痛いでしょう(非エロ)
シチュエーション


【あらすじ】
元スケ番の水上優子は風紀委員会にはめられて退学になりそうになった所を、
成績優秀容姿端麗運動神経抜群の財閥御曹司で生徒会長というマンガスペックの同級生、
高野道隆に助けられて、その人物像の中に勘違いから男気を見出し、舎弟になると誓う。
舎弟になった暁には高野のためならいざ鎌倉と馳せ参じる覚悟であるといい、
生徒会の役員にも立候補したりと、水上は高野に懐いて付きまとうが、
いつも問題を起こしてばかりなので高野は絶えずイライラを募らせている。


午後の授業に見なかったその顔を放課後の生徒会室に見つけて高野道隆は軽く肩をすくめた。
明らかに不審な挙動でこちらのの様子を伺いながら部屋の隅から高野を見ている。
それでいて近寄ってくるわけではない。
ばれたくないのならわざわざこの部屋に来なければいいのに、
水上優子はそれでも毎日ここにやってくるのだ。
頭が悪いことこの上無い。
高野は思い切りいい笑顔をつくるとやんわりと水上に話しかけた。

「水上さん」
「は、はい!」

びくりと水上はあからさまなまでにうろたえた。本当に、不可解な女だ。

「顔、誰にやられたんですか?」
「あ、はい、ちょっとその…誰にやられたのかよくわかりません!それに多分ちゃんと三倍で返したし…」
「そういう問題じゃない。あんた午後どこ行ってきたんですか」
「ちょっとその、野暮用で…」
「授業をさぼってまでやらなければならない野暮用とは?」
「えーと」

真っ青な顔で必死に言葉を探す水上。この高野道隆を論破できるなどとよもや考えていないだろうが、それにしても幼稚だ。
高野はじりじりと水上に詰め寄る。水上は壁際で逃れようがない。

「立場ってものをわきまえて貰わないと困りますよ。あんたこの生徒会の書記でしょう」
「はいっ!すみませんでしたぁ!」

びくりと肩を震わせて背筋を伸ばし謝る姿にはため息もこぼれようというもの。
大体このやり取り、最近週に一度はやっている。

「反省だけなら猿だってできますよ!このっ……ゴリラ女」
「すみません、ほんっとーにすみません!もうしません!」
「何度目だ、そのセリフ。もう呆れてかける言葉もない」
「すみません、本当に本当にすみません。今度こそ、絶対に今度こそ二度としません!」
「俺は信じて裏切られるのは、嫌いなんですよ。いいかげん解任…」
「ごめんなさい!本当にごめんなさいぃ!」

ああ畜生まただ。
水上優子はぶん殴られて赤く腫れたぶっさいくな顔をぐしゃぐしゃにして、ほぼ八割方泣いている。

「……あのねぇ……ちょっと……あーもう。あんたみっともないでしょう」

使い物にならなくなりそうでもったいないが、目の前でぐずぐす泣かれているのも嫌なものだ。
高野はハンカチを水上に差し出した。

「生徒会に居たいんでしょう?」
「……はぃ。ぐすっ」
「なら我慢くらいしなさいって」
「うっ……うぇえ」
「今度は何です?果たし合い挑まれたんですか?後輩の尻拭いですか?」
「だ、だって……」

「だってなんです?」

聞き返すと黙り込んでしまう。もういい加減彼女の行動のパターンというものを把握出来始めている。
こういう時は大抵――

「我が校の生徒会長にどんな用事であれ、用事のある方々であれば、きちんと私に取り次いで頂かなくては俺が困るんですが」
「ち、ちがっ」

顔面蒼白だ。馬鹿のくせにこういうことばかり気にして事態を複雑にする。

「違わないでしょうが。その様子からして派手にやったようですね。どうせすぐにわかることです。喋って楽になりなさい楽に」
「違うったら!ちょっと喧嘩売られて……それで」
「私事ですか、仕方ない。それではあなた解任し…」
「…っ!」

こうしていじめ続けるのが楽しくないわけではないあたり、
高野自身も自分の性格が悪いと思うが、差し当たって今回は彼女が悪い。
完全に彼女が悪い。悪いのだが、

「……見事に、腫れましたね。医務室には行きましたか?」

水上の顎に手をやって無理矢理上を向かせると、そのブサイク極まりない顔がよく見える。
ただでさえ殴られた左頬が腫れ上がり醜いのに、べそべそ泣くものだから見られたものではない。

「酷い顔だ。自覚はありますか?」
「これくらい、平気です」
「平気ってねえ、あんた」
「高野さんをお助けするためならこんなの蚊に刺された程度のもんです!」

正真正銘の馬鹿めっ!
言ってしまってからこの馬鹿、気がついたらしい。
水上優子は突然慌てて前言を撤回しようとした。

「や、これは例えばの話でしてね、あの、高野さん!?」
「……これ以上自分の墓穴を掘ってるんじゃないですよ。俺はあんたの馬鹿さ加減には呆れるの通り越して泣きそうです」

