シチュエーション
シルヴァリアの私室に、足を踏み入れるのは初めてで、ミラルドは所在無さげにあちこちを見回した。 その様子に、シルヴァリアは笑みを深くし、ソファに腰を下ろすと、ミラルドを手招いた。 「そう固くなるな。何も、取って食おうと言う訳ではない」 本人は安心させる為なのだろうが、時刻は日付を回る頃。 しかも、いつもの騎士団の制服ではなく、私服に着替えた相手を前にして、不安になるなと言う方が無理がある。 「ミラルド」 名前を呼ぶシルヴァリアは、穏やかな表情のまま、こちらの様子を伺っている。 寸間、ミラルドは躊躇ったが、やがておずおずとシルヴァリアの前に歩み出た。 近付いたミラルドの手を取り、シルヴァリアが引き寄せる。 向かい合わせに抱きつく格好になったミラルドを、シルヴァリアは軽々と持ち上げると、自分の膝を跨らせるように座らせた。 「まさかさっきの今で……」 互いに想いを告げたのが数刻前。 あの後、微妙にぎこちなくなった二人の間に、副隊長補佐のデールが現れなければ、どうなっていたのか想像もつかない。 シルヴァリアはミラルドの腰に両腕を回し、少し困ったように眉を下げた。 「善は急げと言うだろう」 「意味が違います、ハリス様!」 珍しく冗談めかすシルヴァリアに、思わず声を荒げたが、シルヴァリアはクツクツと笑いながら、ミラルドに顔を寄せた。 「俺は心配症なんだ、ミラルド。だから──」 「ひゃっ!」 かぷりと、ミラルドの耳にシルヴァリアが噛みつく。 突然の事にたじろいだミラルドだが、シルヴァリアの舌はゆっくりとミラルドの耳を沿う。 「さっきの事が夢でない証が、早く欲しい」 ちろちろと這う舌先と、耳元で囁かれる低い声音に、ミラルドは目を閉じてシルヴァリアの首にすがりつく。 腰に回された両の手が優しく背を撫で、それが一層ミラルドの吐息を熱くする。 「あなたが誰の物にもならないのならば……俺の物にして構わんだろう?」 唇を滑らせ、シルヴァリアの舌がミラルドの顎を捕える。 薄く目を開けたミラルドの視界に、上目使いで見つめるシルヴァリアの顔が写り、ミラルドは唇を噛んだ。 「まさか、自分がこれほど独占欲の強い男とは、思わなかったがな」 顔を離したシルヴァリアが目を細める。 僅かに刻まれた眉間の皺に気付き、ミラルドは不思議と穏やかな心持ちになり、シルヴァリアの頬を両手で挟んだ。 「そんな顔をなさらないで下さい。誰も嫌だとは言ってないじゃないですか」 恋ではなく愛。 求めるのではなく、与えることが喜び。 ミラルドはゆっくりと顔を寄せると、何事かを言い掛けたシルヴァリアの唇を自分のそれで塞いだ。 自ら舌を差し出し、シルヴァリアの口内へと滑り込ませる。 途端、舌を絡められ、ミラルドは小さく呻いた。 熱い舌がミラルドのそれを捕え、吸い付かれる。 遡るようにしてシルヴァリアの舌が這い、ミラルドの口内へと潜り込むと、余す所なく舐め回される。 かと思うと、下唇を噛まれちゅうと音をたてて吸い上げられた。 シルヴァリアの片手は何かを確かめるようにミラルドの背を撫で、もう片手はするりと足の上を滑っていく。 僅かな衣擦れの音と共にワンピースの裾がたくし上げられたが、抗議の声はシルヴァリアの口の中へと吸い込まれる。 ごつごつと骨張った手が足をなぞり、そのゆったりとした動きに震える背筋を、やはり男らしい手が優しく撫でる。 シルヴァリアらしからぬ執拗なまでに長い口付けと、シルヴァリアの人柄そのままの愛撫に、ミラルドは頭の中がぼんやりと白くなっていくのを感じたが、そのどちらもが嬉しくて、ひたすらに甘い感触に酔い知れた。 やがてシルヴァリアが顔を離す。 二人の間で透明な糸がつぅと伝い、ぽたりと落ちた時にはもう、ミラルドは完全に息が上がっていた。 瞼を押し上げると、僅かにぼやけた視界の向こうで、何処か苦しそうなシルヴァリアの表情が映る。 何かやらかしたかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。 シルヴァリアの手は、変わらずミラルドの体に甘い刺激を与えているし、よくよく見ればシルヴァリアの頬も朱に染まっている。 「……ハリス様?」 掠れた声で名前を呼ぶと、シルヴァリアは少し困ったように微笑んで、二人の隙間を埋めるように、強くミラルドを抱き締めた。 「どうされました?」 ミラルドの髪に顔を埋め、シルヴァリアは大きく息を吐く。 その吐息が酷く熱く思えて、ミラルドは知らず首筋に回した手に力を込めた。 「……さっきの言葉を、訂正しなければならん」 背中を撫でる手が心地良い。 うっとりと目を閉じながら、シルヴァリアの言葉を耳に入れていると、シルヴァリアはミラルドの耳元に口を寄せて、申し訳なさそうに呟いた。 「取って食いはしないと言ったが……そんな余裕もなくなりそうだ」 何処までも律儀な人柄に、ミラルドの口許が綻びを見せる。 ただひたすら優しく背を撫でるシルヴァリアに、ミラルドは緩く首を左右に振ると、少し顔を離してシルヴァリアの顔を覗き込んだ。 「何を今更。私だって子どもじゃありませんよ? 部屋に呼ばれた時点で、十分に意味は理解出来ています」 まるで大きな子どもを相手にしているようだと、シルヴァリアの目を見つめながら思う。 シルヴァリアは、少しバツが悪そうに眉を顰めていたが、ミラルドの言葉に安心したか、ゆっくりと笑みを取り戻すと、くしゃりとミラルドの髪を撫でた。 「俺は、あなたのそう言う所に恋しているんだろうな」 照れも混じった穏やかな微笑みを浮かべながら、シルヴァリアの手が後頭部に伸びる。 するりと髪留めが外されて、癖のついた黒髪が、背に落ちた。 デイジーを象った銀細工の髪留めを視界の端に捕えると、ミラルドもにっこりと笑みを返す。 「私は、貴方のそう言う性格を愛しています」 「……そういう直球は、心臓に悪い」 素直な気持ちを言葉にしただけなのに、シルヴァリアは途端に拗ねた子どものように顔を赤くしそっぽを向く。 ゆらゆらと気恥ずかしさを著すように揺れる髪留めが、益々愛しさを募らせ、同時に可笑しくもあって、ミラルドは笑みを深めた。 しかしシルヴァリアは、手にした物をミラルドに渡すと、ミラルドの体に手を回し、ソファから立ち上がった。 「ハ、ハリス様!?」 「笑うあなたが悪い。いつまでも膝の上では、居心地も悪いだろう?」 切り替えの早さもシルヴァリアの美点。 そう離れていないベッドの上に優しく放り出され、ミラルドは反射的に両手の中の物を握り締めた。 そんなミラルドの両手を自分の手で包み、シルヴァリアが顔を寄せる。 ついばむような口付けを繰り返し、唇を舐める。 包み込まれた両手は、その形を確かめるように指が伝い、愛し気に摩られる。 髪留めを握り締めていた力は徐々に抜け、シルヴァリアの舌が再び口内に差し込まれると、ミラルドはそれを受け入れる事に集中した。 もしも媚薬があるとすれば、きっとこんな感じなのだろう。 甘く酔い知れるミラルドは、口付けを受けながらそう思う。 シルヴァリアの手が体を這い、前留めのボタンを一つ一つ外される。 絡められた舌はミラルドの熱を煽り、握り締めていた筈の髪留めは、気付けばシーツの上に落ちていた。 