シチュエーション
夕暮れ時も近づく中僕ことリュート・フェルト・ウェルスは執務室において簡単な雑務に励んでいた。 「リューくん、まとめるのは出来たから確認してよ」 「あっ、うん。わかったよ」 「それで最後だから、がんばってねリューくん」 「あっ、うん。がんばるよ、って……」 「どうかしたのリューくん?」 「さっきから僕を『リューくん』って呼んでいるように聞こえるんだけど」 「うん、呼んでいるけど、どうかしたのリューくん?」 僕の目の前で彼女ティースハ・マナフィスは悪びれる様子も無く心から不思議そうな顔を僕に向けた。 「ねえティア、ここはどこで何処で僕達は何をしてるんだっけ?」 「ここはお城の中の執務室の一つで、リューくんは農作物の収穫量の確認で私はそのお手伝い」 「そうだよね。だったら僕が次に何を言いたいかわかるよね」 「お城の中では『リューくん』って呼ばないで、でしょ」 ティアは背中まで伸びた金色の髪を揺らし、僅かに微笑みながら僕が望む正確な 回答を告げると表情を隠すように俯きながら言葉を続ける。 「でもね、リューくんは『二人きりの時は小さい時の呼び方で呼んで欲しい』って言ったよね。 その後……初めてで痛くて泣き叫ぶ私に優しくしてくれて……いっぱい幸せにしてくれたよね」 顔を覗き込もうとするも彼女は背中を向けてしまっていたためそれは適わなかった。 「…………リュート・フェルト・ウェルス王従兄弟殿下。殿下はあの時ご自身の口から私、ティースハ・マナフィスを 好んでいると仰り、私も幼少の頃より殿下の事をずっとお慕いしておりますと申しそして……契りを交わし……」 「ティア……」 僕は彼女の肩に手を回し背中から抱きしめ、右の手を頬へと運ぶ。 指先で目元を撫で濡れていないかを確認してからティアの温かく柔らかい頬を軽く抓る。 「いたっ!ちょっと何するのリューくん」 「それは僕の台詞」 「私の頬を抓ったんだからそれぐらい、いいじゃない。せっかくいい所だったのにさ」 「なんであんなことを言い出したの?しかも、わざわざ人前でも使わないような丁寧な言葉遣いで」 「ひどいな、人前でも使わないようなって。いくらリューくんの言葉でも傷つくよ。 それとも、リューくんもお父様と同じように宰相家に属する元として相応しい言葉遣いとかって言い出すの」 最後の方を呟くように言った彼女の顔は先程以上に曇りが見えた。 「そんなつもりは無いし……」 「あはは……隙ありっ!」 「いた、いたぃって……」 「リューくんはもう少し用心深くなった方が良いかな」 僕が戸窓った少しの間にティアの両手が僕の両頬を掴んだまま一回転する。 「まったく、ティアは……っと!」 「私は?何かなリューくん?」 「可愛い」 飛びつくように抱きついて来た彼女に言おうとした事より思った言葉が漏れてしまう。 「えへへ、嬉しいよ。ねえリューくん暫くこのままでいても良い?」 「うん」 「ありがとう。やっぱり、あったかいなリューくんの身体」 その後、僕とティアは互いに満足するまで抱擁を交わし続けた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |