宗次郎と沙知
シチュエーション


―――酒精が入っていた為に、はっきりしない。
言い訳をするならば、ただそれだけだ。
また成熟するには早く、萌え出でたばかりの蕾。自分はそれを手折ってしまったのか?
また青く、まだ堅く、閉じる萼を一枚一枚むしり取り。色付くにはまだ早い、その花弁を押し広げて。
アレは自分の妄想だったのか。
彼女の態度が違うのなら判断のしようもあるのに。
まるで何もなかったのように接してくる彼女。或いは本当に何もなかったのか。
一体……―――。

宗次郎は微睡みから醒め、その身を文机から起き上がらせた。
春も最中。
風もなく、ガラス越しに暖かく差し込む日差しは、上に一枚羽織っていなくても寒さを感じるほどではなかった。
はっきりとはしないままの眼差しで、そのまま外を見やる。
そこには余り背が高くないために、物干し竿を使い、苦心しながら洗濯物を干す少女の姿がある。

(沙知……)

それがその少女の名だった。
宋次郎は父が亡くなったのを契機に家を出、母が残したこの場所へとやって来たのだが。
どういう訳か屋敷を出たにも拘わらず、あの侍女は宋次郎に付いてきた。

「お前はあの家、あの屋敷に雇われているのだから、早く帰りなさい」

その言葉も、

「ですが宗次様お一人では、家事仕事がお出来に成らないじゃありませんか」

その様に言い返されては返答のしようもなく。
恐らくはあの堅物の兄に、自分に付くように申しつけられた、といったところが真相か。
それは兎も角として。
今まで何不自由なく過ごしてきた宗次郎が、自分で家事仕事が出来ないのは沙知の言ったとおり。
しかし、裏に建つアパートほどではないが、この家とてもそれほど広くはない。
書斎代わりにしているこの部屋が、もう少し整理整頓できていれば良かったのだが、床に積み上げられた書籍は如何ともしがたく。

早い話が、寝所に困り果てていた。
この書斎、台所、風呂トイレを除けば、使えるところは居間だけだ。
現状、その場にあるちゃぶ台を壁に立てかけ、布団を敷き延べていた。
では、屋敷を相続した兄が邪魔者の弟を、荒ら屋に行くよう誑かしたのかと言えばそうではなく。
この家は狭いが土地は広く、裏に建つアパート二棟がここの所有となっている。
物干し場の周りには芝が植え込まれ、アパートとの境は多少の木立が繁り遮っている。
小振りな池には鯉は居ないが、亀が甲羅を干し。
つまり土地に比べて、家が極端に狭いのだ。
生前父にこの家のアンバランスさを尋ねたが、さてあいつもその質問には笑っていただけだったな、との応えがあったばかり。

話がそれた。
つまりは、若い身空の二人が一つ屋根、布団は離せど寝所は同じ、その様な環境に押し込められていることになる。
十近くも年が離れているとは言え、沙知も既に嫁ぐことも出来る年齢に達している。
いつ過ちが起こるか分からぬ環境なのだ。
そして、その様な折りに……。
あの夜、たまには来いとの兄の言葉に従い屋敷を訪い、二人して浴びるように酒を干した。
コレを持って行けと渡されたのは、封も切られていない洋酒のボトル。
家の前まで車で送り届けられ、家の中で封を切り、沙知にも勧め……。そこで記憶がとぎれる。
幸い二日酔いは味合わずに済んだその翌日、宗次郎が起き出す頃には既に沙知は床を上げていて。
故に答えは今にしても分からない。
直接問い質せるようなことでもなく、宗次郎は一人になると悶々と過ごすことになっていた。


(またあいつは)