肩までを大きく開けられ、シルヴァリアの手が下着の上から胸に触れる。 豊かな乳房は、シルヴァリアの手には少し余るらしく、揉まれるたびに形を変える。 初めて与えられる刺激に、喉の奥から声が漏れたが、深い口付けのせいか、呻き声にしかならない。 ミラルドに馬乗りになる形で覆い被さったシルヴァリアは、舌を絡めながら両手でミラルドの柔らかさを確かめていく。 だが、一瞬唇が離れた瞬間。 「あっ…!」 大きな掌に擦られた頂に、今までにない甘い刺激を感じ、ミラルドは思わず声を上げた。 それまで、一度も聞いたことのない自分の声に、ミラルドは慌てて口を閉ざすが、見下ろすシルヴァリアは目を細め、とても嬉しそうに笑っている。 「や……ちょっと、待って──」 「待てん。俺を生殺しにするつもりか?」 呼吸を整える暇も与えられず、シルヴァリアの手が下着をたくし上げる。 固く尖った頂に指が触れ、ミラルドは再び声を上げた。 「あんっ、だめ…っ!」 「ならば、こちらの方が良いのか?」 くりくりと指先で頂をもてあそばれ、ミラルドの肩が小さく震える。 それに制止を掛けようとすると、シルヴァリアは意地悪く問掛けて、頂を口に含んだ。 「や、ああっ」 ちゅう、と音を立てて吸い付かれ、軽く歯を立てられる。 反対側の胸も、シルヴァリアの手で揉みしだかれ、頂は指でこねまわされた。 生暖かなねっとりとした舌は、少しざらついていて、それが触れるたびに体の奥が溶け出しそうになる。 強く吸い付かれれば、その刺激はぞくりと背筋を這上がり、頭の芯がぐらぐらと揺れる。 自分で自分を慰めたことはあるが、それよりも遥かに気持ち良い。 「あ、あぁ、やぁあ」 求めるままに遠慮のないシルヴァリアの動きは、ミラルドの全身を朱に染める。 中途半端に脱がされた服が邪魔をして、思うように動けなくてもどかしい。 「ハ、リスさまぁ…っ」 両腕を伸ばしてシルヴァリアの頭を掻き抱くと、両手で胸を寄せ指で摘んだ頂を交互に舌で柔躪していたシルヴァリアは、益々行為を激しくした。 胸に吸い付きながら、ずるりとワンピースを肩から引き抜く。 その動きに促されるように、少し体を浮かすと、ワンピースは足元までずらされて、シルヴァリアの手が直接肌に触れた。 腹を、腰を、太股を。ゆったりとした動きで撫で摩りながら、体のあちこちに唇を落とす。 時折痛いぐらいに吸い付かれると、日に晒す事の少ない箇所は、薄らと赤く充血した。 最後に残った下着の上を、シルヴァリアの指先が伝う。 恥丘からさらに下へ。 一瞬、敏感な突起に指が触れたが、ミラルドは唇を噛み締めただけで、何とか声を押し殺す。 いくら覚悟しているとはいえ、はしたない声を荒げるには、まだ理性が勝っている。 だが、さらに奥に指が触れた瞬間、その強がりはあっさりと砕かれた。 下着の奥から滲み出た蜜が、ぬちゃりと掠かな音を放つ。 その音は、本当に小さな物だったが、静かな室内ではやけに大きくミラルドの耳に届いた。 「凄いな。もうこんなに──」 「そ、れは…ハリス様が……っ」 感嘆の吐息を漏らすシルヴァリアに、恥ずかしさのあまりミラルドは両手で顔を覆ったが。 「嬉しいよ、ミラルド」 シルヴァリアは熱の篭った眼差しをミラルドに向けると、下着に手を掛け、一息に脱がせた。 「やだ、ハリス様!」 「あなたが嫌でも、俺はこうしたいんだ」 ミラルドの制止の言葉も聞かず、シルヴァリアは大きくミラルドの足を割り開く。 今まで、誰にも見せたことのない部分を晒していると思っただけで、ミラルドは恥ずかしさで死にそうになったが。それと同時に体の奥が溶けるような錯覚を感じ、とぷりと蜜が溢れるのを自覚した。 「いや……また……」 「あぁ、溢れているな。そんなに、気持ち良かったのか」 問掛けではなく、確認なのだろう。 独り言のように呟いたシルヴァリアは、ゆっくりと顔を近付けると、ミラルドの秘所に舌を伸ばす。 焦らすように秘肉を舐め、足の付け根にキスを降らせる。 それだけでミラルドは耐えきれなくなって、仔猫が親猫を求めるような切ない声を上げながら、体の奥からとろとろと蜜を溢れさせた。 「やぅ、や…あ、は、ハリ、ス、さまぁ」 周囲の蜜を舐め取っているのか、シルヴァリアの舌は思う所に刺激を与えてはくれない。 なのに、眼差しは酷く熱くて、ミラルドの反応を一つも逃さまいと、全身に向けられている。 その眼差しだけで蜜が溢れ出し、ミラルドは小さな子どものようにふるふると首を横に振った。 「や、だ…ハリス、さまぁ……もっと、いっぱい…っ」 恥ずかしいはずなのに、じらされ続けて、ミラルドの体は快感を欲して止まない。 口許を抑えながら、それでも耐えきれず漏らした言葉に、シルヴァリアは口許を弧にすると、蜜の溢れる秘所に舌を伸ばした。 「ひぅ、は、ああぁっ!」 ぴちゃぴちゃと蜜を舐めとる音がしたかと思うと、柔らく弾力のある物が、体の中へと侵入する感覚に、ミラルドは堪らず声を上げた。 胎内を掻き回され、指で肉芽を撫でられて、ミラルドの腰は逃げそうになったが、シルヴァリアの腕ががっちり掴んで離さない。 明らかに異質な温度のそれは、胎内を蠢いたかと思うと、秘所を上下に這い回り、肉芽を強く転がしていく。 気付けばシルヴァリアの腕は外されていたが、ミラルドはもう、されるがままで、刺激されるたびにビクビクと体を揺らした。 「や、は…あ、あぁっ、あぁぁっ!」 指で剥き出しにされた肉芽にシルヴァリアが吸い付く。 産まれて始めての快感は、ミラルドの理性を容易く破る。 もう、恥ずかしいとか、はしたないとか、そんな事を考える余裕もない。 「きも、ち…いいっ、ハリ、ス、さ──」 「シルヴァだ」 ちゅうちゅうと肉芽に吸い付いていたシルヴァリアが顔を上げる。 口の回りに付いた蜜を舌で舐めとりながら、シルヴァリアは衣服を脱ぎ捨てた。 「シルヴァ、と…呼んでくれ」 「は…、シル、ヴァ…様」 切な気な眼差しで見下ろされ、ミラルドは荒い呼吸の隙間から、途切れ途切れに名前を呼ぶ。 顔も、体も。爪先までもが熱くて堪らない。 なのに、名前を呼んだだけで、さらに熱が高まったような気がする。 「シルヴァ、さま……」 もう一度。今度はしっかりとシルヴァリアを見つめて、その名を呼ぶと、シルヴァリアは嬉しそうに破顔した。 「そう、シルヴァだ」 優しく囁きながら、シルヴァリアが秘所に手を伸ばし覆い被さる。 太く長い指がゆっくりと差し込まれ、ミラルドはビクリと肩を震わせ、シルヴァリアの首筋に腕を回してすがりついた。 「あ、あぁっ、シルヴァ様っ!」 「きついな……初めてか?」 解すように入り口を掻き回しながらシルヴァリアが問う。 ミラルドが小さく頷くと、シルヴァリアは更にゆったりと動きを緩めながら、ミラルドの頬に口付けた。 「俺もだ」 「え……」 目を見開くと、シルヴァリアの視線とかち合う。 少し困ったような微笑みで、シルヴァリアは口を開いた。 「俺も、女性を抱くのは初めてなんだ」 「や、で、でも…んっ! すごく…手慣れて、ます、シルヴァ様…っ」 くちゅくちゅと掻き回す指が、胎内へと侵入する。 