかしくて死んでしまいそうなのに、もっと刺激が欲しいと思ってしまう。
はしたなくもだらだらと蜜を溢れさせ、若葉は酒々井からの愛撫を楽しんでしまっていた。

「ん……は、ぁ…あッ、ああっ」

若葉の性感帯を熟知している酒々井はあっという間に若葉を絶頂へと追いつめていく。しかし、酒々井は若葉が上り詰める手前で唇を離した。

「触れてみますか?」

唾を飲み下し、宗一郎は小さく頷いた。
酒々井の隣に腰を下ろし、若葉の秘裂に手を触れる。

「ぬるぬるしてる」
「男を受け入れる為には女はそうして潤っていなければなりません」

宗一郎の手に手を添え、酒々井は指で割れ目をなぞる。

「ここに穴があるのがおわかりになりますか?」

くちゅりと音を立て、宗一郎の指が中へと差し込まれた。
若葉の体が強張り、宗一郎の指を締め付ける。

「ここに男根を沈めて交わるのですよ」

ぱちぱちと瞬きを繰り返して宗一郎は己の指を飲み込んだ不可思議な女体を真剣に見つめた。

「熱くて、すごく窮屈だ。本当に入るの?」
「入りますよ。女の体は存外丈夫にできておりますから」

酒々井が親指で陰核を押しつぶすようにして触れる。

「ああッ!!」

びくびくと若葉の体が震え、宗一郎は興味深そうに酒々井の指の動きを追う。

「ここがいいの?」
「一番敏感な部分ですから」

酒々井が手を離すと宗一郎が拙い様子で若葉を愛撫する。指で秘裂をなぞり、蜜を絡めた指で陰核を撫でる。
酒々井の指ではないとわかっているのに、目を開けば酒々井の艶めいた瞳が若葉に向けられている。酒々井に見つめられているだけで若葉は感じてしまう自分を抑えることができない。

「すごい。どんどん溢れてくるよ」

宗一郎は夢中になって秘裂を弄る。濡れた音が響く度に若葉は嬌声をあげて仰け反った。

「若葉、欲しいか?」

耳元に顔を寄せ、酒々井が声低く囁く。

「しすい…さま……あ、んんっ……しすい、さま」

若葉は譫言のように呟いて酒々井の腕をぎゅっと掴む。
唇を重ね、酒々井は若葉の手に手を絡める。下唇を噛み、舌を差し入れて咥内を弄る。

「酒々井」

宗一郎に呼ばれ、酒々井は体を起こした。

「そろそろよいでしょう。宗一郎様」

秘裂から手を離し、宗一郎が僅かに身を引く。酒々井は若葉の足を大きく開かせてその間に膝をついた。

「酒々井のは僕のと少し違うね」

前をくつろげて酒々井が取り出した陰茎をまじまじと眺め、宗一郎が不思議そうに首を傾げた。

「宗一郎様も大人になればこうなります」

逞しく屹立した陰茎に手を添えて、秘裂へ擦りつけるように何度も動かす。

「このようにして蜜を絡めると挿入しやすくなります」

酒々井の陰茎が触れている。朦朧とした意識の中で、若葉はその感覚に意識を集中させた。この異常な状態を受け入れてしまえるほどに若葉は酒々井を愛している。

「あ……っ」

十分に潤っているとはいえ狭くきつい場所をかき分けて陰茎が中へと沈んでいく。
その強烈な違和感に若葉はぐっと唇を噛み締めた。

「大丈夫か?」

腰を押しつけて、すべて収まりきったことを伝えながら酒々井が若葉を気遣う。

「は、はい」

まるで中のものをなぞるように下腹部を撫でられ、若葉の内部が陰茎をきつく締め付ける。
若葉の表情を探るよう見下ろしていた酒々井は若葉の言葉に嘘がないと感じたのか、緩やかに馴染ませるよう腰を引いて再び収めることを繰り返す。

「ん、ふっ……あッ」

そうしながら酒々井は手を伸ばして、若葉の戒めを解いた。
膣壁を擦りあげ、奥を突き、酒々井は若葉の柔肉を味わう。時間をかけて準備を整えたせいか若葉が痛みを感じている様子はない。酒々井は僅かに安堵した表情を見せ、若葉の腰を引いて最奥を穿つ。

「あッ……や、だ…やッ……あ、ああッ」

唇に拳を当て、もう片方ではシーツを掴み、若葉は湧き上がる感覚を必死に逃がそうと試みている。夢にまで見た酒々井との交合は想像していたよりもずっと刺激的だった。

「気持ちいいのか、若葉」

常よりも心なしか熱を含んだ低温が若葉の名を呼ぶ。若葉は首を縦に幾度も振って、その問いに答えた。
酒々井は若葉の中を不規則に動き、敏感な場所を探る。浅く上部を擦りあげた時、若葉の体が強張った。

「だ、だめ……あっ、あああッ」

心得たとばかりに酒々井は同じ動作を幾度となく繰り返す。頭を振って逃げ出そうとする若葉をやんわりと押さえつけ、酒々井は弱い部分を責め立てる。
ほどなくして若葉は背を仰け反らせて、陰茎を喰いちぎらんばかりに締め付けた。絶頂に達したのだ。

「ふっ…あ……は、ぁ」

酒々井は動きを止め、若葉の荒々しい息が整うよう体を撫でる。
そうしながら視線を脇に逸らして宗一郎の姿をとらえる。
食い入るようにこちらを見つめ、宗一郎は張り詰めて盛り上がった股間を両手で覆い隠している。
くすりと酒々井は小さく笑う。

「宗一郎様」

酒々井に呼びかけられ、宗一郎の体が小さく跳ねた。

「苦しいのでしたら若葉に奉仕させましょう」

射精を迎えていない陰茎は未だ隆々と聳える。それを若葉から引き抜き、酒々井は若葉を四つん這いにさせた。

「しす…さま……んッ」

腰を突き出すような形にさせ、酒々井は躊躇うことなく再び若葉を貫いた。

「さあ、宗一郎様。若葉の前に」

のろのろした動作で宗一郎は若葉の前に座り込む。

「若葉」

ゆるりと腰を引き、同じ速度で押しつける。
胡乱な目をした若葉は宗一郎の前をくつろげ、まだ若い陰茎を取り出した。

「あ、若葉……」

酒々井は緩やかに腰を揺らし続け、若葉は苦悶に顔を歪めながら宗一郎の陰茎に指を這わせた。
だらだら先走りを零すそれに舌を這わせ、おもむろに口に含む。苦みばしった味が咥内に広がったが、若葉は嫌悪感よりも興奮を覚えた。

「うあっ」

初めての感覚に宗一郎が呻く。ともすれば早々に射精してしまいそうなほどに宗一郎は高ぶっている。
酒々井が突き上げる振動が若葉を通して宗一郎に伝わる。咥内の熱さと相まって、まるで自身が若葉を犯しているように宗一郎に錯覚させる。
技巧も何もない。若葉はくわえて扱いているだけだ。けれど宗一郎の性感は徐々に高まり、激しい尿意に似た感覚が全身を支配する。
出したい──若葉の口中に滾った熱をすべて吐き出してしまいたい。汚してしまいたい。宗一郎はもうそれしか考えられなくなる。

「若葉ッ、う…く、ああッ」

ふつりと糸が切れるように限界は突然だ。
咥内に吐き出された白濁を飲み下すことができず若葉は咳き込む。

「あッ!!あ、あっ…ん、はッ……ああッ」

宗一郎が腰を引いたのを確認次第酒々井の腰の動きが変わる。深く強く、腰ごと奥へ打ちつけていく。
口を閉じることもできず若葉は唾液を垂れ流しながらシーツを掴んで頭を振った。精液の染み込んだシーツからは青臭い香りが立ち上る。

「若葉…若葉……」

酒々井の声からも余裕はだいぶなくなっていることがうかがえる。
欲望のままに腰を振りたて、酒々井は頂点へと駆け上っていく。

「あ……あ、ああああッ」

若葉の腰を掴んで引きよせ、酒々井は一際強く打ち付ける。膣内の激しい収縮から若葉が絶頂に達したことを悟りつつ、酒々井は勢いよく若葉の中から陰茎を引き抜く。

「……ッ、はぁ」

抜き出してすぐに扱き、若葉の尻に白濁を散らした。
若葉が力なく寝台に倒れ伏すと酒々井は精液や唾液、涙で汚れた顔をシーツで拭ってやる。

「しすい、さま……」

既に意識はないようでぐったりしながらも若葉はか細い声で酒々井を呼んだ。
酒々井は応えるように若葉の頬に口づけて髪を撫でる。

「酒々井。終わった、のか?」

表情を引き締めて宗一郎に向き直り、酒々井は淡々と答える。

「ええ。本来ならば後戯に及ぶべきですが、如何せん若葉が限界ですから」

後戯とは何ぞやと宗一郎にこと細かに説明し、酒々井は満足げに息をつく。

「これは」

破瓜の血の混じった白濁を見て、宗一郎は首を傾げる。

「どうしてここに出したの?」

中に出したくないのかと宗一郎は問う。

「子ができますから、夫婦になるまでは我慢しなければなりません」

そういうものかと宗一郎が眉根を寄せる様を酒々井はほんの少しだけ困ったような顔で眺めた。

「宗一郎様。一つ忘れてはいけないことがあります」

きょとんとした顔の宗一郎に酒々井は微笑んで囁く。

「若葉を抱いてよいのは私だけです。実践されるときは他の女でお試し下さい」

滅多に見ることのできない微笑を前にしては、素直に頷くこと以外宗一郎にできようはずもなかった。
頷く宗一郎を確認し、酒々井は慈しみを込めて傍らに投げ出された若葉の手を優しく撫でてやるのだった。






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