宗次郎が笑みをうっすらと浮かべ、見る先には沙知が。
洗濯は終わったものか、脇には空になった洗濯籠。
陽気に誘われたか、芝の上に横たわるのは、屋敷時代から変わらぬ臙脂色のお仕着せと割烹着のままでだ。
和装の為に裾が少しはだけて、覗く素足が艶めかしく感じるのは、今までその様な思索に囚われていたが故か。
ヒラヒラと風に靡く蝶が、寝息に動く沙知の肩口に舞い降りた。
羽を休めて、二度、三度と。四度羽の動くのを数えたら、再び空へ舞い戻る。
また買い物に遅れたと、落ち込む姿を見るのも辛い。そう思って宗次郎は、沙知を起こすために文机の前から立ち上がった。




―――嗚呼これは夢だな、と。訳も為しに宗次郎は、そう思った。

「宗次様。おやめ下さい」

そう言って、宗次郎の頭を押し退けようとするが、沙知の力では如何ともしがたく。
足を広げさせ、その花弁を己が指で開き、宗次郎はその部分にむさぼり付く。
陰核を皮の上から舌で突き。幾度となく舐め上げる。
押し広げた襞にも丁寧に舌を這わせて、一分の隙もないように唾を付ける。

「あっ、そこ、は……」

片方の手で押し広げ、舌は広いところで舐め回し、もう片方の中指を秘所の内へと進ませる。
中は既にうっすらと湿りを帯びて。動かす指の動きに滞る様子は見られない。
入り端、上部の凝りを擦り、

「や、やめ、て……ゃあ、んぁ」

と、声を上げさせ。
最奥の窄まりにまで届かせては、

「はぁぁ、ん……んかっ」

と、息を乱れさせ。
いつの間にやら裸身となっていた宗次郎は、足の間から己の牡を沙知に見せつけた。
そのものを、瞳を潤ませ見つめる沙知。指を抜き、未だ口を開ける穴はぱくぱくと。
それの所有を主張するように戦慄く。
それを認めると己の牡をそこに当て、沙知の牝を貫く宗次郎。

―――嗚呼、これはやはり夢なのだ。

僅かな抗いも見せず突き進む宗次郎の肉。それは沙知の出す愛液に導かれるまま最奥に至った。

―――沙知の破瓜を示す物が流れていないのだから。

宗次郎は、沙知の襟元から手を入れ、その膨らみを見せ始めた乳房へと手をやる。
揉むと言うよりは撫で付けるように。掌を動かし続ける。
次第にその掌の中で、固く結んでいく物。
頂上を表す蕾に指をかけ、軽く摘む

「やぁぁん」

堅くしこり、指に弾力を感じさせる蕾を宗次郎は離し、今度はその周囲を執拗に指先でなぞる。
なぞりながら、宗次郎は最奥まで至って留めていた牡を、漸くに動かし始めた。
腰を振り、指で乳首の周りを弄ぶ。
腰を振り、指で牝の蕾を激しく揺さぶる。

「あっ、……あぁん、はあっ」

―――いや、沙知の純潔を散らせてしまったのは、夢ではなかったのか?

宗次郎が両の手を使い、沙知の襟元を大きく崩した。そして露わにされる、その胸元。
その二つの白い丘は、先程より少しきつく宗次郎に揉み続けられていた。
沙知を攻め続ける、腰の往復。
蕾を同時に摘み上げる、宗次郎の指。
後は牡が吐き出す、白濁した物を最奥に植え付けるだけ。

―――いや待て。それは確か、まずい事に。

睾丸が上がり、体勢は整う。

―――いや、だから。……まずい事になったはずだ。

亀頭が、竿が膨らみを見せて、後は撃ち込むだけとなる。

―――だから!

何処か耳の奥に「ン、ぃく……あぁん……」と甘く痺れる声を聞いた気がしながら。


宗次郎は目を開けた。
何より先に己の股間へと手をやる。
極限まで膨らみはすれど、その先へは至っていない。
助かった、と。
明日の朝、起き出してすぐに、この暗闇の中、隣で寝息を立てる少女に、

「どうしてお風呂場で下着だけを洗ってらっしゃるんですか?」

と、あの曇りのない瞳で見つめられずに済む。
ただ、それだけのことで。
宗次郎は、明日一日が幸せに過ごせるような気がした。






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