異物感は馴れないが、肉壁を擦る動きは優しくて、気持ち良いと言えなくもない。 だがミラルドを気遣うシルヴァリアの動きは、初めてにしては余裕がある。 思わず正直な感想を口にすると、シルヴァリアは益々困ったように笑い、空いた方の手でミラルドを抱き寄せた。 「男は、良いところを見せたがる生き物なんだ。──正直、そんなに余裕もない」 その証と言わんばかりに、引き寄せられた体の間で、一際熱を放つ物を感じる。 硬く猛った肉棒を下着越しに感じて、ミラルドは目を丸くした。 「シ、ルヴァ…さま」 「だが、我慢強さなら自信はあるからな」 「んんっ!」 情事の最中にはふさわしくない、冗談めかした声で言いながら、シルヴァリアの指が更に奥へと滑り込む。 散々濡らされた胎内で、指はさほど抵抗もなく動き回り、痺れるようなうずきに、ミラルドは体を固くした。 「あなたを気遣うぐらいは、まだ出来る。──痛いか?」 「い、いえ……どちらかと言えば、気持ち、良い…です」 ゆっくりと抜き差しを繰り返す指に、ミラルドの熱は昂ぶりを見せる。 正直に答えると、シルヴァリアは指を増やして、再びゆっくりとミラルドの中へと埋め込んだ。 「ひゃ、あ、あっ!」 狭い入り口を掻き分けて、二本の指が入り込む。 より大きくなった異物感は痛みを伴い、ミラルドはシルヴァリアにすがりついた。 「あ…う、んん…っ」 抱きつくミラルドに、シルヴァリアは口付けを交す。 指の動きはそのままに、少しでも気をそらそうと、肉芽を転がしながら、口付けは徐々に深くなる。 一瞬の痛みはやがて甘い痺れとなり、交す口付けに、ミラルドは頭の芯がぼぉっとなった。 「う、ん…くっ、ふぅっ」 口許と下腹部とで起こる水音は、静かな室内に大きく響く。 やがてシルヴァリアは指を引き抜くと、唇を離して体を起こした。 ぼんやりと見つめるミラルドの前で、下着を脱ぎさり、ミラルドの足を大きく割り開く。 ぬちゃり、と蜜を絡めた肉棒が花弁の間を上下に擦り、ミラルドの体が小さく震えた。 「あ…それ……」 「気持ち良いのか?」 「……はい」 硬く熱い物で擦られるたび、言い様のない快感が背筋に走る。 思わず腰を浮かせれば、シルヴァリアはがっしりと腰を支え、更にぐちゅぐちゅと肉棒を擦り付けた。 「あ、あぁっ、や、あつ…っ、シルヴァ、さまの、熱いぃ…っ」 肉芽を突かれ、秘部全体を擦られて、ミラルドは甘く鳴き声を上げる。 知らず、シルヴァリアの動きに併せ腰が動き、更なる快感を得ようと、ミラルドは腰を押し付けた。 「ミラルド、もう…っ」 熱い吐息と共にシルヴァリアが呟いた瞬間。 「っ──!」 くぷり、と先端がミラルドの中へ埋め込まれた。 言葉にならない声を飲み込み、ミラルドは己の体を抱き締める。 充分過ぎるほどに潤ったとは言え、指とは比べ物にならない太さの物に、狭い入り口は悲鳴を上げる。 ぎゅっと体を硬くしたミラルドだが、ずるずると入り込む異物に、少しでも楽になろうと、深く息を吐き出す。 「っ……すまん、ミラルド」 大きく呼吸を繰り返す姿を見下ろして、シルヴァリアが申し訳なさそうに眉を顰める。 肉棒はまだ半分ほど入っただけなのに、酷く窮屈だったが、ミラルドは無理矢理笑みを浮かべると、小さく首を横に振った。 「平気、です。だい、じょうぶ…ですから」 叱られた子どものように、肩を落とすシルヴァリアに笑い掛け、ミラルドは両手を伸ばす。 いざとなれば女性の方が強いのか、などと、妙な事を考えながらシルヴァリアの手に自分の手を沿えると、シルヴァリアは指を絡めて手を握り返して来た。 