事実、頭痛がしてきた。

「水上優子、あんた。土下座してまでやりたいって言うから生徒会に置いてやれば失敗ばかりだし、書記の癖に漢字は間違えるし、何かといえば乱闘騒ぎ、わかってますよね?俺が怒る理由は」
「お怒りは……ごもっともです」
「この上俺の面子まで潰されちゃたまったものではない。……俺があんたの汚い面を盾にしているなんて、冗談でも言われたくないんですよ」
「はい……ごめんなさい」

相手が萎縮すればするほどフラストレーションがたまる。
別に高野は三歩歩けば何でも忘れる水上に反省など期待しない。
だがイライラする。すみません、もうやりませんと言いながら、また同じ問題が起きたら同じ行動をするだろう水上が憎たらしい。

殴られて顔を腫らすくらいで済んでいるうちはまだいい方だろう。
それ以上の何かがあっても、水上は高野のために突っ込んでいくのだろうから。
馬鹿は死んでも治るまいから、治そうなどとは思わないが、ちょっと調教してやらないことには高野の精神が安まらない。

「他に怪我はありませんか?」
「え、それはこれといって…えっ!?」

水上の制服のネクタイをグッと引っ張る。そのまま壁に体を押し付けてボタンを外す。

「高野さっ…何を!」
「黙ってろ。あんた嘘をつきますからね。実際見てみなきゃわかりやしない」
「嘘って…」

シャツの裾をスカートから引っ張り出しキャミソールごとまくりあげる。
案の定白い水上の横腹には青黒い大きな痣があった。
指先でなで上げるとひゃんとかなんとか、間抜けな声があがる。

「嘘つきが。蹴られましたね」
「だって……平気……うっ!」

グイッと痣を押すと呻き声があがる。

「痛いですか?」

返事はない。

「痛いんじゃないですか?さあはっきり言え」
「痛いです、痛いっ!」
「よく言えましたって誉めてあげましょう、とりあえずは」

笑いながら水上の首筋に顔を寄せる。汗臭い。そしてその首を舐める。

「きゃっ…やっいやっ」
「静かにしなさい、いちいちうるさい」

首筋を舐めながら徐々に下方に移動する。水上が高野を押しのけようと肩を掴んでいる手に力がこもってゆく。

(このまま最後までしてしまおうか)

そんな考えが頭をかすめた。しかし、

「……ひっ……ふっくっ……ぅうっ……ぐすっ」
「………」

急にどうにもやる気がなくなって、いつの間にか床に落ちていたハンカチを拾い上げると、高野はそれでしゃっくりあげる水上の顔を拭いた。

「高野さん……もうしないから、だからごめんなさい」
「子どもじゃないんですからもう少しマシな謝り方したらどうですか」
「…ずっと………考えてるんだけど、私やっぱり、馬鹿、なんでしょうか……」
「今更何言ってるんですか。あんた馬鹿意外の何者でもないでしょう。学習能力も思考能力もない見事な低脳、役立たず」
「はぁ……」
「別に無理にあんたに頼ろうなんて俺は全く考えてないし、あんたにやってもらえることもない。

俺を気に入らないやつらの処理対応だってあんたの力付くに任せるくらいなら俺がやった方がうまくいく。
あんたになんにも頼んでない。でしょう?水上さん」
水上は黙ってうなずいた。

「もう止めてください。こういうこと」

もう一度うなずいた。

「それから人と話しているときに泣くのはよしなさい。……不愉快です」

再びうなずいた。
わかればいいのだ。彼女が理解して行動に示してくれればそれでいい。
それでいいはずなのに、高野のイライラはまだ収まらない。
うなだれる水上を見ていると異常な加虐心がかまくびをもたげる。

水上は馬鹿だ。
救いようがない馬鹿だ。
かつて高野が水上を助けたのはことの成り行きとちょっとの気まぐれが理由に過ぎない。
しかし彼女はそれに異常な恩義を感じて道隆に心酔している。
ずっと欺かれていたと知ったら、どうするのだろう。
それを知った時に高野が全てを奪っていたとしたら、この大馬鹿はどうするのだろう。
殴られて鼻血を吹き出しても泣かないが、高野の一言でボロボロに泣き崩れる水上が。

(これはやはり、)
(どう考えてみても)

高野は水上を愛してしまっているようだ。

(困った)

あんな馬鹿を相手にしていたら、高野はおかしくなってしまう。その結論だけは断固抗議をしたい。
だがしかし、
そう考えないことには高野の苛立ちの奥にある小さな痛みに説明をつけられないのであった。






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