プロボーズに必要なもの
シチュエーション


プロボーズに必要なものといえば何だ。
いや、そもそも女性が喜ぶものが分からない。
こんなことなら若い時に一度ぐらいは合コンでも行っておくべきだったか……。

「……しょ、将軍?」

その声に男は思い出したように顔を上げた。目の前には軍属についたばかりの若者が今にも泣き出しそうな顔でこちらの気配を窺っていた。
……どうしたというのだ、頼んでいた書類は自分の望んでいた成果を高らかに謳っていたというのに。
とりあえず下がる許可を与えると、部下は一目散に部屋を出て行ってしまった。

全く理由が分からず首をかしげていると、部屋のインターホンが鳴り、扉が開いた。

「将軍、一体、何をなさったのですか?彼が粗相でもしましたか?」

入ってきたのは男より十は年下のグレーの瞳が印象的な女性士官だった。彼女は男の主席副官であり、何より事務能力に長けた有能な部下だ。
そして、男が密かに恋焦がれる相手でもある。

「いや、何もしていない」
「将軍は普通の顔が不機嫌を通り越して怒っているように見えるんです。気をつけて下さい」

こうやって男を叱り付けることができるのは彼女ぐらいだ。その竹を割ったような性格が男は好きだった。聞けば血筋は名のある貴族らしいが、彼女は何の不満のない生き方を捨て、軍に入ったらしい。それも好感が持てた。
自分のように戦いしか知らない男など相手に相応しくないとは分かっていたが、それでも自分の気持ちに嘘が付けなくなってかなり経つ。
嫌われてはいないと思う。いつもの礼だと言って食事を誘えば、彼女は嬉しそうに付いてきてくれる。それなりに脈はあるはずだ、──多分。

ああでもないこうでもないと一人考え始めた上官に、有能な副官は顔に似合わず男の好きなココアを入れてやろうと部屋を出て行った。
まさか彼が自分のことで悩んでいるなど、彼女はその時になるまで全く思いもしなかった。






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