「すまん」 痛みが顔に出ているのだろう。 謝罪の言葉を繰り返すシルヴァリアに、無言で首を振ったミラルドは、握り締めた手に力を込めた。 それが合図であったかのように、再びシルヴァリアが侵入する。 ミラルドが息を吐き出すのに併せ、ゆっくりと進められる動きは緩慢で、二人の体に汗が滲む。 やがて全てを飲み込むと、今度はゆっくりと引き抜かれる。 「くぅ、…あぁ、ぁっ!」 痛みを伴う熱に胎内を擦られて、ミラルドは声を上げた。 初めの方こそ余裕を見せていたシルヴァリアだが、二度三度と繰り返すうちに、動きは徐々に早くなって行った。 「あ、あぁっ、やあ…!」 酷い痛みは最初のうちで、何度か擦られていくうちに、その痛みすらもぼんやりと薄らいでいく。 与えられる熱の狭間に、ほんの時折痺れる甘さが、痛みを和らげているようだ。 「すまん、一度……っ」 粘ついた水音の隙間、小さくシルヴァリアの声が聞えたかと思うと、次の瞬間、膨らんだ熱が弾けて、ミラルドの体の奥に熱い塊が吐き出された。 「ひ、──あぁぁ……っ!」 どくどくと流れ込む熱に、大きく息を飲む。 体を硬くすれば、吐き出された物は行き場を失い、繋がった隙間から溢れ落ちる。 シルヴァリアは大きく肩で呼吸しながら、ミラルドに体重を預けるように覆い被さり、触れるだけの口付けを繰り返した。 胎内では、シルヴァリアの物がぴくぴくと震えている。 それを感じながら、ミラルドは汗の伝うシルヴァリアの頬を撫でたが。 「……シルヴァ…さま…?」 口付けの隙間から名前を呼ぶが、シルヴァリアは笑みを浮かべ、唇を重ねる。 今だ胎内に肉棒を埋めたままで、引き抜かれる様子はない。 「あの……」 もしかすると、とんでもなく恥ずかしい体勢なのではないだろうか。 戸惑いを隠せぬミラルドは、シルヴァリアの胸元を軽く押したが、その意図を察したらしいシルヴァリアは、ミラルドの両手を片手で掴むと、不意に体を起こした。 「今度は、あなたに満足してもらう番だ」 「え? あ、きゃっ!?」 繋がったまま、向かい合わせに座る形を取らされ、不安定さに思わず抱きつく。 シルヴァリアはミラルドの頭を固定すると、少し目を細めて、強引に口付けた。 「ふっ、うぅ…ん!」 舌を絡め、上顎を擦り、口の中を犯される。 馴れ始めたばかりの口付けは、麻薬のように全身に痺れをもたらし、ミラルドの体から力が抜けた。 「む、ふぅっ…ん、シル、ヴァ…っ」 髪を撫で、背中を伝うシルヴァリアの手に、ミラルドの中で小さくなっていた昂ぶりが、再び熱を取り戻す。 同時に、胎内で硬くなり始めた肉棒の感触に、ミラルドは思わず体をよじった。 「や……だ、だめっ」 痛みは平気なのだ。 それよりも、先程少しだけ感じた甘い刺激が怖くて、ミラルドはシルヴァリアから離れようとしたが、シルヴァリアの手はしっかりとミラルドを支えて離さない。 「大丈夫。怖くはない」 ミラルドの不安を感じとったか、耳元で優しく囁いて、シルヴァリアはズンと腰を持ち上げた。 「ぁああっ!」 最奥にぶつけられた衝撃は、びりびりと全身を走り、快感をもたらす。 繋がった隙間から、二人の体液が混じりあった物が流れ、そこを汚すが、シルヴァリアは気にする事なくミラルドの体を揺らし始めた。 「ひ、あ…あっ、あぁぁっ」 その形すらも記憶出来そうなほど、窮屈な胎内に埋め込まれた肉棒は、肉壁を擦り最奥を突く。 指先までも走り抜ける快感に、ミラルドの思考は切り放される。 口付けを求め、交し、シルヴァリアの体に自身を預ける。 先を求めるシルヴァリアに、全てを捧げながら、ミラルドは全身でシルヴァリアを求めた。 