名探偵と助手(非エロ)
シチュエーション


「やだ!先生ったら服脱ぎっぱなしなんだから」

八階建てビルの三階に位置する探偵事務所では今日も今日とてくたびれた格好の男性とブレザー姿の女子高生が戯れている。

「ん?ああ、だからさ、僕の部屋に勝手に入るの禁止だって」

がさりと新聞をおろすとぼさぼさの頭が現れる。男は面倒くさそうに少女に顔を向けた。

「そんなこと言われたって。ほっといたら異臭騒ぎ起こしかねないでしょ、先生。カビ生えますからね、カビっ!」

シャツやら靴下やらを放り込んだカゴを抱え、少女は頬を膨らませる。彼女の背後の扉が開いていることから、扉の先が男の私室であることがわかる。自宅兼事務所だ。

「そんなだから依頼人が全ッ然来ないんですよ」

男は懐から煙草を取り出し、ポケットをごそごそとあさる。

「君が来るまではここまで閑古鳥鳴いてなかったけどね」

ライターを探り当て、彼は煙草に火をつけた。一口吸い、吐き出す。

「やっぱりご近所さんから怪しまれてるんだよ。女子高生連れ込んでいかがわしいってさ」

少女を非難するように男は深々と溜め息を吐く。

「そんなこと言われても、私、辞めませんから」

カゴを握る手に僅かばかり力を込めて、少女はぎゅっと唇を噛む。
少女が探偵事務所に助手(自称)として通うようになって早三ヶ月。男は何も言わずに少女を側に置いてくれた。

「い、今さら出ていけなんて……」

はっきりと面と向かって拒絶されたら、少女がどんなに拒んだところで出ていかざるを得ないことはわかっている。だからこそ、今の男の態度は少女を深く不安にさせる。

「なんてね」

さも楽しげに男は口角を上げた。

「本当は年がら年中こんな感じ」
「せ、先生っ!!」

からかわれたのだと知るなり、ほっとするやら腹立たしいやらで体中から力が抜ける。

「もう!そうだと思ったんです。先生のやる気のなさが閑古鳥の原因なんですから」

それでも、精いっぱい虚勢を張って仕返しとばかりに早口に責め立てる。

「……でも、ご近所さんから怪しまれてるのはまるきり嘘ってわけじゃないかも」

ぽつりと男が呟いた台詞は聞こえない振りをして。






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