「は、あっ、シル、ヴァ、さまぁ…っ、シルヴァ…さま…っ!」 シルヴァリアの背に両腕を回し、突き上げられる動きに併せて体を揺する。 唇と言わず頬と言わず、無茶苦茶に口付けるミラルドに、シルヴァリアは唇を滑らせながら、その体を横たわらせた。 「ミラ、ルド…っ」 「あん、ああっ! いっ、あっ、いいの…気持ち、いい……っ!」 しっかりと抱き合いながら、不安のなくなったミラルドからは、甘い悲鳴が絶え間なく溢れる。 何度も互いの名を呼び、貪るように熱を求める。 初めは揺らすだけだった動きも、やがて大きな抽迭へと代わり、そのたびに結合部からは、淫猥な水音が響いた。 何度も突かれ、余す所なく胎内を擦られ、気持ち良さと充足感に涙が溢れる。 なのに、シルヴァリアが与える快感は気持ち良すぎて、身も心も溶けてなくなりそうで。 それが酷く恐ろしい。 「は、ぃやっ、シル、ヴァ、さまぁ! や、やあ…っ!」 思わず制止を掛けようとしたが、シルヴァリアはミラルドを抱き締め、涙を拭って口付けた。 「だい、じょうぶ。ミラルド……、大丈夫、だ」 少しでもミラルドの不安を拭おうとするシルヴァリアの声も、酷く掠れて余裕はない。 子どものようにしがみ付いたミラルドは、半分泣きじゃくりながら、シルヴァリアの名を呼んだ。 「シルヴァ、さまぁっ…シルヴァああ…っ!」 「ミラルド、くっ、あぁ…ミラル、ド──!」 ──愛しい人。 その一言を耳にした瞬間、ミラルドは、頭の芯が溶けて無くなる錯覚を覚え。 深く突き上げたシルヴァリアが、二度目の熱を吐き出すのを、不思議と遠く朧気に感じながら、自分を包み込むシルヴァリアの暖かさに全てを預けた。 少し眠っていたのだろう。 ミラルドが目を覚ますと、幸せそうに笑うシルヴァリアの顔が横にあった。 「あ……」 「大丈夫か、ミラルド。辛いところは?」 「い……いえ……」 ミラルドの黒髪を指に絡めて遊びながら、シルヴァリアが問う。 流石に、もう繋がってはいないが、裸のまま布団一枚を掛けただけの姿は、恥ずかしさを呼び起こす。 もぞ、と布団に潜り込もうとしたミラルドだったが、シルヴァリアの腕が回されていて、自然と引っ付く形になるしかない。 「あの……私、どれくらい…」 「ほんの半刻ほどだが……すまん。俺も手加減出来なかった」 もしかして、謝るのが口癖なのではないだろうか。 何と無くそんな事を考えて、ミラルドはシルヴァリアの胸に頭を預けた。 よくよく考えれば、あれほどの情交の後なのに、大した気持ち悪さを感じない。 シルヴァリアに尋ねるのも恥ずかしいが、聞けばあっさりと事後処理をしたと言われ、ミラルドは恥ずかしさと申し訳なさで顔を真っ赤にした。 「も、申し訳ありません!」 「いや。──それよりも」 心地良い一時を作り出すのは難しい。 まともに顔を上げられないミラルドだったが、シルヴァリアの声に恐る恐る顔を上げると。 シルヴァリアは、こちらも顔を真っ赤にして、真剣な表情でミラルドを見つめていた。 「もし……あなたが嫌でなければ、なんだが」 「……は、はい」 言い淀む姿は、何処かで見た覚えがある。 事に及ぶ前と──今年の始め。 真っ直ぐに気持ちをぶつける時、シルヴァリアはいつも真っ直ぐにこちらを見ていた。 顔が赤いのは、きっと、とんでもなく恥ずかしいから……なのだろう。 「また、さっきの今で…と思われるかも知れんのだが」 「はい」 「…………結婚、してはくれんか」 いったい何を言われたのだろうと、言われた意味を理解するのに精一杯な自分がいる。その一方で、本当に言葉が出なくなる事があるのだと、妙に冷静に考えたミラルドは、目を丸くしてシルヴァリアを見つめ返した。 「もし、子どもが出来ていたら……勿論、責任を追うつもりであなたを抱いたが! やはり、こういう事はきちんと順を追うべき、と言うか……」 しどろもどろになりながら、シルヴァリアが視線を外す。 徐々に思考が回復したミラルドは、思わず小さな笑いを漏らした。 「だから、いつとは言わんが──」 「私で良いのですか?」 「あなたが、良いのだ。俺は!」 わざとからかうように問掛けると、シルヴァリアは焦ったように声を荒げる。 余りに必死なその姿に、ミラルドはもう絶えきれなくなって、くすくすと笑いを溢した。 笑われたシルヴァリアはと言うと、まるで睨むような眼差しでこちらを見下ろしているが、それすらも、今のミラルドにしてみれば、愛しさを募らせるだけで。 「……私で良ければ」 小さく頷くと、拍子抜けしたように呆けた表情を見せたシルヴァリアに、ミラルドはにっこりと笑い掛けた。 二週間後。 今まで女気一つなかった赤河隊副隊長が、側仕えの侍女と、文字通り電撃的な素早さで結婚式を上げ。 その十ヶ月後、二人の間に可愛らしい男児が誕生したが。 それはまた、別の話である。 「あの時、先にプロポーズをすれば良いのに、と思いましたけど」 「は、はぁ……」 ハリス邸の一角。 日の当たるサロンで、二人の成れ染めを聞いていたファムレイユは、歯に衣着せぬハリス夫人の言葉に、苦い笑みを浮かべた。 「で、でも、結果的には良かったんじゃないですか? その……当たり、だった訳ですし」 こんな事を言って良い物かどうか。口にしてから後悔したが、ハリス夫人は、にこりと笑み浮かべて、お茶を飲んだ。 「ええ。後悔など、これっぽっちもしていませんよ。二十三年たった今でも、毎日が驚きと幸せの連続です」 年を経ても、相応の魅力を持つ人間はいる物で。 同じ女性ながら、その美しさに、ファムレイユは感嘆の吐息を漏らした。 「だからあなたも、後悔しない結婚をなさい。彼が相手では、少し手は掛るでしょうけれど」 「お、奥様っ!!」 暗に誰の事を示しているのか。心当たりのあるファムレイユは、慌てて相手の言葉を遮った。 それと同時に部屋の扉が開かれて、屋敷の主人と一緒になって姿を現したのは、噂の主その人だった。 「あら、お話はもうお済みですか?」 「あぁ、これから少し外へ出て来る」 「では私も──」 「や、お前さんは良いわ。大した用事じゃねぇし、すぐに戻る」 ハリス夫人の問掛けに、主人は小さく頷く。 直属の上司が出るならば、自分も共に向かわねばならないと、ファムレイユは席を立ったが、それを制したのは噂の男だった。 「それに、一応休みだろ? 折角だ、今夜の晩飯の手伝いでもしとけ」 「おい、デュラハム?」 「上司命令。今日はお前さんちで、晩飯だ。俺とこいつの分も頼むな」 眉を顰めた主人に、男はニヤリと人の悪い笑みを寄越し、ハリス夫人に片手を掲げて拝む。 呆れ顔の主人とは対照的に、ハリス夫人は笑って頷き、いまだ渋る主人を促して二人を送り出した。 ファムレイユはと言うと、その遣り取りに呆気に取られているだけだ。 「……申し訳ありません、奥様」 「良いのよ。いつもの事ですもの」 快活なハリス夫人に掛っては、男も掌の上の猿も同然らしく。 少しだけ「この性格は見習うべきか」と、ファムレイユは小さな溜め息を漏らした。 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